Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 5月 19th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その4)

JBLの4350は1974年当時993800円(一本、サテングレー。ウォールナットは1107000円)していた。
4350Aは1977年当時940000円(ウォールナットは1000000円)。
このころから円高になりつつあり、一年後には800000円(ウォールナットは850000円)になっている。

現在の天井知らずのスピーカーシステムに比べれば良心的な価格とはいえ、
高価なスピーカーではあった。
けれど働いている人であれば無理すれば、決して手の届かない存在だったわけではない。

このころには分割払いの回数も48回とか60回というのもぼちぼち出て来ていた。
60回といえば五年払い続けることになるが、4350クラスのスピーカーシステムならば、
五年くらいは最低でも使いつづけるモノだから、
払い終るころには次のスピーカーに替えているということはまずない。

そうやって買った人もいる、と思う。
ステレオサウンドにいたときにきいた話では四畳半に4350をいれている人がいる、らしい。
四畳半は、たぶん4350がおさめられた部屋ではもっとも狭い空間だろう。

四畳半に4350という人はほとんどいなかっただろうが、
六畳、八畳に4350という人はもう少しいた、と思う。

そんな狭い部屋に15インチ・ウーファー、しかもダブル・ウーファーの4350を入れるなんて……、
と揶揄する人は、当時よりもいまの方が多くいるように感じる。

すぐ、スピーカーの大きさに見合った空間、
空間に見合ったスピーカーの大きさ、などと、したり顔でいう。
もっともこういう人はインターネットで匿名での発言で目にすることが多いから、
したり顔かどうかはわからないけれども。

Date: 5月 18th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その3)

狂気をはらんだ物凄さ──、
こういう音は1970年代後半に存在した、いわば時代の音だったのかもしれない、といまは思う。

1980年代にはいり、そういう時代ではなくなってきたようにも思える。
だからJBLの1980年代のスピーカーシステムは、4345、4344もそうだし、
4350の後継機4355にも、狂気をはらんだ物凄さは影をひそめていた、というべきか、
そこにはもう存在しなくなりつつあった、というべきか、
とにかく4350Aと4355との音の違いには、そういうことを私は感じる。

そうだとしたら、いまの時代に4350を鳴らすことは、どういうことなのか。
狂気をはらんだ物凄さなど、どこにもありませんよ、といった風情で鳴らすのが、いまの時代なのだろうか。

4350の、狂気をはらんだ物凄さをいささかもおさえることなく、
かといってあからさまにすることなく、そうやって鳴らすのはいまの時代にそぐわないのか。

だとしたら、私が角を矯めて牛を殺すのたとえのように4350を鳴らすのも、
いまの時代のひとつの鳴らし方なのか。

そんなことを思いながらも、違うだろう、と私はいうわけだ。
ならば、ほかのスピーカーでいいじゃないか。
むしろ、ほかのスピーカーのほうがいいはずだ。

4350が登場してもう40年経っている。
40年前のスピーカーを、いまも鳴らしている理由(わけ)はなんなのか。

私がいま4350を鳴らすのであれば、はっきりという、
あの時代の「狂気をはらんだ物凄さ」を聴きたいからであり、
角を矯めて牛を殺すような音を、4350からは聴きたくない。

Date: 5月 18th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor

JBL Studio Monitor(型番について)

4350は最初白いコーン紙のウーファー2230を搭載し1973年に登場している。
1975年にウーファーが2231Aに置き換えられ、4350Aとなる。

1980年、ウーファーとミッドバスが、
アルニコマグネットからフェライトマグネットに置き換えられた2231H、2202Hに変更され、4350Bとなる。

4300シリーズのほかのシステム、4331と4333も、おもにエンクロージュアの改良で4331A、4333Aとなり、
1980年にやはりウーファーがフェライト化され4331B、4333Bとなっている。

4311にも同じで、4311、4311A、4311Bという変遷がある。

つまり4300シリーズの型番末尾のアルファベットは、いわゆるMKI、MKII、MKIIIと同じで、
改良を意味している。

1980年にコバルトの世界的な枯渇によりアルニコマグネットからフェライトマグネットに変更されたときに、
4300シリーズの型番にはすべてBがついた。

4343にもBがついた。
そのためか型番末尾のAがアルニコ仕様だと勘違いしている人がいる。
そういう人は、4343のアルニコ仕様モデルを、4343Aと書いたり言ったりする。
だが4343には、4343Aというモデルは存在しない。

あるのは4343と4343Bである。
同じような間違いは、実はステレオサウンドもやっている。

4345が登場したときに、4345BWXとしている。
4345BWXという型番は実際にはない。
あるのは4345である。

4345は最初からウーファーとミッドバスはフェライトマグネットだから、
Bタイプとしたのはわかるし、ウォールナット仕上げだからさらにWXをつけたのもわかる。

だが4345には、サテングレー仕上げはなくウォールナット仕上げのみである。
だから仕上げを区別するためのWXはつかない。
改良モデルでもないから型番の末尾にアルファベットもつかない。

Date: 5月 18th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その2)

角を矯めて牛を殺す、というたとえがある。
JBL・4350について書こうとおもったときに、このたとえがまず浮んできた。

ウーファーがアルニコマグネットの2231Aから2235Hになり、
ミッドバスは同じくフェライト仕様の2202H、
ミッドハイは2440から、ダイアフラムのエッジが大きく変更になった2441へと変った4355は、
そういう傾向は抑えられているけれど、
4350Aには瀬川先生が指摘されているように「手のつけられないじゃじゃ馬」的なところがあった。

4350Aほどのスピーカーが、日本家屋のあまり広くない空間で、
そういうふうになったら、まず聴けたものじゃない。

となると人は抑え込もうとする。

購入したスピーカーはその人のモノであるから、どう鳴らそうとその人の自由であり、
まわりが口をだすことではないとわかっていても、それでも「角を矯めて……」のたとえが浮ぶ。

「どこか狂気さえはらんでいる」と瀬川先生は書かれている。

こう書かれたステレオサウンド 43号のセクエラのModel 1のところには、こうも書かれている。
     *
 スピーカーならJBLの4350A、アンプならマークレビンソンのLNP2LやSAE2500、あるいはスレッショールド800A、そしてプレーヤーはEMT950等々、現代の最先端をゆく最高クラスの製品には、どこか狂気をはらんだ物凄さが感じられる。チューナーではむろんセクエラだ。
     *
4350Aは、確かに1970年代後半において「時代の最先端」をゆくスピーカーシステムであったし、
「狂気をはらんだ物凄さ」を、その音に感じさせてくれるスピーカーシステムでもある。

Date: 5月 17th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その9)

4343のメクラ板がブラックなのは、コスト削減のためだろう。
そう安易に決めつける人はいる。

だがすでに書いてきたようにコスト削減が目的ならば、もともと余分な穴など開けなければメクラ板は不要になる。

それに4343に限らずJBLの4300シリーズのスタジオモニターは仕上げの違いに応じて、
ある箇所の細工も変えている。
これは多くの人が知っている(気づいている)ことだと思っていたけれど、
意外にも10年ほど前、
JBLの4300シリーズを使っていた人(この人は時期は違うがどちらの仕上げも使っていた)は、
私が指摘するまで気づいていなかった、ということがあった。

JBLはデザインに気をつかっている──、
ふだんからそういっている人がそのことに気づいていなかったことが私にはよほど意外だったけれど……。

現在の4300シリーズはフロントバッフルと側板とのツラが合うように作られているが、
以前の4300シリーズはフロントバッフルが少し奥まっていた。
つまり両側板、天板、底板の木口による額縁が形成されていた、ともいえる。

その額縁はサテングレー仕上げとウォールナット仕上げとでは、木口の処理が違っている。
サテングレーでは四角い板をそのまま組み合わせたつくりだが、
ウォールナットでは木口を斜めにカットしている。

天板の木口を真横からみると、サテングレーでは垂直になっているのに対して、
ウォールナットでは下部のわずかなところは垂直なのだが、そこから天板にかけては斜めになっている。

ただ仕上げを変えているだけではない。

そういうJBLがメクラ板をコスト削減だから、といって、どちらの仕上げも同じブラックにするわけがない。
ブラックにしているのは、そこにおさまるトゥイーターの2405がブラック仕上げだからである。

Date: 5月 17th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その8)

JBL・4300シリーズの最初のモデル4320のエンクロージュアの仕上げは、いわゆるグレーだった。
グレーは灰色、鼠色なわけだが、JBLのグレーはそんな感じではなく、もっと明るい。
JBLではずっと以前から、この明るいグレーのことをサテングレーと呼んでいる。

4320はサテングレーの仕上げだった。
4320にもメクラ板はある。
トゥイーターを追加するために設けられている穴をふさいでいる。

4320のメクラ板の色はサテングレーである。
フロントバッフルもサテングレーである。

JBL・4300シリーズの仕上げにウォールナットが加わることになる。
両サイド、天板、底板の四面(もしくは底板をのぞく三面)がウォールナットになり、
フロントバッフルの色はブルーになっている。

このころからサテングレー仕上げはフロントバッフルの色を、
それまでのサテングレーからブラックに変更している。

1981年に登場した4345からサテングレー仕上げはなくなった。
4343が最後のサテングレーとウォールナット仕上げの両方があったモデルになってしまった。

メクラ板の色。
4320ではサテングレーだったが、4343では違う。
サテングレー仕上げ(フロントバッフルはブラック)であっても、
ウォールナット仕上げ(フロントバッフルはブルー)であっても、メクラ板はブラックである。

これがもしウォールナット仕上げではフロントバッフルと同じブルーであったら、どんな印象になるのか。
そして、なぜ4343のメクラ板はブラックなのか。

Date: 5月 13th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その7)

JBLの4ウェイは4350が最初であり、次に4341、4343と登場していて、これら三機種は、
何度か書いているようにパット・エヴァリッジの設計ということが、もうひとつの共通項でもある。

4350にもメクラ板がある。
2405用だけでなくミッドハイを受け持つ2440ドライバーとそのホーンの取り付け用もある。
4350の後継機4355にも同じようにメクラ板がある。

だが4350、4355を購入した人が、
2405とミッドハイを入れ替えて、左右対称のユニット配置にしたという話は聞いていない。

JBLのスタジオモニターは4345以降、リアバッフルが二分割され(といっても8:2ほどの割合)、
上部のサブバッフルはネジ止めされている。
ここを外すことで、2420、2405のダイアフラム交換のための取り外しが容易になっている。

けれどそれ以前の4350では2440、2405のダイアフラムを交換する、
もしくは取り付け位置を左右で入れ替えるとなると、けっこう大変な作業である。

まずウーファーを外す。
2440の真下に前後のバッフルをつなぐ補強棧があり、
この補強棧に金具にとって2440が固定されている。

2420の重量は5kg、24401は11.3kgあり、
バッフルに取り付けられたホーンだけでは支えきれないからである。

この補強棧が2440の取り外しの際にじゃまになる。
しかも2440は重く持ちづらい。しかもエンクロージュアの中ということで持ちづらさは増す。
それだけでなく補強棧の下にはバスレフポートがあり、これによりまた難儀させられる。

そういう構造だから、一度でも4350でユニットの左右の入れ替えをやっている人ならば、
その大変さを語ってくれるはずなのだが、そんな話はいままで一度も聞いたことはない。
ということは4350、4355は左右対称でJBLから出荷されているわけだ。

とすると4350、4355のメクラ板はいったい何のためにあるのか、と考えることになる。
4343のメクラ板とあわせて考えれば、自ずと答は出てくる。

Date: 5月 13th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その6)

瀬川先生のマランツのModel 7のデザインに関しての文章は、すでに別項で引用している。
それでも、また一度引用しておこう。
     *
 なぜ、このパネルがこれほど見事に完成し、安定した感じを人に与えるのだろうか。答えは簡単だ。殆どパーフェクトに近いシンメトリーであるかにみせながら、その完璧に近いバランスを、わざとほんのちょっと崩している。厳密にいえば決して「ほんの少し」ではないのだが、そう思わせるほど、このバランスの崩しかたは絶妙で、これ以上でもこれ以下でもいけない。ギリギリに煮つめ、整えた形を、ほんのちょっとだけ崩す。これは、あらゆる芸術の奥義で、そこに無限の味わいが醸し出される。整えた形を崩した、などという意識を人に抱かせないほど、それは一見完璧に整った印象を与える。だが、もしも完全なシンメトリーであれば、味わいは極端に薄れ、永く見るに耐えられない。といって、崩しすぎたのではなおさらだ。絶妙。これしかない。マランツ♯7のパネルは、その絶妙の崩し方のひとつの良いサンプルだ。
     *
1981年にステレオサウンドから出た「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」の巻頭に書かれている。
マランツのModel 7がシンメトリーをあえて崩している点に関しては、
この瀬川先生の文章よりもはやく岩崎先生も指摘されている。

4343も、またModel 7と同じようにシンメトリーをほんのちょっと崩している、ように見ることができる。
だが4343のシンメトリーとModel 7のシンメトリー、その崩し方を完全に同じにとらえるわけにはいかない。

4343は本来必要でないメクラ板を設けてシンメトリーにした上で、
ほんの少しのアンバランスを形成しているからだ。

Date: 5月 12th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その5)

世の中に左右対称のスピーカーシステムは、ゴマンとある。
左右チャンネルが左右対称のユニット配置ということではなく、
一本のスピーカーシステムで左右対称になっている、というスピーカーシステムのことで、
スピーカーユニットがインライン配置であれば、たいていは左右対称の仕上りとなる。

それらの中にあっても、4343はとびきり美しい。
見事なデザインだと、見るたびに思うだけでなく、
デザインへの関心が高くなるほどに、4343のデザインの見事さに気づく。

4343も基本的にはインライン配置のスピーカーシステムである。
では何が、他の同種のスピーカーシステムと違うのか。

それがメクラ板の存在である。

4343にメクラ板がなかったら、左右の対称性がくずれる。
とはいっても、4343は完全に左右対称ではない。
音響レンズの片方に2405があり、反対側にメクラ板がある。

メクラ板があることで左右の対称性を維持し、
ただ完全な左右対称ではなく、片方だけに2405があることで、
ほんのわずかだけ左右対称の、意図的なアンバランスさを生じさせている。

こんなふうに書いていくと、
おそらく瀬川先生がマランツのModel 7について書かれた文章を思い出される人が少なからずいる。

Date: 5月 10th, 2014
Cate: 4345, JBL

JBL 4345(その4)

ステレオサウンドは季刊誌だから、次の号が出るまで三ヵ月ある。
56号で4345が近い将来登場するのを知ってからは、その三ヵ月間が待ち遠しく感じられた。
57号には間に合わなかったので、また三ヵ月間、その待ち遠しい時間を送った。

この待ち遠しい時間は、いまではなかなか味わえなくなりつつある。
少なくとも私は、ステレオサウンドの次の号が出るのを待ち遠しい、とは、もう感じなくなっている。

いまはそんな私でも、あのころはほんとうにステレオサウンドの新しい号の発売は待ち遠しかった。
おまけに、そのころのステレオサウンドは発売日の15日に書店に並ぶことはまったくなかった。
必ず遅れていた。

だから15日が過ぎたら、毎日書店に通っていた。
今日も出ていない、次の日もまた出ていない。
そんな空振りを何度も味わって、やっと三ヵ月待った新しい号のステレオサウンドを手にする。

そこに読みたかった記事が、読みたかった人によって、
しかも充分な量の文章が、そこに載っている。

待たされたけど、何度も書店に足を運ばされたけど、そんな憾みはどうでもよくなる。

ステレオサウンド 58号で、4345について、瀬川先生の文章で読めた。
しかも58号を読まれた方ならば、思い出されるはず。
ここでの4345についての瀬川先生の文章は、
4345のページだけでなく、SMEの3012-R Specialのところでも読めたのだから。

Date: 5月 9th, 2014
Cate: 4345, JBL

JBL 4345(その3)

ほとんどの新製品は、読者にとってはいきなり誌面に登場する。
いまではあれこれいろんな情報が事前に流れてくることも多いけれど、
4345が登場した1981年は、そんなことはなかった。

オーディオ業界にいる人ならば、何人かはそういう情報を耳にした人もいるだろうが、
ふつうの人にとってはオーディオ雑誌に登場するまで、ほとんど何の情報も耳にすることはない。
だからこそ新製品のページは、ステレオサウンドを手にする度に、もっとも期待して開くページであった。

4345は56号で予告されていた。
これは、映画の予告編のようなものだった。
こんなものなのか、ではなく、
映画でいえば話題作、大作の予告編と同じで、それを見ることで本編への期待が高まるし、
映画が上映日を迎えるまでの数ヵ月間は待ち遠しい。

4345はまさに私にとってはそういう新製品だった。

56号で4345が登場することを知ったときから、
ステレオサウンドの新製品紹介のページに4345が登場するとき、
書かれるのは絶対瀬川先生のはず、という期待もあった。

しかも56号からステレオサウンドは新製品紹介のページを大きく変えていた。
56号でのトーレンスのリファレンスの記事と同じくらいの内容で、
4345の新製品紹介の記事を読めるはず──、
この期待も4345の登場と同じくらいか、それよりも少し大きかった。

Date: 5月 6th, 2014
Cate: 4350, JBL

JBL 4350(その1)

JBLにとって最初の4ウェイ・システムが、4350であるにも関わらず、
4350と同じコンセプトで、同じ設計者(パット・エヴァリッジ)によるスケールダウンモデルの4341(4340)が、
その後4343、4345、4344、さらに4348まで続いていってたのに対して、
4350から4355だけと、いささかさびしい感じがしないでもない。

4350はバイアンプ仕様である。
15インチ口径のウーファーを二発搭載し、ウーファーだけは専用アンプで駆動する。

4350というシステムそのものも4343よりも大がかりであるだけでなく、
アンプに関してもパワーアンプはもう一組必要となるし、チャンネルデヴァイダーもいる。
システム全体がどうしても大がかりとなり、それだけ調整の手間・面倒なことも増していく。

オーディオに興味を持ちはじめて、JBLのスタジオモニターの存在を知り、
4343に憧れを持ち始めたばかりのころに出たステレオサウンド 43号。
そこに瀬川先生は書かれていた。
     *
 4343が、きわめて節度を保った完成度の高さ、いわば破綻のないまとまりを見せるのに対して、4350Aになると、どこか狂気さえはらんでいる。とうぜんのことながら、使い手がよほど巧みなコントロールを加えないかぎり、4350Aは、わめき、鳴きさけび、手のつけられないじゃじゃ馬にもなる。それだけに、何とかこれをこなしてやろうと全力でぶつかりたくなる魔力を秘めている。
     *
当時中学三年。
4343にしても4350にしてもまったく手が届かない存在であったけれど、
4350(正確には4350A)には憧れを抱くことはなかった。

ただ凄いスピーカーなんだな、というおもいだけであった。

Date: 5月 5th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その4)

ステレオサウンド 68号は1983年の秋号。
JBLから4345が登場したのは二年前の1981年だし、続けて4344も出している。
このどちらにもメクラ板はない。

JBLも、おそらくメクラ板による音質への影響があることはすでにわかっていたのだろう。
メクラ板がついているのは4343で最後になっている。
(4350の後継機4355には残っているのは4343にメクラ板があるのと同じで、デザインが理由なのかもしれない。)

メクラ板の存在は音に干渉する。
メクラ板の板厚が4343のフロントバッフルの板厚よりも薄いということも、
フロントバッフルの板厚の分だけ奥に引っ込んでいることも、
音への影響を大きくしている、といえる。

ならばメクラ板のないサブバッフルをつくってしまえば、
メクラ板がそもそもないのだから、メクラ板の影響はなくなる。

ステレオサウンド 68号の記事を読みながら、私はそんなことをすぐに考えた。
4343のサブバッフルと同じ材質で同じ板厚で、同じ塗装を施す。
違うのは2405の取り付け穴がひとつだけ、ということ。

メクラ板がなくなった4343の姿を次に思い浮べた。
そこで気づいた。

4343は左右チャンネルとしては左右対称のスピーカーではないけれど、
一本のスピーカーシステムとしてみれば左右対称である、と。

Date: 5月 5th, 2014
Cate: 4343, JBL

JBL 4343(その3)

ステレオサウンド 68号に、続々JBL4343研究が載っている。
井上先生が講師という役割で、元ユーザーの黒田先生に4343の使いこなしを伝える、というもの。

ステップIで、各ユニットの取り付けネジの増し締め。
この記事は聴感だけではなく、三菱電機の協力を得て測定も行っている。
誌面では4343のサブバッフルのモーダル解析が載っている。
ネジが緩んでいるとき、締めたときの二枚の図があり、視覚的にも増し締めの効果がわかる。

ステップIIではホーンの振動をコントロールしている。
これもダンプの有無による立ち下がり特性と振動特性の変化の図がある。

ステップIIIは、音響レンズの鳴きをコントロールするもので、
ダンプによる周波数特性の変化と振動特性の変化をグラフで示している。

ステップIVでバスレフポートと2405のメクラ板の鳴きを抑えるもの。
メクラ板の鳴きのコントロールとは、ここではブチルゴム(2cm×1cm)を、
セパレータ(ブチルゴムについている白い紙)とともに貼ることだ。

たったこれだけでどれほど音が変るのか──。
黒田先生の発言を引用しておく。
     *
これは見てるとちょっと信じられないですね。
さっき(ポートにブチルを貼ったとき)前に向って広がった感じが出てきたといいましたが、今度は、その広がった分の空気が澄んだという感じですね。さっきまでは湿度が高い感じだったのが、まるでクーラーが入ったように、すっと湿度が下がってさわやかになった。
     *
メクラ板に小さなブチルゴムを貼るだけで、それだけ音が変化するのかと訝しむ人もいるだろうし、
この記事を読んですぐさま試した人もいることだろう。

だがこの記事の最後にあるように、「相当使いこなしてきた上での話」だということ。
いいかげんな設置・調整で鳴らしている4343に同じことをしたからといって、
これだけの音の変化は得られない。

もうひとつ大事なことは、井上先生はこの記事で行ったことをそのまま4343に施せ、といわれているわけではない。
4343がもつ、いくつかの細かな問題点を指摘され、そこに手を加えることで、どういう音の変化が得られるのか。
このことを自分で試してみることで、その音の変化(方向、量)を確認することで、
それまで気がつかなかったことに気づき、使いこなしのステップを上に上がることができる、ということである。

Date: 5月 4th, 2014
Cate: 4345, JBL

JBL 4345(その2)

JBLの4343はステレオサウンド 41号の表紙になっている。
4343は1976年の秋ごろに登場した新製品なので、41号の新製品紹介のページでも取り上げられている。

私が初めて買ったステレオサウンドは、4343が新製品として、さらには特集と表紙にも取り上げられている41号。
けれど私にとって4343は新製品という印象はほとんどなかった。

理由は簡単である。
41号に載っていたオーディオ機器は、そのころの私にとってほとんどが未知のモノだったからだ。
つまり一年前に発売されたモノももっと前からあるモノも、4343のように出たばかりモノでも、
その多くを知らなかった者にとっては、はじめて目にするという意味では、新製品のようなものである。

こんなモノが登場した、というよりも、こういうモノが世の中にはあるんだ、という気持で41号を読んでいた。

4343以降、JBLも新製品を出してきていた。
コンシューマー用スピーカーもあったし、プロフェッショナル用では4301があった。
とはいえ、4343をこえるモノは登場していなかった。

JBLが自ら4343をこえるスピーカーシステムを出す日を、
期待もしていたし、4343に憧れていて手が届かなかった者はまだ来なくてもいいという気持もあった。

4345は、だから待ちに待ったJBLの新製品であった。
私にとって、初めてといえる、JBLの本格的な「新製品」ともいえた。