Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 9月 28th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(Mark Levinson ML10)

こうやってKEFのModel 107、それから105のことを書いていると、
頭の片隅から徐々に浮んでくるのが、マークレビンソンのML10のことだ。

ML10といっても実際に発売されたコントロールアンプのことではなく、
試作品として発表されたスピーカーシステムのことである。

ステレオサウンド 50号に、それは載っている。
アンプと違い、ゼロからの開発ではなく、市販品をベースにしたもの。
ベースとなっているのが、KEFのModel 105である。
記事を読んでも、このML10というスピーカーシステムのことは、ほとんどわからない。

ネットワーク、内部配線を中心にモディファイされている、ということだけである。
ユニットはそのまま同じモノが使われている。

この時にML6とML3も発表されている。
ということはML10の内部配線は銀線の可能性が非常に高い。

同時にML4という、
電源内蔵のローコスト(あくまでもマークレビンソンとしては)のコントロールアンプも、
試作品として発表されている。

ML4もML10も製品化されることはなく終ってしまった。
おそらくだが、ML4とペアとなるパワーアンプも計画されていたはずだ。

マークレビンソンは、すでにHQDシステムを完成させていた。
3ウェイのマルチアンプシステムで、アンプを含めたトータルは二千万円ほどだったはずだ。

ML4と、ローコストのパワーアンプ、それにML10というシステムが、
HQDシステムは無理でも、
マークレビンソンのトータルシステムを求めたい人に向けての構成だったのだろう。

どんな音がしていたのか、も、そうだが、
なぜ製品化されなかったのか、その理由を含めてあれこれ勝手に想像しているところ。

Date: 9月 27th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その17)

Model 105には、レベルコントロールはついていなかった。
この時代のKEFのスピーカーにはどれもついてなかった。

Model 107にも、いわゆるレベルコントロールはついてないが、
KUBEと呼ばれるアクティヴイコライザーが付属していて、
低域のコントロールができるようになっている。

KUBEとは、KEF Universal Bass Equaliserであり、
フロントパネルにツマミは三つ、
左からEXTENSION、Q-FACTOR、CONTOURとなっている。

EXTENSIONはローカットフィルターの周波数の切り替えで、
50Hz、35Hz、25Hz、18Hzの4ポジション。

Q-FACTORは、0.3から0.7まで連続可変となっていて、
0.5がcritically damped、0.3はover damped、0.7はmaximally flat(butterworth)。

CONTOURはレベル調整用で、160Hz以下全体のレベルを±3dBで可変できる。

さらにModel 107のネットワークとスピーカーユニットのあいだには、
Conjugate Load Matching(CLM)と呼ばれる回路が挿入されている。

このCLMにより、Model 107のインピーダンス特性は、
20Hzから20kHzにわたって、4Ωフラットといえる。

通常のスピーカーシステムであれば、f0でインピーダンスはもっとも高くなり、
中高域にも山がいくつか生じ、およそフラットとはいえないカーヴを描く。

CLMが具体的にどういうことをやっているのかカタログからは不明だが、
電流波形の比較がカタログには載っていて、そのとおりであれば、かなりユニークな方式といえる。

具体的なことはネットワークの実物を取り出して、回路図をおこしてみようと考えている。

KEFでは、KUBE、デヴァイディングネットワーク、CLMを含めて、
ハイブリッドクロスオーバーと呼んでいる。

Date: 9月 27th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その16)

KEFのModel 107のことを知れば知るほど、
レイモンド・クックに訊ねたいことがあり、それは強くなってくる。

Model 107は1986年、
その二年後にヤマハからAST方式のシステムが登場した。
バスレフ型の動作を、より理論通りに動作させるために、
ウーファーユニットのボイスコイルがもつ直流抵抗を、
アンプの出力インピータンスをマイナスにして打ち消すというものだ。

小型スピーカーとアンプからなるAST1のシステムは、
高級なシステムというわけではなかった。
けれど、AST方式(他社の登録商標だったためYST方式と改称)の実力はすごかった。

能書き通りのすごさが、その音にはあった。

このAST方式を、レイモンド・クックは知っていたのか、
知っていたとすれば、どう思っていたのか、をぜひとも訊きたいところだが、
クックは1995年に亡くなっている。

ヤマハが採用した負性インピーダンス駆動は、そのままModel 107にも採用できる技術である。
ウーファーセクションには、専用アンプを搭載して、負性インピーダンス駆動をする。
中高域は、別のアンプで鳴らすというバイアンプ方式こそが、
Model 107の行き着く姿のように思えてならない。

レイモンド・クックがいたころのKEFのスピーカーシステムにも、
アンプを内蔵(付属)しているシステムはあった。

LS5/1Aがそうであり、その後継機ともいえるModel 5/1ACがあり、
KM1というスタジオモニターは、3ウェイマルチアンプ駆動である。

Professionalシリーズではアンプ搭載はあっても、
コンシューマー用のReferenceシリーズには、アンプはつけない方針だったような気もする。

それでもAST方式について、クックに訊ねたい気持は変らない。

Date: 9月 25th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その15)

KEFのModel 105とModel 107の違いは、
LS3/5A的といえるHEAD ASSEMBLYと、
低域の拡充をはかるとともに、その関係性において、である。

107では、低域の拡充を実現しながらも、
音源の大きさとしてはHEAD ASSEMBLYの大きさが、そうといえるわけだ。

105では、HEAD ASSEMBLYの下に30cm口径のウーファーがあるから、
音源の面積としては、大きい。

107がダクトをエンクロージュア正面もしくは底部に設けていたら、
音源の面積は小さくまとめられなかった。

エンクロージュア上部にダクトをもってきたということは、
低域の拡充とともに音源をできるだけ小さくまとめるためであったと思う。

LS3/5A(特に15Ω仕様)は、神経質なところをやや感じさせながらも、
インティメートな存在であった。
それは至近距離で聴くということと無関係ではない。

ところが低域の拡充のため、
30cm口径クラスのウーファーをもってくると、
そんな至近距離で聴くことは難しくなる。
少なくとも、LS3/5A単体よりも離れて聴くことになり、
低域の拡充を得られた反面、インティメートな雰囲気は薄れてしまう。

Model 107を見ていると、LS3/5Aのそういった聴き方も可能なように思えてくる。
LS3/5A単体を聴くのと同じくらいの至近距離で聴いても、
107は、通常のウーファー方式採用のスピーカーシステムのようなことにはならないはずだ。
(実はまだModel 107は鳴らしていない)

もちろん107クラスの大きさの、他のスピーカーと同じように、
ある程度の距離をとっての聴き方もできる。
むしろ、こちらの聴き方のほうがKEF推奨の聴き方なのだろうが、
107には、もうひとつの聴き方が隠されているようにも感じる。

そのことに気づいた鳴らし手だけが味わえる世界が、107には用意されている。

Date: 9月 24th, 2017
Cate: 107, KEF, 試聴/試聴曲/試聴ディスク

KEFがやって来た(番外・table B)

KEFのModel 107のtable Bであげられているディスクは、
クラシックに関しては作曲家と作品名、それとレーベルとディスク番号のみ。
少し不親切に思えるだろうが、
Model 107の発売された1986年当時であれば、
それだけでどのディスクか、クラシックを聴いていた人ならばすぐにわかるし、
いまはインターネットがあるから、レーベルとディスク番号を入力して検索すれば、
どのディスクで、誰の演奏なのかは、すぐにわかる。

サン・サーンス:ピアノ協奏曲第二番/ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
ダヴィドヴィチ、ヤルヴィ/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(Philips 410 052)

ブラームス:ピアノ協奏曲第二番
アシュケナージ、ハイティンク/ウィーンフィルハーモニー
(Decca 410 199)

ドビュッシー:前奏曲集
ルヴィエ
(Denon 38C37)

ファリャ:三角帽子
デュトワ/モントリオール交響楽団
(Decca 410 008)

ラフマニノフ:交響的舞曲
アシュケナージ/コンセルトヘボウ管弦楽団
(DECCA 410 124)

カントルーブ:オーヴェルニュの歌
キリ・テ・カナワ
(Decca 410 004)

Mister Heartbreak
ローリー・アンダーソン
(Warner 925 077)

Four
ピーター・ガブリエル
(Charisma 800 091)

Superior sound of Elton John
エルトン・ジョン
(DJM 810 062)

Rickie Lee Jones
リッキー・リー・ジョーンズ
(Warner 256 628)

Body and Soul
ジョー・ジャクソン
(CBS 6500)

The Flat Earth
トーマス・ドルビー
(EMI 85930)

Date: 9月 24th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その14)

Model 107のウーファーは外側からは見えない。
深く、とまではいえないが、沈んでいる、とはいえる。

その開口部は、くり返しになるが、エンクロージュア上部前方に設けられている。
バイロイト祝祭劇場が、オーケストラピットの開口部の後方に舞台がある。
オーケストラピットには奥行きがあるから、舞台はオーケストラピットの後方上部を覆っている。

Model 107のウーファーの開口部とHEAD ASSEMBLYの位置関係をつ横からみれば、
これに近い、といえる。

もちろん107の開口部からは、160Hz以下の音が出てくる。
バイロイト祝祭劇場のオーケストラピットの開口部は、そんなわけはない。
低音楽器の音しか聴こえてこないわけではない。
オーケストラすべての音が、そこから立ち上ってくる。

その違いはわかった上で、バイロイト祝祭劇場とModel 107の相似性を見いだそうとしている。
そういう見方をする必要がどこにあるのたろうか、と疑問に思われる方もいよう。

わたしにだって、そういう気持がまったくないわけではない。
それでもModel 107の実物を前にして、
なぜレイモンド・クックは、ギミックともとられかねない、こういう方式をとったのか、
そのことを考えると、バイロイト祝祭劇場のことがどうしても浮んでしまう。

レイモンド・クックは、ワーグナー聴きだったのだろうか。
MODEL 107のINSTALLATION MANUALには、RECORD SUGGESTIONSという項目がある。
     *
The importance of listening tests in setting up your hi fi system has been emphasised in these instructions. Use records having good tonal balance with good imaging qualities, covering as wide a rang of music and voice as possible. To assist your setting-up, and add to your musical enjoyment, KEF recommend the following records (table B) in either analogue or CD (where available) format.
     *
table Bには、12枚のディスクがあげられている。
クラシックはうち6枚。
そこにはワーグナーのディスクはない。

クックは、ワーグナー聴きだったのだろうか。

Date: 9月 23rd, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その13)

「音楽と音響と建築」では、バイロイト祝祭劇場は次のように紹介されている。
     *
 バイロイトの祝祭劇場は、おそらく世界でもっとも特異なオペラ劇場である。その設計はユニークである;これは作曲家のリヒアルト ワーグナーの構想になるもので、オペラ劇場はいかなる姿をし、いかなる音であるべきかについての、彼個人のイメージを実現したものである;これはそのあるじ(つまりワーグナー)の音楽にのみよつ仕え、とりわけ「ニーベルンゲンの指輪」および「パルシファル」(いずれもワーグナーの楽劇)に、もっともよく仕えるものなのである。もし1人の作曲家が彼自身の音楽の世界を形に造ったとすれば、これこそそれなのだ──彼の音楽のみのための劇場、そしてその劇場だけが、彼の音楽を最上のものとする!
 ワーグナーが25歳の頃、リガの「古くて、取るに足らない」、しかし彼が気に入っていた劇場で指揮をしたことがあった。彼は言っている、「この〝納屋〟に関して特に記憶に残った三つのポイントがあった:円形劇場の形をして座席の勾配が急峻なこと、オーケストラピットが深く落ち込んでいること、そして照明の扱い方である。」この三つの特長は、バイロイトの祝祭劇場でもはっきり見てとれる。長い間、ワーグナーは自分の祝祭劇場を夢見ていた。彼が1863年その計画を始めたとき、ある手紙の中に書いている:「ここ(ドイツの小さな町の一つ)に、暫定的に一つの劇場が、できるだけ単純で、多分全部木造で、内部だけが芸術的目的にそうようデザインされて建てられるだろう。私は1人の才能ある、経験の深い建築家と、円形劇場の形をもち、また深く沈んだオーケストラピットの利点をフルに活かしたオーディトリアムを前提として、計画を検討した。」
     *
バイロイト祝祭劇場の《深く沈んだオーケストラピット》のことは、
話だけは昔から読んでいたし、話で聞いていた。

バイロイト祝祭劇場の音は、録音されたものでしか聴いていない。
バイロイト祝祭劇場に行ったことのある人、黒田先生がそうだった。
一度、バイロイト祝祭劇場の話になったことがある。

オーケストラピットの開口部といえるところから、オーケストラの音が、
音のカーテンとして立ちのぼってくる。
舞台上の歌手は、その音のカーテンを突き抜いて聴衆に声(歌)を届けなければならない。

そういう趣旨のことを話された。
ワーグナー歌いといわれるには、
音のカーテンを突き抜くだけの力が超えに求められる、ということでもある。

「音楽と音響と建築」に掲載されている図をみると、
バイロイト祝祭劇場のオーケストラピットは、深く沈んでいる。

しかもヴァイオリンの上をおおっている庇がピットを囲うようになっている。
ミトロープスは、この庇を取り除くか、音響的にないのと同じ程度に孔をあけるかすれば、
バイロイト祝祭劇場の音はよくなるだろう、といっていたと「音楽と音響と建築」にはある。

カラヤンは、その実験を試みている。
庇を取り除いたが、ヴァイオリン以外の楽器群は舞台の下に埋もれたままなので、
結果は芳しくなく元にもどした、とも書いてある。

このバイロイト祝祭劇場のオーケストラピットと、
Model 107のウーファーとが、107の実物と対面した時に、重なった。

Date: 9月 21st, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その12)

KEFのModel 107の低音部は、ケルトン型の一種と考えられるが、
KEFではCoupled Cavityと呼んでいる。

Uni-Qユニット搭載の105/3、104/2にも、Coupled Cavityは採用されている。
どちらもトールボーイのエンクロージュア内部に二発のウーファーをおさめている。

ただ107と、105/3、104/2が違うのは、ダクトの形状と、その位置である。
105/3、104/2ではフロントバッフル中心よりもやや下のところに、
バスレフ型のダクトよりも二回りほど径のあるダクトが設けられている。

KEFのReference Seriesのカタログ(英文)には、
Coupled Cavityの簡略化した構造図がのっている。
103/3はウーファー一発で、
エンクロージュアが小型ということもあって、ダクトはエンクロージュア下部に下向きになっている。
ウーファーの二発の方は、この図では105/3、104/2のようにフロントバッフルにダクトはある。

通常、下か前である。
ところが107は上である。

107のアピアランスで、エンクロージュアの前面、中央あたりに、
Coupled Cavity用の大きめのダクトがひとつポツンとあっては、
けっこう無気味な感じがしよう。

ならばサランネットをつけるとか、下側につけるという手もある。
にも関らず上である。

その理由をレイモンド・クックに直接訊ねたいところだが、
クックは1995年に亡くなっている。

ならば考えるしかない。

Date: 9月 19th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その11)

ステレオサウンド 48号で、井上先生がサブウーファーの実験をやられている。
「超低音再生のための3D方式実験リポート」という記事だ。
この記事の冒頭、
音楽における低音の重要性を探る 低音再生のあゆみと話題のサブ・ウーファー方式について」、
そこには、こう書いてある。
     *
 オーディオの世界で、もっとも重要で、しかも困難なことは、いかにして音楽再生上のベーシックトーンである低音の再生能力を向上するかということである。
 実際にスピーカーシステムで音楽を再生してみると、たとえば3ウェイ構成のスピーカーシステムであれば、トゥイーター、スコーカー、ウーファーと受け持つ周波数帯域が下がるほど、エネルギー的に増大することが容易にわかる。どのように強力なトゥイーターを使っても、部屋の天井や床が振動するほどのエネルギーは得られないが、ウーファーでは、たとえ10cm程度の小口径ユニットでさえも、エンクロージュアを振動させるだけのエネルギーは得られる。
 低音は、音の波長からみても100Hzで3・4m程度と長く、エネルギーがあるだけに、大量の空気を振動させなければならない。そのためには、より大口径のウーファーが要求されることになる。
 ディスクが誕生して以来のオーディオの歴史は、主にこの低音再生能力の向上を、常にメインテーマとして繰りひろげられてきたといってもよい。最近、サブ・ウーファーシステムが台頭し、従来の3D方式をも含めた新しい方式として注目されてきている。現実に、その効果は目ざましいものがある。そこで、ここでは、オーディオにおける低音再生の歴史をふりかえるとともに、話題のサブ・ウーファーシステムの特徴や効果などについて述べてみたいと思う。
     *
低音再生能力の向上、というメインテーマ。
LS3/5Aを中心にして、このテーマを追求した場合の、
ひとつの模範解答、それもLS3/5の開発者自らの具体的な解答が、
KEFのModel 105だと、私は捉えている。

低音再生能力の向上のためには、
どうしてもある程度以上の口径のウーファーを必要とする。
400Hz以下を受け持つ30cm口径のウーファーが、Model 105の場合のそれだが、
これだけの口径のウーファーが追加されることにより、
当然ながら音源の面積は大きくなる。

点音源に近いといえるLS3/5Aであっても、
LS3/5Aの発展型といえる105のHEAD ASSEMBLYであっても、
30cm口径のウーファーがつけば、もはや点音源に近い、とはいえなくなる。

この点音源という言葉も、ある種のまやかし的要素が多分に含まれている、というか、
その使われ方はそうといえる。
そのことにはここでは触れずに先に進むが、
LS3/5の開発者ならば、できるだけ音源を小さくしながら、
低音再生能力の向上を実現したいと、考えるのではないだろうか。

このことはLS3/5Aの聴き方とも関係してくることだ。

Date: 9月 19th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その10)

LS3/5Aをきちんとセッティングした音にまいってしまった人は、けっこういる。
至近距離で聴く、その音は、精巧な、と表現できるほどである。
しかも聴いた者には、しっかりと余韻を残していく。

けれど低音に関しては、無理がきかない。多くは望めない。
だからLS3/5Aにウーファーをつけて……、と考えた人は少なくないはずだ。

瀬川先生もステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」で、
LS3/5A(チャートウェル製)に、サブウーファーを追加するという組合せをやられている。

ここではJBLの136Aを、サンスイのエンクロージュアEC10に収めたモノを使われている。
クロスオーバー周波数は300Hzである。

このころ、ロジャースからは、L35Bという型番をもつサブウーファー、
専用のデヴァイダーとパワーアンプを同一筐体におさめたXA75から成るシステムを、
Reference Systemとして発売していた。

L35Bに収められているウーファーの口径は33cmだった。
クロスオーバー周波数は150Hzである。
L35Bのエンクロージュア上部にはLS3/5Aの設置位置がマーキングされていた。
ロジャースは、その後AB1というモデルも出している。

これらはうまくいったのだろうか。
私はどちらのモデルも聴く機会はなかった。

「コンポーネントステレオの世界 ’79」で瀬川先生が興味深いことをいわれている。
     *
 じつはぼく自身が、かつてマルチアンプをさんざん実験していたころ、たとえばウーファーに15インチぐらいの口径のものをもってきて、その上に小口径のコーン型ユニットを組合わせた場合、理論的にはその小口径のコーンだって100Hz以下の、70とか60Hzのところまで出せるはずです。特性をみても実際に単独で聴いてみても、100Hzが十分に出ています。
 したがって、たとえば100Hzぐらいのクロスオーバーでつながるはずですが、実際にはうまくいかない。ぼくにはどうしてなのかじつはよく分らないんだけれど、15インチ口径のウーファーで出した低音と、LS3/5Aのような10センチぐらいの小口径、あるいはそれ以上の20センチ口径ぐらいまでのものから出てくる中低音とが、聴感上のエネルギーでバランスがとれるポイントというのは、意外に高いところにあるんですね。
 いいかえると、100Hzとか200Hzあたりでクロスオーバーさせていると、ウーファーから出てくるエネルギーと、それ以上のエネルギーと、バランスがとれなくてうまくつながらないわけです。
 そしてぼくの経験では、エネルギーとして聴感上、あるいは感覚的にうまくクロスオーバーするポイントというのは、どんな組合せの場合でも、だいたい250Hzから350Hzあたりにあるわけです。それ以上に上げると、こんどはウーファーの高いほうの音質が悪くなるし、それより下げると、こんどはミドルバスのウーファーに対するエネルギーが、どうしてもつながらない。とういことで、この場合でも、300Hzでいいんですね。
 もちろん、そうしたことを確認するなり実験するなりしたい方には、クロスオーバーをもっと下げられたほうが面白いわけで、そういう意味でほかの、100Hzまで下げられるデバイダーをお使いになるのは、まったくご自由ですよ、ということですね。
     *
この瀬川説があてはまるのならば、
ロジャースのReference Systemのクロスオーバー周波数は、低すぎる、ということになる。
KEFのModel 105は、この瀬川説が証明しているのかのように400Hzであり、
ウーファーの口径は30cmである。

Date: 9月 19th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その9)

BBCモニターで、日本でもっとも人気があり知名度も抜群にあるのはLS3/5Aである。
これは断言していい。

ロジャースからLS3/5Aが登場したのは1975年。
40年以上前のモデルが、いまも人気があり、
数社から復刻モデルが出ているだけでなく、中古の相場も値崩れすることはないようだ。

このLS3/5A(正確にはLS3/5)の開発は、レイモンド・クックだった、といわれている。
彼ひとりでの開発だったのか、それとも何人かでの共同だったのか、
そこまでは知らないが、クックがLS3/5に関っていたことは事実である。

LS3/5AのユニットはKEF製である。
LS3/5AのウーファーB110は、Model 105のスコーカーにも使われている。
トゥイーターはLS3/5A採用のT27の1ランク上のT52で、クロスオーバー周波数は2.5kHz。

LS3/5Aのクロスオーバー周波数は3kHz。
トゥイーターの口径の違いが、クロスオーバー周波数にあらわれているが、
105のHEAD ASSEMBLY(ダルマ状の中高域)は、LS3/5Aを、
もう一度レイモンド・クックが設計したように、昔から感じていた。

しかも105のHEAD ASSEMBLYはトゥイーターとスコーカーの音源の位置合せも行われているし、
フロントバッフルの横幅も極力狭めてあるし、
コーナーは角張ることなく丸められている。

LS3/5AのサイズよりもHEAD ASSEMBLYは少し大きいが、
105のみるたびに、開発過程においては、
LS3/5AがそのままHEAD ASSEMBLYとして使われていた可能性を考えてしまう。

Date: 9月 18th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その8)

ステレオサウンド 86号の新製品紹介で初めて対面した107。
中高域は105と同じでも、低音部は大きく違っていた。
ウーファーは見えない。

当時の輸入元はBSRジャパンからベニトーンへと移っていた。
86号では柳沢功力氏が担当されていて、その記事を読みなおすと、
ベニトーンから詳しい資料は提供されていなかった、はずだ。

この形状から推測できるのは、
低音部は、いわゆるケルトン型であることぐらいしかわからなかった。。

KEFも、路線変更したのか、
こういうモノを作るようになったのか、とがっかりした。
KEFらしくキワモノ的な感じを、対面した時に抱いてしまった。

1988年、この時点でKEFのModel 107への興味がわくことはなかった。
音も聴いている(はずだ)。
と曖昧に書くのも、ほとんど記憶にないからだ。

86号掲載の新製品の他の機種のことは思い出せるから、
やはり聴いている。にも関らず印象に残っていない。
107のことは、記憶の片隅に追いやられてしまっていた。

「107? そういえば、そんなモデルがあったな」と思いだすきっかけは二年前、
2015年8月28日だった。

友人のAさんからのSNSのメッセージに、KEFの107を、興味のある人にゆずりたい、とあった。
それからだ、107のことをインターネットで検索し調べはじめたのは。

インターネットには写真、図も含めて、意外にも多くの検索結果が表示された。
日本では知っている人すらほとんどいないモデルであって、
私もほとんど忘れかけていたモデルであっても、
海外ではなかなか高い評価を得ていたようである。

構造図もあった。
ウーファーは内部に二発ある。
内部構造は、私が想像していたよりも、少し複雑なようにも感じた。
二本のウーファーユニットは金属棒で連結されていることもわかる。

低音の開口部は、エンクロージュア上部にあることは、
86号の時点で現物を見て確認済みのはずなのに、それすらも忘れていた。
160Hz以上をうけもつHEAD ASSEMBLYは、
このダクト後半分をやや覆うような位置にある。

この位置関係を、いま実際に確かめて思ったのは、
バイロイト祝祭劇場のようだ、である。

Date: 9月 17th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その7)

1983年春に、ステレオサウンド別冊「THE BRITISH SOUND」が出た。
山中先生が、イギリスの主だったメーカーを訪ねられてのブランド・ストーリィが、
「THE BRITISH SOUND」のメイン記事である。

KEFにも行かれている。
試聴室の写真が載っている。
小さく、モノクロだがら、細部は不鮮明だが、
Model 105.2が設置してある。
どう見てもキャスターは外した状態での設置である。

これはどういうことなのだろうか。
キャスターは、日本の輸入元がつけたのだろうか、とまず思ったが、
KEFの英文のカタログを見ても、キャスターがついている105である。
そさに輸入元が変ってもキャスターはそのままだったことからも、
KEFでつけているということになる。

となると、キャスターをつけていると、スピーカーの移動は簡単である。
それこそ部屋のどこへでもすぐに移動できる。
つまりスピーカーがよく鳴る位置を探すためには、実際にそこにスピーカーを置いて鳴らすしかない。

それにはキャスターがあれば、苦労することはない。
とにかく、この段階ではこまかなことを気にせずに、
大胆にスピーカーの位置を試して鳴らしてみろ、ということなのだろう。

位置が決ったらキャスターを外して、こまかな調整に取り組めばいい。
そういうことだったのではないのか。

Model 107は45kgと、105のどれよりも重い。
にも拘らずキャスターはついていない。

Date: 9月 17th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その6)

KEFのModel 105の底面にはキャスターが取り付けられていた。
いまの常識からすれば、キャスターがついていることは、
音にとってマイナスでしかない。

1980年代でも、キャスターがついていることはマイナスと認識されていた。
でもその数年前はキャスターがついていることに疑問をもつ人は、
少なくともオーディオ雑誌を見ていたかぎりではなかった。

Model 105だけではない、
スペンドールのBCII、BCIIIの専用スタンドもキャスターつきだった。
国内メーカーが販売していたスタンドの中にもキャスターつきのモノがあった。

私が聴いたModel 105もキャスターつきだった。
キャスターつきの状態であっても、
瀬川先生がバルバラのレコードを鳴らしながら調整された音は、
ステレオサウンド 45号の試聴記にあるとおりだった。
     *
調整がうまくゆけば、本当のリスニングポジションは、ピンポイントのような一点に決まる。するとたとえば、バルバラのレコードで、バルバラがまさにスピーカーの中央に、そこに手を伸ばせば触れることができるのではないかと錯覚させるほど確かに定位する。
     *
この「音」を実際に聴くことができた。
何も誇張なく書かれたものだといえる。

このスピーカーで、大好きな女性歌手のレコードを聴けたら……、
と当時高校生の私は、どうやったら105を買えるのだろうか、と真剣に購入計画をあれこれたてていた。

あるとき、円高のおかげで定価がすこし下がったことがある。
けれどしばらくするとまた価格が上ってしまった。
この時のショックは大きかった。
いくつかの販売店に旧価格の105がないか、と手紙を書いて問い合せまでした。

Model 105のラインナップとして、105.4、105.2が登場した。
すべてキャスターがついていた。
15は36kg、105.4は22kg、105.2は36kgである。

キャスターがあれば動かしやすいことはそうだが、
このくらいの重量ならば、キャスターなしでも動かせる。

105の登場が1980年代にはいってからだったら、
キャスターはなかったかもしれない。

ふとおもう。
誰もModel 105のほんとうの音を聴いていないのではないか、と。

Date: 9月 16th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その5)

読まれている人の中には、「また瀬川冬樹のことか」と思われる人もいよう。
私にとって、KEFのスピーカーについて語るということは、
その三分の一くらいは瀬川冬樹についても語ることでもある。

だからこそ、Model 105やModel 303のころの時代のKEFと、
いまのKEFについて語るということは、その点で最初から違ってきているわけだ。

レイモンド・クックは、「惜しみて余りあり」で、
瀬川先生について、こう書いている。
     *
 過去40年近くにわたって、私がオーディオの仕事を通じて出会い、知るに至った数多くの評論家のなかで、瀬川冬樹氏はクリティーカーとしてのあらゆる必要な資質を、まさに申し分のないバランスで併せもった類い稀なる人物の一人でありました。
     *
レイモンド・クックは、何も日本のオーディオ評論家にばかり会っていたわけではなく、
KEFのスピーカーが販売されている国のオーディオ評論家(批評家)とあっていた。
そのうえで、そう書いているのだ。

レイモンド・クックは、続いて自身の経験を書いている。
     *
 1976年のある日、私達はKEFのスピーカーについて長時間の対談と試聴をする機会を得ましたが、そのおり起ったことのすべてを、私は機能の出来事のように記憶しています。
 瀬川氏と私は、夕刻7時に、軽い夕食を共にするためにお会いしましたが、その時からすでにふたりの討論は始まっていました。食事を終えて一緒に雑誌社のオフィスに行き、われわれふたりは議論と試聴で一晩を明かしました。私がホテルに帰ったのは、朝が過ぎ、太陽が頭上に昇ってからだったことを覚えています。瀬川氏自身が、まえもってそのスピーカーについて、長時間ヒヤリング・テストを重ねていた事実を考え併せると、記事を書くという実際の仕事(その後、出版されましたが)はさておき、試聴と討議に費やされた全時間数は実に厖大なものでした。
     *
レイモンド・クックと瀬川先生が、1976年に長時間の対談と試聴をしたスピーカーは、
おそらくModel 105のはずである。

ステレオサウンド 45号で、
《一年以上まえから試作品を耳にしてきた》と書かれているからだ。

45号では《さすがに長い時間をかけて練り上げられた製品》と、
Model 105のことを評価されている。

Model 107は、その105の延長線上にあるスピーカーだ。
105の登場から約十年。KEF創立25周年記念モデルということも考えあわせると、
Model 107の開発にも長い時間をかけて、練り上げたはずである。

なのにModel 107は、登場時、日本には輸入されなかった
瀬川先生が亡くなられて、五年が経っていた。