Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 7月 10th, 2018
Cate: 405, QUAD

QUAD 405への「?」(その2)

ステレオサウンド 38号でのQUADの405の音についての、
井上先生と山中先生の対談は次のようなものだ。
     *
山中 この405については、アンプの話題の中にも含まれているので、ここではその音を中心に話を進めていくことにしましょう。実際に鳴らしてみて、驚いたのは今までのQUADというのはどちらかというと暖かみという比うょげんのできる、逆にもう一息ぬけが悪いというイメージがあったのが、このアンプでは、すっかり変ってしまった。ここにあるJBLモニターを鳴らした場合、とてもイギリスのアンプでドライブしているとは思えない、JBLのモニターアンプで鳴らしているようなシャープネスと、加えてものすごくナイーブな音を聴かせてくれたのは驚異でした。
井上 物理的な100Wのパフォーマンス以上の音量感とエネルギー感があります。少なくともQUADから、こういう音が出るとは夢にも思わなかったことです。
 かつてJBLがコンシュマー用のプリアンプとパワーアンプをつくったころのSE400を最初に聴いたときの印象と似ていて非常にびっくりしましたね。
山中 これが非常にコンパクトなアンプとして感性しているわけでしょう。それでJBLのスピーカーをフルにドライブしている。JBLをきりきり舞いさせるような音を出すということができるんですね。
     *
38号は、1976年春号だ。
この六年後に私は405をきちんと聴いている。

私の405の印象は、38号に書かれている印象とは違っている。
六年も経てば、アンプの進歩は早い。
周りが変っているだから、405の印象もそれにつれて変っていても不思議ではない──、
そう思おうとしても、405以前に、
SAEのMark 2500、GASのAmpzillaなどは登場していた。

それらの音の印象と照らし合せてみると、
どうにも38号での語られている405の音の印象と、私が抱いた音の印象とは、
かなり違っているところ(ズレ)がある。

確かに38号の音の印象であれば、
「コンポーネントステレオの世界 ’77」で、黒田先生が、
LNP2+Mark 2500よりも511+405で4343を鳴らしたい、という気持もわかる。

ここで思い出すのが、瀬川先生が43号で書かれていることだ。

Date: 7月 10th, 2018
Cate: 405, QUAD

QUAD 405への「?」(その1)

QUADのパワーアンプ405のことを強く意識するきっかけは、
1976年12月発行のステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’77」である。

まだペアとなるコントロールアンプ44は登場していなかったから、
他社製のコントロールアンプとの組合せで使われている。

瀬川先生と井上先生が、AGIの511との組合せを、最終的な組合せとして選ばれている。

たとえば瀬川先生の組合せでは、
バロック以前の音楽を、4343て鳴らすという組合せで、
最終的なアンプはマークレビンソンのLNP2とSAEのMark 2500のペアなのだが、
この組合せは高価ということで、第二案としてKEFのModel 104aBの組合せも提案されている。

この第二案でのアンプがAGIとQUADのペアである。
そこで黒田先生は、むしろAGIとQUADのペアで4343を鳴らしたい、という発言をされている。

これを読み、かなりスグレモノのパワーアンプなんだな、と感じていた。
「コンポーネントステレオの世界 ’77」の半年後のステレオサウンド 43号でも、
QUADの405は、特集ベストバイで高い評価を得ている。

405は、読者の選ぶベストバイでも人気があった。
なのに、聴く機会はなかなか訪れず、
聴いたといえる試聴は、ステレオサウンドで働くようになってからだから、
1982年になっていた。

そのころ、ステレオサウンド 38号も読んでいる。
この38号の新製品紹介に、405は初めて登場している。

このころの新製品紹介は井上先生と山中先生が担当されていて、
基本的に海外製品については山中先生、国産製品は井上先生となっていて、
特に話題の製品に関しては、対談によるまとめで紹介されていた。

405も話題の新製品なので、対談による紹介である。

Date: 7月 5th, 2018
Cate: audio wednesday, LNP2, Mark Levinson

LNP2になぜこだわるのか(軽い実験)

昨晩のaudio wednesdayでは、
スピーカーとは直接関係のないところで、ちょっと実験的なことをしてみた。

使用したコントロールアンプのLNP2のモジュールを、
途中で一部だけ交換してみた。

LNP2の借用をKさんに頼んだとき、
Kさんから、バウエン製モジュールにしますか、LD2モジュールにしますか、ときかれた。
LD2で依頼した。

届いていたLNP2はLD2モジュールが搭載されていた。
Kさんは、その他にバウエン製モジュールも持参されていた。

今回はグッドマンのAXIOM 402を鳴らすことがメインテーマだから、
モジュールについてそれほど時間は割けなかったが、
それでも以前から試してみたいことがひとつあった。

バウエン製モジュールとLD2モジュールの同居である。
一台のLNP2の中に、バウエン製とLD2を組み込む。
今回はINPUT AMPをバウエン製モジュールにしてみた。

けっこうな音の変化があった。
LD2で統一した方がいいのか、バウエン製モジュールとLD2の混成がいいのか、
これはもう好みかもしれない。

もし黙って聴かされて、
バウエン製モジュールのLNP2か、LD2モジュールのLNP2なのか、と問われたら、
バウエン製モジュールのLNP2と答えてしまうそうになるくらいの音の変化である。

これはじっくり時間をかけて、交換するモジュールの位置もあれこれ変えてみた上で、
どの構成が、どういう音になるのか試してみたい。

それでもごく短時間の試聴では、LD2で統一した方が、安心して聴ける。

Date: 6月 4th, 2018
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(音の品位・その6)

ステレオサウンド 54号の特集に登場したスピーカーシステムで、
音の品位に関して、瀬川先生と菅野先生の意見が食い違っている機種は、他にもある。

エレクトロボイスのInterface:AIIIとInterface:DIIにおいては、
瀬川先生はInterface:DIIの方を高く評価され、
Interface:AIIIに関しては力に品位が伴っていない、と。

一方菅野先生は、どちらのエレクトロボイスも評価されている。
Interface:AIIIの力に品がないとは聴こえなかった、といわれている。

グルンディッヒのProfessional BOX 2500も、
エレクトロボイスの二機種、どちらも私は聴く機会がなかった。

なのではっきりしたことはいえないのだが、
もし新品に近い状態の、これらのスピーカーシステムを聴くことがあったとしたら、
音の品位に関しては、瀬川先生寄りのところに、私の印象はあるのではないか、と思う。

これが音の品位ではなく、音の品質ということだったら、
あまり食い違いは起こらないずだ。
なのに品位ということになると、ここに挙げた機種以外にも微妙な違いが感じられる。

それでいて、たとえばスペンドールのBCII。
54号には登場していないが、この素敵なスピーカーに関しては、
菅野先生も瀬川先生も、音の品位に関しては一致している。

あまり古いスピーカーばかりに例に挙げても、
イメージがまったく涌かない、という人も少なくないだろう。

ならばB&Wの800シリーズはどうだろうか。
ステレオサウンドでも高い評価を得ている。
優秀なスピーカーの代表格のようにもいわれている。

私も、優秀なスピーカーだとは思っている。
けれど、このスピーカーの音には、品位があるのだろうか、と思うことがある。

Date: 6月 2nd, 2018
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(音の品位・その5)

(その4)までで引用してきたステレオサウンド 60号での試聴は、
個別の試聴ではなく全員での試聴である。
瀬川先生も菅野先生も、同席されての試聴である。

音の品位は、なにもスピーカーについてのみいえるのではなく、
アンプについても、カートリッジに関しても、他のオーディオ機器であってもいえる。
けれど、もっとも感覚的に捉えられるのは、やはりスピーカーである。

60号の一年半前にステレオサウンドは、スピーカーの試聴を行っている。
54号である。
この時の試聴は、黒田恭一、菅野沖彦、瀬川冬樹の三氏によるものだが、
個別試聴である。
試聴レコードも三氏で違うし、
スピーカーを鳴らすオーディオ機器(プレーヤー、カートリッジ、アンプ)も三氏皆違う。

それに試聴方法も違っている。
スピーカーだから、そのセッティングが重要になるわけだが、
ここも微妙に違っている。

そのうえで、特集の鼎談を読むわけだが、
ここでも音の品位について、菅野先生と瀬川先生とでは、
完全に一致しているわけではない。

たとえばグルンディッヒのProfessional BOX 2500。
     *
菅野 私は、瀬川さんがこのスピーカーに、まあ9点はびっくりしましたが、8点くらいつけるのはよくわかる気がします。瀬川さんは、あるところ非常にハードに厳しいけれど、あるところすごく甘いところがあるように思う。徹底してどちらかにいってしまう。
瀬川 ……(苦笑)。
菅野 引っかかると徹底的にハードを追求し、引っかからないと徹底的にハードを無視してソフトに行くという、そういう性癖がある(笑い)。
 このグルンディッヒはひっかかってきたひとつだと想うのです。まず音が非常に電蓄的ですね。先ほど古いとおっしゃったが、まさにその通りでノスタルジーは感じます。しかし、今日の水準で聴くと、クォリティ面で、特にユニット自体の品位があまり高くないことが露呈してくる。
瀬川 そうですか? 品位は高いと思いますけれど……
菅野 それは全体としてでしょう。バランスはそれなりにとれていると思いますが、たとえば低域は、なかなか重厚といえば重厚だが、よく聴くとボコボコですよ。
瀬川 私が鳴らすとボコボコいわないんてすよ。
     *
編集部によると、Professional BOX 2500での三氏が鳴らす音に、
それほど大きな違いはなかった、とあるが、
三氏がそれぞれに指摘している長所、短所は、同席していて納得がいくともある。

Professional BOX 2500は、60号でのマッキントッシュのXRT20とは反対に、
菅野先生は品位がない、と感じ、瀬川先生は品位があると感じられた例である。

Date: 4月 21st, 2018
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(続々2397の匂い)

四年前に「JBLのユニットのこと(2397の匂い)」のことを書いている。

今年も、ここ数日2397から、JBL特有の匂いがしてきている。
けれど四年前は六月くらいからだった。
今年は、まだ四月。

例年よりも早くから暖かくなってきていることを、
鼻でも実感している。

Date: 4月 12th, 2018
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(ガラード301との比較・その14)

五味先生は、こう書かれている。
     *
 ところで、何年かまえ、そのマッキントッシュから、片チャンネルの出力三五〇ワットという、ばけ物みたいな真空管式メインアンプ〝MC三五〇〇〟が発売された。重さ六十キロ(ステレオにして百二十キロ——優に私の体重の二倍ある)、値段が邦貨で当時百五十六万円、アンプが加熱するため放熱用の小さな扇風機がついているが、周波数特性はなんと一ヘルツ(十ヘルツではない)から七万ヘルツまでプラス〇、マイナス三dB。三五〇ワットの出力時で、二十から二万ヘルツまでマイナス〇・五dB。SN比が、マイナス九五dBである。わが家で耳を聾する大きさで鳴らしても、VUメーターはピクリともしなかった。まず家庭で聴く限り、測定器なみの無歪のアンプといっていいように思う。
 すすめる人があって、これを私は聴いてみたのである。SN比がマイナス九五dB、七万ヘルツまで高音がのびるなら、悪いわけがないとシロウト考えで期待するのは当然だろう。当時、百五十万円の失費は私にはたいへんな負担だったが、よい音で鳴るなら仕方がない。
 さて、期待して私は聴いた。聴いているうち、腹が立ってきた。でかいアンプで鳴らせば音がよくなるだろうと欲張った自分の助平根性にである。
 理論的には、出力の大きいアンプを小出力で駆動するほど、音に無理がなく、歪も少ないことは私だって知っている。だが、音というのは、理屈通りに鳴ってくれないこともまた、私は知っていたはずなのである。ちょうどマスター・テープのハイやロウをいじらずカッティングしたほうが、音がのびのび鳴ると思い込んだ欲張り方と、同じあやまちを私はしていることに気がついた。
 MC三五〇〇は、たしかに、たっぷりと鳴る。音のすみずみまで容赦なく音を響かせている、そんな感じである。絵で言えば、簇生する花の、花弁の一つひとつを、くっきり描いている。もとのMC二七五は、必要な一つ二つは輪郭を鮮明に描くが、簇生する花は、簇生の美しさを出すためにぼかしてある、そんな具合だ。
(五味オーディオ教室 より)
     *
MC275の音について
《必要な一つ二つは輪郭を鮮明に描くが、簇生する花は、簇生の美しさを出すためにぼかしてある、そんな具合だ》
と表現されている。
瀬川先生が書かれていたことと、表現が違うだけで同じともいえる。

だから対極といえるマッキントッシュのC22+MC275、
マークレビンソンのLNP2+SAEのMark 2500、
なのにアナログプレーヤーは930stなのは、やはり音の構図の確かさゆえだ、と私はおもっている。

《マッキントッシュの風景は夜景》であり、
《必要な一つ二つは輪郭を鮮明に描くが、簇生する花は、簇生の美しさを出すためにぼかして》あるからこそ、
音の構図は確かなものでなければ、その美しさは成り立たない。

Date: 4月 12th, 2018
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(ガラード301との比較・その13)

私がここまで930stに入れ込むことになったきっかけは、
いうまでもなく五味先生と瀬川先生の影響である。

ふたりの930stについて書かれたものを読んで、
興味をもたないほうが不思議におもえるくらいである。

音の入口である930stは同じであっても、
アンプは五味先生はマッキントッシュの管球式のC22とMC275のペア、
瀬川先生は世田谷の新居に引っ越されるまでは、
マークレビンソンのLNP2とSAEのMark 2500という、
最新トランジスター式のペアである。

音の傾向は対極といえる。
     *
 JBLと全く対極のような鳴り方をするのが、マッキントッシュだ。ひと言でいえば豊潤。なにしろ音がたっぷりしている。JBLのような〝一見……〟ではなく、遠目にもまた実際にも、豊かに豊かに肉のついたリッチマンの印象だ。音の豊かさと、中身がたっぷり詰まった感じの密度の高い充実感。そこから生まれる深みと迫力。そうした音の印象がそのまま形をとったかのようなデザイン……。
 この磨き上げた漆黒のガラスパネルにスイッチが入ると、文字は美しい明るいグリーンに、そしてツマミの周囲の一部に紅色の点(ドット)の指示がまるで夢のように美しく浮び上る。このマッキントッシュ独特のパネルデザインは、同社の現社長ゴードン・ガウが、仕事の帰りに夜行便の飛行機に乗ったとき、窓の下に大都会の夜景の、まっ暗な中に無数の灯の点在し煌めくあの神秘的ともいえる美しい光景からヒントを得た、と後に語っている。
 だが、直接にはデザインのヒントとして役立った大都会の夜景のイメージは、考えてみると、マッキントッシュのアンプの音の世界とも一脈通じると言えはしないだろうか。
 つい先ほども、JBLのアンプの音の説明に、高い所から眺望した風景を例として上げた。JBLのアンプの音を風景にたとえれば、前述のようにそれは、よく晴れ渡り澄み切った秋の空。そしてむろん、ディテールを最もよく見せる光線状態の昼間の風景であろう。
 その意味でマッキントッシュの風景は夜景だと思う。だがこの夜景はすばらしく豊かで、大都会の空からみた光の渦、光の乱舞、光の氾濫……。贅沢な光の量。ディテールがよくみえるかのような感じは実は錯覚で、あくまでもそれは遠景としてみた光の点在の美しさ。言いかえればディテールと共にこまかなアラも夜の闇に塗りつぶされているが故の美しさ。それが管球アンプの名作と謳われたMC275やC22の音だと言ったら、マッキントッシュの愛好家ないしは理解者たちから、お前にはマッキントッシュの音がわかっていないと総攻撃を受けるかもしれない。だが現実には私にはマッキントッシュの音がそう聴こえるので、もっと陰の部分にも光をあてたい、という欲求が私の中に強く湧き起こる。もしも光線を正面からベタにあてたら、明るいだけのアラだらけの、全くままらない映像しか得られないが、光の角度を微妙に選んだとき、ものはそのディテールをいっそう立体的にきわ立たせる。対象が最も美しく立体的な奥行きをともなってしかもディテールまで浮び上ったときが、私に最上の満足を与える。その意味で私にはマッキントッシュの音がなじめないのかもしれないし、逆にみれば、マッキントッシュの音に共感をおぼえる人にとっては、それがJBLのように細かく聴こえないところが、好感をもって受け入れられるのだろうと思う。さきにもふれた愛好家ひとりひとりの、理想とする音の世界観の相違がそうした部分にそれぞれあらわれる。
(「いま、いい音のアンプがほしい」より」
     *
C22とMC275について、瀬川先生は、
《マッキントッシュの愛好家ないしは理解者たちから、お前にはマッキントッシュの音がわかっていないと総攻撃を受けるかもしれない》
と書かれている。

けれどほんとうにそうだろうか、とおもう。

Date: 3月 12th, 2018
Cate: LNP2, Mark Levinson

Mark Levinson LNP-2(silver version・その5)

(その1)で紹介しているサイトは、
その後もシルバーパネルのLNP2についての情報が書き足されている。

シルバーパネルのLNP2は、これ一台だけなのだろうか。
だとしたら、これはやはり、マーク・レヴィンソンが、
瀬川先生のためにつくった一台なのかもしれない、というおもいが、強くなっている。

LNP2は、INPUT AMPのゲインを切り替えられる。
上記のリンク先には、こう記述されている。
     *
webを見ていて面白いことに気づいた
silver LNP のシリアルNo.は1929
この1番前のNo.1928がハイファイ堂で売られていたのだ
dB GAINを見ると0-10-20
1929のdB GAINは0-10-20-30-40
ということは
No.1001~1010 dB GAIN 0-10-20-30-40
No.1011~1928 dB GAIN 0-10-20
No.1929~○○○○ dB GAIN 0-10-20-30-40
No.○○○○~2667 dB GAIN 0-5-10-15-20
ということになる
○○○○が知りたいな
     *
このところを読んで、シルバーパネルのLNP2は、やはり瀬川先生のための一台だったんだ──、
少なくとも私のなかでは、そう信じられるようになった。

dB GAINに、30と40が加わっているからだ。
たったそれだけの理由? と思われるだろうし、
そんなことが理由になるの? とも思われるだろう。

私の勝手な思い込みなのは書いている本人がいちばん実感している。
まるで見当はずれのことを書いている可能性もある。
それでもいい。

シルバーパネルのLNP2は瀬川先生のための一台だった──、
そう信じ込んでいた方がいい、とおもう。

Date: 1月 11th, 2018
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その27)

フルレンジからスタートする瀬川先生の4ウェイへのプラン。
このプランで、見落してはいけないのは基本的にマルチアンプドライヴである、ということ。

LCネットワークはミッドハイのハイカットとトゥイーターのローカットのみだ。
フルレンジからスタートするのはいい。
けれど、この瀬川先生のプランはアンプの数が増えるし、それだけシステムの規模は大きくなる。

そういいながらも、瀬川先生がLCネットワークを極力使われない、というのも理解できる。
フルレンジからスタートするプランであるからこそ、LCネットワークの排除とも考えられる。

フルレンジを一発で鳴らしたときの音の良さは、
ユニットが最少限ということもあるが、アンプとフルレンジユニットの間に、
コイルもコンデンサーも、抵抗も介在しないことによる良さがある。

LCネットワークでシステムを組むのであれば、
フルレンジユニットに対して、ローカットとハイカットのフィルターが入ることになる。

その26)で、4ウェイになると、ユニットは四つだが、フィルターの数は六つになり、
フィルターの数で考えれば、4ウェイは六次方程式を解くようなものだ、と書いた。

六次方程式なのは、LCネットワークであろうとマルチアンプであろうと変りはしないが、
どちらがより難しい六次方程式かといえば、LCネットワークのはずだ。

しかもネットワークの次数が高次になればなるほど、さらに難しくなっていく。
そうやって考えると、ボザークがスコーカーに16cm口径のフルレンジ的ユニットをもってきて、
ネットワークを、もっともシンプルな6dB/oct.のネットワークとしたのは、
位相重視の設計もあっただろうが、
フルレンジの音質的メリットを活かす意味合いも大きかったのではないか。

そういう視点から、
別項で書いているSICAのフルレンジユニットを中心としたマルチウェイのシステムを考え直すと、
違うシステムの構築の仕方が求められてくる。

Date: 12月 17th, 2017
Cate: JBL

なぜ逆相にしたのか(その12)

振動モードの位相に関しては、パイオニアのS3000も興味深い。
S3000は1987年ごろに登場した3ウェイのスピーカーシステムで、
最大の特徴は、三つのユニットをフロントバッフルに固定しないところにある。

パイオニアは、この取付方法をフルミッドシップマウントと呼んでいた。
トゥイーターとスコーカーはフロントバッフルの裏に設けられた二枚目のバッフル、
つまりインナーバッフルと呼べる板に取り付けてあった。

もっとも重量物であるウーファーは、
アルミダイキャストの台座を介して底板に固定してあった。

ウーファーの、そのかっこうは、
ウェスターン・エレクトリックの励磁型ウーファーにも似ていた。
ウェスターン・エレクトリックのウーファーは重量がありすぎるため、
フロントバッフルへの固定ではなく、底板への固定であった。

フルミッドシップマウントは、その後もパイオニアのスピーカーでは使われていったが、
いつのまにか消えていった、と記憶している。

確かにフロントバッフルにユニットを取り付けないことで、
フロントバッフルへの加重はほぼなくなるし、
そのことによってフロントバッフルの振動モードは大きく変化する。

もちろんユニットから伝わってくる振動も大幅に抑えられているはずだから、
それによる影響の度合も大きな変化となっているはずだ。

けれど、ここでも井上先生が、ボソッといわれたことをいまでも憶えている。
その11)に書いたことと、同じことだ。

振動モードの位相の在り方が、
フロントバッフルに固定した場合と、そうでない場合とでは変ってくる、ということ、
それにフロントバッフルと底板、フロントバッフルとインナーバッフル、
これらの振動モードの位相が同相であるわけではないこと。

それらすべてひっくるめてのスピーカーシステムの音であること。
このことを抜きにして、JBLのユニットが逆相であったことによる、
一般的な正相との音の違いについて語る(考える)ことは、やめてほしいと、
知ったかぶりの、一部の人たちには強くいいたい。

Date: 11月 27th, 2017
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(ガラード301との比較・その12)

フィリップスのLHH2000は、確かにプロフェッショナル用CDプレーヤーだった。
その数年後に登場したLHH1000は、型番の上ではプロフェッショナル用ということになるし、
トランスによるバランス出力を備えていた。

一見すればプロフェッショナル用と見えなくもない、このCDプレーヤーは、
音を聴けば、コンシューマー用CDプレーヤーであると断言できる。

LHH2000はフィリップスの開発、
LHH1000はブランド名こそフィリップスであっても、開発はマランツである。
でも、そういうこと抜きにしても、
この項でくり返し書いている音の構図という、この一点だけで、
少なくとも私の耳には、LHH1000はプロフェッショナル用とは聴こえなかった。

ことわっておくが、LHH1000の音がダメだ、といいたいのではなく、
プロフェッショナル用かコンシューマー用かを、
型番やブランドではなく、音で判断するのならば、コンシューマー用ということだけである。

LHH1000だけではない。
その後に登場したLHHの型番がつくCDプレーヤーのすべて、
プロフェッショナル用とは私は思っていない。

プロフェッショナル用が、コンシューマー用より優れている、といいたいわけではない。
このころまでのプロフェッショナル用機器には、
少なくとも優れたプロフェッショナル用機器には、
音の構図の確かさがあった、といいたいだけであるし、
私はそのことによって、
プロフェッショナル用かコンシューマー用かを判断している、ということである。

Date: 11月 27th, 2017
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(ガラード301との比較・その11)

同じことはCDプレーヤーに関しても、いえた。

スチューダーのA727を買う時に、気になっているCDプレーヤーがあった。
アキュフェーズのDP70だった。

DP70は430,000円だった。
A727とほぼ同じだった。
どちらもバランス出力を持っている。

片やプロフェッショナル用CDプレーヤー、
もう片方はコンシューマー用CDプレーヤーと、はっきりといえた。

ステレオサウンドで働いていたから、じっくりと試聴室で聴き比べた。
DP70にかなり心は傾いたのは事実だ。

情報量の多さでは、DP70といえた。
けれど、A727に最終的に決めたのは、音のデッサン力、音の構図の確かさである。

瀬川先生がステレオサウンド 59号で、
ルボックスのカセットデッキB710について書かれていることは、ここでも当てはまる。

国産カートリッジと海外製カートリッジ、
国産カセットデッキ、テープと海外製カセットデッキ、テープの音の描き方の根源的な違い、
それはDP70とA727にもあり、
そこにコンシューマー用とプロフェッショナル用の違いが加わる。

何を優先するのかは人によって違う。
だから、DP70とA727を比較して、DP70を選ぶ人もいてこそのオーディオの世界である。

A727に感じた音の構図の確かさは、フィリップスのLHH2000にもあったし、
A727の後に登場したA730も、まったくそうだ。

Date: 11月 26th, 2017
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(ガラード301との比較・その10)

EMTの930stとガラードの301+オルトフォン、
ふたつのアナログプレーヤーを比較試聴して、顕著な違いとして感じたのが、音の構図である。

音のデッサン力の確かさ、といってもいい。
この音の構図をしっかり描くのは930stであり、
ガラード+オルトフォンでは、正直心許ない印象を受けた。

ここのところに、
プロフェッショナル用とコンシューマー用の違いを意識させられる。

こう書くと、
ガラードの301もBBCで使われていたから、プロフェッショナル用ではないか、
と反論がありそうだが、
私はガラードの301をプロフェッショナル用だとはまったく思っていない。

プロフェッショナル用だから、素晴らしいわけではないし、
コンシューマー用のほうが素晴らしいモノは、けっこうある。

それなのにこんなことを書いているのは、
私が以前から感じているプロフェッショナル用機器の音の良さとは、
930stの音の良さと、共通するからである。

くり返しになるが、それが音の構図であり、音のデッサン力の確かさである。
アナログプレーヤーだけでなく、スピーカーシステムに関しても同じだ。

JBLのスピーカーシステムに感じる良さのひとつに、同じことが挙げられる。
いまやJBLのスピーカーシステムのラインナップは拡がりすぎているが、
少なくともJBLのプロフェッショナル用は、930stと同じで、確かな音の構図を描く。

すべてのプロフェッショナル用機器がそうだとまではいわないが、
優れたプロフェッショナル用機器に共通する良さは、ここにあった、といえる。

過去形で書いたのは、私がここでプロフェッショナル用として思い出しているのは、
往年のプロフェッショナル用機器ばかりであるからだ。

Date: 11月 15th, 2017
Cate: D44000 Paragon, JBL

パラゴンの形態(その8)

D44000 Paragonのデザインは、アーノルド・ウォルフだということは、
昔から知られていたし、ウォルフがどういう人なのかも、ある程度は伝えられていた。

D44000 Paragonの原型といえるスタイルを考案したのは、
リチャード・H・レンジャー(Richard Howland Ranger)であることも、
昔から伝えられていた。
けれど、どういう人物なのかは、ほとんど伝えられていなかった。

当時のアメリカで有能なエンジニアだ、ということ、
彼が考案したパラゴンの設計をJBLが買い取って、製品化したぐらいの情報だった。

リチャード・H・レンジャーの年齢もわかっていなかった。
パラゴンを考案したとき、レンジャーは幾つだったのか、
それさえも当時はわからなかった。

いまでは、WikipediaにRichard H. Rangerのページがある。
写真もある。

レンジャーは1889年6月13日生れである。
1962年1月10日に亡くなっている。

パラゴンが世に登場したのは1957年である。
レンジャーは67か68歳である。
パラゴンの構想そのものは、パラゴン誕生の10年以上前からあった、といわれている。
10年前として、57か58歳。

あらためて、すごい、とおもった。