なぜ逆相にしたのか(その11)
正相接続・逆相接続による音の違いはどこから生れてくるのだろうか。
いくつかの要素が考えつく。
まずフレームの鳴き。
何度かほかの項で書いているように、
ボイスコイルにパワーアンプからの信号が加わりボイスコイルが前に動こうとする際に、
その反動をフレームが受けとめ、とくにウーファーにおいては振動板の質量が大きいこと、
それに振動板(紙)の内部音速が比較的遅いこともあって、
コーン紙が動いて音を出すよりも前にフレームから音が放射される。
逆相接続にすればフレームが受ける反動も大きく変わってくる、
そうすればフレームからの放射音にも違いが生じるはず。
反動によるフレームの振動はエンクロージュアにも伝わる。
エンクロージュアの振動モードも変化しているであろう。
こういうことも正相接続・逆相接続の音の違いに少なからず関係しているはず。
これを書いていてひとつ思い出したことがある。
アクースタットのコンデンサー型スピーカーが登場したとき、
どうしても背の高い、この手のスピーカーはしっかりと固定できない。
ならば天井から支え棒をするのはどうなんだろう、と思い、井上先生にきいてみたことがある。
「天井と床がつねに同位相で振動している、と思うな」
そう井上先生はいわれた。
同位相で振動していれば支え棒は、
つねに一定の力でアクースタットの天板(そう呼ぶには狭い)を押えてくれる。
しかし実際には同位相の瞬間もあれば逆位相の瞬間もあり、90度だけ位相がずれている瞬間、
かなり複雑な位相関係の瞬間もあるだろうから、
支え棒が押える力は常に変動することになる。
この力の変動はわずかかもしれない。
でも、こういった変動要素は確実に音に影響をおよぼす。
それに支え棒そのものも振動しているのだから、
支え棒の位相がスピーカー本体や天井に対してどうなのか。
井上先生は、さまざまな視点からものごとをとらえることの重要さを教えてくれた。