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Date: 3月 11th, 2009
Cate: 井上卓也, 使いこなし
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使いこなしのこと(その2)

エレクトロボイスのSentry500の素っ気無い仕上げを、家庭での使用を前提に、
木目仕上げのエンクロージュアと、
木製のCD(Constant Directivity=定指向性)ホーンを採用したSentry500SFVの発表後、
しばらくしてのことだったから、1984年ごろの、ステレオサウンド試聴室でのコトだ。

その日、ステレオサウンド編集部では試聴室を使う予定はなく、
HiViの筆者の方ふたりで、Sentry500SFVの試聴をやられていた。

試聴室隣の倉庫に、工具を取りに降りていったとき、試聴がはじまって1時間くらい経過した頃だったようだ。
試聴室に入らなくても、うまく鳴っているかどうかは、すぐにわかる。
覇気が感じられない音で鳴っているなぁ……、と思いながら、工具を探していたら、
試聴室の中から、「こっちに来て、なんとかしてほしい」という声が掛かった。

ふたりとも、鳴っている音に納得できずに、あれこれ試したものの、たいした変化は得られなかったとのこと。

ざっと見渡すと、いつものセッティングとは違う。
アンプの電源を落とし、スピーカーケーブルやピンケーブルもいったんすべて外し、
ACコードもすべてコンセントから外した。
それから、いつもの試聴のようにセッティングする。

なにもすべて外す必要はないのだが、
やはり一からすべて自分でやったほうが確実だからだ。
スピーカーもアンプもいっさい移動しないので、
またケーブルやその他のモノもいっさい換えないままだったので、時間にして、5分程度だ。

ふたたび電源を入れて、音を出す。
このくらい変わるだろうな、と予測していた音が鳴ってきた。
時間は短いし、何一つ換えなかったとはいえ、ある程度の変化量は予測していた。
井上先生の試聴で、毎回体験していることだからだ。

でも、筆者の方ふたりは、こちらが驚くほど、驚かれていた。
そして、チューニングによる音の変化と受けとめられたようだ。

自慢話をしたいわけではない。
ここで、私がやったことはチューニングではなく、あくまでもセッティングであり、
それをやり直しただけだということを理解していただきたい。

Date: 3月 10th, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その19)

試聴の準備は、セッティングである。

その日使う器材を所定の場所に設置し、結線し、音出しが出来る状態にする。
特に新製品の試聴の時には、ほとんどがはじめて音を聴くモノばかりなので、
セッティングは、より重要度が増す。

3ヵ月毎に特集の試聴、新製品の試聴があるわけだから、そのたびにセッティングしているわけだ。
このセッティングを毎回同じに出来るかどうか。
同じようなセッティングでは、井上先生から合格点はいただけない。同じでなければならない。

そんなの簡単じゃないか、と思われる人も多いだろう。
セッティングした器材を、結線を外し、他の部屋の移動し、また元の部屋に持ってくる。
そしてもう一度セッティングする。
これを何度も、わずかな時間でやってみるといいだろう。
できれば、その音を第三者に聴いてもらえれば、さらにいい。

たいてい、いくつかの見落としがあって、同じようなセッティングどまりだったり、
逆にうまくいき、元よりもいい音になることもあるだろう。

私の場合、3ヵ月に一度ではあったが、井上先生にそうやって鍛えられたことになる。

Date: 3月 9th, 2009
Cate: 五味康祐
3 msgs

五味康祐氏のこと(その9)

マッキントッシュのMC275には、RCAジャックが5つついている。
フロント右から、MONO INPUT、TWIN INPUT(L、R)、STEREO INPUT(L、R)となっている。

ステレオサウンド 55号「ザ・スーパーマニア 故・五味康祐氏を偲ぶ」に載っていた写真は、
目に焼き付くまで、じっと何度も見ていた。
だから、3月8日の練馬区役所の会議室に設置されていた五味先生のMC275を見て、
なにか違う……、と感じていた。

そのMC275のTWIN INPUTのところには、三角形に切られた赤と黒のビニールテープで、
左右チャンネルが色分けされていた。

区役所の方の説明では、運び込まれたときから貼られていたもので、
おそらく五味先生が貼られたものであろう、とのことだった。

だが、なぜ五味先生が、こんなところに、初歩的な色分けのシールを貼られるだろうか。
レコードのヒゲを、あれだけ嫌悪されていた五味先生である。
愛器にビニールテープなど、貼られるはずがない。

帰宅して、ステレオサウンドを開いた。
MC275の写真は、それほど大きくはない。どこにもビニールテープは貼られていない。当然だ。

さらに五味先生は、TWIN INPUTではなく、STEREO INPUTを使われている。

ビニールテープは、おそらく五味先生のお嬢様の由玞子さんが貼られたのだろう。
今回の試聴会は、TWIN INPUTが使われた。

五味先生のオーディオ機器の復活には、エソテリック/ティアックだけでなく、
ステレオサウンドの原田勲氏はじめ、編集部の方々も協力があったおかげだときいている。

オーディオ機器の操作は、ステレオサウンド編集部の染谷氏が担当されていた。
感謝しているからこそ、ひとつ言いたい。
なぜ、きちんと検証作業を行なわないのだろうか。

昔のステレオサウンドを見れば、すぐにでもわかることである。
誌面では小さな扱いの写真だが、編集部内には、フィルムがきちんと保管されている。
こちらで確かめれば、もっと細かいことまでわかる。

なぜ一手間を惜しむのだろうか。
オーディオという趣味は、その一手間の積み重ねによって、音を紡いでいき、築いていく行為だというのに……。
そして編集という行為も、まさしくそうであるのに……。

Date: 3月 8th, 2009
Cate: 五味康祐

五味康祐氏のこと(その8)

今日、練馬区役所主催の「五味康祐氏遺愛のオーディオとレコード試聴会」に行ってきた。
午前中に1回、午後3回開催されるほどだから、前回(1月)の試聴会の申込みがいかに多かったのかが、わかる。
年輩の女性同士で来られている方も見かけた。

練馬区役所本庁舎の会議室に、五味先生のタンノイ・オートグラフは設置されている。
部屋に入ると、正面にオートグラフ、
その間に木製ラック、それにEMT930st、マッキントッシュのC22、MC275が収められていた。

五味先生がお使いになっていたラックは、ヤマハ製のものだった。

オートグラフが目にはいった次の瞬間、すぐに探したのは「浄」の書だ。

五味先生のリスニングルームでは、オートグラフに向かって左側の壁、天井近くに飾ってあった。
「浄』は右側の壁に、飾ってあった。

写真で何度も見、目に焼き付けていたつもりだったが、
こうやって、その前に立つと、印象は、ずっと深いものとなる。
たくましく、骨太で、ふしぎな味わいがある。
技巧うんぬんなど、どこ吹く風といったらいいのだろうか。

なぜ、この「浄」なのかが、わかる気がした。
区役所の方の話によると、おそらく中国の石碑からの拓本だろう、とのことだった。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その39)

暗中模索が続き、アンプは次第に姿を変えて、ついにUX45のシングルになって落着いた。NF(負饋還)アンプ全盛の時代に、電源には定電圧放電管という古めかしいアンブを作ったのだから、やれ時代錯誤だの懐古趣味だのと、おせっかいな人たちからはさんざんにけなされたが、あんなに柔らかで繊細で、ふっくらと澄明なAXIOM80の音を、わたしは他に知らない。この頃の音はいまでも友人達の語り草になっている。あれがAXIOM80の、ほんとうの音だと、わたしは信じている。
誤解しないで項きたいが、AXIOM80はUX45のシングルで鳴らすのが最高だなどと言おうとしているのではない。偶然持っていた古い真空管を使って組み立てたアンプが、たまたま良い音で鳴ったというだけの話である。しかしわたくし自身はこの体験を通じて、アンプというもののありかたを自分なりに理解できたつもりであり、また同時に、無責任な「技術の進歩」などという言葉をたやすくは信じなくなった。
     ※
ステレオサウンドの7号(1968年)に、瀬川先生が書かれた文章である。

瀬川先生が理解された「アンプのありかた」、AXIOM80が啓示した「アンプのありかた」──、
これらのことが、瀬川先生とLNP2との出合いにつながっていく。

Date: 3月 6th, 2009
Cate: 井上卓也, 使いこなし

使いこなしのこと(その1)

オーディオにおいて、使いこなしは重要だと、ずっと以前から言われつづけているにも関わらず、
読者側から見て、系統立てて説明し、あらゆる状況に対して応用がきくヒントを与えてくれる記事を、
音の出ない、写真と文字だけの誌面で伝えることは、頭で想像している以上に難しさがある。

私がステレオサウンドで担当した使いこなしの記事のひとつは、ふたりの読者が参加された井上先生によるものだ。
あのときは、まだ22歳だったから、1985年。この取材で、舘さん(早瀬さん)と出会い、
私がステレオサウンドを辞めたあとも、変らぬ態度で接してくれて、
今年の夏で、まる24年のつきあいになる。

去年だったか、インターネットでのオーディオの掲示板で、ステレオサウンドの記事のなかで、
印象に残っているのはどれか、という内容のもので、
この井上先生の使いこなしの記事をあげておられる方がいた。
さらにmixiでも、この記事を、いまも読み返し参考にしているという文章に出合った。

担当編集者としては嬉しい限りではあるが、1985年の記事である……、という思いもある。

いま読み返しても、おもしろいだろう(手もとにその号がないので読み返せないが)。
けれど、こんなことを言ってもどうにもならないが、
いまならば、同じ取材からでも、違う誌面展開で記事をつくる自信はある。

あのころは、使いこなしという言葉の中に、セッティング、チューニング、エージングが含まれ、
それぞれは違い、しかし、その境界は曖昧であることに気がついていなかったからだ。

このことをきっちりと私が認識していたならば……、と思うのだが、いまさら、である。

Date: 3月 3rd, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その17)

ごくまれなのだが、試聴室にスピーカーの新製品、それもそのメーカーのフラッグシップモデルのとき、
エンジニアや広報の方が来られ、スピーカーのセッティングをおこなわれることがあった。

井上先生に、強い口調で言われたことがある。
「メーカーの人による調整は、しっかり見て聴いておけ。お金を出しても見られるものではないんだから」

たしかにその通りで、しかも井上先生は、後日、どんなふうに調整していたのか、と私に訊いてこられた。

あれだけオーディオのことを知悉され、使いこなしに関しても、いくつも引出しをお持ちなのに、
けっして慢心されることはなかった。

Date: 3月 2nd, 2009
Cate: 川崎和男

川崎和男氏のこと(その24)

菅野先生と川崎先生の対談をお読みになった方ならば、私が持っていったCDは、
ホセ・カレーラスのAROUND THE WORLDであり、
このCDの5曲目は「川の流れのように」であることはご存じだろう。

1曲目は「愛の讃歌」で、こちらも素晴らしい。
それでもホセ・カレーラスによる「川の流れのように」を、川崎先生に聴いていただきたかった。

なぜかという、はっきりとした理由はなかったようにも、いまは思える。
なのに、これしかないと思い込んでもいたわけだ。

前奏が流れてきた。
「いい感じだ、もっともっとよく鳴ってほしい」と、カレーラスの歌が始まるまで祈っていた。

歌が始まった。安堵した。素晴らしい音で鳴っていた。
カレーラスの歌声が、心に沁み込んできた。

川崎先生が、どんな感想を持たれたのかは、わからない。
訊ねもしなかった。

「川の流れのように」が終ったとき、川崎先生夫妻が、
斜め後ろに立っていた、こちらを同時に振り向かれた。

Date: 3月 2nd, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その16)

私が恵まれていたと感じていたことは、井上先生がやられたことを、自分のオーディオ機器に対してだけでなく、
井上先生が実際に試聴された同じ環境、同じ装置で、同じことをひとりで試せたことだ。

2つの環境で試せた上に、同じ環境でも試せる。
つまり環境が、装置が、条件が違うという言い訳は、もちろん、できない。

井上先生との力量の差、経験の差、そういったもろもろのことを、
ステレオサウンドの試聴室で、ひとりで鳴らしたときの音で思い知らされるわけだ。

それでも、やっていくうちに、井上先生の試聴の時と何が異るのかに、すこしずつ気がついていくようになる。
そして身についていく。

すると、いつごろからだろうか、
井上先生が試聴にあたっての整音の時間が短くなっていくことにも気がついていた。

Date: 3月 1st, 2009
Cate: 瀬川冬樹

サプリーム

サプリームの奥付には、昭和48年12月28日 第三種郵便認可とある。
ということは図書館にもあるのかな、と思っていたら、
さきほど若い友人のKOさんが、神奈川県立川崎図書館にあることを知らせてくれた。

瀬川冬樹追悼号の144号も、もちろんあったとのこと。
おそらく国会図書館にもあることだろう。
すべての図書館にあるわけではないだろうが、いちどお近くの図書館で検索されてみてはいかがだろうか。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その32)

ステレオサウンドの44号、45号は、「フロアー型中心の最新スピーカーシステム」と題し、
61機種のスピーカーシステムをとりあげている。
その中にKEFの105が含まれている(45号に掲載)。

瀬川先生の試聴記を書き写しておく。
     ※
一年以上まえから試作品を耳にしてきたが、さすがに長い時間をかけて練り上げられた製品だけのことはある。どんなプログラムソースに対しても、実に破綻のない、ほとんど完璧といいたいみごとなバランスを保っていて、全音域に亘って出しゃばったり引っこんだりというような気になる部分はほとんど皆無といっていい。いわゆるリニアフェイズ型なので、設置および聴取位置についてはかなり慎重に調整する必要がある。まずできるかぎり左右に大きくひろげる方がいい。少なくとも3メートル以上。スピーカーエンクロージュアは正面を向けたままでも、中音と高音のユニットをリスナーの耳の方に向けることができるユニークな作り方だが、やはりウーファーごとリスナーの方に向ける方がいいと思う。中〜高域ユニットの垂直方向の角度も慎重に調整したい。調整がうまくゆけば、本当のリスニングポジションは、ピンポイントの一点に決まる。するとたとえば、バルバラのレコードで、バルバラがまさにスピーカーの中央に、そこに手を伸ばせば触れることができるのではないかと錯覚させるほど確かに定位する。かなり真面目な作り方なので、組合せの方で例えばEMTとかマークレビンソン等のように艶や味つけをしてやらないと、おもしろみに欠ける傾向がある。ラフな使い方では真価の聴きとりにくいスピーカーだ。
     ※
そして45号には、マーク・レヴィンソンのインタビュー記事が載っている。

Date: 2月 28th, 2009
Cate: 川崎和男

川崎和男氏のこと(その22)

また、すぐに話が始まった。
雑談のようであったけれど、「これは聞き逃せない」とすぐに思い、録音をはじめる。
対談のまとめでは、この部分も使っている。

20分近く話されただろうか、菅野先生の音を聴いていただくことになった。
菅野先生の選曲で、2曲、1曲ずつ、マッキントッシュのシステムとJBLのシステムで鳴らされた後、
「なにかリクエストありますか」と菅野先生が言われた。

すこし間が合った。
だから持ってきたCDを菅野先生にお渡しし「5曲目をお願いします」と言ったものの、
やっぱりこの曲は、すこしまずいかなとも思い、「すみません、1曲目で」と言い直した後に、
それでも、やっぱり、あの曲だと、また「やっぱり5曲目でお願いします」と言ってしまった。

嫌な顔ひとつされず、菅野先生は、5曲目をマッキントッシュのシステムでかけてくださった。

このとき、実は心の中で祈っていた。
「とにかくうまく鳴ってくれ、素晴らしい音で鳴ってくれ」と。

Date: 2月 28th, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その15)

井上先生の試聴は、きまって「あそこをこうしてみろ」「次はこっちをこうしろ」という指示から始まる。
そうやって音が整っていく。まさしく整音(voicing)だ。
たいてい1時間から2時間かけて、それらを行なった上で、新製品の試聴が始まる(しかも夜遅くから)、
さらに個々の製品に対して、あれこれチューニングをされる。
終るのは午前様になるのは当り前だった。

大変ではあったが、おもしろい。だから、前回の試聴で井上先生がやられたことを、
とにかく見様見真似でやってみる。
わかってやっていたこともあれば、わかったつもりでやっていたこともあるし、
とにかくやってみようということでやっていたこともある。

けれど、そうやって自分でやってみることで、それもステレオサウンドの試聴室だけではなく、
自分のオーディオ機器でもやってみることで、いつのまにか身についていく。

そしてセッティングとチューニングを、それまでごっちゃに捉えていたことに気がついていくことになる。

Date: 2月 27th, 2009
Cate: 川崎和男

川崎和男氏のこと(その21)

暑い日にも関わらず、外で話し込まれる菅野先生と川崎先生。
このまま、ここで対談がはじまってしまうかも……、とちょっとだけ心配になるぐらい話が弾んでいた。

川崎先生のスタッフの方々のおかげで、菅野先生宅の階段も無事クリアーでき、
川崎先生に、菅野先生のリスニングルームに入っていただく。

「戻ってこれたぁ、戻ってきました」

菅野先生・川崎先生の対談のまえがきの書き出しは、この言葉で始めた。
しかも、この言葉を、わずか3行のあいだで、くり返し書いた。

そのわけは、川崎先生が、くり返されたからだ。
川崎先生にとって「生還」だったのだ。

心の中で、「おかえりなさい」と私は言っていた。
言葉にできなかった。

Date: 2月 27th, 2009
Cate: 川崎和男

川崎和男氏のこと(その20)

菅野先生のことだから、川崎先生と25年ぶりの再会だけに、
きっと握手をされるだろう、とは思っていた。

しっかりと力強く握手された。次の瞬間、川崎先生を抱きしめられた。

こみ上げてくるものがあった。川崎先生のスタッフの方々も同じ気持ちだったのではなかろうか。