井上卓也氏のこと(その14)
井上先生が、ステレオサウンドでの試聴室での試聴に求められていたのは、
再現性であったように思っている。
ここでいう再現性とは、CD、アナログディスクに記録されている音楽の再現性の高さという意味ではなく、
同じ機器をセットしたら、基本的に同じ音を出せるするという意味での再現性である。
試聴室では、リファレンススピーカーのJBLの4344と言えど、他のスピーカーを聴くときには、
当然だが、試聴室の外に移動する。
そして、アンプやCDプレーヤーなどの試聴の時に、またいつもの位置にセットする。
CDプレーヤーもアンプも、リファレンス機器は決っていたが、
試聴室からまったく移動しないのは、アナログプレーヤー(マイクロのSX8000II)だけだった。
他の機種はなんであれ、他の機種の試聴の時には、移動し、また元に戻す。
何度も機器の移動、設置をくり返す。
ここで大事なのは、つねに70点くらいの音を出せるようにすることだ。
時には100点に近い、素晴らしい音を出せるけど、
違う日には、40点とか30点のひどい音でなることもある。
そういう再現性の不安定さは、試聴室では厳禁である。
それこそ、何を聴いているのかが、不明瞭になってしまう。
とにかく70点前後の音を、機器の移動をしようと、つねに維持していなくてはならない。
そういう再現性が必要なのだ。
もちろんつねに100点近い音を維持できるのが最良なのはわかっている。
けれど、試聴室はひとつの組合せを、長期間にわたってじっくり鳴らし込む環境ではない、
ということを理解しておいていただきたい。
ここで大事なのは、セッティング、チューニング、エージングを混同しないことだ。