井上卓也氏のこと(その16)
私が恵まれていたと感じていたことは、井上先生がやられたことを、自分のオーディオ機器に対してだけでなく、
井上先生が実際に試聴された同じ環境、同じ装置で、同じことをひとりで試せたことだ。
2つの環境で試せた上に、同じ環境でも試せる。
つまり環境が、装置が、条件が違うという言い訳は、もちろん、できない。
井上先生との力量の差、経験の差、そういったもろもろのことを、
ステレオサウンドの試聴室で、ひとりで鳴らしたときの音で思い知らされるわけだ。
それでも、やっていくうちに、井上先生の試聴の時と何が異るのかに、すこしずつ気がついていくようになる。
そして身についていく。
すると、いつごろからだろうか、
井上先生が試聴にあたっての整音の時間が短くなっていくことにも気がついていた。