Archive for category Digital Integration

Date: 4月 30th, 2012
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その6)

私が最初に聴いたCDの音は、
以前書いた通り、フィリップス(マランツ)のCD63の試作モデルで、小沢征爾指揮の「ツァラトゥストラ」だった。
このときの音についてはすでに書いているのでそちらをお読みいただきたいが、
とにかく、その安定度の高さに驚いたことだけは、くり返し伝えておきたいことである。

CDが登場する以前、1970年代中頃からデジタル録音によるLPが発売されるようになってきた。
デンオンからまず始まったデジタル録音は、海外でも行われるようになってきた。

このころのレコード評をいま読み返すと、デジタル録音のLPはかなり高い評価を得ていることが多い。
デジタル録音によるLPのすべてが優れていたわけではないのは、
アナログ録音のLPのすべてが優れていたわけではないのといっしょで、
優れた録音に関しては、アナログだろうとデジタルだろうと、聴き手としての関心はあっても、
実のところどうでもいいことである。
いい音でいい音楽が聴きたいのだから。

CDが登場した1982年秋は瀬川先生が亡くなられて1年後のことであった。
だから、「瀬川さんがCDを聴かれたらなんと言われるだろう……」「どんな評価をされるのだろうか」ということを、
幾度となくきいている。

私も瀬川先生はどうCDを評価されるのか、知りたかった。
このとき私は、CDの音をデジタルの音だと思っていた。
CDプレーヤー・イコール・デジタルプレーヤーであると思っていた。

それが勘違いであることに気がつくには、けっこうな時間を必要とした。

Date: 3月 3rd, 2011
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その5)

CDプレーヤーが登場する前に、「デジタルだから、音は変らない」といったことが云われていた。
信じている人は多くは無かったはずなのに、メーカーの技術者の中には真剣に語っていた人もいるときいている。

CDプレーヤーを実際に聴く前から、そんなことはあり得ない、とは多くの人がわかっていた。
D/AコンバーターのLSIの手前までは、そういう可能性はあるかもしれないけれど、
D/Aコンバーターの精度・性能、そのあとにつづくアナログフィルターや送り出しアンプの違いがある以上、
音はCDプレーヤーごとに違っていてあたりまえ、のこと。

しかも各CDプレーヤーのによる音の違いは、D/Aコンバーター以降だけの起因するわけでなく、
それ以前のデジタル部も大きく関係していた。

この話は、メーカーの技術者を、やや揶揄するたとえ話として、そのあともときどき活字になっていた。

現実には電源関係の問題・不要輻射などもあって、そうは厳密にはいかないものの、
D/Aコンバーター以降がまったく同じであるならば、
デジタルは本来、D/Aコンバーター以前の違いによって音は変ることはあってはならないことである。

でも実際は違う。
その理由についても、いくつか語られている。

Date: 2月 28th, 2011
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その4)

音声信号には時間軸が存在する。
だが、これは理由にならない。
AppleのサイトからダウンロードしてきたQuickTime形式の動画(映画の予告篇)には、
再生時には時間軸が存在している。

アナログモデムでは、ファイルサイズが20MB程度のファイルであっても、
ダウンロードには2時間以上かかっていた。
80%程度ダウンロードが進んだところで、なぜか回線が切れることがあって、
しかもそういうときに限って最初からダウンロードをやり直さなければならなかった。

そういう状況でも、ダウンロードが成功すれば、電話代は余計にかかってしまったけど、
ダウンロードしてよかった、と思えるくらいの予告篇が楽しめた。

いまAppleのiTunes Movie Trailersで見ることができる予告篇のクォリティのすごさには、
当時のものは到底およばないけれど、ダウンロードした予告篇を友人に見せると、
皆、サイズは小さいながらも、そのクォリティに驚いていた。

アナログモデムによる通信回線のクォリティは低いものだろう。
そんななかを通ってきて受け手側のパソコン内のハードディスクにおさめられるデータは、
元のサーバーにあったときとまったく同じである。

たったひとつでも違っていれば、それがソフトウェアであれば動作しなくなる。
圧縮ファイルであれば、解凍すらできない。

なのにオーディオでは、
CDトランスポートとD/Aコンバーターを接続するケーブルを交換するだけでも、なぜか音が変る。
その間の距離にしても大きく違う。
サーバーと受け手側の距離はいったいどれだけの距離になるのだろうか。
海外のサーバーからのダウンロードもあるのだから。
一方、CDトランスポートとD/Aコンバーターの距離は、短ければ50cm、長くても2mくらいだろう。

同じデジタル「信号」のはずなのに……、と当時は考え込んでしまっていた。
そして、井上先生の言葉を思い出していた。

Date: 5月 20th, 2010
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その3)

デジタルというものについては、オーディオの体験によってでき上がっていた。
それからすると、Macでのデジタルのふるまいは、やや不思議だった。

デジタルの概念からすると、Macの方が当り前であって、オーディオにおけるふるまいのほうが、
不思議ということになるわけだが、なぜデジタルで、こうも違うところがあるのか、と感じていた。

とくにインターネットを始めてからは、その不思議さは、頭の中ではなく、感覚的に残り、すこし強くなっていく。
1997年に、アナログモデムを買って、はじめた。
最初のうちは、それこそうれしくて、あちこちからフリーウェアやシェアウェアをダウンロードしていた。

アナログモデムだから、当然、デジタルをアナログに変換して電話回線を通り、またデジタルにもどる。
D/A、A/D変換を経由しているわけだ。
オーディオで、CDトランスポートとD/Aコンバーターのあいだに、D/A、A/Dコンバーターを挿入したら、
試したことはないけれど、明らかに音質は劣化するはずだ。
どんなに高性能・高音質と評判のモノをもってきても、劣化は避けられない。

なのにインターネットを通じてダウンロードしてきたソフトウェアが劣化している、ということはない。
それは、ときどきダウンロードに失敗することはあっても、きちんとダウンロードができれば、
元と同じソフトウェアが、自分のMacの中にコピーされている。

’98年頃から、Appleのサイトから映画の予告編をダウンロードできるようになった。
これとてクォリティが劣化しているということはなかった。

これが正常なのであって、なぜオーディオでは、音が変化するのか。

Date: 5月 19th, 2010
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その2)

学生の時はコンピューターにふれる機会はなかった。
だから、デジタルというものを、ふれた、といえるのは、やはりオーディオにおいて、が最初だ。

1982年のCDの登場から、といってもいいだろう。
アナログディスクでも、デジタル録音であることを謳っているものが、いくつも出ていたし、
それらを聴いてはいたから、間接的にはデジタルなるものにふれてはいたけれど、
「これがデジタルか」と単純に、つよく印象づけられたのは、やはり最初に聴いたCDの音、
以前に書いたが、試作品というか、特別仕様といってもいいマランツのCD63の音。

1991年にMacのClassic II(まだ漢字Talk6だった)を手に入れるまで、
私の中でのデジタルに対する「印象」は、すべてオーディオにおいてつくられていた。

Date: 5月 15th, 2010
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その1)

川崎先生の5月14日のブログ「信号と記号は光線上にあるかもしれない」において、
アナログ(信号)、デジタル(記号)と書かれている。

20数年前、井上先生が言われていた。
「CDに記録されているのはデジタルだけど、CDプレーヤー内部での振る舞い・伝達はアナログそのものである」

感覚的に、なんとなく理解はできた。
けれど、もうひとつ頭の中で明確化することはできずに、20年以上が過ぎていた。

アナログ(信号)、デジタル(記号)──、
これだけのことばで、はっきりした。すっきりした。

CDに刻まれているピットは、記号(デジタル)である。
その記号の純粋性が保たれているのは、いまのところCD上においてのみ、であって、
ピックアップで読みとられ、処理された時点で、それは信号へと変換されている。
波形はデジタル的であっても、電気信号として存在することになり、同時に時間軸も発生している。

井上先生の言葉に、こういうことも含まれていた、といま気がつく。

川崎先生は、こうも書かれている。

アナログ(信号)からデジタル(記号)へ=A/D ?
デジタル(記号)からアナログ(信号)へ=D/A ?

Date: 11月 21st, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その16)

工場でプレスされたCDは、輸送されることで、われわれの手もとに届く。
日本の輸送の99%はトラックによるものだ。

CDの輸送につかわれているパーセンテージまではわからないが、
仮にCDやDVDなどのパッケージメディアが、いっさい作られなくなり、デジタル配信のみになったとしたら、
稼働するトラックの台数は確実に減ることだろう。

トラックの稼働台数が減るということは、二酸化炭素の排出量は減る、排気ガスも減る、化石燃料の消費量も減る、
そして交通事故も減るはずだ。
騒音も、ぐっと減るだろう。

Date: 11月 21st, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その15)

デジタル配信に関しては、全面的に支持したい。

CD、DVD、SACDなどのパッケージメディアはなくなるだろう、というよりも、
なくなるべき、なくすべきだとも考えている。

もう「趣味の世界のものだから」といういいわけは、使うべきではない。

パッケージメディアには生産と輸送、そして廃棄がつきまとう。
CDにつかわれているポリカーボネイトは、内分泌撹乱物質(環境ホルモン)のビスフェノールAと無縁ではない。
これまでは灰色とされてきたビスフェノールAも、
数ヵ月前に、胎児、幼児にとっては、あきらかに害だという記事を読んだ。

このことに、もう目をつむるわけにはいかない。

Date: 10月 3rd, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その14)

人が受け取る情報の量は、確実に増している、といわれている。

増えているといえば、増えているといえなくもない今日だが、
黒田先生の「情報もどき」という言葉を思い出すと、
情報の量のなかには、情報・量と情報もどき・量があるわけで、
前者の量が増えているかどうかは、はなはだあやしいものかもしれぬ。

となると、ふたつの量をまとめたものは、情報量よりもデータ量といったところか。

データ(data)にも情報の意味が含まれているのはわかっているが、
情報は、information のほうがしっくりくる。

こんなことを考えていたら、川崎先生の「デジタルなパサージュ」のなかに、
「情報内容=データ性より、むしろ情報形式=メディア性が、
現代では情報の質に対して意味をもつことになることがある」
と書かれてあるのを、思い出した。

データ量とデータ性、データ性とメディア性──、
あたまのなかでくり返していたら、デジタル配信とパッケージメディアの違いは、
マスタリングの違いにおよぶように思えてきた。

Date: 9月 23rd, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その13)

Digital Integration ということばに賛同してくださる方は、少ないだろう。
おそらく誰もどこも、Digital Integration は使わないであろう、と、そう思いながらも、
このことばを考えたのは、結局は、己のためである。

オーディオとコンピューターの融合について考えるときに、
ただ漠然と考えるのではなく、道を示してくれるようなことばがあると、思考のしかたが変わってくる。

デジタル・コントロールアンプ、デジタル・コントロールセンターよりも、
私にとっては、デジタル・インテグレーションセンターのほうが、イメージがわきやすい。

言葉にすれば、はっきりと見えてくるものが、かならずある、と信じている。

Date: 9月 22nd, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その8・続余談)

整流コンデンサー、チョークトランスは、些細なことであろう。

読者が知りたいのは、その製品の音であって、
技術内容の些細な間違いはどうでもいい、という声がきこえてきそうだが、
なぜ、こんな間違った表記をしたのかを勘ぐれば、おそらく渡された資料にそう書いてあり、
そのまま彼は、自らの知識と照らし合わせることなく、ただ書き写したからであろう。

そして編集者も、何の疑問もいだかず、おそらく間違いに気づきもせず、そのまま印刷所にまわしたのだろう。

それが、その本づくりの編集方針であるのなら、部外者の私が口を挿むことではない。
それでもひとつだけ言っておきたい。

些細なところから、綻びははじまり、ひろがっていく。

Date: 9月 22nd, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その8・余談)

コンデンサーの種類には、電解コンデンサー、フィルムコンデンサー、セラミックコンデンサー、
タンタルコンデンサーなどがあり、
使用用途では、平滑コンデンサー、デカップリングコンデンサー、カップリングコンデンサー、
バイパスコンデンサーなどと呼ぶ。

整流管、整流ダイオードはあっても、整流コンデンサーは、世の中に存在しない。
コンデンサーに整流作用があったら、ノイズの発生はないわけだから、整流回路にぜひとも使いたいのだが、
実際には、そんなことはできない。

電源回路に使うコンデンサーにできるのは平滑作用であって、整流作用ではない。

なのに、数年前、あるアンプの新製品紹介記事に、整流コンデンサーとステレオサウンドに書いている人がいた。
この人は、チョークのことを、チョークトランスと、さもこちらが正式名称のようにも書く。

説明するまでもないことだが、チョークは、チョークコイルであって、トランスではない。
たしかに実際に製品のなかには、コイルがふたつあるものがある。
とはいって、トランスのように、1次側、2次側ではなく、直列にするか並列にするか、
チョークを流れる電流の大小によって使い分けるためのものである。

チョークコイルは、あくまでもコイルであってトランスではない。
チョークと書けば済むことなのに、わざわざチョークトランスと、誤ったことを書く人がいるのを、
読者はどう受けとっているのだろうか。編集者は気にしないのだろうか。

Date: 9月 22nd, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その8・補足)

ジローさんのコメントにあるように、Macオーディオと書いたところで、
ほとんどの方には、伝わらないだろう。

だから、PCオーディオ、と表記したくなる気持も分からないでもないが、
それでもMacのみを使い続けてきた人ならば、表現のしかたを考えてほしかったと思う。

PCオーディオにかわることばを、自分で考えるのもいいし、
考えつくまでのあいだは、たとえば「Macを使ったCD再生」、
「コンピューターによる音楽再生」と、いろいろ表現できる。
わかりにくさは、まったくないはずだ。

ジローさんとは面識があるが、このブログを読んでくださっている、ほとんどの方とは面識がない。
ここでは、私が文字にしていることば以外の要素はない。
あえて写真もグラフ、図柄もいれていない。
そこにおいて、ことばをおろそかに扱うということは、読み手への態度として、
書き手が気づかぬうちにあらわれ、読み手はそれを敏感に感じとる。

仲間内で、ある了解のもとに、Macユーザー同士がPCオーディオ、と使うのまで、
あれこれ言うのではない。

基本的に文字だけがコミュニケーションの手段である本やネットにおいて、
みんなが使っているからと安易に流されたり、おろそかに「ことば」を扱うことを、
書き手であるのならば、真剣に考えるのは当然のことである。

だから、以前書いたことだが、安易に略すことも、どうかと思っている。

とくにいままでにない、新しいことばをつかうのなら、より慎重であるべきだ。

Date: 9月 21st, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その12)

EMTのCDプレーヤーにはハードディスクが搭載されたり、イーサネット端子が設けられたりしている。

デジタル・コントロールセンターの「かたち」が、なにも定まっていない、
いまはオーディオとコンピューターの融合に関しては過渡期であるがために、
放送局の要望により登場した形態なのだろうと思っているが、
本来CDプレーヤーに、これらの機能は搭載されるべきものなのだろうか。

D/Aコンバーターが多機能化してゆけば、
デジタル・コントロールセンターへと自然となっていくのだろうか。

パワーアンプがアナログ入力のみであれば、そうなっていくのかもしれないが、
デジタルスピーカーの登場、D級パワーアンプの進化は、
まったく新しいデジタル・コントロールセンターのかたちを促していくはずだ。

デジタルといっても、PCM信号もあれば、DSD信号もある。圧縮音源も、いくつもフォーマットがある。
デジタル伝送の規格もひとつだけではない。

デジタル・コントロールセンターに求められる機能を考えていくと、
コントロールという言葉ではカバーできなくなるくらい、範囲のひろいものとなっていくだろう。

そう考えたとき、デジタル・コントロールセンターにかわることばとして思いついたのが、
Digital Integration(デジタル・インテグレーション)である。

Date: 9月 21st, 2009
Cate: Digital Integration

Digital Integration(その11)

1993年ごろか、マランツから「UNIX」と名づけられた製品が登場した。
コンピューターのUNIXとの商標の関係から、AX1000、と型番が変更されている。

マランツは、このAX1000(UNIX)をオーディオコンピューターと定義していたように記憶している。
AX1000は、アナログ、デジタル入出力を備え、
リスニングルームの音響特性の測定から補整までを、一台でこなす。価格は200万円弱だったはず。

それからほぼ10年後の2003年、ゴールドムンドから、ユニバーサルプリアンプとして、
MIMESIS24と30が登場した。
内部にDSPを搭載しており、入力にはアナログ端子も設けられているが、出力はデジタルのみという、
いわばデジタル・コントロールアンプである。

マランツもゴールドムンドも、意欲的な製品だと思っているが、そのわりには話題にならない。

デジタル・コントロールアンプ、というよりも、デジタル・コントロールセンターと呼ぶべきだろうが、
これから先、どういう形態が求められていくのか、
このことについて技術者をまじえての議論がなされて然るべきだと思う。