Archive for category 真空管アンプ

Date: 3月 2nd, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その79)

管球式コントロールアンプに使われることが圧倒的に多いECC82(12AU7)とECC83(12AX7)、
1970年代後半からよく使われるようになってきた6Dj8などは、すべて双三極管である。

双三極管は一本のガラス管の中に真空管を2ユニット収めている。
なのでヒーターも2ユニット分ある。
1本あたりのヒーター電圧は6.3V。これが直列に接続され、
中間からももピンが出ていてヒーター用は3ピンとなっている。
だからそれぞれのユニットのヒーターに6.3Vずつ加えることもできるし、
2ユニット分のヒーターを直列のまま使えば12.6Vをヒーター電圧としてかけることになる。

ECC82もECC83もヒーターの定格は6.3V、150mAだから、
直列では12.6V、150mAとなり、並列では6.3V、300mAとなる。
あたりまえのことだが6.3Vで使おうと12.6Vで使おうと、ヒーターが消費する電力は変らない。

コントロールアンプで真空管が1本だけということはまずない。
必ず複数の真空管が使われる。
マッキントッシュのC22もマランツのModel 7もECC83を両チャンネルあわせて6本使用している。

真空管をが複数本の場合、ヒーター関係の配線をどう処理するのか。
12.6V、6.3Vどちらで使うにしても、すべての真空管のヒーターを並列接続して、というのが、
だれもがまず最初に考えることだろう。

直流点火にするのか交流点火にするか、
どちらにしても良質のヒーター用の電源を確保できれば、そこから先に関しては、
つまりヒーターへの配線方法に関してはそれほど注意を払う必要はないようにも思われる。
私も10代のころは、そんなふうに考えてしまっていた。
とにかくノイズが少なくて、低インピーダンスのヒーター用の電源回路が大事であって、
そこから先、真空管のヒーターへの配線(どこをどう引き回すか、ではなく、どう供給するか)には、
気が回らなかった。せいぜいが贅沢をすれば、真空管1本1本に専用の電源回路を用意するぐらいだった。

Date: 2月 20th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その78)

リークもQUADも、
コントロールアンプも交流点火としているのは、パワーアンプの入力感度の高さが関係しているようにも思う。

真空管アンプの時代もそうだったし、
トランジスターアンプが主流になってもしばらくはイギリスのパワーアンプの入力感度は全般的に高かった。
アメリカのパワーアンプが入力1Vで最大出力が得られるのに、
イギリスのパワーアンプは50mV、100mVという値だった。10倍から20倍、感度が高い。
つまりアメリカのアンプでコントロールアンプでゲインを稼ぎ、
イギリスのアンプはパワーアンプでゲインを稼いでいた、ゲイン配分といえる。

ただ、なぜイギリスはこういうゲイン配分としたのか、その理由は正直よくわからない。
もしかするとBBCの規格がそうだったのかもしれない、とは思うのが確証はない。

リーク、QUADが交流点火だったのは、
スピーカーシステムの能率が低いせいではないか、と思われる人もいるかもしれない。
たしかにQUADのESLは低い。
けれどリークやQUADと同時代にはタンノイ、ヴァイタヴォックスの大型システムが存在していた。
これらのスピーカーシステムと組み合わせられることもイギリスでは多かったはず。

事実、五味先生がタンノイにオートグラフを発注された時、
タンノイに「いかなるパーツを使用すべきや」と問合せされたとき、
タンノイからの回答は、カートリッジはデッカ、トーンアームはSME、アンプはQUADであった、と
「オーディオ巡礼」(ステレオサウンド刊)所収の「わがタンノイ・オートグラフ」に書かれている。

オートグラフの能率であっても、QUADの22のS/N比で特に問題はない、ということだろう。
となると、イギリスのメーカーが交流点火でも実用的なS/N比を確保できていたのは、
アメリカ勢(マッキントッシュ、マランツ)に使われていた真空管の製造メーカー、
イギリス勢(リーク、QUAD)に使われていた真空管の製造メーカーの違いが、
理由としてはいちばん大きいのではなかろうか。

アメリカ勢とイギリス勢では、直流点火と交流点火という違いがあり、
アメリカ勢のマッキントッシュとマランツはどちらも直流点火ではあるものの、
まったく同じとはいえない違いがある。

Date: 8月 24th, 2011
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その77)

マランツ#7、マッキントッシュC22、QUADの22は、ほぼ同時期のコントロールアンプだ。
この3機種の真空管の点火方式(ヒーター回路)を見て、
まず気がつくのは、QUADの22だけが交流点火だということだ。

QUADの22だけではない、QUADのモノーラル時代のコントロールアンプQCIIも交流点火で、
同じイギリスのリークのVarislope Stereoも交流点火だ。

Model 7、C22の真空管はECC83(12AX7)を6本、
QUADの22は、フォノイコライザーは5極管のEF86の1段増幅、
ラインアンプはECC83による2段増幅となっているから、EF86、2本,ECC83、2本となる。
Varislope Stereoも22同様、フォノイコライザーはEF86の1段増幅、ラインアンプもEF86で、
全体でEF86、4本となる。
だからそれぞれ回路構成は違うわけだが、そのこととヒーターの点火がアメリカ勢は直流点火、
イギリス勢は交流点火の理由につながっていくとは考えにくい。

直流点火をするためには整流・平滑回路が必要になる。
整流のたぬにダイオードもしくはセレンが、
平滑回路には電解コンデンサーと電圧調整とπ型フィルターを構成するための抵抗がいるから、
その分スペースが必要となる。

QUADもリークも、どちらのコントロールアンプもシャーシー内に電源部をもたない。
ペアとなるパワーアンプから供給されるからだ。
だからスペース的な問題から直流点火をあきらめた、とは考えられない。

S/N比を確保するには直流点火がもっとも確実な方法といえる。
それをQUADもリークも採用していないのはなぜか。
交流点火の方が音がいいという判断があったのか。
もしそういう判断があったとして、S/N比は多少犠牲になってもいいという考えからなのか。

この答えは、使われている真空管の製造メーカーと関係していくのではないだろうか。

Date: 11月 26th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その76)

きちんとした定電流点火の音を聴くと、
三端子レギュレーターによる安易な直流点火に疑問を抱く。

定電圧点火にすれば、真空管の寿命も短くなる。
しかも音もいいとはいえない。ハムをわりと簡単におさえられる、という以上のメリットは感じられない。

そんな点火回路を、「遅れてきたガレージメーカー」のつくる真空管アンプの多くは採用していた。
増幅回路には工夫を凝らしたものでも、ヒーターの点火に関しては、じつに安易というアンバランスを感じていた。

真空管アンプを作ったことのない方は、ヒーターの点火方法によって、
それほど大きく音が変化するものだろうか、と思われるかもしれない。
こればかりは実際に音を聴いていただくしかないし、その手間がかなりめんどうなのが、もどかしい。

たとえば伊藤先生のコントロールアンプは電源トランスを2つ搭載している。
ひとつは高圧用のもの、もうひとつはヒーター用のトランスである。
真空管のプレートにかかる電源は高圧・低電流、一方ヒーターは低電圧・高電流、と正反対である。
しかも実際に消費電力を計算してみるとわかるが、ヒーターの消費電力の方が大きいからだ。

真空管アンプの回路を勉強したてのころは、どうしても増幅回路のほうにばかり目が行きがちだが、
あるレベルになればヒーター回路にも注意が向く、というか、
むしろ、こちらのほうに先に興味が向くようになるかもしれなくなる。

マランツ、マッキントッシュの真空管アンプが全盛だった時代、
TL431はもちろん、三端子レギュレーターもなかった。
#7やC22はどうしていたのか。同時代のQUADの22はどうだったのか。

Date: 11月 26th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その75)

結論を書こう。
ただ、この結論は私が実際に耳にした範囲においての、私にとっての結論であり、
私と違う考え、私と違う音の聴き方・捉え方をする人にとってはまったくあてにならないことにもなろう。

ずっと以前に真空管の単段の無帰還のラインアンプ(つまり反転アンプ)、
それもシャーシにおさめることなくバラックの状態という、完全な実験用のアンプで、
三端子レギュレーターによる定電圧回路、TL431を使った定電流回路、交流点火、
非安定化の直流点火の4つの方式を聴いたことがある。

私にとって、最も音が冴えなかったのは三端子レギュレーターによる定電圧点火だった。
頭でわかっていても、実際にその音を聴くと、
ヒーターの点火方法でこんなにも音が変化するものか、と驚いてしまう。

驚くほど大きな差が、三端子レギュレーターの定電圧点火とTL431による定電流点火のあいだにはあった。
このふたつのあいだに、交流点火と非安定化の直流点火が、
中間よりもやや定電流寄りにあると感じた(もう20年ほど昔の記憶なのでこのへんはすこし曖昧なところも……)。

パワーアンプの出力管も定電流点火にしてみたら……、と思わず夢想してしまうほど、定電流点火の音は良かった。

定電流点火といっても、私は新氏が発表された三端子レギュレーターによる回路の音は聴いたことがない。
というよりも、定電流点火に関心をもち、試してみようと思われる方は、安易に三端子レギュレーターにたよらずに、
TL431を使った回路で実験してみてほしい。

Date: 11月 22nd, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その74)

定電流点火を否定していたサイトでは、定電圧点火よりも交流点火を勧めていたような気がする。
ただし通常の交流点火ではなく、たしか400Hzくらいの周波数による交流点火である。

ヒーターが常に一定温度で保たれていればいいということで、
ヒーターの熱慣性を考慮すれば400Hzかそれ以上の周波数による交流点火であれば、十分だということだった。

これも面白い方法だと思ったのはほんの少しの間。
定電流回路を実際に組むのもめんどうだけれど、400Hzの交流点火用の回路を組むのも、かなり面倒というか、
こちらのほうが大変なような気がしてきたからだ。

いまはどうなのかわからないが、以前、フランスのジャディスのコントロールアンプは、
航空機用の電源トランス(400Hz用)を採用し、
発振器で400Hzをつくり増幅し、トランスの一次側に供給していた。

屋上屋を重ねる的なところはあるものの、これならば、真空管のヒーターを400Hzの交流で点火できる。
とはいうものの、肝心の音がどうなるのかはわからない。
意外にいい点火方法かもしれないし、面倒な割には……、ということにもなるかもしれない。

誰かが400Hzの交流点火用の回路を作ってくれれば、いちどは聴いてみたいけれど、
自分で実際に試してみるか、となると、たぶんやらない。

私は、TL431を使った定電流回路をとる。

Date: 11月 2nd, 2010
Cate: 瀬川冬樹, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(番外)

瀬川先生とグッドマンのAXIOM80について、いつか書きたいと思っているが、
今日、ステレオサウンド 62号をめくっていて気がついたことがある。

瀬川先生がAXIOM80のためにUX45のシングルアンプをつくられたことは知られている。
     *
暗中模索が続き、アンプは次第に姿を変えて、ついにUX45のシングルになって落着いた。NF(負饋還)アンプ全盛の時代に、電源には定電圧放電管という古めかしいアンプを作ったのだから、やれ時代錯誤だの懐古趣味だのと、おせっかいな人たちからはさんざんにけなされたが、あんなに柔らかで繊細で、ふっくらと澄明なAXIOM80の音を、わたしは他に知らない。この頃の音はいまでも友人達の語り草になっている。あれがAXIOM80のほんとうの音だと、私は信じている。
     *
ステレオサウンド 62号には、上杉佳郎氏が「プロが明かす音づくりの秘訣」の3回目に登場されている。
そのなかで、こう語られている。

「試みに裸特性のいい45をつかってシングルアンプを作って鳴らしてみたら、予想外の結果なんです。
AXIOM80が生れ変ったように美しく鳴るんです。」

45のシングルアンプが、ここにも登場してくる。

瀬川先生の先の文章につづけて書かれている。
     *
誤解しないで頂きたいが、AXIOM80はUX45のシングルで鳴らすのが最高だなどと言おうとしているのではない。偶然持っていた古い真空管を使って組み立てたアンプが、たまたまよい音で鳴ったというだけの話である。
     *
出力管に UX45を使えば、それでシングルアンプを組めさえすれば、
AXIOM80に最適のアンプができ上がるわけでないことはわかっている。
どんな回路にするのか、どういうコンストラクションにするのか、配線技術は……、
そういったことがらも有機的に絡んできてアンプの音は構成されている。

それでも45のシングルアンプ、いちど組んでみたい気にさせてくれる。

Date: 10月 20th, 2010
Cate: 真空管アンプ
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真空管アンプの存在(その73)

人それぞれの考え方がある。
だから真空管のヒーターの点火についても、定電流方式はよくない、という人もいる。

ただ、不思議な理由づけで、定電流点火を否定されているのを、数年前、みかけた。
オーディオ関係の会社のサイトに掲載されていたもので、現在は削除されている。
だから、そこがどの会社なのか、そういったことの詳細についてはふれないが、
そこに定電流点火は真空管の寿命を短くする、とあり、そのことが否定の大きな理由だった、と記憶している。

真空管のヒーターの定格は、6.3V / 300mA、といったぐあいに規格表に載っている。
この規格の真空管だとヒーターの抵抗値は、オームの法則から6.3(V)÷0.3(A)=21(Ω) だ。

導線の直流抵抗は、その温度によって変化する。温度が増せば抵抗値も増える。
だから、定電流点火に否定的な人は、21Ωの抵抗値が、ヒーターがあたたまってくると抵抗値が増す。
21Ωよりも高くなる。そこに定電流点火で300mAの電流を流し込んだら、仮に25Ωになっているなら、
25(Ω)×0.3(A)=7.5(V)で、ヒーターにかかる電圧が7.5Vになってしまい、
定格を超えてしまうから絶対に定電流点火を行なってはいけない、とあった。

だから、この人は、真空管の寿命のためにも定電圧点火がいいということだった。
定電圧点火なら、ヒーターにかかる電圧はつねに6.3V。ヒーターの抵抗値が増してもそれは変らない。
ヒーターに流れる電流が減るだけ、だから、という。

真空管を扱い馴れている人には不要な説明だろうが、真空管の規格表に載っている定格値は、
ヒーターが十分に暖まった状態でのものだ、ということ。

少なくとも真空管の全盛時代に製造されていたモノに関しては、そうだ。
暖まってヒーターの抵抗値が増した状態において、6.3V / 300mAとなる。
言いかえれば、暖まったヒーターの抵抗値が、上記の規格の真空管であれば21Ωということだ。

冷たい状態ならば21Ωよりも低い値になっている。

仮に19Ωになっているとしよう。
定電流点火ならば、ヒーターの抵抗値に関係なく300mAの電流を流す。
つまりこのときヒーター電圧は、19(Ω)×0.3(A)=5.7(V)。
定電圧点火ならば、ヒーターの抵抗値に関係なく6.3Vの電圧をかける。
つまりこのときヒーター電流は、6.3(V)÷19(Ω)=0.33157…(A)。

ヒーター電力でみると、定電流点火は5.7(V)×0.3(A)=1.71(W)。定電圧点火は6.3(V)×0.33(A)=2.079(W)。
定格値で計算すると、6.3(V)×0.3(A)=1.89(W)。

定電圧点火では、ヒーターが冷たい状態では定格値を超える電流(パワー)が加わることになる。
定電流点火では、定格値よりも小さな電力(パワー)だ。

どちらが真空管のヒーターが長持ちするかは、すぐにわかることだ。

Date: 10月 15th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その72)

TL431を使った定電流回路よりも、さらに部品点数を減らしたものに三端子レギュレーターを使ったものがある。
定電圧回路の三端子レギュレーターだが、配線をかえることで定電流回路としても使える。
ラジオ技術での製作例としては新忠篤氏が以前発表されていたことがある。
すこしあいまない記憶だが、たしか三端子レギュレーターによる定電圧回路よりは、
ずっと音がよい、と書かれていたはず。

ステレオサウンドに、以前倉持公一氏がエッセイの連載を書かれていた。
そのなかで自作の300Bのシングルアンプについて書かれた文章の中に、
この三端子レギュレーターによる定電流回路と思われることが出てくる。
新氏の名前も一緒に出ていたから、ほぼ間違いないだろう。

そこには、新氏から定電圧回路より定電流回路のほうがいいという連絡があった。
けれど、その後、やっぱり交流点火のほうがいい、という連絡がはいった、ということだった。

三端子レギュレーターによる定電流回路は、試していなけれども、私は懐疑的だ。
三端子レギュレーターの性能からして、ノイズ対策をほどこさずにそのまま定電流回路にしてしまったら、
いい結果は期待できないはず。なぜ新氏は、定電流点火を試みるであれば、
同じラジオ技術に筆者である石塚氏のアイデアを採用されなかったのだろうか。

安易な方法に頼ることで、定電流点火の良さが発揮されなかった印象が、残ってしまう。残念なことだ。

Date: 10月 14th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その71)

TL431は、テキサス・インスツルメンツで製造している部品で、
“ADJUSTABLE PRECISION SHUNT REGULATORS” とデータシートには表記してある。
回路図上の記号は、3本足のツェナーダイオードといったもので、
ANODE、CATHODEのほかにREFという端子がある。

詳細についてはデータシートをダウンロードしていただくとして、
ラジオ技術に発表された石塚氏の定電流回路はTL431とダーリントン接続のトランジスター、それに抵抗2本、
これだけの部品点数で定電流回路を構成している。

電流値を決めるのは、トランジスターのエミッターとTL431のREF端子に接続されている抵抗(1本)だけである。
しかもREFの電圧を抵抗値で割った値が、電流値である。
つまり抵抗の精度と温度係数の良さによって、安定度はほぼ決定される。

この回路だったら、実用的である。
それでも実際にアンプに組み込もうとしたら、いくつか解決しなければならないことはあるけれど、
やろうと思えば、出力管のヒーターも定電流点火が現実的なものとしてくれる。

石塚氏の発表された回路は、たびたびラジオ技術に掲載されているし、
’80年代のおわりごろには、山岡という別のペンネームで、無線と実験でも発表されている。

TL431のデータシートに、石塚氏の発表されたものと同じ定電流回路が載っている。
ただし、こちらは制御トランジスターをがダーリントン接続ではない。

Date: 10月 13th, 2010
Cate: 真空管アンプ
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真空管アンプの存在(その70)

スタックスのCA-Xのスーパーシャント電源のことがすでに頭になかにあったので、
スーパーマニアの小川氏の話を読んですぐに、スタックスのスーパーシャント電源に使われた定電流回路を、
真空管それぞれに用意すればいいわけだ、そう、かなり短絡的に思った。

だが、実際にやろうと考えてすこし真剣に検討すればわかることだが、かなり大変なことだとわかる。

たとえばマランツの#7、マッキントッシュのC22に使われているECC83(12AX7)のヒーターの定格は、
6.3V / 300mA、12.6V / 150mAである。
#7もC22もECC83を6本使っている。これらを定電流点火しようとしたら、
真空管一本したりに専用の定電流回路を用意しなければならず、
12.6Vで点火したとしても6つの定電流回路が、6.3Vならば12個の定電流回路が必要になる。

スタックスのCA-Xの定電流回路は、トランジスター数石を必要とする。発熱もそれなりにある。
放熱対策をしっかりしながら、シャーシー内に組み込もうとすれば、意外にたいへんな作業となる。

やってやれないことはないだろうが、相当に困難なことだとわかった。

定電流回路は他にもある。
たとえばDCアンプの初段は、ほぼすべてアンプで差動回路になっていて、そこには定電流回路が使われている。
こちらは電流値が小さいこともあって、FET一石というものもあったし、
さらには定電流ダイオードというものも登場してきた。10mAくらいまでなら、こんなに簡単なのに、
真空管のヒーター、それも出力管ではなく電圧増幅管になっただけで、難しさは極端に増していく。

1980年代なかばごろ、ラジオ技術誌に真空管のヒーター用の定電流回路が掲載された。
発表されたのは石塚峻氏(いっておくが石原俊氏ではない)。

こんなに簡単にできる? と拍子抜けするくらい、シンプルな回路図が載っていた。
それをみて、TL431なる部品が存在していることも知った。

Date: 10月 10th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その69)

ヒーターを定電流回路で点火することが、じつはいちばんいいのかもしれない。
そんなふうに考えはじめる1年半ほど前に、スタックスからCA-Xというプリアンプが登場している。

国産のプリアンプには、当時としては珍しく外部電源方式を採用。しかもその電源の規模が、とにかく大きい。
数10W程度の出力のパワーアンプ程度のシャーシーに、
スーパーシャント電源と名づけられた定電圧回路がおさめられていた。

CA-Xの特徴は、なにもスーパーシャント電源だけでなく、銅をけずり出して作った空気コンデンサー、
徹底した左右独立シャーシー構造──ボリュウムも左右独立していて、
メカニカルクラッチで左右同時に調整することも、別個に調整も可能──など、
スタックスの意地を見せつけてくれる内容のプリアンプだった。

スーパーシャント電源は、特にラジオ技術誌で話題になっていた記憶がある。
このスーパーシャント電源を、パワーアンプに採用した自作記事も掲載されていたくらいだ。
いったいどれだけの発熱量だったのだろうか。

スーパーシャント電源は、一般的に使われることの多いシリーズ電源が、
制御トランジスターが電源ラインに直列におかれているのにたいし、並列におかれている。

これより前に私が読んでいた「安定化電源回路の設計」(著者:清水和男 CQ出版)には、
損失の大きさを理由は、わずか2ページほど、シリーズ型との比較があるだけで、
「以後の回路ではすべて直列制御式について述べることにします」とあった。

その並列制御式(シャント型)を、定電流回路と組み合わせて、ほぼ理想に近い電源と謳ったのが、
スタックスのCA-Xだった。

Date: 10月 10th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その68)

真空管のヒーターの点火は、まず交流点火と直流点火にわけられる。
直流点火は、非安定化電源による点火か安定化電源による点火にわけられる。
安定化電源も、またふたつに分けられる。

電圧の安定化をはかるのか、それとも電流の安定化をはかるのか、に分けられる。

電圧と電流──。

ステレオサウンド 56号の「スーパーマニア」に登場されている小川辰之氏が語られている。
     *
固定バイアスにしていても、そんなにゲインを上げなければ、過大振幅にならなくて、あまり寿命を心配しなくてもいいと思ってね、やっている。ただ今の人はね、セルフバイアスをやる人はそうなのかもしれないが、やたらバイアス電圧ばかり気にしているけれど、本来は電流値であわせるべきなんですよ。昔からやっている者にとっては、常識的なことですけどね。
     *
このときは、まだ真空管アンプをつくった経験はなかったけれど、
この小川氏のことばの、重要なことは直感的に受けとれた。

「電流値であわせるべき」──、ならばヒーターも同じであろう。

Date: 10月 10th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その67)

いちどでもヒーターの点火方法の違いによる音の差を聴いてしまうと、
三端子レギュレーターなんて、と全面否定したくなるところだが、
それでも安易な使用の三端子レギュレーターとしたのは、もうひとつ別の体験があるからだ。

もうずいぶん前のことだから書いてもいいだろう。
ステレオサウンドでEMTの管球式イコライザーアンプの製作記事を掲載していたときの話だ。
この記事を読まれた方は、カウンターポイントの協力によって、この企画は実現したことを知っておられるだろう。
このときプロトタイプのSA139stのヒーターは、いわゆる安易な三端子レギュレーターの使用だった。
それを長島先生が、カウンターポイントの主宰者マイケル・エリオットに電源に関しても、
じつに細かいアドヴァイスをされて、いくつかのノイズ対策処理をがおこなわれた電源でを聴くことができた。
三端子レギュレーターの使用をやめたわけでなく、小容量のコンデンサーをいくつか後付けを中心とした改良だった。

そこにかかった費用も手間もそれほどのものではない。でも、出てきた音は大きく変化していた。

もちろん長島先生による電源部の改良はヒーター回路だけでなく、高圧のB電源に対しても行なわれていたから、
その音の違いはヒーター回路の違いだけではない。それでも、ヒーター回路への改良がもたらした面も大きいはずだ。

SA139stの製品版の外付け電源の内部を見る機会はなかった。
だから、私が聴いたのと同じことが施されているはずだが、はっきりとしたことはわからない。

Date: 10月 9th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その66)

ついつい非安定化電源よりも定電圧電源(安定化電源)のほうが、性能(安定度)の高さだけでなく、
使用部品点数も格段に多くなり、音質的にもメリットがあると思いたくなる。

増幅回路のヴァリエーションがじつに多彩なのと同じように、定電圧電源の回路にもいろいろある。
だから、すべての定電圧電源が非安定化電源よりも勝っているわけではないし、
十分に練り上げられた定電圧電源でも、音質面で非安定化電源よりも優れているとは、必ずしもいえない。
それこそじつにさまざまな要素が絡み合ってのことだから、
いまもって結論は出ていない……、私はそう受けとっている。

三端子レギュレーターは、もっとも手軽に定電圧電源がつくれる。
実験用としては便利な部品のひとつである。
けれど、便利だからといって、ただそのまま何の工夫もせずに使ってしまっては、
よりよい音を求めようとしたときには、いくつか問題がある。

要は使い方が大事なのだが、ヒーターなんて直流点火さえしておけば十分、
さらに定電圧化しておけば、もうなにも問題はない、
そんな発想からヒーターの点火回路に三端子レギュレーターを使っているアンプは、
ずいぶんと、真空管アンプの音の特質を損なっている、と私の試聴した経験からいえることだ。

三端子レギュレーターの安易な使用より、
非安定化電源(つまり整流ダイオードと平滑コンデンサー、それに抵抗を組み合わせたπ型フィルター)が、
すっきりとした、清々しい音を聴かせる。
それは、頭の中で、傍熱管であってもヒーターの点火方法は重要なことだとわかっていても、
実際に耳にする音の差には、多くの人が驚くと思う。

そして、誰しもが、直熱管のフィラメントだったら、
もっとこの違いはより大きくはっきりとするのか、と思うはず。