Archive for category 真空管アンプ

Date: 5月 12th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その2)

伊藤先生が晩年、無線と実験に6V6のシングルアンプを発表された。
手持ちのアンプがなくなったため、手持ちの部品で作られたアンプを記事にされていた。

このアンプ、最初はハムが出た、とある。
伊藤先生ほどの真空管アンプのベテランでも、ハムが出てしまう。
しかもあれこれハムを止めるためにやってみたけれどおさまらない。
結局チョークコイルを後付けして止った、とあった。

このくらいのアンプならばチョークなしでも大丈夫だろうと横着した結果がこれである、
そんなことを書かれていたと記憶している。

シングルアンプはハムが出やすい、というよりも、チョークコイルなしではほぼ出ると考えた方がいい。
プッシュプルアンプであればチョークコイルなしでもハムが出ることは、
よっぽどまずい設計か、よっぽどまずい配線の引き回しでもないかぎりハムに悩まされることはほとんどない。

シングルアンプもチョークコイルを使えばハムに悩まされることはないわけだが、
チョークコイルを使うのは初心者向きなのかどうかと考える。

チョークコイルを使うと、ステレオアンプだと鉄芯をもつ部品が、
出力トランス(二個)、電源トランス、チョークコイルと四つ使うことになる。
この四つを、どう配置するのか。

左チャンネルと右チャンネルのそれぞれのトランスを、どう配置するのがいいのか。
シャーシの左右両端に離すのか、それとも見映えも考慮して二個並べて配置するのか。
その場合に、トランスの向きはどうするのか。

初心者向きのアンプでは、コアが露出しているタイプのトランスが使われることが多い。
だからこそトランスの配置、向きは最初に押えておかねばならぬポイントであるにもかかわらず、
まったく触れていない記事の多いこと。

Date: 5月 11th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その1)

ときおりみかけるのが、五極管シングルアンプ製作は、
真空管アンプを製作したことのない人にいちばんすすめられる、というのがある。
(ここでの五極管とはビーム管をふくめての意味で、便宜上三極管以外の出力管を五極管と書く)

その場合6L6系列の球をすすめられることが多いようだ。
こういうのをみかけると、時代がかわったのかなぁ、と思う。

誰だって最初は初心者だし、初心者向きのモノ・コトがあれば、
そこから始めれば失敗のリスクも低くなる。

私がそういった意味で初心者だったころ、
初心者向きの真空管アンプ製作といえば、プッシュプルアンプだった。

EL84(6BQ5)、6F6、6V6などの出力管のプッシュプルで、
電圧増幅管には五極管と三極管をひとつにまとめた複合管、
ECC82(12AU7)、ECC83(12AX7)などの双三極管を使い、
初段で増幅したあとにP-K分割の位相反転段という構成だった。
いわゆるアルテック回路、ダイナコ回路と呼ばれたものだった。

これだと片チャンネルあたり使用真空管は三本。
出力もそれほど大きくないから出力トランスも大型のモノを必要とはしないから、
アンプ全体もそれほど大きくならずに製作出来る。

真空管もポピュラーなモノだし、電源トランスも容量の大きなモノは必要としないから、
製作コストも高価になることはなかった。

私はいまでも初心者向きの真空管アンプ製作といえば、こういったアンプをすすめる。
私は少なくとも当時、シングルアンプは腕が上達してから挑戦するモノという感覚だった。

それはシングルアンプ・イコール・直熱三極管のシングルアンプというイメージがあったためでもあるが、
そういうイメージを抜きにしても、シングルアンプは初心者向きとは思えない。

いま五極管シングルアンプが初心者向きというのは、
どのあたりからどう変ってきて、そういわれるようになったのだろうか。

Date: 3月 1st, 2015
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その5)

物質の燃焼温度が高くなれば、火の色は変ってくる。
人があたたかみを感じる色は、比較的低い燃焼温度である。

1977年、アルテックは、コンプレッションドライバーの802-8Dのフェイズプラグを、従来の同心円状の形状から、
オレンジを輪切りにしたように、スリットが放射状に並ぶタンジェリン状のものに変更した802-8Gを出した。

このタンジェリン状のフェイズプラグの色はオレンジだった。
タンジェリン(mandarin orange)だから、オレンジ色にしたのであろうが、
この色が、アルテックの音の温度感を表しているともいえる。

フェイズプラグは通常の使い方では目にすることはない。
それでもアルテックは、あえて色をつけている。

アルテックのユニットはトランジスターアンプの普及にあわせて、
インピーダンスをそれまでの16Ωから8Ωへと変更している。
だから604-8G、802-8Gのようにハイフンのあとに続く数時はインピーダンスを表すようになっている。

型番の数字はトランジスターアンプとの組合せを推奨しているようにみえても、
フェイズプラグの色は真空管アンプとの組合せを推しているようでもある。

Date: 2月 28th, 2015
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その4)

ずっと以前、電気がまだなかったころ、
人類にとっての最初の灯は燃える火であり、
その火の灯に近いのが白熱電球であり、
真空管のヒーターが発する色である。

Date: 9月 11th, 2014
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その3)

Edのことは、別項ですでに書いている。
他の人が作ったアンプなら、そのアンプの出来が……、といえても、
伊藤先生が作られたアンプそのものを聴いているわけだから、
Edという真空管のもつ特質が、どういうものであるのかは掴めたといえよう。

その後で聴いた300Bのシングルアンプの音には、心底びっくりした。
こういう体験をしてしまうと、それまで古くさい形に思えていた300Bが、
実にいい形をしている、というふうに思えてくる。

誰がなんといおうと、真空管は見た目通りの音がしてくる。
Edからは300Bの音はしてこないし、300BからEdの音は鳴ってこない。

美という漢字は、羊+大である。
形のよい大きな羊を表している。

ということはEdよりも、他のどんな真空管よりも300Bの形は、まさしく「美」、
つまり形のよい大きな羊そのものに見えてくる。

300Bこそ、美という漢字を真空管という造形で表現した唯一のモノ。
いまはそうおもっている。

Date: 9月 11th, 2014
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その2)

真空管アンプを作る、Edのアンプを作る──、
そう決めていた私は、ステレオサウンドで働くようになってから、
無線と実験に発表された記事から回路図とEdの規格表、アンプの部品表、シャーシーの図面をコピーして、
それぞれを切り貼りしてレイアウトし、もう一度コピーをとったものを、
机の天板とガラス板のあいだに挿んでいた。

伊藤先生は、その後サウンドボーイにて、Edのシングルアンプを発表される。
無線と実験の記事はモノクロだった。
サウンドボーイの記事はカラーだった。

Edの美しさに、ますます惚れ込んでいた。

ただ気になることもいわれていた。
伊藤先生の一番弟子で、当時サウンドボーイの編集長だったOさんから、「Edは音がねぇ……」と。

Oさんの言葉を信じていなかったわけではないけれど、Oさんは300Bの人だった。
だから話半分できいていた。

Edのシングルアンプは、伊藤先生の仕事場で聴くことができた。
そこで伊藤先生の口から、Oさんとほぼ同じことを聞いた。
たしかにその通りだった。

そして伊藤先生の300Bシングルアンプの音を聴く。

Date: 9月 11th, 2014
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その1)

「五味オーディオ教室」から始まった私のオーディオは、
真空管への興味も同時に始まった。

最初に憶えた真空管はKT88。
五味先生愛用のマッキントッシュMC275の出力管だからだ。
その次に憶えたのはF2a-11。
ただしこれに関しては型番だけであり、いったいどんな真空管なのか、
1976年当時、私は知ることができなかった。

それからいろいろな真空管の型番と形と特徴を憶えていく。
その過程で、まさに一目惚れした真空管はシーメンスの直熱三極管Edである。

無線と実験に伊藤先生が発表されたトランス結合・固定バイアスのプッシュプルアンプで、
Edの存在を知り、こんなに美しい真空管は他にない、と思ったほどである。

Edの存在を知る前に、アメリカに300Bという真空管があるのは知っていた。
熊本では、当時300Bの実物を見ることはできなかった。
写真ではよく見ていた。

アメリカの直熱三極管300Bとドイツの直熱三極管Ed。
見た目だけで判断すれば、圧倒的にEdの方が、いい音がしそうに思えた。

それにST管と呼ばれる真空管の形状が、
懐古趣味的真空管の形のようにも思えて、Edの形はそういう要素が感じられない、ということも、
私には大きかった。

Date: 11月 16th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(寒くなる季節をむかえて)

なかなか涼しくならないと秋だなと思っていたら、
11月にはいり、いきなり晩秋になった感じさえ受ける。

Twitterを眺めていると、寒くなってきたから、夏の間しまっていた真空管アンプをひっぱり出してきた、
という書込みがいくつかあった。

真空管アンプは暖房のかわりにもなることがある。
出力管がなんなのか、出力段の構成はどうなのかによって、
暖房の補助的にとどまるアンプ、積極的に暖房と呼びたくなるようなアンプなどがある。

出力管のヒーター(フィラメント)が仄かに灯るのは、寒くなる季節にむいている。
実際に暖かい(熱い)し、見た目もそうである。

でも大型送信管の211や845のトリウムタングステンフィラメントは、
個人的にどうも苦手である。
仄かに灯る、ではなく、煌々とまぶしい。

仄かに灯るのが暖炉の火を思わせるのだとしたら、
トリウムタングステンフィラメントは、夏のまぶしい太陽という感じさえするからだ。

Date: 3月 8th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その81)

マランツのふたつのコントロールアンプ、Model 1とModel 7はモノーラルとステレオという違いだけでなく、
回路自体も異る面をいくつか持つ。

Model 1もModel 7もECC83を片チャンネルあたり3本使っている点は同じだが、
まずフォノイコライザー回路はModel 1は2段構成のNF型で、
つまり1本のECC83でフォノイコライザーは構成されているわけだ。
その後に1段増幅、CR型トーンコントロール、1段増幅、ラウドネスコンペンセーターときて、
1段増幅、ボリュウム(モノーラルだが2連タイプでフォノイコライザーのすぐ後にも入っている)、
最終段のみがカソードフォロアーとなっている。

ECC83(12AX7)は双三極管なので1本に2ユニットはいっていて、
それぞれのユニットをA、Bとすると、
Model 1ではモノーラルということもあり、信号はV1A、V1B、V2A、V2B、V3A、V3Bの順でいく。
カソードフォロアーはV3Bのみである。

Model 7になるとまずフォノイコライザーが2段増幅+カソードフォロアーという、3段構成になっている。
いわゆる3段K-K帰還型である。
トーンコントロールもModel 1のCR型からNF型へとなり、
この部分がラインアンプにあたり最終段はやはりカソードフォロアーである。
Model 1では1箇所だけだったカソードフォロアーがModel 7では2箇所になっているわけだ。
そして、いうまでもなくModel 7はステレオということもあって、信号の流れはModel 1のような順番通りではない。

Model 7では左チャンネルがCHANNEL A、右チャンネルがCHANNEL Bと表記されている。
左チャンネルの信号の流れを回路図で追っていくと、
V2A、V2B、V3A、V5A、V5B、V6Aとなっている。
右チャンネルはV1A、V1B、V3B、V4A、V4B、V6Bである。

まず気がつくのはV3とV6は内部の2ユニットをそれぞれ左右チャンネルに振り分けていることであり、
このV3とV6の2本のECC83がカソードフォロアーに使われている。

Date: 3月 6th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その80)

往年の真空管アンプ・メーカーとしてマランツとマッキントッシュがある。
マランツの管球式コントロールアンプは2機種、モノーラル時代のModel 1とステレオ時代のModel 7。
マッキントッシュはAE2、C104、C108、C4/C4P、C8/C8P/C8S、ここまでがモノーラル機で、
C20、C11、C22、これらがステレオ機。
マッキントッシュはパワーアンプの機種数もマランツより多いけれど、コントロールアンプの数もまた多い。

これらのコントロールアンプのヒーター用の電源回路の回路図を比較していこう。
マランツのModel 1とModel 7は基本的に同じ考えによって作られている。
Model 1はモノーラルでModel 7はステレオ仕様で、真空管の数とそのユニットの振分けによって、
少し異る点もあるが、3本のECC83をひとまとめにした上でヒーター回路を形成している。

マッキントッシュはというと、
モノーラル時代の機種はすべてのヒーターを並列接続している(C4以降は直流点火になっている)。
真空管はマランツと同じECC83(12AX7)を使っている。
ステレオ時代になると、C20はモノーラル時代と同じように並列接続(ただしモノーラル機とは少し違う)だが、
C11とC22ではマランツと同じように3本のECC83をひとまとめにする方式へと変更している。
これはマッキントッシュがマランツに倣ったのだろうか。

マランツのヒーターについて、もう少しだけ書いておこう。
Model 1はモノーラルだからECC83を3本使っている。
3本のECC83をフォノ入力からV1、V2、V3と回路図では表記されている。
Model 1のヒーターはV1のヒーターの両端にそれぞれV2、V3のヒーターを接続し、
V1のヒーターのセンターを設置している。
V2、V3のヒーターの片方は接続され、ここにヒーター電圧がかけられている。
V1、V2、V3のヒーターは三角形を描く形になっている(回路図上では三角形にはなっていないけれど)。

Model 7も同じである。
だだしModel 7はステレオ仕様で、双三極管であるECC83のユニットの振分けが必要となるところが、
モノーラルのModel 1とは大きく異る点で、そのことがヒーター回路のステレオ機としての工夫となっている。

Date: 3月 2nd, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その79)

管球式コントロールアンプに使われることが圧倒的に多いECC82(12AU7)とECC83(12AX7)、
1970年代後半からよく使われるようになってきた6Dj8などは、すべて双三極管である。

双三極管は一本のガラス管の中に真空管を2ユニット収めている。
なのでヒーターも2ユニット分ある。
1本あたりのヒーター電圧は6.3V。これが直列に接続され、
中間からももピンが出ていてヒーター用は3ピンとなっている。
だからそれぞれのユニットのヒーターに6.3Vずつ加えることもできるし、
2ユニット分のヒーターを直列のまま使えば12.6Vをヒーター電圧としてかけることになる。

ECC82もECC83もヒーターの定格は6.3V、150mAだから、
直列では12.6V、150mAとなり、並列では6.3V、300mAとなる。
あたりまえのことだが6.3Vで使おうと12.6Vで使おうと、ヒーターが消費する電力は変らない。

コントロールアンプで真空管が1本だけということはまずない。
必ず複数の真空管が使われる。
マッキントッシュのC22もマランツのModel 7もECC83を両チャンネルあわせて6本使用している。

真空管をが複数本の場合、ヒーター関係の配線をどう処理するのか。
12.6V、6.3Vどちらで使うにしても、すべての真空管のヒーターを並列接続して、というのが、
だれもがまず最初に考えることだろう。

直流点火にするのか交流点火にするか、
どちらにしても良質のヒーター用の電源を確保できれば、そこから先に関しては、
つまりヒーターへの配線方法に関してはそれほど注意を払う必要はないようにも思われる。
私も10代のころは、そんなふうに考えてしまっていた。
とにかくノイズが少なくて、低インピーダンスのヒーター用の電源回路が大事であって、
そこから先、真空管のヒーターへの配線(どこをどう引き回すか、ではなく、どう供給するか)には、
気が回らなかった。せいぜいが贅沢をすれば、真空管1本1本に専用の電源回路を用意するぐらいだった。

Date: 2月 20th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その78)

リークもQUADも、
コントロールアンプも交流点火としているのは、パワーアンプの入力感度の高さが関係しているようにも思う。

真空管アンプの時代もそうだったし、
トランジスターアンプが主流になってもしばらくはイギリスのパワーアンプの入力感度は全般的に高かった。
アメリカのパワーアンプが入力1Vで最大出力が得られるのに、
イギリスのパワーアンプは50mV、100mVという値だった。10倍から20倍、感度が高い。
つまりアメリカのアンプでコントロールアンプでゲインを稼ぎ、
イギリスのアンプはパワーアンプでゲインを稼いでいた、ゲイン配分といえる。

ただ、なぜイギリスはこういうゲイン配分としたのか、その理由は正直よくわからない。
もしかするとBBCの規格がそうだったのかもしれない、とは思うのが確証はない。

リーク、QUADが交流点火だったのは、
スピーカーシステムの能率が低いせいではないか、と思われる人もいるかもしれない。
たしかにQUADのESLは低い。
けれどリークやQUADと同時代にはタンノイ、ヴァイタヴォックスの大型システムが存在していた。
これらのスピーカーシステムと組み合わせられることもイギリスでは多かったはず。

事実、五味先生がタンノイにオートグラフを発注された時、
タンノイに「いかなるパーツを使用すべきや」と問合せされたとき、
タンノイからの回答は、カートリッジはデッカ、トーンアームはSME、アンプはQUADであった、と
「オーディオ巡礼」(ステレオサウンド刊)所収の「わがタンノイ・オートグラフ」に書かれている。

オートグラフの能率であっても、QUADの22のS/N比で特に問題はない、ということだろう。
となると、イギリスのメーカーが交流点火でも実用的なS/N比を確保できていたのは、
アメリカ勢(マッキントッシュ、マランツ)に使われていた真空管の製造メーカー、
イギリス勢(リーク、QUAD)に使われていた真空管の製造メーカーの違いが、
理由としてはいちばん大きいのではなかろうか。

アメリカ勢とイギリス勢では、直流点火と交流点火という違いがあり、
アメリカ勢のマッキントッシュとマランツはどちらも直流点火ではあるものの、
まったく同じとはいえない違いがある。

Date: 8月 24th, 2011
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その77)

マランツ#7、マッキントッシュC22、QUADの22は、ほぼ同時期のコントロールアンプだ。
この3機種の真空管の点火方式(ヒーター回路)を見て、
まず気がつくのは、QUADの22だけが交流点火だということだ。

QUADの22だけではない、QUADのモノーラル時代のコントロールアンプQCIIも交流点火で、
同じイギリスのリークのVarislope Stereoも交流点火だ。

Model 7、C22の真空管はECC83(12AX7)を6本、
QUADの22は、フォノイコライザーは5極管のEF86の1段増幅、
ラインアンプはECC83による2段増幅となっているから、EF86、2本,ECC83、2本となる。
Varislope Stereoも22同様、フォノイコライザーはEF86の1段増幅、ラインアンプもEF86で、
全体でEF86、4本となる。
だからそれぞれ回路構成は違うわけだが、そのこととヒーターの点火がアメリカ勢は直流点火、
イギリス勢は交流点火の理由につながっていくとは考えにくい。

直流点火をするためには整流・平滑回路が必要になる。
整流のたぬにダイオードもしくはセレンが、
平滑回路には電解コンデンサーと電圧調整とπ型フィルターを構成するための抵抗がいるから、
その分スペースが必要となる。

QUADもリークも、どちらのコントロールアンプもシャーシー内に電源部をもたない。
ペアとなるパワーアンプから供給されるからだ。
だからスペース的な問題から直流点火をあきらめた、とは考えられない。

S/N比を確保するには直流点火がもっとも確実な方法といえる。
それをQUADもリークも採用していないのはなぜか。
交流点火の方が音がいいという判断があったのか。
もしそういう判断があったとして、S/N比は多少犠牲になってもいいという考えからなのか。

この答えは、使われている真空管の製造メーカーと関係していくのではないだろうか。

Date: 11月 26th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その76)

きちんとした定電流点火の音を聴くと、
三端子レギュレーターによる安易な直流点火に疑問を抱く。

定電圧点火にすれば、真空管の寿命も短くなる。
しかも音もいいとはいえない。ハムをわりと簡単におさえられる、という以上のメリットは感じられない。

そんな点火回路を、「遅れてきたガレージメーカー」のつくる真空管アンプの多くは採用していた。
増幅回路には工夫を凝らしたものでも、ヒーターの点火に関しては、じつに安易というアンバランスを感じていた。

真空管アンプを作ったことのない方は、ヒーターの点火方法によって、
それほど大きく音が変化するものだろうか、と思われるかもしれない。
こればかりは実際に音を聴いていただくしかないし、その手間がかなりめんどうなのが、もどかしい。

たとえば伊藤先生のコントロールアンプは電源トランスを2つ搭載している。
ひとつは高圧用のもの、もうひとつはヒーター用のトランスである。
真空管のプレートにかかる電源は高圧・低電流、一方ヒーターは低電圧・高電流、と正反対である。
しかも実際に消費電力を計算してみるとわかるが、ヒーターの消費電力の方が大きいからだ。

真空管アンプの回路を勉強したてのころは、どうしても増幅回路のほうにばかり目が行きがちだが、
あるレベルになればヒーター回路にも注意が向く、というか、
むしろ、こちらのほうに先に興味が向くようになるかもしれなくなる。

マランツ、マッキントッシュの真空管アンプが全盛だった時代、
TL431はもちろん、三端子レギュレーターもなかった。
#7やC22はどうしていたのか。同時代のQUADの22はどうだったのか。

Date: 11月 26th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その75)

結論を書こう。
ただ、この結論は私が実際に耳にした範囲においての、私にとっての結論であり、
私と違う考え、私と違う音の聴き方・捉え方をする人にとってはまったくあてにならないことにもなろう。

ずっと以前に真空管の単段の無帰還のラインアンプ(つまり反転アンプ)、
それもシャーシにおさめることなくバラックの状態という、完全な実験用のアンプで、
三端子レギュレーターによる定電圧回路、TL431を使った定電流回路、交流点火、
非安定化の直流点火の4つの方式を聴いたことがある。

私にとって、最も音が冴えなかったのは三端子レギュレーターによる定電圧点火だった。
頭でわかっていても、実際にその音を聴くと、
ヒーターの点火方法でこんなにも音が変化するものか、と驚いてしまう。

驚くほど大きな差が、三端子レギュレーターの定電圧点火とTL431による定電流点火のあいだにはあった。
このふたつのあいだに、交流点火と非安定化の直流点火が、
中間よりもやや定電流寄りにあると感じた(もう20年ほど昔の記憶なのでこのへんはすこし曖昧なところも……)。

パワーアンプの出力管も定電流点火にしてみたら……、と思わず夢想してしまうほど、定電流点火の音は良かった。

定電流点火といっても、私は新氏が発表された三端子レギュレーターによる回路の音は聴いたことがない。
というよりも、定電流点火に関心をもち、試してみようと思われる方は、安易に三端子レギュレーターにたよらずに、
TL431を使った回路で実験してみてほしい。