Archive for category 新製品

Date: 6月 27th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その12)

1981年秋に登場したGRF Memoryは、
ハーマンインターナショナル傘下時代のタンノイのラインナップ、
つまりABCシリーズの不満、もしくはものたりなさをおぼえていた人たちからは、
好意をもって迎えられた、といえる。

でも私は、ある疑問を感じていた。
1970年代後半のステレオサウンドの広告をきちんとみていた人なら、
サワダオーディオの名に記憶があるだろう。

堺市・沢田電機工業所内にあったサワダオーディオは、
ウエスギアンプの代理店でもあったし、サワダオーディオ・ブランドで、
スピーカーシステムを出してもいた。

当時のサワダオーディオの広告には、
「東方の音 地上で聴ける最上の音。」というコピーがあった。

その下にスピーカーの写真があった。
スピーカーの手前には、小さな女の子がLPのダブルジャケットを広げている。

サワダオーディオのスピーカーシステムは、耽能居という。
タンノイの当て字だ。

耽能居は、三種類あった。
耽能居 S295A、耽能居 S315A、耽能居 S385Aである。
エンクロージュアだけも売られていた。

耽能居 S385Aの形状、それに寸法が、
GRF Memoryとほぼ同じなのだ。
耽能居 S385Aが数年前に登場しているのだから、
GRF Memoryが耽能居 S385Aにそっくりといえるわけだ。

耽能居 S385Aにタンノイ的装飾を施したのがGRF Memory、
そういってもいいように感じた。

Date: 6月 14th, 2017
Cate: 新製品

新製品(Backes & Müller・その5)

ステレオサウンド 117号の特集の座談会で、
山中先生はBM30の音について、
《これまでのドイツのスピーカーに聴かれたカチッとしたところに、しなやかさも加わっているのが魅力のポイント》
と語られている。

45号の新製品紹介のページで語られていることと基本的に同じである。
117号の座談会を読むと、
山中先生も45号でB&Mのスピーカーをシステムを試聴されていることを忘れられているようだが、
それでも音の印象に関しては、変っていないところが興味深い。

117号では、井上先生による新製品紹介の記事も載っている。
     *
 同社がアクティヴスピーカー用に開発したPHASEIIプリアンプを専用コードで接続した時の音は、ゆったりとした余裕がありながら、一種独特な雰囲気で整然と音楽が鳴るキャラクターがある。いかにも、MFB型システムといった誇張感が感じられないことが、このシステムの最大の特徴である。レベル調整によるバランス変化は顕著で、リモコンでの操作に違和感が少ないのは気持ちが良い。
 プリアンプを本誌試聴室でリファレンスに使用しているアキュフェーズC290にすると音の性格が一変して、シャープで見通しがよく、音場感情報が豊かな、ほどよくコントラストが付いた整然とした見事な音に変わかる。しかし、サウンドバランスの調整は必要で、低域から中低域のレベルアップでバランスは修正され、質的に高い見事な音が楽しめる。使い手に、かなりの経験と力量を要求するシステムである。
     *
ここから読みとれるのも、
B&Mのスピーカーシステムの基本的な音の傾向は、変っていないということ。
一貫した音のポリシーが、B&Mのスピーカーははっきりと流れていることがわかる。

ということは、現在のB&Mのスピーカーシステムもそうである、と思っていいだろう。
現在のフラッグシップモデルであるLine 100の構成は、Monitor 5ともBM30とも大きく違う。
MFB採用は同じであるが、
MFBの技術はMonitor 5の時代よりも、BM30の時代よりも進歩しているはずである。

何も知らない人に、Monitor 5、BM30、Line 100を見せたら、
同じメーカーのスピーカーシステムとは思わないだろう。
それでも、黙って音を聴かせたら、同じメーカーのスピーカーシステムと感じるのではないだろうか。

だからこそLine 100を聴いてみたい。

Date: 4月 24th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その11)

I believe in intuition. I think that’s the difference between a designer and an engineer – I make a distinction between engineers and engineering designers. An engineering design is just as creative as any sort of design.
     *
ジャック・ハウ(Jack Howe)が、こういっている。
これがいつごろのことなのかまでは、いまのところわからない。

engineering designers、engineering designといった言葉が、
ここにはある。

これを言っていた人が、
《私は、私の全才能をこのスピーカーで世に問うつもりだ》ともいってデザインしたのが、
1976年登場のABCシリーズである。

今回のタンノイのタンノイのLegacy Series、
なぜ”Legacy”なのかは、ここに理由があるような気もする。

Date: 3月 24th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その10)

今回のタンノイのLegacy Series、
その中でもEatonに、私は強く関心をよせているけれど、
音を聴く前から、ひとつ不満なのはユニットのフレームの形状である。

15インチ、12インチと共通のフレーム形状になっている。
つまり円である。

1976年登場のABCシリーズのEaton、
つまりタンノイの10インチ口径の同軸型ユニットのフレームの形状を知っている、
もっといえば馴染んでいる者にとっては、なにかいいたくなってしまう。

10インチの同軸型ユニットのフレームは、これじゃダメなんだ。
写真を見ては、心でそうつぶやいている。

ステレオサウンド 40号掲載のタンノイの広告。
そこには、こうある。
《私は、私の全才能をこのスピーカーで世に問うつもりだ。》

《私》とは、ジャック・ハウ(Jack Howe)である。
といっても、当時の私は、ジャック・ハウについて何も知らなかった。

いまもそんなに知っているとはいえない。
インターネットで調べられるくらいのことしか知らない。

広告には《イギリス王立工業デザイナー会員。国際的なデザイナーとして有名である。》、
そしてジャック・ハウの横顔のイラストがあるだけだった。

由緒正しい人がデザインしたのか、
そのころの私は、そのぐらいの認識しかなかった。

Date: 3月 23rd, 2017
Cate: 新製品

新製品(Backes & Müller・その4)

ステレオサウンド 117号の特集の座談会がこんなふうになってしまったのは、
B&Mの輸入元バルコムのいうことをそのまま信用してしまった、というところだろう。

これは別項で書いている技術用語の乱れと根は同じように感じる。
ほんのわずかな手間を惜しむ。
そのことをずっと続けてきたことが、誌面に残っていく。

しかも117号の座談会は、一年の締括りともいえるコンポーネンツ・オブ・ザ・イヤーである。
賞である。
その賞の権威(ほんとうにあるといえるのかはここでは問わない)を、
自ら貶めることをステレオサウンド編集部は知らず知らずにやっている、ともいえよう。

45号と117号のあいだでも、こういうことが起る。
ステレオサウンドは昨年、創刊50周年を迎えた。
200号をこえている。

こういうことは、これから先、もっと起る、といえる。
少なくともいまのままでは。

45号と117号を読んでいて感じたのは、
そして書きたかったことは他にある。

B&Mの音についてだ。
45号では、こんなふうに紹介されている。
     *
井上 このスピーカーは音を聴いてみてびっくりしましたね。かなりしなやかで滑らかな音が出てきた。こういう音を出すドイツのスピーカーを聴くのは初めてです。
山中 今までのドイツのスピーカーの音というと、硬質な音というのが基調になっていたと思いますが、この場合はもっとやわらかい、あたたかい雰囲気をもった音といっていいですね。やはりバイエルン地方の風土によるものかも知れません。
井上 音のクォリティの高さも相当なものですね。こういうしなやかな音はなかなか出ない。かなり注目できる製品だと思います。
     *
45号でのMonitor 5と117号でのBM30とでは、
スピーカーシステムとしての在り方が、MFBという共通項はあるものの、
ある意味大きく変っている、ともいえる。

それでも音に関しては一貫しているように読みとれる。

Date: 3月 23rd, 2017
Cate: 新製品

新製品(Backes & Müller・その3)

BM30のMFBについても、朝沼、長島の二氏が、
全帯域にわたってMFBがかけられたスピーカーは初めてだ、というふうに語られている。

あまり例がないのは確かだが、くり返すがB&MはMonitor 5で実現している。
B&Mは1975年創立だそうだから、
Monitor 5以前にも実現していた可能性もある。

いまのところはっきりといえるのは、1977年のMonitor 5もそうである、ということ。
ただMonitor 5のウーファーは四発使われているが、
ひとつひとつのウーファーユニットに専用アンプが用意されていたのかどうかは、
ステレオサウンド 45号の記事からは読みとれない。

45号は1977年12月発売の号、
117号は1995年12月発売の号。
まる十八年経っているわけだが、
編集部の誰一人、45号にMonitor 5が登場していることを思い出さなかったのだろうか。

人は忘れるものである。
ど忘れということだってある。
座談会の時点では、そういうことだったのかもしれない。

けれど座談会を収録したテープを文字起しして、まとめる過程で、
B&Mが過去に紹介されたことがなかったのか、
全帯域にMFBがかけられたモデルが過去になかったのか、
いっさい調べなかったのだろう。

だから117号の記事になってしまっている。

Monitor 5がステレオサウンドでなく、
他のオーディオ雑誌に紹介されただけというのならば、まだ理解できないこともないが、
十八年前のステレオサウンドにしっかりと載っている。

私はステレオサウンドの編集者は、
ステレオサウンドの愛読者であるべき、という認識をもっている。
現実はそうではないようだ。

Date: 3月 23rd, 2017
Cate: 新製品

新製品(Backes & Müller・その2)

Backes & Müller(B&M)のスピーカーは、
ステレオサウンド 117号の表紙を飾っている。
BM30というモデルで、’95-’96コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞を受賞している。

横幅は41.0cmながら、高さは178.0cmというプロポーションをもち、
ウーファーは25cm口径、ミッドバスは20cm口径、ミッドハイは13cm口径のコーン型を、
それぞれ二発を使用し、トゥイーターは3.7cm口径、スーパートゥイーターは1.9cm口径のドーム型。
5ウェイ8スピーカーという構成である。

八つのユニットには、それぞれ専用のパワーアンプが、
つまり八台のパワーアンプが搭載されている。

ウーファー、ミッドバス、ミッドハイはユニットを並列接続してやれば……、
と考えがちだが、ここまで徹底したマルチアンプ構成にしているのは、
すべてのユニットに対しMFBをかけるためのはずだ。

ステレオサウンド 45号の新製品紹介の記事でも、そのことにはふれられていた。
3ウェイで、すべてのユニットにMFBがかけられている、と。

通常MFBはウーファーだけにかけられる。
インフィニティのIRSシリーズでも、MFBはウーファーにのみ採用されている。
それをB&Mは1970年代後半ごろから、全帯域(すべてのユニット)にかけている。

ステレオサウンド 117号の座談会も、そのことから始まっている。
ただ、この座談会がおかしいのは、B&Mが日本に紹介されるのは初めてだと書いてあることだ。

菅野、山中、朝沼の三氏が、このB&Mを知らなかった、と発言されている。
でも……、と思う。

確かに45号ではB&Mとして紹介されている。
117号ではバックス&ミューラーとして紹介されている。

輸入元もシュリロ貿易からバルコムへと替っている。
それでも日本に紹介されるのは初めて、といってしまうのは、どうだろうか。

それはB&Wがバウワース&ウィルキンス、
B&Oがバング&オルフセンとして紹介されたら、日本に初めて紹介された、というのと同じことである。

Date: 3月 22nd, 2017
Cate: 新製品

新製品(Backes & Müller・その1)

ドイツのスタジオモニターは、昔からアンプ内蔵のモノが多い。
シーメンスのオイロフォン(Europhon)もそうだし、
K+Hのスピーカーもそうである。

ドイツにBackes & Müller(B&M)というメーカーがある。
1970年代後半ごろ、バイエルン地方に創立されたメーカーで、
日本にはシュリロ貿易からMonitor 5というモデルが輸入された。
1977年ごろである。

Monitor 5もドイツのスタジオモニターの例にもれずアンプを内蔵していて、
マルチアンプ仕様となっている。
さらに当時としては、他のアンプ内蔵型から一歩進んで、MFBをかけていた。

ウーファーは13cm口径コーン型を四発、
スコーカーは4.1cm口径、トゥイーターは2.7cm口径の、どちらもソフトドーム型。

ユニット構成からわかるようにそれほど大きなサイズではない。
中型のモニターシステムといったところだが、
アンプ内蔵、MFB採用ということもあって、価格は50万円(一本)していた。

ステレオサウンド 45号の新製品紹介に登場している。
ドイツ製のスピーカーとは思えないしなやかな音を出す、という評価だった。

聴いてみたい、と思ったが、機会はなかった。
ステレオサウンドで働いていたときも聴く機会はなかった。

先日、facebookに、なつかしいスピーカーのことが話題になっていた。
K+HのO92である。
それでB&Mのこと、Monitor 5のことを思い出した。

いまもあるのだろうか、と検索してみたら、すんなり見つかった。
PrimeシリーズとLineシリーズのスピーカーを、いまもつくっている。
創立40周年をむかえた、とある。

日本に輸入元がながいことなかっただけのようだ。
だから新製品とはいかないけれど、
ひさしぶりに見るB&Mのスピーカーシステムは、Monitor 5とはずいぶん違っていた。

そっけない外観のMonitor 5のイメージは、まったくない。
それでもアンプ内蔵であるのは同じだ。

そして現代の製品らしく、FPGA(field-programmable gate array)を使い信号処理を行っている。
かなりおもしろそうなスピーカーだと感じたので、
あえて新製品として、ここで書いている。

特にLine 100の存在感は、すごい。
Line 100だけ、専用のウェブサイトが用意されている。
私が言葉で説明するよりも、まずリンク先のサイトをみてほしい。

Date: 3月 17th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その9)

Eatonは、聴く前から欲しい、と思っていた。
理由は、瀬川先生のフルレンジから発展する4ウェイのシステム構築案を読んでいたからだ。

このブログでも何度か書いているので詳しくは書かないが、
フルレンジから始めて、次にトゥイーターをつけて2ウェイにして、その次はウーファーを足して3ウェイ、
最後にミッドハイ(JBLの175DLH)を加えての発展型4ウェイである。

もちろん一度にすべてのユニットを揃えて4ウェイを構成してもいいけれど、
学生の私にとってフルレンジから、というのはそれだけで魅力的にうつった。

オーディオのグレードアップには無駄が生ずるものだ。
けれど、この案ならば無駄がない。
スピーカーというものを理解するのにも、いい教材となるはず、と思っていた。

Eatonから始めれば、フルレンジといっても同軸型2ウェイだから、
周波数レンジ的にも不満はでない。
つぎにウーファーをたして3ウェイにして、最後にスーパートゥイーターをつければ、
瀬川先生の4ウェイ案と同じになる。

人によってはウーファーよりもトゥイーターを先に足すだろうが、
私はウーファーを先に足すタイプである。

4343のミッドバスの2121とHPD295Aはどちらも10インチ口径。
4343のミッドバスとミッドハイを同軸型ユニットに受け持たせることで、
ここのスピーカーユニットが距離的に離れることもある程度抑えられる。

Eatonという完成したシステムが中核になるわけだから、
自作にスピーカーにおこりがちな独りよがりなバランスになる危険性も少なくなるはず。

同口径のユニット搭載のStirlingでも、同じことはやれる、といえばやれるけれど、
Eatonとはエンクロージュアのデザインの違いがあることが大きい。
特に現在のStirlingは、こういう使い方には完全に向かないデザインになっている。

Date: 3月 4th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その8)

「コンポーネントステレオのすすめ 改訂版」には、
瀬川先生によるEatonの組合せがある。
     *
 イギリスの名門といわれるタンノイの新シリーズのイートンは芯の強い緻密な音質。ロジャースLS3/5Aは、BBC放送局仕様のミニモニタースピーカーで、あまり大きな音は出せないが、繊細な細密画のような、あるいはスピーカーの向う側に小宇宙とでもいいたい空間の広がりを感じさせるような、独特の音を聴かせる。アンプとカートリッジは、オルトフォンのSQ38FD/IIならや古めかしさはあるが温かい表現だし、エレクトロ・アクースティックと5L15なら、鮮度の高く澄明で繊細な表現が得られる。どちらをとるかが難しいところ。

●スピーカーシステム:タンノイ Eaton ¥160,000
●スピーカーシステム:ロジャース LS3/5A ¥150,000
●プリメインアンプ:ラックス 5L15 ¥168,000
●プリメインアンプ:ラックス SQ38FD/II ¥168,000
●フォノモーター:ビクター TT-81 ¥65,000
●プレーヤーケース:ビクター CL-P1 ¥23,800
●トーンアーム:ビクター UA-7045 ¥25,000
●カートリッジ:オルトフォン SPU-GT/E ¥43,000
●カートリッジ:エレクトロ・アクースティック STS555E ¥35,900

組合せ合計¥520,000(Eatonを使用した場合)
     ¥510,000(LS3/5Aを使用した場合)
     *
「コンポーネントステレオのすすめ 改訂版」は1977年に出ている。
ラックスのプリメインアンプ二機種は、どちらも168,000円だが、
片方は管球式でもう片方は最新のトランジスターアンプで、
製品のコンセプトは、同じラックスの中にあっても対極といえる。

EatonはIIILZの後継機とはいえ、
搭載ユニットはトランジスターアンプ時代を迎えてインピーダンスが8Ωに変更されたHPDシリーズ。
IIILZにもHPD295を搭載したモデルはあるが、
一般的にいわれているIIILZはMonitor Gold搭載のモデルのことであり、
ここでのIIILZも、そのモデルのことである。

瀬川先生が5L15を組み合わせられる理由もわかる。
IIILZとSQ38FDの黄金の組合せからは、
おそらく得られないであろう《鮮度の高く澄明で繊細な音》。

透明ではなく澄明な音。
この組合せも、当時聴きたいと思っていた音のひとつだった。

Date: 3月 4th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その7)

元のEatonは、IILZの後継機といえる。
IIILZといえば、日本ではラックスのSQ38FD、それにオルトフォンSPUとの組合せが、
いわゆる黄金の組合せとして、古くからのオーディオマニアのあいだでは知られている。

残念なことに私は、この「黄金の組合せ」の音は聴いていない。
瀬川先生は「続コンポーネントステレオのすすめ」では、こう書かれている。
     *
 ところで、数年前のこと、ラックスの管球アンプSQ38FDとタンノイのIIILZ(スリーエルゼット)というスピーカーの組合せを、ステレオサウンド誌が〝黄金の組合せ〟と形容して有名になったことがある。絶妙の組合せ、ともいわれた。こういう例をみると、スピーカーとアンプとに、やはとり何かひとつ組合せの鍵があるではないかと思えてしまう。だがそれはこういうことだ。タンノイのIIILZは、数年前の水準のトランジスターアンプで鳴らすと、概して、弦の音が金属的で耳を刺す感じになりやすく、低音のふくらみに欠けた骨ばった音になる傾向があった。それを、ラックスのSQ38FDで鳴らすと、弦はしっとりとやわらかく、低音も適度にふっくらとしてバランスがよい。ここにオルトフォンのSPUというカートリッジを持ってくると、いそうそ特徴が生かされる。
     *
この瀬川先生の文章以前に、「五味オーディオ教室」でも、
IIILZの黄金の組合せについては読んでいた。
     *
 かつてヴァイオリニストのW氏のお宅を訪れたとき、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを聴かせてもらったことがある。そのあと、オーケストラを聴いてみたいと私は言い、メンデルスゾーンの第四交響曲が鳴り出したが、まことにどうもうまい具合に鳴る。わが家で聴くオートグラフそっくりである。タンノイIIILZは何人か私の知人が持っているし、聴いてきたが、これほどナイーブに鳴ったのを知らない。「オリジナルですか?」とたずねた。そうだという。友人のは皆、和製のエンクロージァにおさめたもので、箱の寸法など寸分違いはないのに、キャビネットがオリジナルと国産とではこうまで音は変わるものか。
 スピーカーだけは、ユニットで買ったのでは意味がない。エンクロージァごとオリジナルを購入すべきだと、かねて私自身は強調してきたが、その当人が、歴然たる音の違いに驚いたのだから世話はあるまい。
 私は確信を持って言うが、スピーカーというものを別個に売るのは罪悪だ。スピーカーだけを売るから世間の人はスピーカーを替えれば音が変わると思ってしまう。スピーカーというのは要するに紙を振動させるものなので、キャビネットが音を鳴らすのである。スピーカー・エンクロージァとはそういうものだ。
 でも本当に、わが耳を疑うほどよい響きで鳴った。W氏にアンプは何かとたずねるとラックスのSQ38Fだという。「タンノイIIILZとラックス38Fは、オーディオ誌のヒアリング・テストでも折紙つきでした。〝黄金の組合わせ〟でしょう」と傍から誰かが言った。〝黄金の組合わせ〟とはうまいこと言うもので、こういうキャッチフレーズには眉唾モノが多く、めったに私は信じないことにしているが、この場合だけは別だ。なんとこころよい響きであろう。
 家庭でレコードを楽しむのに、この程度以上の何が必要だろう、と私は思った。友人宅のIIILZでは、たとえばボリュームをあげると欠陥があらわれるが、Wさんのところのはそれがない。カートリッジはエンパイアの九九九VEだそうで、〈三位一体〉とでも称すべきか、じつに調和のとれた過不足のないよい音である。
 畢竟するに、これはラックスSQ38Fがよく出来ているからだろうと私は思い、「ラックスもいいアンプを作るもんですな」と言ったら「認識不足です」とW氏に嗤われた。そうかもしれない。しかしIIILZと38Fさえ組合わせればかならずこううまくゆくとは限らないだろうことを、私は知っている。つまりはW氏の音楽的教養とその生活が創造した美音というべきだろう。W氏は、はじめはクォードの管球アンプで聴いていたそうである。いくらか値の安い国産エンクロージァのIIILZでも聴かれたそうだ。そのほかにも、手ごろなスピーカーにつないで試した結果、この組合わせに落着いた、と。
 私事ながら、私はタンノイ・オートグラフを鳴らすのにじつに十年を要した。それでもまだ満足はしていない。そういうオートグラフに共通の不満がIIILZにもあるのは確かである。しかし、それなら他に何があるかと自問し、パラゴン、パトリシアン、アルテックA7、クリプッシ・ホーンなど聴き比べ(ずいぶんさまざまなアンプにつないで私はそれらのエンクロージァを試聴している)結局、オートグラフを手離す気にはならず今日まで来ている。それだけのよさのあることを痛感しているからだが、そんな長所はほぼW家のIIILZとラックス38Fの組合わせにも鳴っていた。
     *
アンプはどちらもラックスだが、SQ38FとSQ38FDの違いはあるが、
他のアンプとの組合せからすれば、この違いは小さいといえよう。
カートリッジもオルトフォンSPUとエンパイアの999VEの違いはあるが、
ここではIIILZとSQ38F(D)との組合せにウェイトとしては重心がある。

1976年にEatonが登場した。
「コンポーネントステレオの世界 ’77」で、山中先生が組合せをつくられている。
そこではパイオニアのセパレートアンプC21とM22、
アナログプレーヤーはトーレンスのTD160CにカートリッジはAKGのP8Eだった。

「黄金の組合せ」的な要素はなかった。
むしろ上杉先生によるDevonの組合せの方が近かった。
アンプはラックスのSQ38FD/II、カーリトッジはデンオンのDL103だった。

Date: 3月 3rd, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その6)

「五味オーディオ教室」をくり返しくり返し読んでいた中学生の私にとって、
タンノイは特別な存在であった。

そしてオートグラフは、さらに特別な存在だった。
1976年、オートグラフは輸入元のティアック製造のエンクロージュアにおさめられたモノだった。

エンクロージュアはオリジナル!
「五味オーディオ教室」を読んでいた私にとって、それは絶対であり、
いくらタンノイが承認したエンクロージュアであっても、
国産エンクロージュアのオートグラフは別物であった。

1976年当時のタンノイのラインナップはABCシリーズ。
その中でいちばん下のEatonは、身近に思える存在だった。

Eatonの価格は80,000円(一本)。
搭載されているユニットHPD295Aは60,000円だった。
エンクロージュアの価格は20,000となるのか……、そんなことを思いながらHI-FI STEREO GUIDEを眺めていた。

Ardenは220,000円で、HPD385Aは100,000円。
エンクロージュアは120,000円。

ArdenとEatonは大きさがかなり違う。
輸送コストも違ってくるわけで、
スピーカーシステムの価格からユニットの価格を差し引いたのが、
エンクロージュアの価格とはいえないのはわかっていても、当時はそんな単純計算をしていた。

HPD295Aを買ってきて、エンクロージュアを自作するよりもEatonは安く感じられた。
実際に自作よりも安いといえる。

このEatonを、オートグラフをつくりあげたガイ・R・ファウンテン氏を鳴らしていた。
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のタンノイ号で、
瀬川先生がタンノイのリビングストンにインタヴューされている記事のなかで、
それは語られている。
    *
彼は家ではほんとうに音楽を愛した人で、クラシック、ライトミュージック、ライトオペラが好きだったようです。ロックにはあまり興味がなかったように思います。システムユニットとしてはイートンが二つ、ニッコーのレシーバー、それにティアックのカセットです。
     *
オートグラフでなく、ArdenでもなくEatonである。

Date: 2月 28th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その5)

ハーマンインターナショナル傘下時代のABCシリーズの成功があればこその、
現在のタンノイがあるという見方をすれば、
その意味でのLegacy Seriesなのかも、と思いながらも、
こうやって書いていると、Ardenの横幅を広くとったプロポーションを見ていると、
広いフロントバッフルだからこそ得られる音の魅力を、
あえていまの時代に聴き手に問う意味でのLegacyなのかもと思えてくる。

オーディオとは、結局のところ、スピーカーの音の魅力といえる。
そればかりではないのはわかっていても、
最近の「スピーカーの存在感がなくなる」というフレーズを、
頻繁に目にするようになると、あぁ、この人たちは、スピーカーの音が嫌いなんだな、とさえ思う。

スピーカーというメカニズムが発する音の魅力。
これは項を改めて書いていくが、
スピーカーの音の「虚」と「実」についても、もう一度考え直す必要はある。

実際にLegacy SeriesのArdenの音を聴いてみないことには、
言えないことは山ほどあるが、それでも写真を見ているだけでも、
Legacy Seriesとタンノイが呼ぶ意味に関しても、あれこれ考えることがある。

ただArdenは、そう安くはないようだ。
日本での販売価格がどのくらいになるのかはわからないが、
以前のABCシリーズのような、ベストバイといえる価格ではないことは確かだ。

価格ということでは、Eatonが日本ではどの価格帯に属することになるのか。
これはArdenよりも、個人的に気になっている。

Date: 2月 28th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その4)

同じ内容積のエンクロージュアであっても、
フロントバッフルの面積を広くとり、奥行きの浅いプロポーションと、
フロントバッフルの幅をユニットぎりぎりにまで狭めて、その分奥行きの深いプロポーションとでは、
音の傾向はかなり違ってくることは、ずいぶん以前からいわれていること。

BBCモニター系列のスピーカーシステム、
スペンドール、ロジャース、KEFなどのスピーカーの音に惹かれてきた私としては、
奥行きの深いプロポーションのエンクロージュアを好むが、
それでもタンノイの同軸型、それも15インチ口径のモノがついていて、
エンクロージュアのプロポーションとしては、やはり堂々としていてほしい。

その意味でもArdenである。
もういまの人は実験をしてみることもしないのだろう。
以前はエンクロージュアの左右にサブバッフル(ウイング)をとりつける手法も一般的だった。

ビクターからはEN-KD5というエンクロージュアキットが出ていた。
20cm口径のフルレンジ用のエンクロージュアで、30cm口径のパッシヴラジエーターがついていた。
このキットの特徴は、左右のサブバッフルだった。

アルテックのA7にもウイングを取り付けたモデルがあったし、
A2、A4といったモデルは210エンクロージュアにウイングを取り付けたモノである。

ウイングによる音の変化は、何も本格的なバッフルを用意しなくとも、
ダンボールがあれば確認できる。
できれば硬いダンボールがいいが、エンクロージュアの高さに合わせてカットして、
エンクロージュアの左右に立ててみればいい。

やる気があればさほど時間はかからない。
これで手応えのある感触を得たならば、次は材質に凝ってみればいい。

そんなことをやれば音場感が……、とすぐに口にする人がいるのはわかっている。
でもほんとうにそうだろうか。
そんなことを口にして、自らオーディオの自由度を狭めているだけではないだろうか。

オーディオを窮屈にしているのは、意外にそんなところにもある。

Date: 2月 27th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その3)

Ardenを筆頭とするABCシリーズは1979年にユニットのフェライト化にともないMKIIとなり、
1981年10月、Arundel、Balmoralの二機種だけになってしまった。

型番からいえば、Ardenの後継機がArundel、
Berkeleyの後継機がBalmoralと思いがちだが、
Balmoral搭載のユニット口径は12インチで、Cheviotの後継機である。

BalmoralとCheviotは、一見したところ、
エンクロージュアのプロポーションは近いように思える。

ArundelとArdenは、この点が大きく違う。
Ardenはフロントバッフルの面積を大きくとったプロポーションに対し、
Arundelはずっとスリムになっている。

Ardenの外形寸法はW66.0×H99.0×D37.0cm、
ArundelはW49.8×H100.0×D48.9cmである。
フロントバッフルの横幅を縮めた分、奥行きを伸ばしている。

BBCモニター系のプロポーションに近くなっている。
Arundelの音は聴いているはずなのに、記憶がほとんどない。
Ardenの堂々とした音は、Arundelからは感じられなかったからなのかもしれない。

今時のスピーカーのトレンドばかりを王ことに汲々としている人は、
新Ardenのプロポーションを見て、音場感なんて再現できない、といいそうである。

確かにフロントバッフルの幅の狭さは有利に働きがちではあるが、
それだけでスピーカーの音・性能が決るわけではない。

瀬川先生はステレオサウンド 45号のスピーカー特集で書かれている。
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たとえばKEFの105のあとでこれを鳴らすと、全域での音の自然さで105に一歩譲る反面、中低域の腰の強い、音像のしっかりした表現は、タンノイの音を「実」とすればkEFは「虚」とでも口走りたくなるような味の濃さで満足させる。いわゆる誇張のない自然さでなく、作られた自然さ、とでもいうべきなのだろうが、その完成度の高さゆえに音に説得力が生じる。
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Ardenの試聴記である。
Legacy SeriesのArdenの味の濃さは、元のArdenよりは薄らいでいるかもしれない。
おそらくそうだろう。
それでも、あのプロポーションを見ていると、
「実」と口走りたくなる味の濃さは失っていないように思いたくなる。