Date: 11月 4th, 2017
Cate: 新製品
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新製品(Martin Logan・その2)

CLSが登場した頃の東京には、
CLSに惚れ込んだ人が店主のオーディオ店があった。

Aさんはそのオーディオ店に行き、音を聴いている。
私はステレオサウンドで働いていたから、試聴室で聴いている。

音を聴くとがっかりする。
Aさんもそうだった、ときいた。

それでもAさんはCLSを買っている。
自分のモノとして鳴らせば……、というおもいがあったからだ。

私も、きちんと鳴らせば、きっといい音が出てくるはずだ、とおもっていた。
それでもステレオサウンドの試聴室で、一度として満足な音では鳴ってくれなかった。

諦めきれなかった。
絶対にいい音で鳴るはず、そんな思い込みさえ持っていた。

とにかくCLSは低音が、ない。

傅信幸氏が「オーディオ名機読本」に、CLSの音について書かれている。
     *
良質で駆動能力の高いアンプで駆動してやると、おそろしく音の透明度が高く、晴れやかで、虫眼鏡で覗いたように音の細部を鮮明に提示する。ローレベルへの深い深い音の表現力にかけては絶品で、ヴォーカルの息遣いなどぞくぞくとさせられるリアルさである。
 左右のCLSの間には、広く深いサウンドステージが展開される。その音場の見透しのよさは清々しく、まるでCLSの周囲の空気がきれいになった感じさえする。そうしたサウンドステージに、楽器がリアルに浮かび上がる。
 大音量で体ごと振動する聴き方をしたいというのは無理だ。オーケストラを堂々と咆哮させ、往年の4ビートのジャズをねっちこい音でバリバリと鳴らすのには向かない。
 しかし、弦楽四重奏やバロックアンサンブル、ギターによる小品を聴くと、その音の粒立ちの良さ、軽々と漂う響きのしなやかさに、うっとりさせられる。
     *
残念ながら、こういう音で鳴っているCLSは聴いたことがない。
弦楽四重奏は弦楽三重奏かといいたくなるような鳴り方だ。
バロック音楽でも通奏低音はどこに? といいたくなる。

低音がいない音だと、
ヴォーカルの息遣いにぞくぞくとさせられることもない。

ステレオサウンドの試聴室だから、アンプは駆動能力の高いモノで鳴らしている。
しかも一度だけではない。
もちろん《大音量で体ごと振動する聴き方》は求めていない。

CLSにはうるおいがなかった。
これも低音がないためなのだろうか。

このうるおいのなさが、私にヴォーカルの息遣いを生々しく感じさせてくれない。
買う一歩手前だったから、CLSを諦めるのに時間がかかった。
そのくらい思い入れをもっていた。

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