Mark Levinsonというブランドの特異性(その36・補足)
夕方に、Kさんから電話があり、
瀬川先生もトーンアームの高さ調整には、ずいぶん神経を使われていたことを聞いた。
やはり瀬川先生も、レコードの厚みがかわることで、
カートリッジのヴァーティカルトラッキングアングルが変ってしまうことを指摘されており、
その都度調整されていたとのこと。
さらにレコードには、実効垂直録音角がある。
意外に思われるかもしれないが、1960年代まで、レコード会社によって、
実効垂直録音角はまちまちだった、ときいている
実効垂直録音角とは、ラッカー盤にカッティングする際、
カッター針の動きそのままの溝が、最終的に刻まれるわけではない。
もちろんカッター針で刻んだ直後は、針の動きそのままだが、
ラッカー盤の弾性によって、すこし元に戻ってしまう。いわば溝が変形してしまうわけだ。
この現象は、CBSが発見している。
これにより、垂直録音角がずれてしまう。
どの程度のズレが生じるかというと、ウェストレックスのカッターヘッド3Dだと、垂直録音角は約23度。
それが0度から1度程度になってしまう。この値が実効垂直録音角となる。
つまり22度ほど戻ることになる。
ヨーロッパのレコード会社で使われていたノイマンのカッターヘッドの垂直録音角は0度で、
実効垂直録音角は約−10度だと言われていた。
これだけまちまちだと、カッターヘッドの実効垂直録音角と
カートリッジのヴァーティカルトラッキングアングルが一致せず、
垂直信号に第2次高調波歪、混変調歪が発生、
左右チャンネル間での周波数変調歪、クロストークが発生するといわれ、
正確なピックアップは望みようもないため、
RIAAとIECによって、実効垂直録音角を15度に統一するように勧告が出された。
シュアーのV15の型番は、このヴァーティカルトラッキングアングルが15度であることを謳っているわけだ。
このようにレコードの実効垂直録音角は、ほぼ15度に統一されたわけだが、
レコード会社によって、じつはわずかに異る。
といっても以前のようにバラバラではなく、15度から大きくても20度までにおさまっていると聞いている。
だから厳密には、レコードのレーベルが違えば、厚みは同じでもトーンアームの高さ調整、
つまりカートリッジのヴァーティカルトラッキングアングルを調整すべきである。
Kさんの話では、瀬川先生は、お気に入りのレコードでは、最適と思われる角度(高さ)を見つけ出されて、
1枚1枚ごとにメモされていた、とのことだった。
最良のヴァーティカルトラッキングアングルを見つけるにはどうしたらいいかというと、
レコードの最内周での音で決める。
レコード内周ではトラッキングが外周よりも不安定になり、音像定位も不確かになってくる。
だから最外周と同じような音像定位の明確さと、フォルティシモでのトレースの安定度、
ビリツキのなさ、混濁感の少なさに耳の焦点を合わせれば、
馴れもあるけれど、最良の高さにするのは、それほど難しいことでもない。
そういえば、瀬川先生がデザインに関われていたというオーディオクラフトのAC3000 (4000) シリーズは、
高さ調整を容易にするために、目盛りがふってあったはずだ。