Archive for category ワイドレンジ

Date: 6月 3rd, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その68)

アルテックの604ユニットを中心に、スピーカーユニットを追加したシステムは6041の他に、
UREIの813が先に出ていた。

813にはトゥイーターの追加はなく3ウェイ構成。
813はその後、813Aになり、JBLに吸収されてからは813Bへとモデルチェンジしている。

813BではJBLの傘下ということもあってアルテックの604ではなく、
JBLのコンプレッションドライバー2425HとPAS社のウーファーを組み合わせた、
新たに開発された同軸型ユニットを採用している。

813Bは、さらにコンシューマー用スピーカーシステムとして813Bxというバリエーションももつ。
813Bxではエンクロージュアのプロポーションが縦にのび、
それにともない従来までの同軸型ユニットが下側、その上にサブウーファーというユニットを配置を、
通常のスピーカーシステムと同じ、下側にサブウーファー、その上に同軸型ユニットというふうに変更。
さらにサブウーファーも813Bではエミネンス社製のストレートコーン15インチ口径のものから、
JBLのコルゲーション入りの2234Hに変っている。

最初の813が日本にはいってきたのは1977年から78年にかけてのこと。813Bxが出たのは85年。
スピーカーユニットすべて変更されたというものの、設計コンセプトはほぼそのまま継承されている。

この813Bxがアルテックの6041よりも完成度が高い、といえば、低くはない、とはいえても、
高い、とはなかなかいえないところも感じる。
私としては813Bのほうはまとまりもよく、システムとしての完成度も高いと感じていたけれど、
813Bxには、期待していただけに、すこしがっかりしたところもあった。

この813Bxと同じ構成をとるシステムを、タンノイがほぼ1年後に出している。
FSM(Fine Studio Monitor)だ。

ワイドレンジ考(その64・補足)

6041のトゥイーターには、6041STという型番がついている。
3000Hはあったものの、本格的なトゥイーターとしては、アルテック初のものといえるけれど、
残念ながらアルテックによるトゥイーターではない。

作っていたのは日本のあるメーカーである。
それでも、この6041STが優れたトゥイーターであれば、OEMであったことは特に問題とすることではない。
でもお世辞にも、6041のトゥイーターは優秀なものとはいいにくい、と感じていた人はけっこういる。

たとえば瀬川先生は、ステレオサウンド53号で、
《♯6041用の新開発といわれるスーパートゥーイーターも、たとえばJBL♯2405などと比較すると、多少聴き劣りするように、私には思える。これのかわりに♯2405をつけてみたらどうなるか。これもひとつの興味である。》
と書かれていて、6041のトゥイーターがOEMだと知った後で読むと、意味深な書き方だと思ってしまう。

当時の、この文章を読んだときは、アルテックの604にJBLの2405なんて、悪い冗談のようにも感じていた。
瀬川先生が、こんなことを冗談で書かれるわけはないから、ほんとうにそう思われているんだろう、と思いながらも、
それでもアルテックにJBLの2405を組み合わせて、果してうまくいくのだろうか、と疑問だった。

1997年に、ステレオサウンドから「トゥイーター/サブウーファー徹底研究」が出た。
井上先生監修の本だ。
この本で、トゥイーターの試聴には使われたスピーカーシステムはアルテックのMilestone 604だ。
トゥイーター17機種のなかに、JBLの2405Hが含まれている。

2405Hの試聴記を引用しよう。
     *
このトゥイーターを加えると、マイルストーン604の音が、大きく変りました。まず、全体の鳴り方が、表情ゆたかに、生き生きとした感じになります。604システムそのものが、「604って、こんないい音がしていたかな?」というような変り方なんです。
(中略)TADのET703の場合には、もう少し精密工作の産物という感じの精妙さがあり、システム全体の音に少し厳しさが感じられるようになり、アルテックらしさというよりは、昔のイメージのJBLというか、現代的な音の傾向にもっていく。
ところが、2405Hでは、アルテックらしいところを残しながら、一段と広帯域型になり、音色も明るく、すっきりと、ヌケのよい音になり、表現力もナチュラルな感じです。
(中略)全体として、アルテックの良さを保ちながら、細部の質感や音場感、空間の広がりなどの情報量を大幅に向上させる、非常にレベルの高いトゥイーターです。
     *
6041に2405をつけてみたら、好結果が得られた可能性は高かったようだ。

Date: 6月 2nd, 2011
Cate: 6041, ALTEC, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その67)

アルテックの6041は完成度を高めていくことなく消えてしまった。
これはほんとうに残念なことだと思う。

6041につづいてアルテックが発表していったスピーカーシステム──、
たとえば6041のトゥイーターをそのままつけ加えただけのA7-XS、
A7を、ヴァイタヴォックスのバイトーンメイジャーのようにして、3ウェイにした9861、
30cm口径のミッドバスをもつ4ウェイの9862、
これらは、どれも大型フロアー型であるにも関わらず、ごく短期間にアルテックは開発していった。

開発、という言葉をあえて使ったが、ほんとうに開発なんのだろうか、という疑問はある。
なにか資金繰りのための自転車操業という印象さえ受ける。

当時は、なぜアルテックが、こういうことをやっているのかは理解できなかった。
2006年秋にステレオサウンドから出たJBLの別冊の210ページを読むと、なぜだったか、がはっきりとする。
アルテックは、1959年に、リング・テムコ・ヴォートというコングロマリットに買収され、
この会社が、1972年に親会社本体の収支決算の改善のためにアルテックに大きな負債を負わせた、とある。
それによりアルテックは財政的な縛りを受け、十分な製品開発・市場開拓ができなかった、と。

それならばそれで、あれこれスピーカーシステムを乱発せずに、
可能性をもっていた6041をじっくりと改良していって欲しかった。
6041の中心となっている604が、そうやってきて長い歴史を持つユニットであっただけに、
よけいにそう思ってしまう。

6041は消えてしまう。

Date: 5月 31st, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その66)

アルテックが6041の開発にどれだけの時間をかけたのかはわからない。
でもそれまでのアルテックのスピーカーシステムのつくりのコンセプトからして、
4343の成功に刺激を受けてもものであることは間違いない、と言っていいはずのことだ。

同時に、アルテック自身がほんとうにつくりたかったシステムなのか、という疑問もある。
6041は日本側──つまり輸入元からの要望──によって企画されたもの、という話はきいている。
おそらく、そうだと思う。
6041に続いて登場してきたアルテックのマルチウェイのスピーカーシステムは、
どこかちぐはぐなところを感じさせ、まとまりのよさが失われていった、と私は受けとめている。

アルテックは2ウェイでなければならない、なんてことはいわない。
むしろ6041は、ある意味、期待していたスピーカーシステムの登場であったけれど、
やはり急拵えすぎるところを残しすぎている。

これでいいんだろうか……、と6041が登場してきたときにも思った。
いまふりかえってみても、いろいろ思うところは多くある。

だから、6041は、私の中では、言い古された表現はあるけれど「未完の大器」である。
4343がいきなりぽっと登場したきたわけでないのだから、
6041もあと2ステップほど改良を重ねていってくれていたら、どうなっていただろう。

6041はII型になってはいるが、これは改良というよりは、マグネットのフェライト化によるものだ。
6041は、そこで終ってしまった。
期待していたスピーカーシステムが、中途半端に消えていってしまった……そんな感じを受けた。

私がタンノイのバッキンガム、アルテックの6041に、
あのころ強い関心をもっていたのは、ワイドレンジ実現のために、
3ウェイ、4ウェイとマルチウェイをすすめていくうえで解決しなければならない問題点に対して、
同軸型ユニットの採用は、ひとつの解答だ、と思っていたからで、これはいまも基本的には同じ考えだ。

いうまでもないことだが、同軸型だけが解答といっているわけでなはなく、
あくまでも解答のひとつ、ではあるが、有効な解答だと思っている。

Date: 5月 30th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その65)

JBLの4343は、日本では、文字通り「驚く」ほど売れた。
ペアで100万円を超える、しかも大きさも小さなものではないスピーカーシステムが、
他の人気のあったスピーカーシステムの売れゆきとは、ほんとうに桁が違っていた。
圧倒的に売れていた、といえるオーディオ機器はアンプやプレーヤーなどを含めても、
後にも先にも4343だけのはずだ。

4343があれだけ売れるのなら……と、あまい考えで4ウェイのシステムを手がけたところはいくつもある。
アルテックも、そのうちの一社である。

4343に匹敵するものをつくれば、売れる──、そう思うのは、いい。
ほんとうに匹敵するレベルに仕上げたうえで出してくれれば、よかった……。

アルテックの6041は、どう贔屓目に見ても、4343と同じ完成度には達していない。
もちろん4343も完璧なスピーカーシステムではない。欠点もいくつかあったし、
現代の視点からみれば、欠点はさらに指摘できる。

けれど、4343は1970年代後半を代表するスピーカーシステムであり、
それにふさわしいだけの内容をそなえていた、と私は思っている。

その4343は、バイアンプ駆動の4350がまず誕生し、
その4350をスケールダウンした4340(これもバイアンプ仕様)、
さらにネットワーク仕様の4341が登場し、
4341と4340を合わせて洗練したのが4343である。

4350が1973年、4340、4341が1974年、4343が1976年。
このあいだの3年をを短いと捉えるか充分な期間と捉えるのか。

JBLはアルテックの何倍もの数のスピーカーユニットを持っていた。
それまで開発してきたスピーカーシステムの数も多い。
そのJBLが4350から4343まで3年かかっている。
4350の開発にどれだけの期間がかかったのはわからない。
そこまでふくめた時間と、アルテックが6041にかけた時間の差について、つい思いがいってしまう。

Date: 5月 28th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その64)

2ウェイという「枠」のなかでワイドレンジ化をはかっていたアルテックだが、
同じ西海岸の、そしてライバル視され、
比較されることの多いJBLが積極的にワイドレンジにとりくんでいたことと比較すると、
604シリーズや802ドライバーと組み合わせて使えるトゥイーターの不在は、
いつ出てくるのだろうか、という想いでみていた。

3000Hというマルチセルラホーンがついたトゥイーターはあったものの、
マイクロフォンユニットを元にして開発された、このトゥイーターは、
ほかのアルテックのスピーカーユニットの中にあっては、毛色の異るものだった。

無理にワイドレンジ化しないのがアルテックのよさ、といわれればそれまでだが、
私としては、アルテックが本気を出せば、どこまでワイドレンジ化を実現できるのかをみたかったし、
聴いてみたい、と強く思っていた。

けれどJBLと違い、スピーカーユニットの数も種類も少ない。
新規ユニットが開発されることはなさそう、となんとなく思っていたところに、
いきなり6041があらわれた。

アルテックがやってくれた! と思いながらも、
そこかしこに急拵え的にシステムとしてまとめた、という印象もあった。

Date: 5月 28th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その63)

従来の同心円状のフェイズプラグの802-8Dと
タンジェリン状のフェイズプラグの802-8Gの周波数特性のグラフを見較べると、
7、8kHzあたりからなだらかに高域のレスポンスが下降する802-8G、
15kHzをこえたあたりで小さなディップがあるものの、ほぼ20kHz近くまで延びている802-8Gと、
はっきりと、その差(改善の度合)が表われている。

802-8Dと8Gの違いはフェイズプラグだけでなく、磁気回路も若干変更されている、とのこと

さらにModel 19では、2ウェイながら、高域と中域を独立して調整できるレベルコントロールがついたこともあり、
それまでナローな印象、それゆえの音の特徴をつくってきたアルテックのスピーカーシステムのイメージから、
Model 19はすこしばかり離れたところにいる。

このタンジェリン状のフェイズプラグが604シリーズに採用されたのは、
マルチセルラホーンからマンタレーホーンに変更した604-8Hからだと、実のところ、つい先日まで思っていた。
でも調べてみると、604-8Gの後期モデルには、すでにタンジェリン状のフェイズプラグが採用されている。
この後期の604-8Gはいちど聴いてみたいが、タンジェリン状のフェイズプラグは、いいところばかりではない。
形状からくるものとして、同心円状のものとくらべてダイアフラムに空気負荷がかかりにくくなる。
そのためA7では、802-8Dでは800Hzだったクロスオーバー周波数を、802-8Gでは1.2kHzにあげている。

604-8Gは、もともと1.5kHzとクロスオーバー周波数は高いところにあるためか、特に変更はされていない。

Date: 5月 27th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その62)

アルテックを代表するスピーカーシステムは、基本的に2ウェイだった。
プログラムソースがワイドレンジになっていっても、その姿勢はくずすことなく、
それは2ウェイに固執している、ともいいたくなる一面もあった。

そのアルテックが、コンプレッションドライバーの802-8Dのフェイズプラグを、従来の同心円状の形状から、
オレンジを輪切りにしたように、スリットが放射状に並ぶタンジェリン状のものに変更した802-8Gを出してきた。
これが1977年ごろのことだ。

タンジェリン状のフェイズプラグはアルテックによる新開発の技術のように思えたが、
実のところ、1936、37年ごろにランシング・マニュファクチュアリングによって発表されている。
と書くとランシングが考えだした、と受けとられがちだし、実際にそう記述された記事もあるが、
実際にはランシング・マニュファクチュアリングのシャインだったジョン・ブラックバーンによるもの。
1939年に特許を取得している原案では、放射状にはいるスリットの数は20本、
しかも周縁部ではスリットの隙間が広くなっている。

この時期、ランシング・マニュファクチュアリングから登場したドライバーの285に採用されたものの、
同心円状のフェイズプラグのみが採用されていった。

長い間眠り続けていた技術にアルテックが光をあて採用した、ということだ。
アルテックのタンジェリン状のフェイズプラグのスリットの数は11本で、スリット幅は周縁部も中心部は同じ。

285のフェイズプラグは写真で見るかぎり金属製のようだが、
アルテックは樹脂製にし、タンジェリンの名前を強調するかのようにオレンジ色としている。

Date: 5月 27th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その61)

スピーカーユニットに関しては、アルテックとタンノイは異る考え方でシステムを構築しているが、
エンクロージュアに関しては共通していることがある。

この項で以前書いているように、タンノイのバッキンガムのエンクロージュアは、
同時期にでていたアーデンやバークレイなどのシリーズと比較するとひじょうに堅固に作られていた。
どちらかといえば、あまりがっしりした作りではなかったアーデン、バークレイとの比較においてだけでなく、
他社のエンクロージュアと較べて(実物をみていないので断言はできないが)、しっかり作られたものだといえよう。

アルテックの604-8G(もしくは8H)をおさめたエンクロージュアは、
いわゆる銀箱と呼ばれている612、大型化したバスレフ型の620があった。
これらが、タンノイほどではないものの、それほどがっしりとしたつくりではなかったのに対し、
6041のエンクロージュアは、かなりしっかりしたつくりになっている。

同軸型ユニットを1本だけおさめたシステムは、タンノイもアルテックもエンクロージュアを、
どちらかといえば積極的に鳴らして利用していくという方向に対し、
同軸型ユニットをつかいながらも、スピーカーユニットを追加し、ワイドレンジ化をはかったシステムは、
反対にエンクロージュアの鳴きをおさえる方向でまとめている。

これはタンノイのキングダムにも、いえることだ。

Date: 5月 26th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その60)

15インチ口径の604-8Gを中心にして、
ウーファーとトゥイーターをつけ加えて4ウェイにする、という考えは浮ばなかった。

せめて30cmの同軸型ユニットが当時もラインナップされていたら、
アルテックのユニットを使った4ウェイ・スピーカーについてあれこれ想像しただろうが、
15インチ(38cm)の同軸型ユニットを、もし使うとすれば、
ウーファーは38cm口径のウーファーをダブルにするとか、18インチ(46cm)をもってくるとか、になるが、
当時アルテックには46cm口径はなかったし、
604-8Gがあって、その他に38cmウーファーが2発あるというシステムは、
JBLの4350よりも規模が大きくなりすぎて、はたしてそこまでして4ウェイにする必要はあるのだろうか、
という疑問も湧いてきて、アルテックの604を中心とした4ウェイ構想は、私のなかでは消えていった。

たとえそれが想像だけのものとしても、604を中心ユニットとする4ウェイは、
システムとしてまとめるのが難しいのでは? というのは、オーディオに関心を持ちはじめたばかりの私でも思う。

ところが1980年にアルテックから6041が登場した。
604-8Hを中心とした4ウェイのスピーカーシステムである。
正直、驚いた。

タンノイはバッキンガムの開発にあたって、従来のスピーカーユニットを使って、ではなく、
同軸型ユニットもウーファーも新たに設計し作っているのに対し、
アルテックは既存のスピーカーユニットを組み合わせて、それも力づくで組み合わせたという印象がのこる、
そんなまとめ方で、6041を出してきた。

6041のトゥイーターは新開発のものだと当時はアナウンスされていたが、実のところ日本製だった。
当時アルテックには3000Hというトゥイーターはあったが、604-8Hと組み合わせて、
いい結果が得られそうな設計のものではなかった。

Date: 5月 26th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その59)

瀬川先生の4ウェイ構想の記事をよんだときに、
タンノイ同軸型ユニットから発展させていく、という案を私なりに考えたことがある。

10cmから20cmくらいのフルレンジユニットから発展させていく4ウェイ構想の最初を、
タンノイの同軸型ユニット、それも38cmや30cm口径ではなく、
いちばん口径の小さな25cmのHPD295でいくというものだった。

25cm口径ならば、JBlの4343のミッドバス2121の口径は同じ。
すでに、4343のミッドハイに相当する高域ユニットも、同軸型ユニットだからすでにあるわけで、
HPD295を中心ユニットとして、ウーファーとトゥイーターをつけ加えて、4ウェイに仕上げる。

タンノイからはウーファー単体は発売されていなかった(ずっと以前は発売されていたが)ので、
ウーファーには同じイギリスということで、ヴァイタヴォックスかな、
トゥイーターは、これまたタンノイからは単体のユニットは出ていないから、
テクニクスの10TH1000(リーフ型)かパイオニアのPT-R7、
もしくはトゥイーターをネットワークではなく、専用アンプを用意して鳴らすのであれば、
能率が多少低くても使えるので、デッカのDK30を、
マークレビンソンのHQDシステムのアイディア拝借してホーンを外して使う、とか、
そんなことを考えていた時期がある。

だからバッキンガムがタンノイから登場したときには、全体の構成にやや物足りなさは感じながらも、
構想には惹かれるものがあった。

同軸型ユニットには、アルテックもある。
でもアルテックには、604-8Gしかなかった。
タンノイのように口径のヴァリエーションはなかった。

Date: 5月 25th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その58)

GRFメモリーの登場・成功によって健在ぶりを示しはじめたタンノイは、
翌年ウェストミンスターとエジンバラを発表。
1983年にはスターリング、’86年には創立60周年を記念したモデル、RHRを出す。

名声を回復していくタンノイのラインナップから、バッキンガム、ウィンザーはいつのまにか消えていた。
オートグラフの思想を受けついだモデルであるはずなのに、短い寿命だった。
バッキンガムの後継機種は発表されなかった。

だからウェストミンスターが、現代版オートグラフとして認識されていったように思う。

’90年に、スタジオモニターとしてSystem 215が出る。
15インチの同軸型ユニットに同口径のウーファーを加えたものだが、これをバッキンガムの後継機種とは呼べない。
System 215は’93年にMKIIに改良されたが、地味な存在には変りはなかった。

’88年には、アルニコマグネットを復活させた同軸型ユニットを搭載したカンタベリー15と
カンタベリー12も出している。

’81年以降のタンノイの流れをみていると、バッキンガムの後継機種はもう現れないものと勝手に思っていた。
ところがキングダムが登場した。1996年のことだ。

キングダムこそ、バッキンガムに感じていた物足りなさを完全に払拭しただけではなく、
オートグラフの思想を受けついだ、しかもオートグラフと肩を並べることのできるスピーカーシステムが、
やっと登場してくれた、と思わせてくれた。
オートグラフの登場から43年かかって、キングダムは登場した。

Date: 5月 24th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その57)

オートグラフの設計思想は、バッキンガムに生きている、ということについては、
頭では理解できても、心情的には納得できない、ものたりなさを感じるところが、
オーディオマニアとしては、ある。

この時代のタンノイはハーマン傘下になっていた。
だから、とは断言できないものの、バッキンガムの同軸型ユニットの前面にとりつけられた音響レンズに、
時代におもねっているような印象を拭い去れないし、
エンクロージュアのつくりがすごいのはわかっていても、スピーカーシステムとしてとらえたときに、
ここがこうなっていたら、とか、あそこはこうしたら、とか(こういったことは素人の戯言であっても)、
そんなことをいいたくなってしまう。

バッキンガムのあとに、タンノイはスーパーレッドモニター(SRM)というモニタースピーカーを出す。
往時の同社のユニット、モニターレッドを思い浮ばせる名称のついた、このシステムは、
アーデンのエンクロージュアを、よりしっかりと作ったもの、といえる。

バッキンガムの音響レンズは、当時売れに売れていたJBLの4343の影響かしら、と勘ぐりたくなるし、
SRMは、タンノイのユニットを強固なエンクロージュアにおさめ、
タンノイ純正のシステムでは出しえない、味わえない、
そんなタンノイの同軸型ユニットの魅力を引き出したロックウッドの二番煎じ、というふうに受けとれなくもない。

どちらもすこし意地の悪い見方ではある、と自分でも思う。
けれど、オートグラフをつくっていた会社なのだから……、と心の奥底でタンノイには期待しているからこそ、
こんなこともいいたくなってしまう。

がんばってはいる、けれど……という印象がどこかに残っていたタンノイは、
1981年にハーマン傘下から独立し、GRFメモリーを発表する。

Date: 5月 24th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その56)

    ここで話は、この項の(その30)から(その36)にかけて書いているバッキンガムのことにもどる。

    ステレオサウンド別冊の「世界のオーディオ」のタンノイ号掲載のリビングストン氏のインタビューの中に、
    「オートグラフとGRFを開発した時と同じ思想をバッキンガム、ウィンザーにあてはめているわけで、
    オートグラフ、GRFの関係をそっくりバッキンガム、ウィンザーに置き換えられるようになっているんです。」
    と語っている。

    つまりオートグラフの思想を現代技術で受けつぎ、生きているスピーカーシステムがバッキンガム、ということだ。

    バッキンガムの構成については前に書いてるのでそちらをお読みいただきたいが、
    形態的にはオートグラフとバッキンガムは大きく異っていて、
    その思想も、短絡的に捉えてしまえば、同じとはいえない、といえそうである。

    1978年にオートグラフもバッキンガムも同時に開発されたスピーカーシステムだとしたら、
    このふたつのスピーカーシステムはまったく異るスピーカーシステムといえる。

    だがオートグラフは1953年に、バッキンガムは1978年に登場したスピーカーシステムだ。
    25年の隔たりが、オートグラフとバッキンガムのあいだには存在する。
    この間には技術は進化し、スピーカーシステムを置く聴き手側の環境も変化している。
    プログラムソースの変化も、いうまでもなく、大きいものとしてある。

    これらの変化が反映された結果が、
    オートグラフから25年目に登場したバッキンガムだ、と受けとることもできるはずだ。

    同じことがオートグラフとウェストミンスターにもいえる。
    オートグラフと1982年登場のウェストミンスターとのあいだには、29年の隔たりがある。
    オートグラフとウェストミンスターは同じ時期に開発されたスピーカーシステムではない、ということ。
    このことが、オートグラフとウェストミンスターの形態的には似ているけれど、
    設計思想においては、必ずしも同じものではない、ことにつながっていく。

Date: 4月 28th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その55)

菅野先生が、ウェストミンスターは60Hz以下の低音は諦めている設計だと言われた理由も、
菅野先生に「なぜウェストミンスターは、あんなに大きいの低音が出ないのか」と相談された方がそう感じた理由も、
ウェストミンスターのバックロードホーンが受け持つ、この構造ならではの量感の独特の豊かさが、
実のところ、それほど低い帯域まで延びていないためだと思っている。

ウェストミンスターが、もしオートグラフと同じコーナーホーン型であったら、
あの豊かで風格を築く土台ともなっている低音は、もう少し下まで延びていく、と考える。
でもウェストミンスターはエンクロージュアの裏側をフラットにして、コーナーに置くことをやめている。
コーナー・エフェクトによる低音の増強・補強を嫌った、ともいえる。

その結果として、ウェストミンスターはオートグラフよりも、使いやすくなったスピーカーシステムといえる。
堅固なコーナー、しかも5m前後の壁の長さを用意しなくてもすむ。
設置の自由度もはるかに増している。

ステレオサウンドの試聴室ではじめてウェストミンスターを聴いたときも、
五味先生のオートグラフとの格闘の歴史を、何度もくり返し読んでいただけに、
拍子抜けするほどあっさりと鳴ってくれたのには、驚いた。
これがスピーカーの進歩かもしれないけど、反面、物足りなさも感じていた。

オートグラフでは、まず設置の難しさがある。
それだけに理想的なコーナーと壁を用意できれば、
あの当時のスピーカーシステムとしては低域に関してもワイドレンジだといえる(はずだ)。

ウェストミンスターは、そんな設置の難しさはない。
それだけに低域に関しては、ワイドレンジとはいえないところがある。

このことは、私にとって、以前「タンノイ・オートグラフ」で書いたこと、
オートグラフはベートーヴェンで、ウェストミンスターはブラームス、ということにつながっていく。