Archive for category ワイドレンジ

Date: 10月 25th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって・その2)

「よくマンガであるだろう、頭を殴られて目から火花や星が飛び出す、というのが。」
こんな出だしで、菅野先生が話してくださったのは岩崎先生の音について訊ねたときのことである。

「岩崎さんの音をはじめて聴いた時、ほんとうに目から火花が出たんだ。まるでマンガのようにね」と続けられた。
そのくらいの衝撃が、岩崎先生の音にはあったということでもある。

それは単に大音量ということだけにはとどまらない、岩崎先生ならではの音の衝撃なのだろうと思う。
いったいどういう音であれば、それを聴いて、目から火花が出るのを感じられるのだろうか。

大音量再生は、なんどか経験がある。
ただ音量が大きいだけのこともあったし、ひじょうに優れた大音量再生もあったが、
いずれもそれは空気のマスとしての大音量再生であったから、
そこでパルシヴな音が鳴っても、頭をガーンと殴られて目から火花が出る、ということは微塵もなかった。

おそらくこれから先も、そういう音を聴くことはない、と思っている。
それに近い音を聴くことはあるかもしれないが、
菅野先生が体験された岩崎先生の音と同じ衝撃を体験できる音は、
もう岩崎先生がこの世におられないのだから、もう想像していくしかない。

いったいどういう音なのか、は、岩崎先生の文章の中にヒントがある。
というより答そのものである、というべきか。
     *
アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。
     *
この岩崎先生ならではの「表現」は、もうなんども読み返した。
別項「40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏)」でも、すでに引用している。
今後も、また引用することになる、と思っている。

これが岩崎先生の音であり、これを実現されていたからこそ、
菅野先生が火花を感じられた、といえるのではないか。

Date: 10月 24th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって・その1)

これまで聴いてきたジャズのレコードは、
これまで聴いてきたクラシックのレコードの10分の1ぐらいでしかない。
しかも1990年以降に録音されたジャズのレコードは一枚ももっていない。

ジャズ好きの方からみれば、その程度のジャズの聴き手にしかすぎないわけだが、
ジャズの魅力は、徹底してインプロヴィゼーションにあることは、充分に感じている。

だから、以前、「使いこなしのこと」の項でも書いたように、
インプロヴィゼーションを大切にしているジャズの聴き手であるなら、
自分のオーディオの調整に誰かにまかせるべきではない。

菅野先生が「レコード演奏」という考えにたどりつかれたのも、
クラシックだけでなくジャズの熱心な聴き手でもあったことが関係しているはず。

ほんとうにジャズにおけるインプロヴィゼーションを大切にしている聴き手であれば、
ジャズのレコードを自分のオーディオ機器で鳴らすという行為は、
自分のオーディオ機器を楽器として、己のインプロヴィゼーションをそこでレコードを借りて演奏することのはず。

であるなら、そこでのオーディオ機器は、ジャズの演奏家にとっての楽器と同じである。
誰かに自分のオーディオ機器を調整してもらうということは、
己のインプロヴィゼーションを、
自分の楽器を赤の他人に渡して代りに演奏してもらう、ということではないだろうか。

このことを改めて考えていて思ったのは、
ジャズにとってのワイドレンジと、クラシックにとってのワイドレンジは、
共通するところもありながらも、そこにインプロヴィゼーションに関係する違いがはっきりとあり、
また別項「ベートーヴェン」のところでふれた動的平衡とも関係する違いがあり、
これは「いろ(ジャズ)」のワイドレンジと、
「かたち(クラシック)」のワイドレンジということがいえるはず、ということだ。

Date: 8月 20th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その74)

JBL4343のウーファーとミッドバスの口径は15インチと10インチ、
タンノイのKingdomの弟分として登場したKingdom 15は、
型番の末尾の数字があらわしているようにウーファー口径がKingdomの18インチから15インチへ変更されている。
この変更にともないミッドバス、ミッドハイをうけもつ同軸型ユニットの口径も、
Kingdomの12インチから10インチと、ひとまわり小さくなっている。
コーン型のウーファーとミッドバスの口径は4343と同じになっている。

これは単なる偶然なのだろうか。

何度も書いている瀬川先生の、
ステレオサウンド別冊のHIGH-TECHNIC SERIES 1に掲載されていた4ウェイ構想の記事を読んだとき、
なぜJBLの4343のミッドバスは10インチであって、8インチにしなかったのか、と疑問に思ったことがあった。

ウーファーとのクロスオーバー周波数がかなり低いのであれば口径がある程度あった方が有利なのはわかるが、
4343では300Hzである。8インチ(20cm)口径のユニットでも十分だし、
口径が小さくなった分だけ中高域の特性はよくなるし、
瀬川先生の記事にもフルレンジの20cmから10cm口径の良質なものを選ぶことから始める、とあった。

そう思ったのは、いまから34年前の話。
4343への関心が強くなっていくほどに8インチじゃなくて、10インチを選択したことを自分なりに納得がいった。

4343(その前身の4341を含めて)が成功したのは、いくつかの要因がうまく関係してのことであろうが、
そのひとつにウーファーとミッドバス、
このふたつのコーン型ユニットの口径比は大きく関係している、と思っている。

だから、Kingdomが成功したのは、このウーファーとミッドバス(同軸型ユニット)の口径比のおかげだ、
という短絡的な断言はしないけれど、それでもこれ以外の口径比で成功はありえなかったはず、だ。

Date: 6月 18th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その73)

JBLの4343を例にとると、改めて書くまでもないことだと思うが、
ウーファーは15インチ、ミッドバスは10インチで、ほぼ黄金比となる。

少しばかりミッドバスが大きい、だから黄金比なんてのはお前のこじつけだ、と言われる方がいるかもしれない。
これもいうまでもないことだが、コーン型のスピーカーユニットの口径は、公称口径であって、
振動板の有効径ではない。
有効径は大略では、38cm口径だと33〜34cm、25cm口径だと20〜21cmあたりになる。
34cmで黄金比を出してみると、21.01cmとなる。

4343のウーファー2231Aとミッドバスの2121の有効径がどれだけなのか正確にはわからないけれど、
公称口径よりも有効径のほうが、より黄金比に近づいているはずだ。

4343(4341)が、4ウェイという難しい構成で成功をおさめた理由のひとつは、
このウーファーとミッドバスの口径比にある気がしてならない。

4343のウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は300Hz。
300Hzだったら20cm(8インチ)口径のコーン型ユニットでも問題なくカヴァーできる。
そこに25cm(10インチ)口径をもってきている。

もちろん、その理由は音を聴いてのものであるけれど、それだけだろうかとも思う。

4341も4343もミッドバスの2121とミッドハイの2420+2307-2308はインラインで配置されている。
2121のフレームは八角形。正八角形ではなくフレームの外形横幅は260.4mmと236.5mmで、
4343、4341のユニットの取り付けだと横幅は236.5mmである。

そのすぐ上に配置されているスラントプレートの音響レンズ2308の横幅は254.0mm。
236.5mmと254.0mmで、その差は17.5mm。

これがもし20cm口径のミッドバスだとしたら、2115Aの寸法を187.3mmと209.6mm。
187.3mmと254.0mmの差は66.7mm。

2121と2308の横幅はほぼ同じなのに対し、2115Aと2308だと2308がずいぶん大きい。
この横幅がほぼ揃っていることが4343、4341のデザインを、
特に4343のデザインの完成度を高いものにしている。

ここは4343において、絶対に変更してはいけないポイントでもある。

Date: 6月 16th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その72)

4ウェイといっても、そのシステム構成の考え方はひとつではない。
3ウェイのスピーカーシステムに、スーパートゥイーターもしくはサブウーファーを足すかたちのものもあれば、
2ウェイのスピーカーシステムをベースに、高低域両端に専用のユニットを追加するかたちもあり、
JBLの4343やアルテックの6041、タンノイのKingdomは後者である。

3ウェイをベースにスーパートゥイーターを加えるものだと、
ユニット構成は、国産の3ウェイスピーカーシステムの多くの例からすれば、
コーン型の採用はウーファーだけ、ということも十分ありうる。

同じ3ウェイ・ベースでもサブウーファーをつけ足すのでは、コーン型ユニットは最低でも2つ使われることになる。
2ウェイ・ベースでもそれは同じ。コーン型ユニットが、最低でもウーファーとミッドバスに使われる。

これから書くことになにひとつ技術的な根拠はない。
感覚的な印象ではなるが、コーン型ユニットがウーファーとミッドバスに使われた場合、
このふたつのユニットの口径比は4ウェイ・システムの成否に深く関わっているように思う。

ウーファーに対してミッドバスの口径が大きすぎる(もしくは小さすぎる)と感じられるスピーカーシステムと、
うまくバランスがとれていると感じられるスピーカーシステムがある。

ウーファーに対して大きすぎる口径(小さすぎる口径)のミッドバス、
反対の言い方もとうぜん可能で、ミッドバスの口径に対して大きすぎる口径(小さすぎる口径)のウーファー、
──そんなものは人それぞれの感覚によって違ってくる、とは思っていない。

ここにはひとつの最適解がある、はずだ。

黄金比がある。
計算してみると、18インチに対しては11.12インチとなる。46cmで計算すると28.43cm。
15インチでは9.27インチとなり、38cmでは23.49cm、となる。

Date: 6月 10th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その71)

Kingdomと同じ18インチ口径のウーファーの4ウェイ・システムにJBLの4345があるが、
Kingdomは規模としては、4345というよりも4350に相当する、といってもいい。

4350の外形寸法はW1210×H890×D510mmで、重量は110kg。
横置きスタイルの4350を縦置きにしてみてならべてみると、横幅(4350の高さ)が狭いだけで、
あとはKingdomのほうが大きいから、その大きさがより実感できると思う。

ミッドバスを受け持つユニットの口径は12インチで、4350もKingdomも同じ。
低域は4350は15インチ口径が2発、Kingdomは18インチ口径が1発だから、
振動板の面積は4350のほうが大きいが、振動体積という点からみれば、
15インチ2発と18インチ1発は、ほぼ同じくらいのはずだ。

4350はJBL初の4ウェイ・システムであり、Kingdomはタンノイ初の4ウェイ・システムであり、
システムの規模のほぼ同じといえる。

JBLは4350の1年後に4341(4340)を発表している。
タンノイもKingdomの翌年に、Kingdom 15を出している。

この4341(4343といっていい)とKingdom 15が、
4350とKingdomと同じように、対比できる、ほぼ同じ規模のスピーカーシステムとなっている。

4343は15インチ口径のウーファー、10インチ口径のミッドバス、
Kingdom 15は型番が示すようにウーファーが15インチになり、同軸型ユニットは10インチと、
Kingdomよりもひとまわりちいさくまとめられている。

このウーファーとミッドバスの口径比は偶然なのだろうか、と思えてくる。

Date: 6月 5th, 2011
Cate: Kingdom, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その70)

1996年に、タンノイ創立70周年モデルとしてKingdomが登場した。
バッキンガムの登場からほぼ20年が経過して、やっと登場した、という思いがあった。

バッキンガム、FSM、System215と、
同軸型ユニットとウーファーの組合せに(あえてこういう表現を使うが)とどまっていたタンノイが、
トゥイーターを追加して4ウェイのシステムを手がけた。

しかもFSMやSystem215と違う、大きな点は、その時点でのタンノイがもつ技術を結集した、
といいたくなるレベルで、Kingdomを出してきてくれたことが、なにより嬉しかった。

瀬川先生は、JBLから4350、4341が発表されたときに、
「あれっ、俺のアイデアが応用されたのかな?」と錯覚したほどだった、と書かれている。
Kingdomが出たときに、さすがにそうは思わなかったけど、
それでも同軸型ユニットを中心とした4ウェイ構想は間違っていなかった、
それがKingdomで証明されるはず、と思ってしまった。

Kingdomは12インチの同軸型ユニットを中心に、
下の帯域を18インチ口径のウーファー、上の帯域を1インチ口径のドーム型トゥイーターで拡充している。

Kingdomの外形寸法はW780×H1400×D655mmで、重量は170kg。
タンノイのこれまでのスピーカーシステムのなかで、もっとも大型でもっとも重い体躯をもつ、
このスピーカーシステムこそ、私はオートグラフの現代版として捉えている。

同時に、アルテックの6041の行きつく「形」だとも思っていた。

Date: 6月 3rd, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その69)

UREIの813BxとタンノイのFSMは、見た目、よく似ている。

どちらもユニット構成は15インチの同軸型で、同口径のサブウーファーを追加した3ウェイということ。
同軸型ユニットの横に、どちらもレベルコントロール用のパネルがあり、
エンクロージュアの寸法も、813BxがW711×H908×D533mm、FSMがW716×H1112×D541mmで、
FSMが少し背が高いくらいで、しかもどちらも袴(台輪)つき。
重量も813Bxは85kg、FSMは83kg。

だからといって後に出たタンノイのFSMが813Bxを真似たわけでもなく、
たまたま偶然似た仕様になっただけのことだろう。
FSMは、1990年ごろ、MKIIに改良されている。

けれど813BxもFSMも、あまり注目はされていなかった印象がある。
私自身、同軸型ユニットを中心とした4ウェイ構成を頭のなかでは思い描きながらも、
3ウェイとはいえ、同軸型ユニットをベースとした、これらのスピーカーシステムにあまり関心をもてなかった。

トゥイーターがなくて、3ウェイだったから──、そんな単純な理由からではない。
結局、聴き手のこちらの心をとらえる音が、そこから得られなかったからだ。

優れた同軸型ユニットの存在がなければ、同軸型ユニットを中心にしたシステムは、当然だが成り立たない。
その同軸型ユニットは、他のウーファーやトゥイーターにくらべて、構造が複雑化するためもあって、
このころは種類もごく限られていた。
1980年代に新たに登場した同軸型ユニットとなると、ガウスのものしか思い浮ばない。

いつしか私の中で、同軸型ユニットを中心とした4ウェイ構成は薄れていってしまった。

Date: 6月 3rd, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その68)

アルテックの604ユニットを中心に、スピーカーユニットを追加したシステムは6041の他に、
UREIの813が先に出ていた。

813にはトゥイーターの追加はなく3ウェイ構成。
813はその後、813Aになり、JBLに吸収されてからは813Bへとモデルチェンジしている。

813BではJBLの傘下ということもあってアルテックの604ではなく、
JBLのコンプレッションドライバー2425HとPAS社のウーファーを組み合わせた、
新たに開発された同軸型ユニットを採用している。

813Bは、さらにコンシューマー用スピーカーシステムとして813Bxというバリエーションももつ。
813Bxではエンクロージュアのプロポーションが縦にのび、
それにともない従来までの同軸型ユニットが下側、その上にサブウーファーというユニットを配置を、
通常のスピーカーシステムと同じ、下側にサブウーファー、その上に同軸型ユニットというふうに変更。
さらにサブウーファーも813Bではエミネンス社製のストレートコーン15インチ口径のものから、
JBLのコルゲーション入りの2234Hに変っている。

最初の813が日本にはいってきたのは1977年から78年にかけてのこと。813Bxが出たのは85年。
スピーカーユニットすべて変更されたというものの、設計コンセプトはほぼそのまま継承されている。

この813Bxがアルテックの6041よりも完成度が高い、といえば、低くはない、とはいえても、
高い、とはなかなかいえないところも感じる。
私としては813Bのほうはまとまりもよく、システムとしての完成度も高いと感じていたけれど、
813Bxには、期待していただけに、すこしがっかりしたところもあった。

この813Bxと同じ構成をとるシステムを、タンノイがほぼ1年後に出している。
FSM(Fine Studio Monitor)だ。

ワイドレンジ考(その64・補足)

6041のトゥイーターには、6041STという型番がついている。
3000Hはあったものの、本格的なトゥイーターとしては、アルテック初のものといえるけれど、
残念ながらアルテックによるトゥイーターではない。

作っていたのは日本のあるメーカーである。
それでも、この6041STが優れたトゥイーターであれば、OEMであったことは特に問題とすることではない。
でもお世辞にも、6041のトゥイーターは優秀なものとはいいにくい、と感じていた人はけっこういる。

たとえば瀬川先生は、ステレオサウンド53号で、
《♯6041用の新開発といわれるスーパートゥーイーターも、たとえばJBL♯2405などと比較すると、多少聴き劣りするように、私には思える。これのかわりに♯2405をつけてみたらどうなるか。これもひとつの興味である。》
と書かれていて、6041のトゥイーターがOEMだと知った後で読むと、意味深な書き方だと思ってしまう。

当時の、この文章を読んだときは、アルテックの604にJBLの2405なんて、悪い冗談のようにも感じていた。
瀬川先生が、こんなことを冗談で書かれるわけはないから、ほんとうにそう思われているんだろう、と思いながらも、
それでもアルテックにJBLの2405を組み合わせて、果してうまくいくのだろうか、と疑問だった。

1997年に、ステレオサウンドから「トゥイーター/サブウーファー徹底研究」が出た。
井上先生監修の本だ。
この本で、トゥイーターの試聴には使われたスピーカーシステムはアルテックのMilestone 604だ。
トゥイーター17機種のなかに、JBLの2405Hが含まれている。

2405Hの試聴記を引用しよう。
     *
このトゥイーターを加えると、マイルストーン604の音が、大きく変りました。まず、全体の鳴り方が、表情ゆたかに、生き生きとした感じになります。604システムそのものが、「604って、こんないい音がしていたかな?」というような変り方なんです。
(中略)TADのET703の場合には、もう少し精密工作の産物という感じの精妙さがあり、システム全体の音に少し厳しさが感じられるようになり、アルテックらしさというよりは、昔のイメージのJBLというか、現代的な音の傾向にもっていく。
ところが、2405Hでは、アルテックらしいところを残しながら、一段と広帯域型になり、音色も明るく、すっきりと、ヌケのよい音になり、表現力もナチュラルな感じです。
(中略)全体として、アルテックの良さを保ちながら、細部の質感や音場感、空間の広がりなどの情報量を大幅に向上させる、非常にレベルの高いトゥイーターです。
     *
6041に2405をつけてみたら、好結果が得られた可能性は高かったようだ。

Date: 6月 2nd, 2011
Cate: 6041, ALTEC, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その67)

アルテックの6041は完成度を高めていくことなく消えてしまった。
これはほんとうに残念なことだと思う。

6041につづいてアルテックが発表していったスピーカーシステム──、
たとえば6041のトゥイーターをそのままつけ加えただけのA7-XS、
A7を、ヴァイタヴォックスのバイトーンメイジャーのようにして、3ウェイにした9861、
30cm口径のミッドバスをもつ4ウェイの9862、
これらは、どれも大型フロアー型であるにも関わらず、ごく短期間にアルテックは開発していった。

開発、という言葉をあえて使ったが、ほんとうに開発なんのだろうか、という疑問はある。
なにか資金繰りのための自転車操業という印象さえ受ける。

当時は、なぜアルテックが、こういうことをやっているのかは理解できなかった。
2006年秋にステレオサウンドから出たJBLの別冊の210ページを読むと、なぜだったか、がはっきりとする。
アルテックは、1959年に、リング・テムコ・ヴォートというコングロマリットに買収され、
この会社が、1972年に親会社本体の収支決算の改善のためにアルテックに大きな負債を負わせた、とある。
それによりアルテックは財政的な縛りを受け、十分な製品開発・市場開拓ができなかった、と。

それならばそれで、あれこれスピーカーシステムを乱発せずに、
可能性をもっていた6041をじっくりと改良していって欲しかった。
6041の中心となっている604が、そうやってきて長い歴史を持つユニットであっただけに、
よけいにそう思ってしまう。

6041は消えてしまう。

Date: 5月 31st, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その66)

アルテックが6041の開発にどれだけの時間をかけたのかはわからない。
でもそれまでのアルテックのスピーカーシステムのつくりのコンセプトからして、
4343の成功に刺激を受けてもものであることは間違いない、と言っていいはずのことだ。

同時に、アルテック自身がほんとうにつくりたかったシステムなのか、という疑問もある。
6041は日本側──つまり輸入元からの要望──によって企画されたもの、という話はきいている。
おそらく、そうだと思う。
6041に続いて登場してきたアルテックのマルチウェイのスピーカーシステムは、
どこかちぐはぐなところを感じさせ、まとまりのよさが失われていった、と私は受けとめている。

アルテックは2ウェイでなければならない、なんてことはいわない。
むしろ6041は、ある意味、期待していたスピーカーシステムの登場であったけれど、
やはり急拵えすぎるところを残しすぎている。

これでいいんだろうか……、と6041が登場してきたときにも思った。
いまふりかえってみても、いろいろ思うところは多くある。

だから、6041は、私の中では、言い古された表現はあるけれど「未完の大器」である。
4343がいきなりぽっと登場したきたわけでないのだから、
6041もあと2ステップほど改良を重ねていってくれていたら、どうなっていただろう。

6041はII型になってはいるが、これは改良というよりは、マグネットのフェライト化によるものだ。
6041は、そこで終ってしまった。
期待していたスピーカーシステムが、中途半端に消えていってしまった……そんな感じを受けた。

私がタンノイのバッキンガム、アルテックの6041に、
あのころ強い関心をもっていたのは、ワイドレンジ実現のために、
3ウェイ、4ウェイとマルチウェイをすすめていくうえで解決しなければならない問題点に対して、
同軸型ユニットの採用は、ひとつの解答だ、と思っていたからで、これはいまも基本的には同じ考えだ。

いうまでもないことだが、同軸型だけが解答といっているわけでなはなく、
あくまでも解答のひとつ、ではあるが、有効な解答だと思っている。

Date: 5月 30th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その65)

JBLの4343は、日本では、文字通り「驚く」ほど売れた。
ペアで100万円を超える、しかも大きさも小さなものではないスピーカーシステムが、
他の人気のあったスピーカーシステムの売れゆきとは、ほんとうに桁が違っていた。
圧倒的に売れていた、といえるオーディオ機器はアンプやプレーヤーなどを含めても、
後にも先にも4343だけのはずだ。

4343があれだけ売れるのなら……と、あまい考えで4ウェイのシステムを手がけたところはいくつもある。
アルテックも、そのうちの一社である。

4343に匹敵するものをつくれば、売れる──、そう思うのは、いい。
ほんとうに匹敵するレベルに仕上げたうえで出してくれれば、よかった……。

アルテックの6041は、どう贔屓目に見ても、4343と同じ完成度には達していない。
もちろん4343も完璧なスピーカーシステムではない。欠点もいくつかあったし、
現代の視点からみれば、欠点はさらに指摘できる。

けれど、4343は1970年代後半を代表するスピーカーシステムであり、
それにふさわしいだけの内容をそなえていた、と私は思っている。

その4343は、バイアンプ駆動の4350がまず誕生し、
その4350をスケールダウンした4340(これもバイアンプ仕様)、
さらにネットワーク仕様の4341が登場し、
4341と4340を合わせて洗練したのが4343である。

4350が1973年、4340、4341が1974年、4343が1976年。
このあいだの3年をを短いと捉えるか充分な期間と捉えるのか。

JBLはアルテックの何倍もの数のスピーカーユニットを持っていた。
それまで開発してきたスピーカーシステムの数も多い。
そのJBLが4350から4343まで3年かかっている。
4350の開発にどれだけの期間がかかったのはわからない。
そこまでふくめた時間と、アルテックが6041にかけた時間の差について、つい思いがいってしまう。

Date: 5月 28th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その64)

2ウェイという「枠」のなかでワイドレンジ化をはかっていたアルテックだが、
同じ西海岸の、そしてライバル視され、
比較されることの多いJBLが積極的にワイドレンジにとりくんでいたことと比較すると、
604シリーズや802ドライバーと組み合わせて使えるトゥイーターの不在は、
いつ出てくるのだろうか、という想いでみていた。

3000Hというマルチセルラホーンがついたトゥイーターはあったものの、
マイクロフォンユニットを元にして開発された、このトゥイーターは、
ほかのアルテックのスピーカーユニットの中にあっては、毛色の異るものだった。

無理にワイドレンジ化しないのがアルテックのよさ、といわれればそれまでだが、
私としては、アルテックが本気を出せば、どこまでワイドレンジ化を実現できるのかをみたかったし、
聴いてみたい、と強く思っていた。

けれどJBLと違い、スピーカーユニットの数も種類も少ない。
新規ユニットが開発されることはなさそう、となんとなく思っていたところに、
いきなり6041があらわれた。

アルテックがやってくれた! と思いながらも、
そこかしこに急拵え的にシステムとしてまとめた、という印象もあった。

Date: 5月 28th, 2011
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その63)

従来の同心円状のフェイズプラグの802-8Dと
タンジェリン状のフェイズプラグの802-8Gの周波数特性のグラフを見較べると、
7、8kHzあたりからなだらかに高域のレスポンスが下降する802-8G、
15kHzをこえたあたりで小さなディップがあるものの、ほぼ20kHz近くまで延びている802-8Gと、
はっきりと、その差(改善の度合)が表われている。

802-8Dと8Gの違いはフェイズプラグだけでなく、磁気回路も若干変更されている、とのこと

さらにModel 19では、2ウェイながら、高域と中域を独立して調整できるレベルコントロールがついたこともあり、
それまでナローな印象、それゆえの音の特徴をつくってきたアルテックのスピーカーシステムのイメージから、
Model 19はすこしばかり離れたところにいる。

このタンジェリン状のフェイズプラグが604シリーズに採用されたのは、
マルチセルラホーンからマンタレーホーンに変更した604-8Hからだと、実のところ、つい先日まで思っていた。
でも調べてみると、604-8Gの後期モデルには、すでにタンジェリン状のフェイズプラグが採用されている。
この後期の604-8Gはいちど聴いてみたいが、タンジェリン状のフェイズプラグは、いいところばかりではない。
形状からくるものとして、同心円状のものとくらべてダイアフラムに空気負荷がかかりにくくなる。
そのためA7では、802-8Dでは800Hzだったクロスオーバー周波数を、802-8Gでは1.2kHzにあげている。

604-8Gは、もともと1.5kHzとクロスオーバー周波数は高いところにあるためか、特に変更はされていない。