ワイドレンジ考(その65)
JBLの4343は、日本では、文字通り「驚く」ほど売れた。
ペアで100万円を超える、しかも大きさも小さなものではないスピーカーシステムが、
他の人気のあったスピーカーシステムの売れゆきとは、ほんとうに桁が違っていた。
圧倒的に売れていた、といえるオーディオ機器はアンプやプレーヤーなどを含めても、
後にも先にも4343だけのはずだ。
4343があれだけ売れるのなら……と、あまい考えで4ウェイのシステムを手がけたところはいくつもある。
アルテックも、そのうちの一社である。
4343に匹敵するものをつくれば、売れる──、そう思うのは、いい。
ほんとうに匹敵するレベルに仕上げたうえで出してくれれば、よかった……。
アルテックの6041は、どう贔屓目に見ても、4343と同じ完成度には達していない。
もちろん4343も完璧なスピーカーシステムではない。欠点もいくつかあったし、
現代の視点からみれば、欠点はさらに指摘できる。
けれど、4343は1970年代後半を代表するスピーカーシステムであり、
それにふさわしいだけの内容をそなえていた、と私は思っている。
その4343は、バイアンプ駆動の4350がまず誕生し、
その4350をスケールダウンした4340(これもバイアンプ仕様)、
さらにネットワーク仕様の4341が登場し、
4341と4340を合わせて洗練したのが4343である。
4350が1973年、4340、4341が1974年、4343が1976年。
このあいだの3年をを短いと捉えるか充分な期間と捉えるのか。
JBLはアルテックの何倍もの数のスピーカーユニットを持っていた。
それまで開発してきたスピーカーシステムの数も多い。
そのJBLが4350から4343まで3年かかっている。
4350の開発にどれだけの期間がかかったのはわからない。
そこまでふくめた時間と、アルテックが6041にかけた時間の差について、つい思いがいってしまう。