Archive for category ワイドレンジ

Date: 8月 14th, 2016
Cate: ワイドレンジ

JBL 2405の力量(その4)

2405の位置調整に使ったCDは、
ピエール=ローラン・エマールの“African Rhythms”で、
このディスクの二曲目、スティーヴ・ライヒの“Clapping Music”を鳴らした。

手拍子のみ、プリミティヴな曲である。
マーラーを鳴らすための、
いいかえればオーケストラを鳴らすためのスピーカーのトゥイーターの位置を、
正反対といえる手拍子だけの曲で決めた。

2405の位置を横にスライドしていくと、手拍子の音がよく変る。
こんなにも変るの……、と少し驚くほどに、手拍子の音、
つまりは叩いている手の状態が変化していく。
ペシャとした手拍子になる。
なるほど手拍子とは、こういう気持ちのいい鳴りをするものかと思えるふうにも変化する。

2405の位置調整には、どのディスクを使うのかは考えていなかった。
開始時間の19時までのあいだ、スピーカーの鳴りを少しでもよくしたいと思って、
あれこれ鳴らしていた(マーラー以外の曲ばかり)。

その過程で、この曲ならばよくわかるのでは、と思ったのが“Clapping Music”だったわけだ。

Date: 8月 13th, 2016
Cate: ワイドレンジ

JBL 2405の力量(その3)

2405のカタログ発表値では、周波数特性は6.5kHz以上となっている。
4343では9.5kHz、4350では9kHzがクロスオーバー周波数となっている。

今回は計算値では14.4kHzのカットオフ周波数で2405を追加した。
スロープ特性が違うので単純比較はできないものの、かなり高い周波数から2405をつけ足している。

2405はいまとなっては最新設計のトゥイーターとはいえない。
カタログでみても、21.5kHzが周波数特性の上限として発表されている。
ハイレゾ、ハイレゾと騒いでいる現在では、21.5kHzまでのトゥイーターは、
ナロウレンジのトゥイーター扱いされかねない。

けれど2405があるとないとでは大きく音は違ってくるし、
今回は2405の置く位置だけを調整したが、これも大きな違いとしてあらわれた。

できれば台座を組んで、2441の真上にくるように設置することも考えたが、
今回は2441の横に、角材をかまして置いた。
ボイスコイルの位置を、2405と2441で合せて、あとは2405を横方向にスライドしていった。

今回の2405にはバッフルが装備されていた。
計っていないが、20cm以上はあった。
これをエンクロージュアの上で動かすのだから、それほど自由に動かせるわけではない。
エンクロージュアから2405のバッフルがはみ出ない範囲での調整である。

このわずかな移動でも、音はころころ変ってくる。
2405と角材の重量が、新たにエンクロージュアの天板に加重されているのだから、
その位置によって天板の振動モードは変化し、
ひいてはエンクロージュア全体の振動モードも影響を受ける。

そのことはわかっていたにも関わらず、14kHz以上のカットオフ周波数でも予想以上に変化した。
今回2405の位置決めに使ったディスクは一枚だけである。
時間があれば複数枚のディスクを使うけれど、今回のような場合には、一枚に絞って決めた。

「新月に聴くマーラー」がテーマだったが、調整に使ったのはマーラーではない。
全体の音の確認に使ったディスクもマーラー以外のものばかりである。

Date: 8月 9th, 2016
Cate: ワイドレンジ

JBL 2405の力量(その2)

JBLの4300シリーズのスタジオモニターには、トゥイーターに2405が使われていた。
4333、4341、4343、4344、4345、4350、4355などがそうである。
4333、4343などはウーファーは2231Aシングルで、中高域のドライバーの2420。
それに対して4350、4355になるとウーファーはダブルになり、ドライバーは2440(2441)になる。

同じ4ウェイの4343と4350をもう少し細かく比較してみると、
ウーファーは同じ2231Aのシングルとダブルの違いがあり、
ミッドバスは2121と2202の違いがる。
このユニットの違いは、磁気回路を含めて比較すると口径差以上に大きいといえる。

そしてミッドハイのドライバーの違い。
2420のダイアフラム口径は1.75インチに対して、2440(2441)は4インチ。
この違いは、4343と4350の使用ユニットの違いでもっとも大きいといえよう。

ダイアフラムの口径の違いは面積の違いでもあり、
面積の違いは動かせる空気量の違いでもあり、
面積の違い以上に空気量の違いは大きくなる。

ダイアフラムがこれだけ大きくなれば、それに応じて磁気回路も物量が投じられ、
カタログ値では2420は5kg、2440は11.3kgとなっている。

これらの違いにより、音圧ではなくエネルギー量についていえば、
4350は4343の二倍以上を楽に出せるわけで、実際に聴き比べた経験のある方ならば、
わかっていただけよう。
井上先生も、よくこのエネルギー量の違いについては話されていたことも思いだす。

下三つのユニットがこれだけ違うのに、トゥイーターは4343も4350も2405と同じである。
4350では2405がダブルで使われているわけではない。
これは2405の力量が、それだけ高いといえるし、
4343や4333などではまだまだ余裕を持って使われていた、ともいえよう。

Date: 8月 9th, 2016
Cate: ワイドレンジ
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JBL 2405の力量(その1)

8月3日に行った「新月に聴くマーラー(Heart of Darkness)」では、
トゥイーターとしてJBLの2405をつけ加えた。

アルテックの416-8CとJBLの2441+2397の2ウェイは6dBスロープの直列型ネットワークを構成。
あくまでもこの2ウェイに、2405をスーパートゥイーターとして、最初から使う考えだった。
ようするに2441の高域をカットすることなくそのまま出している。
そこに2405をコンデンサーのみで低域をカットして、
このアルテックとJBLの混成2ウェイに並列に接続する、というもの。

これでうまくいかないときには直列型ネットワークによる3ウェイにすることも考えていたが、
すんなりこれでうまくいった。
時間があれば、じっくり両者を比較して、ということもできるが、
時間に制約があるため今回は直列型ネットワークの3ウェイは試していない。

2405には、0.47μFと0.22μFのコンデンサーを並列に接続して使用した。
容量は0.69μFとなる。今回の2405のインピーダンスは16Ωだから、計算してみてほしい。
2405のカットオフ周波数は、一般的な使われ方の二倍ほど高い周波数にしている。

このカットオフ周波数がベストとはいわない。
これも時間があればこまかくコンデンサーの容量を変えていって、ということをやりたかったが、
そんな時間はとれなかったので、直感で決めただけの値でしかない。

しかも今回もコントロールアンプにマークレビンソンのLNP2を使い、
トーンコントロールを活用したうえでの、聴感上のバランスでうまくいった、
というか問題が生じなかった、ということである。

なので今回の使い方をそのままやられてもうまくいくかどうかはなんともいえないが、
こういう接続方法もあることだけは知ってほしい。

Date: 7月 23rd, 2014
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その86)

オーディオ全体をひとつのオーケストラとして捉えれば、
スピーカーシステムはそのオーケストラの顔であり、
システムのセッティング、チューニングといった調整は、オーケストラのリハーサルにあたる。

実際のリハーサルのように、オーディオの調整でも同じところを何度も何度も再生する。
音に関心のない人、オーディオに理解のない人からみれば、
なんと退屈なことをこの人はやっているんだろう、ときっと思われるであろうことを、
執拗にやっていくことで音をつめていく。

そうやって満足がいく音が得られたという感触があったら、
そのディスクの頭から聴いていく。
別のディスクをかけるときだってある。そのときでも最初からかける。
いわば、これらのディスクの再生は、もうリハーサルではなく、本番である。

本番だから、途中に気にくわない音が鳴ってきたとしても最後まで聴き通す。
この本番の再生で、どれだけスピーカーが、システムが本領を発揮できるか。

入念なリハーサル(調整)をやれば、
聴きなれたディスクであれば、リハーサルでの音からどういうふうに鳴ってくれるのか想像はつく。
その想像通りの音が鳴ってきたら、うまくいった、と喜べるわけではない。
私は、たいてい、そういうときはがっかりする。

私が求めているのは、リハーサルをこえる、本領発揮の音である。
私の想像をこえる音が、たとえ一瞬でもいいから鳴ってほしいのだ。

Date: 7月 21st, 2014
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その85)

JBLの4350の最初のモデルは1974年に登場している。
タンノイのKingdomの登場は1996年。
20年以上の開きがある。

いうまでもなくJBLはアメリカ西海岸のメーカー、
タンノイはイギリスのスピーカーメーカー。

ある時期まではクラシックを聴くならタンノイ、
ジャズはJBL、といわれていたこともある。

タンノイとJBLは、数あるスピーカーメーカーの中でも、もっとも比較されることが多い。
それだけ対照的なスピーカーメーカーともいえる。

そのふたつのスピーカーメーカーのフラッグシップモデルで、マーラーが聴きたい、というのは、
あまりにも節操がない、というか、マーラーがわかっていない、と思われるかもしれない。

でも私にとって4350とKingdomは、JBLとタンノイの違い、というよりも、
オーケストラの違いのように感じられて、私のなかでは4350とKingdomが矛盾することなく存在している。

JBLはやはりアメリカのオーケストラといえるし、
タンノイはヨーロッパのオーケストラといえる。

そういえばバーンスタインはコロムビアにマーラーの交響曲を録音したとき、
オーケストラはニューヨークフィルハーモニーだった。
この録音から約20年後、ドイツ・グラモフォンでのマーラーでは、
オーケストラをひとつに固定せずに、ニューヨークフィルハーモニーのほかに、
ウィーンフィルハーモニー、アムステルダム・コンセルトヘボウオーケストラを指揮している。

Date: 7月 15th, 2014
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その84)

タンノイのKingdom(現行製品のKingdom Royalではない)は、
いまでも気になるパワーアンプが新製品として登場してくると、
このアンプで鳴らしてみたら、どんな感じになるのか、とつい想像してしまうほどに、
いまも気になっているスピーカーシステムのひとつである。

このKingdomは、私にとってJBLにとっての4350という存在と重なってくる。
いわばタンノイにとっての4350的スピーカーシステムが、Kingdomとうつる。

そして私の中では、マーラーを聴くスピーカーシステムとして4350を筆頭にしたいというおもいが、
いまもあって、これはなにも私がマーラーを聴きはじめたころと密接に関係してのことだから、
4350がマーラーを聴くのに最適のスピーカーシステムだというつもりはない。

それでも私にとって4350の特質をもっとも引き出してくれると感じているのが、
4350と同時代に盛んに録音されるようになってきたマーラーの交響曲だと感じている。

このことはどの時代の録音でマーラーで聴くのか、
誰の指揮でマーラーを聴くのか、とも関係しているのだが、
新しいスピーカーシステムでマーラーを聴いた時に感じる何かが不足している、と思えてしまう。

それは見事な音で再生されればされるほど、その不足しているものが気になってくる。
それがJBLの4350にはあると感じられるし、タンノイのスピーカーシステムではKingdomということになる。

激情が伝わってくる音で私はマーラーを聴きたい、
それもワイドレンジの音で、
ということになるから4350、Kingdomがいつになっても私の中から消え去ることがない。

Date: 8月 9th, 2013
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その83)

数年前、ある海外のオーディオのサイトをみていたら、タンノイからKingdom Royalが登場する、とあった。
さっそく検索してみて、画像を見付けた。
正直、がっかりしてしまった。

ウェストミンスターがウェストミンスター・ロイヤルになっていったのを見ている。
だからKingdomがRoyalになることで、どれだけ優れたスピーカーシステムとなるのか、
それは内容だけでなく外観においても、細かなところに手が加えられ、
より緻密で堂々とした風格のあるスピーカーシステムになって現れてくる──、
そんなふうに勝手に期待してしまっていたからくる失望でもあった。

そのとき見つかった画像はピンボケのものだった。
細部に関してははっきりしたことはわからない。
それに試作品かもしれない。
最終的には違ってくる可能性だってある。

そうおもいながら、Kingdom Royalの正式発表を期待して待っていた。
結果は、最初に見つけた画像のイメージのままだった。

スピーカーのユニット構成からすれば、たしかにこれもKingdomである。
けれどKingdomが持っていた堂々とした風格は、Kingdom Royalには私は感じない。
“Royal”がついてしまったことで、
オリジナルのKingdomがもっていた厳しさが、すっかり優しさに変質してしまった。

これを今風というのかもしれない。
時代に即した変化なのだ、といわれれば、ハイそうですか、というしかない。

写真を見て、インターナショナルオーディオショウのエソテリックのブースで実物を見て、
やっぱりがっかりしてしまった。

音のことではない。
あくまでもスピーカーシステムとしての面構えについて、であって、
Kingdomが男だとしたら、Kingdom Royalは女性といいたくなる感じさえ受けた。

ここにもタンノイのスピーカーシステムの歴史をみて、
オートグラフとウェストミンスターを対比した時に感じる同室のものを、
KingdomとKingdom Royalに感じとってしまう。

これはどちらがスピーカーシステムとして優れているかではなく、
性格の違いであり、その性格の違いがあるからこそ、
私にはKingdom RoyalよりもオリジナルのKingdomこそが、オートグラフの継承スピーカーシステムとして、
より魅力的に映ってしまう。

Date: 12月 25th, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって・その11)

1980年にはいってからオーディオ雑誌に頻繁に登場するようになった言葉のひとつに、音場と音場感がある。

音場と音場感──、
語尾に「感」がつくかどうかの違いだけで、
意味にも大きな違いはないかのように使われているようにも感じている。
けれど音場と音場感は、決して同じ意味のことではない。

音場とは文字通り、音の場、つまり音の鳴っている場であり、
オーディオは録音された音楽を再生するものであるから、
ここでの音場とは、音楽の鳴っている(鳴っていた)場のことである。

つまり録音された場のことと定義できる。
スタジオであったりホールであったり、ときに個人の家ということもある。
とにかく録音された演奏がなされた場こそが音場であるし、
これはあくまでも「録音の音場」である。

録音に音場があれば、再生側にも音場が存在するわけで、
この再生側の音場の定義は、録音の音場の定義のように簡単ではないところがある。

Date: 12月 22nd, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって・その10)

いまではそうではなくなっているのだろうが、一時期のジャズ録音での極端なオンマイクのセッティングでは、
マイクロフォンがとらえることができるのは近接する楽器の直接音がほとんどで、
間接音(演奏の場の反響、残響)はまったくといっていいほどとらえられていない。

だから、そんなジャズの録音は不自然だということになるのだけれど、
そこには演奏の場が、クラシックの録音におけるそれと比較するまでもなく、
ほとんど収録されていない、ともいえるわけで、
こういう録音を再生する場合には、場の再生より楽器そのものの再生というふうに考えられる。

場の再生を考えずにすむということは、
録音の場と再生の場のスケールの違いは、無視していいともいえる。

つまり、そういうジャズの録音では、再生の場に置かれているスピーカーを、
録音の場の楽器に相当するものという考えがあるのなら、
さほど編成の大きくないジャズの録音こそ、クラシックの大編成のものよりもずっと自然といえる。

ステレオ初期にジャズの録音では、ステレオ効果を出すために、
中抜けの、いわゆるピンポン録音が行なわれていた。
ステレオフォニックではなくて、モノーラル再生が2チャンネルある、
といった録音だっただけに、このことも不自然な録音という評価に関係していたのたろうが、
それでもスピーカーを楽器に置き換える、という考えでは、このほうがむしろ自然だったのかもしれない。

それにステレオフォニック再生では、基本的には音像は実音源ではなく、虚の音源、仮想音源である。
ステレオ初期の音がどういうものであったのかは聴いたことがないからはっきりしたことはいえないが、
もしかすると……、と思うことはある。

それまでモノーラルで1本のスピーカーでの再生では音像は実音源であり、
実音源だからこその実在感、迫力が感じられたのが、
ステレオフォニックになりそういったことが稀薄になってしまう。

ジャズにおいて、その稀薄さを嫌い、できるだけ実音源に近い形で再生しようと考えれば、
あえて中抜けの録音にして、左右のスピーカーに完全に振り分けるという手法になる。

これが正しい考え方とはいわないものの、
こういう考え方もできるわけだし、
そういう考え方でみれば、不自然と思えた録音が、別の視点からは自然な音を求めてのものだったことになる。

Date: 12月 21st, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって・その9)

クラシックの録音でも比較的楽器の近くにマイクロフォンを設置するということもあるが、
大編成のオーケストラの録音においては、録音会場となるホールの残響(間接音)を含めての収録となる。

つまり演奏(録音)される場として、ひじょうに広い空間があり、
その広い空間の特質をも録音時にとらえているわけである。

その録音を、われわれは狭い部屋では4.5畳くらいから広い部屋でも20〜30畳くらいか、
よほど恵まれている人であれば、もっと広い部屋での再生ということになるけれど、
それでも録音の場となった大ホールからしてみれば、4.5畳も20畳も50畳の部屋であっても、
そうとうに縮小された空間ということになってしまう。

録音と再生における、このスケールの違いは、
考えようによってははなはだ不自然なことといえる。

しかも100人もの人間が演奏(運動の結果)して出す音をそのまま再生することは、
まだまだ無理があるのが現状であるし、
これから先、どれほど技術が進歩しようとも、
オーケストラの再生を、音量を含めて、サイズの縮小をせずに実現することは、
2チャンネルのステレオ再生(2本のスピーカーシステム)ではかなり困難であるはず。

だからといって伝送系の数を増やす(つまりマルチチャンネル化)していくことで、
再生できるエネルギー量は増す方向に進むものの、
そうなればなるほど、元のスケールとの差がよけいに気になってくるのではなかろうか。
つまり、オーケストラの再生を家庭で行うことそのものが、
不自然な行為であることを強く意識するようになるのではなかろうか。

結局、2チャンネルだから、スピーカーが目の前の2本だけだからこそ、
聴き手は、そこに虚構のオーケストラを聴いている(感じている)のだと思う。

オーケストラの録音・再生は不自然なことという大前提があり、
そのなかで、われわれは、この響きは自然だ、とか、不自然である、とか、いっている、ともいえる。

Date: 12月 15th, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって・その8)

JBLやアルテックがジャズに向いているスピーカーとして、
タンノイやヨーロッパ系のスピーカーがクラシックに向いているスピーカーとしてとらえられていた、
ずっと昔には、クラシックの録音は自然であり、ジャズの録音は強調されたもの、としても受けとめられていた。

クラシックの録音には、マイクロフォンを一対だけ使ったワンポイント録音があり、
完全なワンポイントではなくともワンポイントを主として、補助マイクロフォンをたてるという手法がある。
そうやって録られた(もちろんうまく録られた)ものを優秀録音、好録音ということになり、
自然な録音という言葉でも表現されることがあった。

ワンポイントでオーケストラを全体の音・響きをとらえようとするわけだから、
当然マイクロフォンの位置は楽器(奏者)の位置からはある程度の距離をおくことになる。

一方、そのころのジャズの録音では、マイクロフォンは楽器のすぐ近くに置かれることが多かった。
耳をそんなところにおいて楽器のエネルギーをもろに聴いてしまったらたえられない、
そういう位置にマイクロフォンをおいて録る。

その位置のマイクロフォンが拾えるのは、楽器からの直接音がほほすべてであり、
間接音はほとんど収音されることはない。
だから、そういうジャズの録音を強調されたもの、としてとらえるわけで、
それは、いわば不自然な録音ということになる。

マイクロフォンの位置を耳の位置として考えれば、
クラシックは自然な録音、ジャズは不自然な録音、といえなくはない。

けれど、録音は録音だけで完結するものではなく、
再生側の都合というものが、密接にからんでくるものである。
そうなってくると、クラシックの方がむしろ不自然なところがあって、
ジャズの方が自然な録音といえるようにもなってくる。

Date: 10月 14th, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(黄金比)

フィリップスはCDを開発しているときに、
共同開発のソニーが収録時間を延ばすために12cmを提案したとき、
当初のサイズであった11.5cmからの変更をなかなか譲らなかった──、
これはけっこう知られている話で、
傅信幸氏の著書「光を聴く旅」にも、このへんの事情については、もちろん書いてある。

なぜフィリップスは11.5cmに、それほどこだわったのだろうか。
フィリップスがオリジネーターであるコンパクトカセットテープの対角線が11.5cmだから、なのだろうか。

この項の(その72)から(その74)にかけて、
スピーカーユニットの口径比(おもにウーファーとミッドバスについて)について書いている。
それでふと気がついた。

11.5cmは、黄金比なのかもしれない。
だとしたら何に対してだろうか、と考えてすぐに思いつくのはアナログディスクの30cmである。

30cmの黄金比として11.46cmがある。11.5cmには少し足りない。
けれどアナログディスク(LP)の外径は正確には30.1cmである。
30.1cmで計算してみると、ぴったり11.5cmとなる。

そうなのかぁ、とひとりごちる。

Date: 7月 4th, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(余談・300Bのアンプのこと)

300Bのシングルアンプの出力は、300Bをどう使うかにもよるけれど、
私の場合は、300Bシングルとは伊藤先生の300Bシングルであり、
それはウェスターン・エレクトリックの91型アンプということになるわけで、
そうなると出力は8Wということになる。

伊藤先生の300Bシングルアンプ3130Aはセルフバイアスでカソード抵抗は880Ω、負荷抵抗は2kΩだから、
おそらく出力は10W近く出ているはず。

300Bの定格表をみれば、シングルでももう少し出力を取り出せる。
300Bシングルをアンプを作っている人の中には、ごくごく少数なのだろうが、
20W以上の出力を取り出している──つまり300Bにそれだけ無理をさせている──例もあるときいている。

たしかにウェスターン・エレクトリックが発表している300Bの動作例の中に、17.8Wと数字がある。
ただしこれはMaximum Operating Conditionsとして発表されているもので、
プレート電圧450V、グリッドバイアス-97V、プレート電流80mA、負荷抵抗2kΩでの17.8Wである。

20Wの出力を300Bのシングルで実現するには、これ以上のプレート電圧、プレート電流をかけることである。
又聞きなので、そのアンプの詳細ははっきりしない。
話をしてくれた人も真空管アンプ、さらには300Bに対する深い知識は持ち合わせていない人だったこともある。
その人によると、その動作でも300Bはヘタらない、らしい。

実はいま市場に多く出回っているウェスターン・エレクトリックの300Bのほとんどは
驚くほどタフな真空管でもある。
なぜなのかは、その300Bがどういう用途で造られたのかを知れば納得のいくことだ。
直熱三極管ということで、繊細で無理な動作は絶対にできない球というイメージをもたれている方もいると思うが、
そういうイメージをくつがえすほどに300Bはそうとうにタフである。

ただし、ここに陥し穴があって、だからといってそうそう動作をさせているアンプに、
さらにいい音を求めようとして初期の300B、300Bの刻印のモノ、とか、300Aを挿したら、どうなるか。

その結果については、あえて書かない。
ウェスターン・エレクトリックが発表しているデータシートには、No.300-A & 300-B VACUUM TUBESとある。
これがどういう意味を持っているのかについて考えることが出来れば、
300Bのシングルアンプで20W前後の出力を取り出そうとは思わないはずだ。

300Bという真空管に特別な思いいれを持たずに、
数ある出力管のひとつ、さらにはトランジスターを含めて厖大な数の増幅素子のひとつとしてだけ捉え、
真空管は切れても交換が容易だから、そういう動作をさせて何が悪い、音が良ければいいだろう──。

けれど私は伊藤先生には及ばないものの、300Bには思いいれがある。
だから300Bを、そんな使い方はしない。

それに300Bを並列にして使うことはしたくない。
300Bでできるだけ出力を得たい。
でもプッシュプルにはしたくない、だから300Bを2本並列のシングル動作で出力をかせぐ。
そういう使い方をしている人、アンプがあるのは知っている。

でも私は300Bシングルで出力が足りなければ、プッシュプルにする。
これは考え方の違いだから、並列シングルに文句をつける気はないし、
市販されているアンプでそうしているものに対してとやかくいう気はない。

ただ私自身が300Bのアンプを作るとしたら、シングルかプッシュプルかであって、
並列のシングル、並列のプッシュプルには絶対にしない、ということだ。

トランジスターの並列使用には抵抗感はない。
真空管アンプでも市販品の並列使用のアンプにも特に抵抗感はない。
300Bを4本使い、並列のプッシュプルにすれば定格内の使い方であっても50Wの出力が得られる。
でも、それが自分で作るとなると違ってくる。

それに300Bを使用した市販アンプでまともなモノは、ひとつもない。
つまりは自分で作るしかないのだ。
(そう思うのは300Bへの思いいれがあるためなのはわかっている……)

Date: 7月 3rd, 2012
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その82)

どういう音をもとめるかにもよるけれど、
実際にクロスオーバー周波数が100Hzのスピーカーシステムのコイルに空芯タイプを使うことはない。
もっと直流抵抗を低くする必要があるから、Jantzen audioのラインナップから選ぶとすれば、
鉄芯入りの5160ということになる。
5160の直流抵抗は0.83Ω。

0.83Ωという、それでもまだ高い直流抵抗と感じるけれど、
18mHというコイルの大きさからすれば、この直流抵抗はそうとうに低い値といえる。

このコイルがパワーアンプとウーファーのあいだに介在しているわけだ。

しかも18mHはあくまでも12dB/oct.の遮断特性での値であって、
18dB/oct.となるとコイルはさらにもうひとつ増える。これも直列に入る。
このとき19.1mHと6.4mHとなる。
24dB/oct.となると、コイルの値はさらに増す。24.08mHと12nmHである。

しかもネットワークはコイルだけでは成り立たない。
コンデンサーも必要となる。
クロスオーバー周波数が低いと、コンデンサーの容量もやはり大きくなってしまう。
12dB/oct.では141μF、18dB/oct.では265μF、24dB/oct.では316.25μFと69.63μFとなる。
コンデンサーはウーファーの場合(ローパスフィルター)は並列に入る。
そのため直列に入るコイルほどには音質に与える影響は少ないように感じられるが、
アンプの負荷としてネットワークを見た場合には、どうなるのか。

これだけ考えてもKingdomは、そうとうにパワーアンプにとっては厳しい負荷となるスピーカーシステムだろう。
公称インピーダンスは8Ωと、一般的な値であるし、
世の中にはもっと低いインピーダンスのスピーカーシステムは数多い。
けれど、100Hzというクロスオーバー周波数の低さは、
むしろインピーダンスは低くてもクロスオーバー周波数の高いスピーカーシステムよりも、
また違う意味でアンプを選ぶところがある、といっていいだろう。

Kingdomをいくつものアンプで鳴らした経験がないので断言こそできないものの、
私の感覚としては、300Bシングルアンプで鳴らすスピーカーシステムではないわけだ。