ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって・その8)
JBLやアルテックがジャズに向いているスピーカーとして、
タンノイやヨーロッパ系のスピーカーがクラシックに向いているスピーカーとしてとらえられていた、
ずっと昔には、クラシックの録音は自然であり、ジャズの録音は強調されたもの、としても受けとめられていた。
クラシックの録音には、マイクロフォンを一対だけ使ったワンポイント録音があり、
完全なワンポイントではなくともワンポイントを主として、補助マイクロフォンをたてるという手法がある。
そうやって録られた(もちろんうまく録られた)ものを優秀録音、好録音ということになり、
自然な録音という言葉でも表現されることがあった。
ワンポイントでオーケストラを全体の音・響きをとらえようとするわけだから、
当然マイクロフォンの位置は楽器(奏者)の位置からはある程度の距離をおくことになる。
一方、そのころのジャズの録音では、マイクロフォンは楽器のすぐ近くに置かれることが多かった。
耳をそんなところにおいて楽器のエネルギーをもろに聴いてしまったらたえられない、
そういう位置にマイクロフォンをおいて録る。
その位置のマイクロフォンが拾えるのは、楽器からの直接音がほほすべてであり、
間接音はほとんど収音されることはない。
だから、そういうジャズの録音を強調されたもの、としてとらえるわけで、
それは、いわば不自然な録音ということになる。
マイクロフォンの位置を耳の位置として考えれば、
クラシックは自然な録音、ジャズは不自然な録音、といえなくはない。
けれど、録音は録音だけで完結するものではなく、
再生側の都合というものが、密接にからんでくるものである。
そうなってくると、クラシックの方がむしろ不自然なところがあって、
ジャズの方が自然な録音といえるようにもなってくる。