ワイドレンジ考(その86)

オーディオ全体をひとつのオーケストラとして捉えれば、
スピーカーシステムはそのオーケストラの顔であり、
システムのセッティング、チューニングといった調整は、オーケストラのリハーサルにあたる。

実際のリハーサルのように、オーディオの調整でも同じところを何度も何度も再生する。
音に関心のない人、オーディオに理解のない人からみれば、
なんと退屈なことをこの人はやっているんだろう、ときっと思われるであろうことを、
執拗にやっていくことで音をつめていく。

そうやって満足がいく音が得られたという感触があったら、
そのディスクの頭から聴いていく。
別のディスクをかけるときだってある。そのときでも最初からかける。
いわば、これらのディスクの再生は、もうリハーサルではなく、本番である。

本番だから、途中に気にくわない音が鳴ってきたとしても最後まで聴き通す。
この本番の再生で、どれだけスピーカーが、システムが本領を発揮できるか。

入念なリハーサル(調整)をやれば、
聴きなれたディスクであれば、リハーサルでの音からどういうふうに鳴ってくれるのか想像はつく。
その想像通りの音が鳴ってきたら、うまくいった、と喜べるわけではない。
私は、たいてい、そういうときはがっかりする。

私が求めているのは、リハーサルをこえる、本領発揮の音である。
私の想像をこえる音が、たとえ一瞬でもいいから鳴ってほしいのだ。

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