Posts Tagged ワイドレンジ

Date: 7月 23rd, 2014
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その86)

オーディオ全体をひとつのオーケストラとして捉えれば、
スピーカーシステムはそのオーケストラの顔であり、
システムのセッティング、チューニングといった調整は、オーケストラのリハーサルにあたる。

実際のリハーサルのように、オーディオの調整でも同じところを何度も何度も再生する。
音に関心のない人、オーディオに理解のない人からみれば、
なんと退屈なことをこの人はやっているんだろう、ときっと思われるであろうことを、
執拗にやっていくことで音をつめていく。

そうやって満足がいく音が得られたという感触があったら、
そのディスクの頭から聴いていく。
別のディスクをかけるときだってある。そのときでも最初からかける。
いわば、これらのディスクの再生は、もうリハーサルではなく、本番である。

本番だから、途中に気にくわない音が鳴ってきたとしても最後まで聴き通す。
この本番の再生で、どれだけスピーカーが、システムが本領を発揮できるか。

入念なリハーサル(調整)をやれば、
聴きなれたディスクであれば、リハーサルでの音からどういうふうに鳴ってくれるのか想像はつく。
その想像通りの音が鳴ってきたら、うまくいった、と喜べるわけではない。
私は、たいてい、そういうときはがっかりする。

私が求めているのは、リハーサルをこえる、本領発揮の音である。
私の想像をこえる音が、たとえ一瞬でもいいから鳴ってほしいのだ。

Date: 7月 21st, 2014
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その85)

JBLの4350の最初のモデルは1974年に登場している。
タンノイのKingdomの登場は1996年。
20年以上の開きがある。

いうまでもなくJBLはアメリカ西海岸のメーカー、
タンノイはイギリスのスピーカーメーカー。

ある時期まではクラシックを聴くならタンノイ、
ジャズはJBL、といわれていたこともある。

タンノイとJBLは、数あるスピーカーメーカーの中でも、もっとも比較されることが多い。
それだけ対照的なスピーカーメーカーともいえる。

そのふたつのスピーカーメーカーのフラッグシップモデルで、マーラーが聴きたい、というのは、
あまりにも節操がない、というか、マーラーがわかっていない、と思われるかもしれない。

でも私にとって4350とKingdomは、JBLとタンノイの違い、というよりも、
オーケストラの違いのように感じられて、私のなかでは4350とKingdomが矛盾することなく存在している。

JBLはやはりアメリカのオーケストラといえるし、
タンノイはヨーロッパのオーケストラといえる。

そういえばバーンスタインはコロムビアにマーラーの交響曲を録音したとき、
オーケストラはニューヨークフィルハーモニーだった。
この録音から約20年後、ドイツ・グラモフォンでのマーラーでは、
オーケストラをひとつに固定せずに、ニューヨークフィルハーモニーのほかに、
ウィーンフィルハーモニー、アムステルダム・コンセルトヘボウオーケストラを指揮している。

Date: 7月 15th, 2014
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その84)

タンノイのKingdom(現行製品のKingdom Royalではない)は、
いまでも気になるパワーアンプが新製品として登場してくると、
このアンプで鳴らしてみたら、どんな感じになるのか、とつい想像してしまうほどに、
いまも気になっているスピーカーシステムのひとつである。

このKingdomは、私にとってJBLにとっての4350という存在と重なってくる。
いわばタンノイにとっての4350的スピーカーシステムが、Kingdomとうつる。

そして私の中では、マーラーを聴くスピーカーシステムとして4350を筆頭にしたいというおもいが、
いまもあって、これはなにも私がマーラーを聴きはじめたころと密接に関係してのことだから、
4350がマーラーを聴くのに最適のスピーカーシステムだというつもりはない。

それでも私にとって4350の特質をもっとも引き出してくれると感じているのが、
4350と同時代に盛んに録音されるようになってきたマーラーの交響曲だと感じている。

このことはどの時代の録音でマーラーで聴くのか、
誰の指揮でマーラーを聴くのか、とも関係しているのだが、
新しいスピーカーシステムでマーラーを聴いた時に感じる何かが不足している、と思えてしまう。

それは見事な音で再生されればされるほど、その不足しているものが気になってくる。
それがJBLの4350にはあると感じられるし、タンノイのスピーカーシステムではKingdomということになる。

激情が伝わってくる音で私はマーラーを聴きたい、
それもワイドレンジの音で、
ということになるから4350、Kingdomがいつになっても私の中から消え去ることがない。

Date: 10月 4th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その9)

早瀬(文雄)さんが、クレルのKSA80を使われていた時期だから、1990年ごろか。
よく早瀬さんの家に遊びに行っていて、KSA80のリアパネルに、
パワーアンプにも関わらず、アース端子が設けられているのを見て、
これなら簡単にできる、と思い、ある提案をした。

プリアンプもクレルで、たしかバランス伝送で接続されていた。
このケーブルにすこし細工をする許可をもらって、プリアンプとパワーアンプのアース端子を結び、
接続ケーブルのXLRコネクターをばらし、片側のシールドをはずした。
アンバランスでもバランス接続でも同じだが、プリ・パワーともステレオ構成ならば、
アースのループができる。
プリアンプの出力もRCAコネクターは見掛けは、アースが独立しているようにみえるが、
内部ではひとつになっている。
パワーアンプの入力も同じである。
つまりケーブルの両端はつながっているアンプの内部でひとつになっている。
接続ケーブルが長ければ長いほど大きなループが形成される。

両端がつながっているなら同電位なので問題ないだろう、と思われるだろう。
実際に浮遊容量、磁束の横切り、高周波やコネクター接触の問題などがからみ合って、
問題なしとは言えない。

解決方法は簡単でケーブルにすこし手を加えればいい。
上記したようにアース側の接続を片側はずして、アース線を用意して接続する。
プリ・パワー間のとき、どちらのアースを外すかは、ひとそれぞれだろうが、
私はプリアンプの領域はパワーアンプの入力端子までと考えるので、
パワーアンプの入力側のアースのハンダを外す。もちろん両チャンネルともだ。
CDプレーヤー・プリアンプ間も同様だ。

うちでは1m、ながくても2m弱だったが、早瀬さんのところはプリ・パワー間は5、6mあった。
同じことを自分のところでもやっていたので、これだけケーブルの長さが違うと、
かなり効果は大きく出るであろうと予想はしていたにも関わらず、ふたりして驚いたものだ。

どのように音が変化するかは書かない。
簡単な作業で実験できることなのでご自身の耳で確認してみてほしい。

Date: 9月 8th, 2008
Cate: LS5/1A, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その7)

アルテックの604シリーズは、38cmコーン型ウーファーとホーン型トゥイーターの同軸型で、
クロスオーバー周波数は、モデルによって多少異るが1.5kHz前後。 
中高域はマルチセルラホーン採用なので、水平方向の指向性は十分だろう。 
問題はクロスオーバー周波数から1オクターブ半ぐらい下までの帯域の指向性だろう。 
実測データを見たことがないのではっきりしたことは言えないが、
604の、このへんの帯域の指向性はあまり芳しくないはず。 

BBCモニターのLS5/1Aは、
38cmウーファーとソフトドームのトゥイーター(2個使用)の2ウェイ構成で、クロスオーバーは1.75kHz。
当時すでにBBCの研究所では指向性の問題に気がついており、
ウーファーをバッフルの裏から固定し、バッフルの開口部は円にはせずに、
横幅18cm、縦30cmくらいの長方形とすることで、水平方向の指向性を改善している。 
ユニークなのは、30cm口径よりも38cm口径のほうが、高域特性に優れている理由で採用されていること。 

1980年ごろ登場したチャートウェルのPM450E(LS5/8)は30cm口径ウーファーだが、
バッフルの裏から固定、開口部はやはり長方形となっている。 
LS5/8のネットワーク版のロジャースPM510も、初期のモデルでは開口部は長方形だ。

アルテックがスタジオモニターとして役割を終えた理由として、いくつか言われているが、
指向性の問題もあったのではないかと思う。 
同じことはタンノイの同軸型ユニットについても言える。

Date: 9月 8th, 2008
Cate: 4343, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その6)

JBLの4341(4343)について考えてみる。 
JBLのモニターシリーズには、4333が同時期にあった。 
ユニット構成は、4341(4343)に搭載されたミッドバス2121を除けば、
ウーファーは2231A、ドライバーは2420、トゥイーターは2405と同じ。 
スピーカーの周波数特性としては、エンクロージュアのプロポーション、内容積は異るが、
上限と下限はほぼ同じである。 

4333のウーファーとミッドレンジのクロスオーバーは800Hz。
4341(4343)のウーファーとミッドバスのクロスオーバーは300Hz。 
周波数特性的には4333も4341(4343)も、2231の良好なところで使っているが、
指向性に関しては、4333は多少狭まっている帯域まで使用している。 

スピーカーの指向性は狭い方がいい、という意見もある。
部屋の影響をうけにくいから、ということで。 
けれど、再生周波数帯域内で、指向性が広いところもあれば極端に狭いところもあり、
スコーカーの帯域に行くと、また広がる、そんな不連続な指向性がいいとは思えない。 
狭くても広くても、再生帯域内では、ほぼ同じ指向性であるのが本来だろう。 

4341(4343)から、JBLの真のワイドレンジがはじまった、と言える理由が、ここにある。

Date: 9月 7th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その5)

スピーカーに関して言えば、周波数、ダイナミックレンジの他に指向特性の広さも、
ワイドレンジの実現に密に関係してくると考えている。 

たとえ話として、スピーカーにとって理想の振動板ができたとする。
高剛性で軽量で、内部音速が、従来の素材とは比較にならないほど速いもので、
コーン型フルレンジをつくったとする。 
低域も十分カバーするために口径は38cmとする。
理想の振動板なので、高域の再生限界周波数は20kHzをこえている。
帯域内にピークもディップもない。
これでいい音が聴けるかというと、おそらくだめであろう。 

コーン型スピーカーの場合、
振動板の最外周の長さと、音の波長の長さが等しくなった周波数あたりから、
それ以下の周波数ではきれいに球面上に広がっていたのが、
それ以上の周波数になると、周囲に広がらなくなってしまう。 

38cmのコーン型スピーカーなら、コーンの実際の直径は33cm前後で円周は約1m。
波長1mの周波数は、約340Hz。 
つまり、38cmのコーン型のスピーカーでは、
400Hz以上の周波数になると、指向性が徐々に狭まってくる。 
どんなに理想の振動板を用いても、これでは良質なステレオ再生は望めない。

Date: 9月 7th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その4)

多重ループに、外部もしくはオーディオ機器の内部からなんらかの電流が誘起されると、
同相成分(コモンモード)が発生する。 
多重ループの影響から逃れるために、システム全体をシンプルにしろ、というのは
簡単で確実な方法ではあるが、後ろ向きの解決方法であるという印象も拭えない。 

またシンプルを、どう捉えるかも別の問題として浮び上がってくる。

現代のCDプレーヤー、アンプなど電子機器に求められる性能は、
CMRR(Common Mode Rejection Ratio)同相信号除去比の高さだろう。 
比較的低い周波数だけでの高いCMRR値ではなく、可聴帯域をこえて、
かなり高い周波数まで、できるだけフラットで高い値の実現。

現代OPアンプのなかに、数MHzまでフラットなCMRR値を持つものも出てきている。

Date: 9月 6th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その3)

AC電源を使ったオーディオ機器のアースの多重ループの観点からみると、
安易なモノーラル構成は、どうかと思う。 

モノーラル化は音の出口に近い方から行なう方が理にかなっている。 
まずパワーアンプ、それからチャンネルデバイダーを使っているならこれ、
そしてプリ・パワー間にイコライザー類を挿入しているのであればモノーラル化する。
そしてコントロールアンプ。

音の入口に近いD/Aコンバーターは最後でいいと考える。
なのに最近の流行なのか、D/Aコンバーターのモノーラル構成のものが出始めているし、
同一D/Aコンバーターを2台用意してモノーラル化される方もいるときく。 

たしかにSACDやDVD-Audioの登場によって高域の再生限界が伸びているため、
従来のCDプレーヤー以上にチャンネルセパレーションを確保するのが難しくなるため、
セパレート化のメリットも多いことは認めるものの、
その前にモノーラル化の順序について、いちどきちんと考えてみてほしい。

Date: 9月 6th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その2)

音をよくするため、CDプレーヤーを、CDトランスポート部とD/Aコンバーターに分け、
場合によっては、あいだにアップサンプリングの機械をいれたりする。 
アンプに関しても、同じくセパレート化。

さらにマルチアンプとなるとチャンネルデバイダーが挿入され、
グラフィックイコライザーやパラメトリックイコライザーを使うとなると、
システム全体の規模はかなり大きくなると、アンプ一台では生じなかった問題がある。 

AC電源のオーディオ機器を2台以上つなぐと、電源を通じてアースにループができる。
上記のような構成になると、複雑な多重ループが生れる。 

しかもこのループの問題は、ストレーキャパシティがからんでいるため、
高域再生の上限周波数が高くなるほど問題は大きくなってくる。 
信号がシャーシやACラインに流れてしまうのをすこしでも防ぐためには、
あえてナロウレンジにするという手がある。 

ただし現在のワイドレンジのオーディオ機器の入力にハイカットフィルターを挿入して
ナロウレンジにしたところで、音が良くなるどころ、むしろ劣化することが多い。

Date: 9月 6th, 2008
Cate: ワイドレンジ, 岩崎千明, 瀬川冬樹

ワイドレンジ考(その1)

ワイドレンジの話になると、周波数レンジのことばかり語られることが多い。 
けれども、ワイドレンジ再生とは、
周波数レンジとダイナミックレンジの両方をバランスよく広げることだと考える。 
片方の拡大だけでは、ワイドレンジ再生は成り立たない。 

このことを教わったのは、
ステレオサウンド43号の「故岩崎千明氏を偲んで」のなかの瀬川先生の文章。
そのところを引用する。 
     *
岩崎さんは、いまとても高い境地を悟りつつあるのだということが伺われて、一種言いようのない感動におそわれた。たとえば──「僕はトゥイーターは要らない主義だったけれど、アンプのSN比が格段に良くなってくると、いままでよりも小さい音量でも、音質の細かいところが良く聴こえるようになるんですね。そして音量を絞っていったら、トゥイーターの必要性もその良さもわかってきたんですよ」 
岩崎さんが音楽を聴くときの音量の大きいことが伝説のようになっているが、私は、岩崎さんの聴こうとしていたものの片鱗を覗いたような気がして、あっと思った。