Archive for category ロングラン(ロングライフ)

Date: 2月 8th, 2013
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(続サンスイの場合)

東京での初の住まいは寮だった。
AU-D907 Limitedを、同じ寮のほかの部屋に持ち込んで音を鳴らしたときに、故障してしまった。
すごいショックだった。

寮は三鷹にあった。
自転車の荷台にAU-D907 Limitedをしばりつけて、
落さないように手で抑えながら、つまり自転車を台車の代りとして押して、
同じ三鷹にあったサンスイのサービスセンターにまで持ち込んだ。

こまかなことは、もう忘れてしまったけれど、サンスイの修理の対応はよかった、とだけ記憶に残っている。
修理から戻ってきたAU-D907 Limitedに、だからより愛着を感じるようになった。

とはいいつつも、どうしても欲しいという人が身近にいて、結局は手離すことになったけれど……。

サンスイは2012年4月に破綻した、というニュースがあった。
破綻した、ということに驚いたというよりも、まだ活動をしていたことにすこし驚いたのだから、
私の中ではサンスイは、オーディオマニアを魅了した、あのころのサンスイとしては終っていたわけだが、
私にとってサンスイは、AU-D907 Limitedとその修理の件以外にも、思い入れのあるメーカーである。

数年前にサンスイのアンプの修理を請け負っているところがある、ときいた。
そのときは、それ以上のことを調べようとは思っていなかった。

今日、朝日新聞のウェブサイトに「サンスイの音色、OBが守る 修理依頼絶えぬ埼玉の工場」という記事をみつけた。

埼玉県入間市にあるアクアオーディオラボのことである。

Date: 2月 8th, 2013
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(サンスイの場合)

大事に使っていても、こわれることがある。
修理に出す。そのときのメーカーの対応で、修理が済み戻ってきたオーディオ機器に、
より愛着を感じるか、愛着が薄れてしまうかになってしまうことだってある。

高校の時にサンスイのAU-D907 Limitedを購入した。
それまでつかっていたプリメインアンプよりもずっと価格的にも、
アンプとしてのグレードも高いプリメインアンプ、
しかも型番の末尾に”Limited”がつくように限定品。

さらにステレオサウンドのState of the Art賞に選ばれている。
53号に、AU-D907 Limitedが載っている。
菅野先生が書かれている。

そこにもあるように、プリメインアンプで”State of the Art”賞に選ばれた最初のモデルでもある。
欲しかった。どうしても欲しかった。
だから修学旅行に行かず、そのための積立金が戻ってきたときに、
アルバイトをして貯めた小遣いと足して、なんとか、このプリメインアンプを買えた。

家にAU-D907 Limitedが届いたときに感じた重さは、
それまでのプリメインアンプとは違う、中味のぎっしりとつまった密度の高い重さがうれしかった。

大事につかってきた。
東京に出てきたときにも、このアンプだけは持ってきた。
とにかく手もとに置いときたかったからだ。

Date: 9月 16th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その17)

山中先生からきいた話がある。
同じことを、菅野先生との対談も語られている。
ステレオサウンド 70号の巻頭対談に載っている。
     *
山中 アメリカの小売店というのは、これは昔からそうなんですが、ある街にオーディオ店が何軒かあるとすると、扱っている商品がすべて違うんです。ですから、お客さんも全部違う。しかも、扱っている商品に関して、サービスが徹底し、メインテナンスもすべて自分のところでできるくらいになっています。
 補修用のパーツをメーカーからとって、ある程度の修理は、自分のところで引き受けられるくらいの店としての技術、格式、誇りがあるんです。お客のほうもそこを頼りにしていきますしね。人間対人間の信頼関係によって商(あきない)が成立しているのです。
菅野 ですから外国のメーカーの人が日本に来て、その販売事情を見てまず感じるのは、日本のオーディオ店は、オーディオ販売店じゃないと、あれは単にオーディオサプライヤーであると厳しく非難してゆきます。
 売るという行為は何もしていないじゃないか、売るということは、売った物に対して責任を持つことであり、当然サービスが必要であり、自分が信じて、要は自分の好きなオーディオ機器を自信をもって説得するのがセールスであるという考え方を彼等は当然なこととしてもっている。ところが、日本にセールスはないと言いますね。量販、量販できたことの弊害というのは、今、様々なレベルで表に出ない問題をかかえこんでしまっていると言えるでしょう。
     *
ステレオサウンド 70号は1984年3月に出ている。
約30年前の話ではあるから、アメリカ、ヨーロッパのオーディオ機器の販売の状況も変化しているかもしれない。
でもアメリカの小売店の在り方は、個人によるガレージメーカーが主宰者をなくしたあとも、
修理、メンテナンスを継続していくうえで採り入れていくべきことであり、
そのままでは無理でも、この在り方を参考にしての、個人によるガレージメーカーの在り方がある、と考える。

個人によるガレージメーカーの製品は、数としてそれほど多くは出ない。
文字通り個人(ひとり)でやっているのだから、作っていける数にも限りもある、
取り扱ってくれる販売店の数も多くはないだろうから。

だからこそ、山中先生が話されている、アメリカのオーディオ店の存在とその関係が必要であるし、
またそれが可能である、はずだ。

Date: 9月 13th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その16)

こんなふうに書いていくと、
どうも私が個人によるガレージメーカーを全否定するものと思われるのかもしれないが、
そういうつもりはない。

なにもすべてのオーディオメーカーが組織でなければならない、とは思っていない。
個人だけのデメリットは確かにあるものの、
一人だから、というメリットもあり、だからこそ経営が成り立っていることもあることはわかっている。

私がいいたいのは、個人によるガレージメーカーであっても、
主宰者なきあとのことを考えての手はずを整えておくことはできる、ということと、
そのことをまったくやっていない個人によるガレージメーカーの製品を買う時には、
修理、メンテナンスに関して苦労することがあるかもしれない、
と購入を考えている人にわかっていてほしい、ということである。

どのメーカーとはいわないけれど、
やはり個人によるガレージメーカーの主宰者に、修理のことを訊ねている人がいた。
それに対する答は、明快だった。
そこの製品は、複雑な構成をとっているものではない。
回路的にもひじょうに簡単なものである。
だから、わからないことがあったら、なんでも訊いてくれれば教える、ということだった。
そのガレージメーカーの中に、1機種だけ高価なモノがあるけれど、
それに関しても、複雑そうに見えても構成はそうではなく、故障する箇所は限られている。
そこに関しても、教えますよ、
と惜しみなく、その製品に注ぎ込まれた、その人のすべてを教えてくれるメーカーがある。

こういうメーカーであれば、あまり不安もなく安心して長くつきあっていけることだと思う。
でも一方で、ノウハウは私の商売のタネだから、教えられない、と頑なな主宰者もいるのを、私は知っている。

そう主張したい人がいるのは理解できるし、
自身の商売を守るためのものだから(それにしても狭量だとは思うけれど)、仕方ないことだろう。

でも、主宰者自身が生きている間はたしかに商売をしていくためのことであっても、
主宰者なきあとのことを、彼自身はどう考えているのだろうか。
そういう主宰者にかぎって、製品を、自分の作品と呼ぶ人が多いようにも感じている。

作品と呼ぶのは、いいことでもある。
でも、その作品を買ってくれた人に対して、
自分がなきあとの修理、メンテナンスのことをまったく用意しておかないことは、
作品(製品)を購入し、彼をいわばサポートしてくれた人に対しても、
彼自身が作品と呼ぶ製品に対しても、不誠実な態度のようにみえる。

だから組織化しなければならないわけでもない。
文字通り個人経営であっても、自身が生きているあいだは明せないことであっても、
きちんとできることはある。

Date: 9月 12th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その15)

ガレージメーカーといっても、大きくわければ、ふたつあるだろう。
文字通り個人でやっているメーカーと、数人とはいえ組織化されているメーカーとにわかれる。

私が修理、メンテナンスのことで注意をうながすことをいってしまうのは、
個人でやっているガレージメーカーに関して、である。

会社の規模としては大きな違いはなくとも、
個人(つまりひとりしかいない)会社とすくなくとも組織化されている(すくなくとも数人はいる)会社とでは、
こと修理、メンテナンスに関して、大きな違い、もっといえば決定的な違いが生じることがある。

個人によるガレージメーカーであっても、その主宰者が健在なうちはとくに問題となることはない。
けれど、人はいつか此の世からいなくなる。
寿命であったり、病気が原因のときもあろうし、事故・災害ということもあろう。
それがいつなのかなんて、誰にもわからない。
本人にもわからない。

個人のメーカーでは、主宰者がいなくなってしまうと、
組織化されていないだけにそこで修理、メンテナンスといったアフターサービスも存在しなくなる。
たとえ数人とはいえ組織化されているガレージメーカーであれば、
たとえ主宰者がいなくなっても、新規開発はとまってしまうかもしれないけれど、
修理、メンテナンスは継続してくれる可能性が残っている。

もちろん会社そのものが存在してくれなければ、結果としては同じことになるわけだが、
それでも個人と組織とでは、規模の違いは少なくとも、このことは時として決定的な違いとなってしまう。

日本にもガレージメーカーはいくつかある。
その中には、個人によるところが、いくつかある。
個人でやることによって経費がおさえられるというメリットもあるから、
このこと自体を否定したいわけではない。

ただ購入する側からしてみると、
いざそういうことになったときの対応を考えているのかどうかは大事なことである。

ケーブルとかアクセサリーといった類のモノであれば、
とくに修理は必要としないから、こんなことを気にすることはない。

だがアンプやD/Aコンバーターといったモノになると、そうもいってられない。
まだ安価なモノであれば、故障した時に、そういうことになっていたらあきらめもつくかもしれないが、
高価なモノであったら、そうはいかない。

Date: 9月 7th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その14)

修理の際、ネックとなりやすいのは、なにもオーディオ専用部品だけではない。
消耗部品も、そうなりやすい。

たとえばテープデッキの録音ヘッド、再生ヘッドなどがある。
メーカーが同じヘッドを作り続けていてくれているか、部品をストックしてくれていれば、
ヘッドが摩耗しても安心して修理に出せるのだが、実際は難しいところだと思う。

カセットデッキは、残念ながら魅力的な新製品が登場しなくなって、けっこうな年月が経っている。
いまもカセットデッキを大切に使われている方がいるのは知っているし、
カセットテープにあまり愛着のもてない私でも、機会があれば欲しい、と思えるデッキは少ないながらもある。

でも、実際に入手したとしても、ヘッドの状態を考えると、その選択肢はさらに狭まっていくことになる。
もともとついていたヘッドとまったく同じものが無理でも、同等のヘッドて修理してくれるのならば、
まだそれでもいいと私は思うわけだが、それも難しいのかもしれない。

だから中古のオーディオ機器を眺めている時でも、
アンプを眺めている時とカセットデッキを眺めている時とでは、考えていることが少し異ってくる。
カセットデッキだと、どうしてもヘッドのことが気になり、
故障していなくてもメンテナンスのことが真っ先に頭に浮ぶ。
まだ会社が存続している会社であればなんとかなる可能性はあっても、
会社がなくなっているブランド、もしくはすっかり様変りしてしまった会社のデッキだったりすると、
そういうことを含めても、目でみてしまっている。

修理のことをあれこれ考えてしまうと、
オーディオ機器は買いにくくなってしまう。
こんなことを書いている私が、購入時にはほとんど、というか、まったく故障した時のことは考えずにいる。

けれど、オーディオ機器は、どんなモノであれ、故障しない、ということはない。
たまたま故障しなかった、ということはあっても、だからといって絶対に故障しないわけではない。

そして、オーディオの会社にしても、こういう時代だと、
どういう会社が生き残り、消えていくのか、も予測しにくいし、
オーディオ機器を買うのに、そんなことまで考えて、というのも、すこし淋しい。

それでも、安心して使える、ということのメリットは、
音がいいと同じくらいに重要なことである。

だから私が、あえて修理のことを最初に言ってしまうのは、
ガレージメーカーのブランドについて訊かれたときである。
それも海外のガレージメーカーではなく、国内のガレージメーカーについて、のときである。

Date: 9月 7th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その13)

オーディオ専用部品を使っていることは、製品登場時点では謳い文句になる。
が、製造中止になり数年、もしくは10年以上が経過して故障した場合には、
オーディオ専用部品を使っていたことが、修理のネックになってしまうことも充分ある。

だからといってオーディオ専用部品を使っているオーディオ機器は購入しない方がいい、とは言いたくない。
わずかな音の差を求めて、当時、オーディオ専用部品まで手がけて、という開発姿勢は、
なにかをもたらしている、と思っているからだ。

パイオニアはガラスケース入りの電解コンデンサーを採用していたからこそ、
1980年代後半、パイオニアのアンプやCDプレーヤーに使われている電解コンデンサーには、
銅テープが貼られるようになった。
マネして、手持ちのアンプ、CDプレーヤーで試したことがある。

この銅テープを電解コンデンサーに巻くのは、部品交換とは違い、
音が悪くなった、自分が求める方向とは違うベクトルになってしまった、という場合には、
銅テープをはがせば、元の状態に戻せる。

これが部品交換となると、元の部品を外すためにハンダをとかすために熱を加える。
新しい部品をハンダつづけするためにも熱を加える。
結果、好ましくなかったときに元の部品に戻したとしても、同じ音は戻ってない。
熱を何度も加えることにより、取り外した部品だけでなく、時には周辺の部品も熱で劣化させているからだ。

銅テープを電解コンデンサーに巻くのは、こういうデメリットがない。
ハンダづけのための熱をくわえるわけではない。
ただテープの巻きつけるだけ、である。

ただ部品が密集していると巻きつけにくいことはある。

パイオニアが銅テープを巻くようになったのは、
やはりガラスケース入りの電解コンデンサーを採用した経験からのような気がしなくもない。

もちろんガラスケースに入れることと同じ効果を、銅テープを巻くことで得られるわけではない。
それでも、ここには何かひとつのつながりがある、と私は思いたい。

Date: 8月 30th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その12)

1970年代も終り近くになったころ、
日本のオーディオメーカーは、コンデンサーや抵抗、ケーブルといった部品(受動素子)による音の変化を認め、
積極的に「音の良い部品」を選び採用することから一歩進んで、
部品メーカーと共同であったり、または自社開発で、オーディオ専用部品を開発するようになっていた。

こまかくあげていけばいくつもあるけれど、
私と同年代、または上の世代の方ならば一度は耳にされている部品としては、
オーレックスが全面的に採用したΛコンデンサーがあり、
パイオニアが、独自の無帰還アンプのZ1シリーズに採用したガラスケース入りの電解コンデンサーがある。

Λコンデンサーは当時のオーディオ雑誌に試聴記事が載っていたくらいだから、
一般市販もされたのではないだろうか。
当時は私はまだ上京していなかったから見かけることはなかったけれど、
秋葉原では流通していたのだろうか……。
ガラスケース入りの電解コンデンサーは、市販されなかったはず。

オーレックスとパイオニアだけ例に挙げたが、
各社それぞれ積極的にオーディオ専用部品を開発していた、と思う。

そのころ高校生だった私は、素直にすごいことだと受け止めていた。
それらの部品がほんとうに優れた音質を実現してくれるのにどれだけ役立っているのかはなんともいえないけれど、
そこには他社との差別化という理由もあるだろうが、
各メーカーの意気込みも感じられるのだから、オーディオはある時代、ベンチャービジネス的だったようにも思う。

いまでもこれらの部品がさらなる改良を加えられていたら……、と思うこともある。
けれどこれらのオーディオ専用部品の大半は消えていってしまった。

もちろんなんらかのかたちで、それらの部品開発がもたらしたものが、
現行の部品に活かさされているのだろうとは思っても、一抹の淋しさは否定できない。

そう、これらのオーディオ専用部品は消えていった……。
ということは、これらのオーディオ専用部品を積極的に採用したアンプをいま修理しようとしたとき、
しかもそれらの部品が不良となった故障の場合、
どのメーカーも、これらオーディオ専用部品をストックはしていない、と思われる。

Date: 8月 29th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その11)

海外製のオーディオ機器となると、
輸入商社が変ることにって修理、メンテナンスに関しての状況も大きく変ることもある。
良くなることもあればそうでないこともあるし、ほとんど変らないこともある。

それに輸入商社がなくなることもある。
その会社がなくなってしまったら、そのブランドの取扱いをやめることがある。
ある一定期間は取扱いをやめたあとでも修理に応じてくれるところがほとんどであるが、
それもそう長期間続けてくれるものではない。

修理、メンテナンスに関しては、国産メーカーならばここならば大丈夫、とか、
あそこはあまり良くない、とか、
海外ブランドに関しても、どこがいい、とか、一概にはいえない。

私自身は、といえば、以前はまったく修理、メンテナンスのことなど考慮せずにオーディオ機器を選んでいた。
とにかく音が良いこと、デザインが優れていること、
手もとにおいて愛着がわいてくるモノであることだけで、オーディオ機器を選んでいた。

多少動作が不安定とウワサされるモノであっても、
ほんとうにその音(性能)が、そのときの自分に必要と感じるのであれば、選んでいた。

いまはどうか、というと、そうは変っていない。
故障したら、なんとかなるだろう、なんとかならなかったら、自分でなんとかするしかない、ぐらいの気持でいる。

でも、ときどき、「これって、どう思います?」と訊かれることがある。
この場合の「これ」は、ある特定のブランドであったり、型番であったりする。

このとき、どう答えるかが、私の場合、昔と今とではすこしだけ違ってきているところがあり、
それは修理、メンテナンスに関することである。

Date: 8月 28th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その10)

このCDプレーヤーの件は、かなり特殊なことだったんだと思う。
これに似た話は、ほかに聞いたことはない。
まぁ、めったに起らないこととはいえるのだが、だからといって絶対に起らないことでもない。

修理、メンテナンスのためにメーカーは補修パーツをストックしておく必要がある。
その補修パーツを保管しておくにはそれだけの場所が必要だし、
オーディオ機器のパーツは温度、湿気によって劣化するものだから、ただ保管しておけばいいというものではない。
保管しておくためにお金が必要となる。
しかも補修パーツは会社の資産としてみなされるはずだから、税金もかかってくる(はず)。

だからメーカーは製造中止になってある期間がすぎたら修理が無理となるのはしかたないともいえる。

でもユーザーは、メーカーが思っている以上に、長く大切に使い続けているものである。
製造中止になって10年以上経ったモノ、
それもメカニズムを搭載していて、そこが故障した場合、修理は望みにくい。
それでもあきらめきれずにメーカーに問い合わせる。
無理です、という返事がくる。

ここまでは体験された方もいよう。
いまはメールで問合せをする人が多いはず。

でもメールでことわられたら、あきらめずに電話をして丁寧に修理を依頼すると、
条件つきで修理に応じてくれるメーカーも、またある。
確実に直せるとは約束できないけれど、みてみましょう、ということになることがある。
そして運良く、とでもいおうか、きちんと修理されてきた例を私は知っている。

そういうメーカーは、いい会社だな、と思う。
そして、メールは便利だけれどもで、やっぱり肉声だな、声によるコミュニケーションとも思う。

Date: 8月 28th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その9)

故障したら修理、
故障までいかなくても古くなってきたらメンテナンスが必要となってくる。

修理、メンテナンスに対して、そのメーカー、輸入商社がどう考えているのか、
実際のつかっているオーディオ機器が故障して修理に出してみないことには、はっきりとしたことはいえない。

それでも、ある程度想像がつく範囲のこともある。
ウワサが耳に入ってくることもある。

でも、なにかオーディオ機器を新たに購入する時に、
修理態勢、メンテナンス態勢まで気にして買う人は、いったいどのぐらいの割合なのだろうか。

まったく故障の心配のないオーディオ機器、
特性の劣化のないオーディオ機器というものが存在していれば、
修理、メンテナンスのことなんかまたく気にすることもないけれど、
故障する可能性は、どんなオーディオ機器であれ持っているわけだし、
特性の劣化しないオーディオ機器も存在しない以上、
購入時には、決して安い買物ではないのだから、少しは考慮した方がいい。

アキュフェーズ、ウエスギアンプは、内外のオーディオメーカーの中では例外的といえるだろう。
ここまで修理、メンテナンスに関して安心できるメーカーは、あとどこかあるだろうか。

アキュフェーズやウエスギアンプよりも規模の大きなメーカーはいくつもある。
日本では家電メーカーがオーディオ機器も作っていたわけだから、
会社規模は比較にならないほど大きい。
大きいから安心できる、いつまでも安心できる、というわけではない。

こんなことがあった。
ある家電メーカーのCDプレーヤーの第一号機。
安いものではない、そこそこ高価なのであった。
にもかかわらず発売3年ほどで修理が不可能ということで、
その時点の、そのメーカーの最高級機種との交換ということがあった。

製造中止になって、それほど長い期間があったわけでもないのに……、である。

Date: 8月 24th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その8)

スピーカーを最悪まきぞえにするパワーアンプを、なかには積極的に客に薦める店員もいるかもしれない。
たぶん、いるであろう。
スピーカーがダメになってしまえば、新たにスピーカーシステムを売りつけることができる。
それらはけっして安くはないスピーカーシステムであることが多い。

さらには故障したパワーアンプも替えてしまうようにと薦める輩もいよう。
売上げだけを重視する店にいれば、そういうふうになっていってしまっても不思議ではない。

私は幸いにして、そういう店員に出会ったことはないけれど、
それに似た話をまったく聞かないわけでもない。

私が店員であれば、やはりスピーカーをきまぞえにするパワーアンプは、
客が納得ずくで購入するのであれば売っても、
そうでなければ、あまり薦めないだろう。

そのスピーカーシステムが現行製品であっても売りにくさを感じるだろうし、
ましてすでに製造中止になっていて、しかもそのメーカーが存在しなくなっているようなモノであれば、
しつこいくらいに確認したくなるはず。
とくにマルチアンプでシステムを組んでいる人に対しては、パワーアンプの安心度は重要なことである。

わずかな音の違いを求めていくのがオーディオの楽しみではあっても、
つねに音の追求が最重要、最優先されるわけではないこともあるのが、またオーディオである。

オーディオのシステムでなにがいちばん大切なのか。
すべて大切、ではあっても、やはりスピーカーだけは特別である。
愛着をもって鳴らし込んできたスピーカー、
入手するまでに苦労したスピーカー、
ある縁がきっかけで巡り廻ってきたスピーカー、
スピーカーはかけがえのないものであることが多い。

そういうスピーカーをなくすつらさを知っているオーディオ店の人であれば、
パワーアンプの薦め方は、そうでない店員とは違ってくる。

おそらくアキュフェーズとウエスギアンプを薦めていた人は、
そのつらさを知る人だろう。

Date: 8月 24th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その7)

故障と修理。
思い出したことがある。
ステレオサウンドで働くようになってから1、2年ほど経ったころ耳にした話がある。
ある地方のオーディオ店のことである。

このオーディオ店ではアンプには関して、アキュフェーズとウエスギアンプを客に薦めていた。
以前は、この店も海外製の高級(高額)なアンプを積極的に進めていた時期もあったらしい。
けれど海外製のアンプの中には故障してしまうと、国内の代理店、輸入商社での修理ではなく、
そのメーカーに送り返して、というものが少なからずあり、
さらには修理を終えてユーザーのもとに戻ってくるまで半年以上かかるものすらあった。

愛用しているオーディオ機器が一ヵ月から長いときには半年以上、リスニングルームからいなくなる。
この間、輸入商社から代替機が用意されることはほとんどないだろう。
店が代替機を用意することもあるだろう。

代替機を用意してくれても、ユーザーにとって愛機が不在なことにかわりはない。
海外製品を使うデメリットと理解してくれる客ばかりではない。
私だって、修理に半年かかるといわれれば、なにかがおかしいと思う。
誰だってそう思うだろう。
それは、高額な価格にみあった製品なのだろうか。

その点、アキュフェーズ、ウエスギアンプは故障そのものがすくない。
しかも修理体制が非常にしっかりしている。
かなり以前の製品でもきちんと修理されて戻ってくる。
このことを軽視しする人もいるだろう。

修理体制がしっかりしているのにこしたことはないけれど、
オーディオ機器でまず大事なのは、音の良さである、と。

私もそう思っているひとりである。
だからSUMOのThe Goldの中古を探し出して使っていたわけだ。

そういう私でも、めったに故障しなくて、
たとえ故障しても修理体制がしっかりしていることは、ひじょうに大きなメリットだと思うし、
そういうオーディオ機器(特にアンプ、それもパワーアンプ)は安心して使える。

なぜなら、パワーアンプの故障でもっともこわいのは、
アンプだけの故障にとどまらず、最悪の場合、スピーカーを破損してしまう危険性もある、ということだ。

おそらく、アキュフェーズとウエスギアンプを薦めるオーディオ店の店主は、
海外製のパワーアンプの故障によって、客の大事なスピーカーを破損してしまうということがあったのだと思う。

客が指名して、そのアンプを購入したのであれば、販売した店、店主に責任があるとはいえない。
けれど、店主としては、それですまされることでもないはず。

Date: 8月 23rd, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その6)

どんな使い方をしても故障せずに、初期特性を定期的なメンテナンスすることなくずっと維持できる──、
そんなオーディオ機器は世の中にはひとつもないし、
そういうオーディオ機器が、音のことをさておき、果して理想のオーディオ機器の在り方なのか。

音楽のみに関心があり、オーディオ機器には一切の興味、関心がない、という人にとっては、
そういう故障もなくメンテナンスも必要としない機器は理想であろうが、
すくなくともオーディオマニアを自称する人であれば、オーディオ機器への愛着があり、
その愛着は使い方によって深まっていくのでもある。

オーディオ機器は、いつかは壊れる。
壊れてしまったら修理が必要だし、
初期特性を維持するためにはメンテナンスも必要である。

このふたつ、修理とメンテナンスがユーザー側で可能なモノが以前は割と多かった、と感じている。

無線と実験で、いま「直して使う古いオーディオ機器」という不定期の連載記事がある。
なんのひねりもないタイトルから内容はすぐにわかる。タイトル透りの記事である。
筆者は渡邊芳之さん。

この記事にこれまで登場したオーディオ機器はQUADのトランジスターアンプ、
トーレンス、デュアルのアナログプレーヤーで、
これからSMEのトーンアームについての記事が載る予定だそうだ。
毎回3ページのこの記事が載るのを、個人的には楽しみにしている。

故障してしまったとき、まだメーカーがその製品を修理してくれているのであれば修理に出せばいい。
けれど古い製品であればすでに補修用パーツをメーカーが処分してしまっていたり、
メーカー自体がなくなっていることだって現実にはある。
そうなってしまうと、どこか代りに修理してくれる会社もしくは個人を探し出すことから始めなくてはならない。

「直して使う古いオーディオ機器」を読めば思うのは、
昔のオーディオ機器は、ある程度の故障ならユーザーの手によって修理が可能な造りをしている、ということ。
補修パーツを用意できれば、そう難しいことではない。
しかもその補修パーツも、インターネットの普及のおかげで、以前より入手は容易になっている面もある。
このへんのことは、渡邊芳之さんの記事をお読みいただきたい。

オーディオ機器すべてが、ユーザーの手が修理できる造りである必要はない。
ないけれども、直して使うことによって深まっていくものがあるのも、また事実である。

Date: 8月 22nd, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その5)

オーディオ機器が長くつき合ってこそ、的な云われ方が昔からされている。
けれど、これには条件がある。
長くつき合うには、その長い期間の使用に耐えるだけの造りの良さ、安定性、耐久性といったものが、
オーディオ機器に備わっていることである。

どんなに高性能であり、満足のいく音を出してくれるものであっても、
使用条件がひじょうに狭い範囲のものであり、しかも不安定な機器で、
音を聴く前に調整が必要になるという機器や、
初期特性をそれほど長い期間維持できない機器などは、
たとえこわれなかったとしても、こういう機器とは長いつき合いは正直難しい。

性能を維持するために必要な手入れは面倒だとは思わない。
けれど、それが常に求められるのであれば、購入したばかりの頃はまだいいかもしれないが、
ずっと頻繁な手入れ、調整が要求されるであれば、
機器の調整そのものが好きな人はいいかもしれないが、私はいやだ。

スピーカーシステムは、さらにエージングが必要なオーディオ機器であり、
エージングが音を大きく左右する、といわれている。
だからといって、20年、30年エージングの期間が必要なわけではない。
どうも中には、ひじょうに長いエージングををしないと、まともな音にはならないと思われている方もいるようだが、
それはまた別の問題が関係して、のことである。

ほんとうにひとりの人が20年、30年手塩にかけてていねいに鳴らし込んできたスピーカーは、
時に素晴らしい音を奏でてくれることがある。
けれど、これも20年、30年の使用に耐えられたスピーカーだからこそ、いえることである。

どんなに丁寧に、気も使って鳴らしてきても、
そして定期的なメンテナンスをやってきたとしても、
これまで世の中に登場してきたスピーカーのすべて、20年、30年使っていけるわけではない。

長い使用に耐えられるモノでなければ、長くつき合えるわけではない。