Archive for category ロングラン(ロングライフ)

Date: 9月 7th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その14)

修理の際、ネックとなりやすいのは、なにもオーディオ専用部品だけではない。
消耗部品も、そうなりやすい。

たとえばテープデッキの録音ヘッド、再生ヘッドなどがある。
メーカーが同じヘッドを作り続けていてくれているか、部品をストックしてくれていれば、
ヘッドが摩耗しても安心して修理に出せるのだが、実際は難しいところだと思う。

カセットデッキは、残念ながら魅力的な新製品が登場しなくなって、けっこうな年月が経っている。
いまもカセットデッキを大切に使われている方がいるのは知っているし、
カセットテープにあまり愛着のもてない私でも、機会があれば欲しい、と思えるデッキは少ないながらもある。

でも、実際に入手したとしても、ヘッドの状態を考えると、その選択肢はさらに狭まっていくことになる。
もともとついていたヘッドとまったく同じものが無理でも、同等のヘッドて修理してくれるのならば、
まだそれでもいいと私は思うわけだが、それも難しいのかもしれない。

だから中古のオーディオ機器を眺めている時でも、
アンプを眺めている時とカセットデッキを眺めている時とでは、考えていることが少し異ってくる。
カセットデッキだと、どうしてもヘッドのことが気になり、
故障していなくてもメンテナンスのことが真っ先に頭に浮ぶ。
まだ会社が存続している会社であればなんとかなる可能性はあっても、
会社がなくなっているブランド、もしくはすっかり様変りしてしまった会社のデッキだったりすると、
そういうことを含めても、目でみてしまっている。

修理のことをあれこれ考えてしまうと、
オーディオ機器は買いにくくなってしまう。
こんなことを書いている私が、購入時にはほとんど、というか、まったく故障した時のことは考えずにいる。

けれど、オーディオ機器は、どんなモノであれ、故障しない、ということはない。
たまたま故障しなかった、ということはあっても、だからといって絶対に故障しないわけではない。

そして、オーディオの会社にしても、こういう時代だと、
どういう会社が生き残り、消えていくのか、も予測しにくいし、
オーディオ機器を買うのに、そんなことまで考えて、というのも、すこし淋しい。

それでも、安心して使える、ということのメリットは、
音がいいと同じくらいに重要なことである。

だから私が、あえて修理のことを最初に言ってしまうのは、
ガレージメーカーのブランドについて訊かれたときである。
それも海外のガレージメーカーではなく、国内のガレージメーカーについて、のときである。

Date: 9月 7th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その13)

オーディオ専用部品を使っていることは、製品登場時点では謳い文句になる。
が、製造中止になり数年、もしくは10年以上が経過して故障した場合には、
オーディオ専用部品を使っていたことが、修理のネックになってしまうことも充分ある。

だからといってオーディオ専用部品を使っているオーディオ機器は購入しない方がいい、とは言いたくない。
わずかな音の差を求めて、当時、オーディオ専用部品まで手がけて、という開発姿勢は、
なにかをもたらしている、と思っているからだ。

パイオニアはガラスケース入りの電解コンデンサーを採用していたからこそ、
1980年代後半、パイオニアのアンプやCDプレーヤーに使われている電解コンデンサーには、
銅テープが貼られるようになった。
マネして、手持ちのアンプ、CDプレーヤーで試したことがある。

この銅テープを電解コンデンサーに巻くのは、部品交換とは違い、
音が悪くなった、自分が求める方向とは違うベクトルになってしまった、という場合には、
銅テープをはがせば、元の状態に戻せる。

これが部品交換となると、元の部品を外すためにハンダをとかすために熱を加える。
新しい部品をハンダつづけするためにも熱を加える。
結果、好ましくなかったときに元の部品に戻したとしても、同じ音は戻ってない。
熱を何度も加えることにより、取り外した部品だけでなく、時には周辺の部品も熱で劣化させているからだ。

銅テープを電解コンデンサーに巻くのは、こういうデメリットがない。
ハンダづけのための熱をくわえるわけではない。
ただテープの巻きつけるだけ、である。

ただ部品が密集していると巻きつけにくいことはある。

パイオニアが銅テープを巻くようになったのは、
やはりガラスケース入りの電解コンデンサーを採用した経験からのような気がしなくもない。

もちろんガラスケースに入れることと同じ効果を、銅テープを巻くことで得られるわけではない。
それでも、ここには何かひとつのつながりがある、と私は思いたい。

Date: 8月 30th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その12)

1970年代も終り近くになったころ、
日本のオーディオメーカーは、コンデンサーや抵抗、ケーブルといった部品(受動素子)による音の変化を認め、
積極的に「音の良い部品」を選び採用することから一歩進んで、
部品メーカーと共同であったり、または自社開発で、オーディオ専用部品を開発するようになっていた。

こまかくあげていけばいくつもあるけれど、
私と同年代、または上の世代の方ならば一度は耳にされている部品としては、
オーレックスが全面的に採用したΛコンデンサーがあり、
パイオニアが、独自の無帰還アンプのZ1シリーズに採用したガラスケース入りの電解コンデンサーがある。

Λコンデンサーは当時のオーディオ雑誌に試聴記事が載っていたくらいだから、
一般市販もされたのではないだろうか。
当時は私はまだ上京していなかったから見かけることはなかったけれど、
秋葉原では流通していたのだろうか……。
ガラスケース入りの電解コンデンサーは、市販されなかったはず。

オーレックスとパイオニアだけ例に挙げたが、
各社それぞれ積極的にオーディオ専用部品を開発していた、と思う。

そのころ高校生だった私は、素直にすごいことだと受け止めていた。
それらの部品がほんとうに優れた音質を実現してくれるのにどれだけ役立っているのかはなんともいえないけれど、
そこには他社との差別化という理由もあるだろうが、
各メーカーの意気込みも感じられるのだから、オーディオはある時代、ベンチャービジネス的だったようにも思う。

いまでもこれらの部品がさらなる改良を加えられていたら……、と思うこともある。
けれどこれらのオーディオ専用部品の大半は消えていってしまった。

もちろんなんらかのかたちで、それらの部品開発がもたらしたものが、
現行の部品に活かさされているのだろうとは思っても、一抹の淋しさは否定できない。

そう、これらのオーディオ専用部品は消えていった……。
ということは、これらのオーディオ専用部品を積極的に採用したアンプをいま修理しようとしたとき、
しかもそれらの部品が不良となった故障の場合、
どのメーカーも、これらオーディオ専用部品をストックはしていない、と思われる。

Date: 8月 29th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その11)

海外製のオーディオ機器となると、
輸入商社が変ることにって修理、メンテナンスに関しての状況も大きく変ることもある。
良くなることもあればそうでないこともあるし、ほとんど変らないこともある。

それに輸入商社がなくなることもある。
その会社がなくなってしまったら、そのブランドの取扱いをやめることがある。
ある一定期間は取扱いをやめたあとでも修理に応じてくれるところがほとんどであるが、
それもそう長期間続けてくれるものではない。

修理、メンテナンスに関しては、国産メーカーならばここならば大丈夫、とか、
あそこはあまり良くない、とか、
海外ブランドに関しても、どこがいい、とか、一概にはいえない。

私自身は、といえば、以前はまったく修理、メンテナンスのことなど考慮せずにオーディオ機器を選んでいた。
とにかく音が良いこと、デザインが優れていること、
手もとにおいて愛着がわいてくるモノであることだけで、オーディオ機器を選んでいた。

多少動作が不安定とウワサされるモノであっても、
ほんとうにその音(性能)が、そのときの自分に必要と感じるのであれば、選んでいた。

いまはどうか、というと、そうは変っていない。
故障したら、なんとかなるだろう、なんとかならなかったら、自分でなんとかするしかない、ぐらいの気持でいる。

でも、ときどき、「これって、どう思います?」と訊かれることがある。
この場合の「これ」は、ある特定のブランドであったり、型番であったりする。

このとき、どう答えるかが、私の場合、昔と今とではすこしだけ違ってきているところがあり、
それは修理、メンテナンスに関することである。

Date: 8月 28th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その10)

このCDプレーヤーの件は、かなり特殊なことだったんだと思う。
これに似た話は、ほかに聞いたことはない。
まぁ、めったに起らないこととはいえるのだが、だからといって絶対に起らないことでもない。

修理、メンテナンスのためにメーカーは補修パーツをストックしておく必要がある。
その補修パーツを保管しておくにはそれだけの場所が必要だし、
オーディオ機器のパーツは温度、湿気によって劣化するものだから、ただ保管しておけばいいというものではない。
保管しておくためにお金が必要となる。
しかも補修パーツは会社の資産としてみなされるはずだから、税金もかかってくる(はず)。

だからメーカーは製造中止になってある期間がすぎたら修理が無理となるのはしかたないともいえる。

でもユーザーは、メーカーが思っている以上に、長く大切に使い続けているものである。
製造中止になって10年以上経ったモノ、
それもメカニズムを搭載していて、そこが故障した場合、修理は望みにくい。
それでもあきらめきれずにメーカーに問い合わせる。
無理です、という返事がくる。

ここまでは体験された方もいよう。
いまはメールで問合せをする人が多いはず。

でもメールでことわられたら、あきらめずに電話をして丁寧に修理を依頼すると、
条件つきで修理に応じてくれるメーカーも、またある。
確実に直せるとは約束できないけれど、みてみましょう、ということになることがある。
そして運良く、とでもいおうか、きちんと修理されてきた例を私は知っている。

そういうメーカーは、いい会社だな、と思う。
そして、メールは便利だけれどもで、やっぱり肉声だな、声によるコミュニケーションとも思う。

Date: 8月 28th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その9)

故障したら修理、
故障までいかなくても古くなってきたらメンテナンスが必要となってくる。

修理、メンテナンスに対して、そのメーカー、輸入商社がどう考えているのか、
実際のつかっているオーディオ機器が故障して修理に出してみないことには、はっきりとしたことはいえない。

それでも、ある程度想像がつく範囲のこともある。
ウワサが耳に入ってくることもある。

でも、なにかオーディオ機器を新たに購入する時に、
修理態勢、メンテナンス態勢まで気にして買う人は、いったいどのぐらいの割合なのだろうか。

まったく故障の心配のないオーディオ機器、
特性の劣化のないオーディオ機器というものが存在していれば、
修理、メンテナンスのことなんかまたく気にすることもないけれど、
故障する可能性は、どんなオーディオ機器であれ持っているわけだし、
特性の劣化しないオーディオ機器も存在しない以上、
購入時には、決して安い買物ではないのだから、少しは考慮した方がいい。

アキュフェーズ、ウエスギアンプは、内外のオーディオメーカーの中では例外的といえるだろう。
ここまで修理、メンテナンスに関して安心できるメーカーは、あとどこかあるだろうか。

アキュフェーズやウエスギアンプよりも規模の大きなメーカーはいくつもある。
日本では家電メーカーがオーディオ機器も作っていたわけだから、
会社規模は比較にならないほど大きい。
大きいから安心できる、いつまでも安心できる、というわけではない。

こんなことがあった。
ある家電メーカーのCDプレーヤーの第一号機。
安いものではない、そこそこ高価なのであった。
にもかかわらず発売3年ほどで修理が不可能ということで、
その時点の、そのメーカーの最高級機種との交換ということがあった。

製造中止になって、それほど長い期間があったわけでもないのに……、である。

Date: 8月 24th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その8)

スピーカーを最悪まきぞえにするパワーアンプを、なかには積極的に客に薦める店員もいるかもしれない。
たぶん、いるであろう。
スピーカーがダメになってしまえば、新たにスピーカーシステムを売りつけることができる。
それらはけっして安くはないスピーカーシステムであることが多い。

さらには故障したパワーアンプも替えてしまうようにと薦める輩もいよう。
売上げだけを重視する店にいれば、そういうふうになっていってしまっても不思議ではない。

私は幸いにして、そういう店員に出会ったことはないけれど、
それに似た話をまったく聞かないわけでもない。

私が店員であれば、やはりスピーカーをきまぞえにするパワーアンプは、
客が納得ずくで購入するのであれば売っても、
そうでなければ、あまり薦めないだろう。

そのスピーカーシステムが現行製品であっても売りにくさを感じるだろうし、
ましてすでに製造中止になっていて、しかもそのメーカーが存在しなくなっているようなモノであれば、
しつこいくらいに確認したくなるはず。
とくにマルチアンプでシステムを組んでいる人に対しては、パワーアンプの安心度は重要なことである。

わずかな音の違いを求めていくのがオーディオの楽しみではあっても、
つねに音の追求が最重要、最優先されるわけではないこともあるのが、またオーディオである。

オーディオのシステムでなにがいちばん大切なのか。
すべて大切、ではあっても、やはりスピーカーだけは特別である。
愛着をもって鳴らし込んできたスピーカー、
入手するまでに苦労したスピーカー、
ある縁がきっかけで巡り廻ってきたスピーカー、
スピーカーはかけがえのないものであることが多い。

そういうスピーカーをなくすつらさを知っているオーディオ店の人であれば、
パワーアンプの薦め方は、そうでない店員とは違ってくる。

おそらくアキュフェーズとウエスギアンプを薦めていた人は、
そのつらさを知る人だろう。

Date: 8月 24th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その7)

故障と修理。
思い出したことがある。
ステレオサウンドで働くようになってから1、2年ほど経ったころ耳にした話がある。
ある地方のオーディオ店のことである。

このオーディオ店ではアンプには関して、アキュフェーズとウエスギアンプを客に薦めていた。
以前は、この店も海外製の高級(高額)なアンプを積極的に進めていた時期もあったらしい。
けれど海外製のアンプの中には故障してしまうと、国内の代理店、輸入商社での修理ではなく、
そのメーカーに送り返して、というものが少なからずあり、
さらには修理を終えてユーザーのもとに戻ってくるまで半年以上かかるものすらあった。

愛用しているオーディオ機器が一ヵ月から長いときには半年以上、リスニングルームからいなくなる。
この間、輸入商社から代替機が用意されることはほとんどないだろう。
店が代替機を用意することもあるだろう。

代替機を用意してくれても、ユーザーにとって愛機が不在なことにかわりはない。
海外製品を使うデメリットと理解してくれる客ばかりではない。
私だって、修理に半年かかるといわれれば、なにかがおかしいと思う。
誰だってそう思うだろう。
それは、高額な価格にみあった製品なのだろうか。

その点、アキュフェーズ、ウエスギアンプは故障そのものがすくない。
しかも修理体制が非常にしっかりしている。
かなり以前の製品でもきちんと修理されて戻ってくる。
このことを軽視しする人もいるだろう。

修理体制がしっかりしているのにこしたことはないけれど、
オーディオ機器でまず大事なのは、音の良さである、と。

私もそう思っているひとりである。
だからSUMOのThe Goldの中古を探し出して使っていたわけだ。

そういう私でも、めったに故障しなくて、
たとえ故障しても修理体制がしっかりしていることは、ひじょうに大きなメリットだと思うし、
そういうオーディオ機器(特にアンプ、それもパワーアンプ)は安心して使える。

なぜなら、パワーアンプの故障でもっともこわいのは、
アンプだけの故障にとどまらず、最悪の場合、スピーカーを破損してしまう危険性もある、ということだ。

おそらく、アキュフェーズとウエスギアンプを薦めるオーディオ店の店主は、
海外製のパワーアンプの故障によって、客の大事なスピーカーを破損してしまうということがあったのだと思う。

客が指名して、そのアンプを購入したのであれば、販売した店、店主に責任があるとはいえない。
けれど、店主としては、それですまされることでもないはず。

Date: 8月 23rd, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その6)

どんな使い方をしても故障せずに、初期特性を定期的なメンテナンスすることなくずっと維持できる──、
そんなオーディオ機器は世の中にはひとつもないし、
そういうオーディオ機器が、音のことをさておき、果して理想のオーディオ機器の在り方なのか。

音楽のみに関心があり、オーディオ機器には一切の興味、関心がない、という人にとっては、
そういう故障もなくメンテナンスも必要としない機器は理想であろうが、
すくなくともオーディオマニアを自称する人であれば、オーディオ機器への愛着があり、
その愛着は使い方によって深まっていくのでもある。

オーディオ機器は、いつかは壊れる。
壊れてしまったら修理が必要だし、
初期特性を維持するためにはメンテナンスも必要である。

このふたつ、修理とメンテナンスがユーザー側で可能なモノが以前は割と多かった、と感じている。

無線と実験で、いま「直して使う古いオーディオ機器」という不定期の連載記事がある。
なんのひねりもないタイトルから内容はすぐにわかる。タイトル透りの記事である。
筆者は渡邊芳之さん。

この記事にこれまで登場したオーディオ機器はQUADのトランジスターアンプ、
トーレンス、デュアルのアナログプレーヤーで、
これからSMEのトーンアームについての記事が載る予定だそうだ。
毎回3ページのこの記事が載るのを、個人的には楽しみにしている。

故障してしまったとき、まだメーカーがその製品を修理してくれているのであれば修理に出せばいい。
けれど古い製品であればすでに補修用パーツをメーカーが処分してしまっていたり、
メーカー自体がなくなっていることだって現実にはある。
そうなってしまうと、どこか代りに修理してくれる会社もしくは個人を探し出すことから始めなくてはならない。

「直して使う古いオーディオ機器」を読めば思うのは、
昔のオーディオ機器は、ある程度の故障ならユーザーの手によって修理が可能な造りをしている、ということ。
補修パーツを用意できれば、そう難しいことではない。
しかもその補修パーツも、インターネットの普及のおかげで、以前より入手は容易になっている面もある。
このへんのことは、渡邊芳之さんの記事をお読みいただきたい。

オーディオ機器すべてが、ユーザーの手が修理できる造りである必要はない。
ないけれども、直して使うことによって深まっていくものがあるのも、また事実である。

Date: 8月 22nd, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その5)

オーディオ機器が長くつき合ってこそ、的な云われ方が昔からされている。
けれど、これには条件がある。
長くつき合うには、その長い期間の使用に耐えるだけの造りの良さ、安定性、耐久性といったものが、
オーディオ機器に備わっていることである。

どんなに高性能であり、満足のいく音を出してくれるものであっても、
使用条件がひじょうに狭い範囲のものであり、しかも不安定な機器で、
音を聴く前に調整が必要になるという機器や、
初期特性をそれほど長い期間維持できない機器などは、
たとえこわれなかったとしても、こういう機器とは長いつき合いは正直難しい。

性能を維持するために必要な手入れは面倒だとは思わない。
けれど、それが常に求められるのであれば、購入したばかりの頃はまだいいかもしれないが、
ずっと頻繁な手入れ、調整が要求されるであれば、
機器の調整そのものが好きな人はいいかもしれないが、私はいやだ。

スピーカーシステムは、さらにエージングが必要なオーディオ機器であり、
エージングが音を大きく左右する、といわれている。
だからといって、20年、30年エージングの期間が必要なわけではない。
どうも中には、ひじょうに長いエージングををしないと、まともな音にはならないと思われている方もいるようだが、
それはまた別の問題が関係して、のことである。

ほんとうにひとりの人が20年、30年手塩にかけてていねいに鳴らし込んできたスピーカーは、
時に素晴らしい音を奏でてくれることがある。
けれど、これも20年、30年の使用に耐えられたスピーカーだからこそ、いえることである。

どんなに丁寧に、気も使って鳴らしてきても、
そして定期的なメンテナンスをやってきたとしても、
これまで世の中に登場してきたスピーカーのすべて、20年、30年使っていけるわけではない。

長い使用に耐えられるモノでなければ、長くつき合えるわけではない。

Date: 8月 14th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その4)

927の原型であるR80と930stが、耐久性においてまったく同じであるとはいえないかもしれないが、
930stもスタジオ用プレーヤーとして開発され、多くのスタジオで使われてきた実績があるということきは、
耐久性において、定期的なメンテナンスをやっていけば、かなりの長期間に渡って信頼できる性能を維持できる。

930stや927Dstよりも、性能の高いアナログプレーヤーはダイレクトドライヴの出現によって、
普及クラスのプレーヤーであっても登場してきている。
ワウ・フラッターにしてもカタログ発表値は普及クラスのダイレクトドライヴ型のモノが低い値だ。

けれど、それらのアナログプレーヤーを10年、20年スタジオという現場で使っていったとき、
どういう変化を見せるであろうか。

私の趣味に自転車がある。
いまから17年前に、はじめてロードバイクを購入したとき、
自転車店の人にいわれたのは、コンポーネントの価格の違いについて、であった。

私が選んだのはシマノのデュラエースだったが、
シマノのコンポーネントにはグレードがあり、デュラエースをトップにその下にアルテグラ、105があった。
自転車店の人によると、これらの性能はほとんど同じだ、ということだ。
ギアの変速、ブレーキの制動具合など、価格ほどの差はない。
なのにこれだけの価格の差がついているのは、
初期性能をどれだけ維持できるかということの違い、ということだった。

もちろんグレードの違いには、それだけではなく、
仕上げの違い、操作感の違いなども当然あるのだが、
数多くの自転車を組み上げ、調整しメンテナンスをしてきたプロの言葉には、重みがあった。

EMTのアナログプレーヤーの良さ、
といってもEMTのダイレクトドライヴの950や948は自分で使った経験がないので、
ここではあくまでも920、927に話を限らせてもらうことになるが、
初期特性を長期間に渡り維持できる良さである。

Date: 8月 13th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その3)

EMTの930st、927Dstはどういうアナログプレーヤーかといえば、
教務用としてつくられたモノということがまっさきにあげられる。

業務用(プロ用)ということは、一般にコンシューマーユーザーとは使い方が大きく異る、とよくいわれる。
とにかく使用時間が圧倒的に長い。
930stもDのつかない927stも放送局で使われることを前提としている。

927が40cmのディスクがかけられるようになっているのは、
まだテープが普及していなかった時代、
放送局用に少しでも時間を稼げるようにということで40cm径のディスクがあったときいている。
もともと927はそのためにつくられたプレーヤーなのだ。

放送局用だから、927Dstでは省かれているけれど930stにも927stにもクイックスタート・ストップ機構がある。
そのためにアルミ製のメインターンテーブルのうえにプレクシグラス製のサブターンテーブルがのる。
クイックスタート・ストップ機構に関係しているのは、このプレクシグラス製ターンテーブルであり、
基本的な使い方としてはアルミ製のメインターンテーブルは回転させつづけているわけだ。

放送局のスタジオに何台の930stが置かれているのかは、
スタジオの規模、予算などによってまちまちだろうが、それでも930stが稼働している時間は相当に長い。
その長さは、家庭で使われるのとは比較にならないほどのものであろう。

そういう使われ方をされても、へたらないことが、とにかく求められる。

いまはなくなってしまったがEMTは定期的に情報誌を出していた。
Courier(クーリエ)という情報誌の1971年の号に、927の原型となったR80のことが載っている。
EMTがR80のユーザーから50台の初期のR80を買い戻して測定した内容である。
つまり20年以上、スタジオという現場で使われてきた(酷使されてきた)R80が、
どの程度性能の変化が生じるのかをEMT自身が測定したわけだ。

結果はEMTが新品の状態で保証していた値(多少の幅がありその最大値)を、いずれも下回っていた、とあった。

Date: 6月 19th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その2)

「永遠の価値」とまでいってしまうと、それはもう無理なことではあるけれど、
永く価値あるモノ、価値の変らないモノはあるのだろうか──。
あるとしたら、いったいどういうモノなのか、どういう条件を満たしているモノなのか、
こんなことをステレオサウンドにはいったばかりの頃、先輩編集者のNさんと何度か話したことを思い出す。

彼は瀬川先生のEMT・927Dstを譲ってもらい使っていた。
私もそのころから927Dstが欲しかったけれど手が出せる価格では、もうなくなっていた。
それにいきなり927Dstというのも、
たとえお金があったとしても、段階を踏むこともまた大切であるという考えからみると、手を出すべきではない。
それで930stのトーレンス版101 Limitedを、なんとか購入したわけだが、
このふたつのEMTのプレーヤーは、その価値がこれから先も変らないのか、のも話題になった。

1980年代前半、すでにEMTはダイレクトドライヴの950や948を出していた。
927Dstも930stも製造中止になっていた(はず)。

927も930も原型はかなり古くからある。
しかもほとんど昔から変っていない。
イコライザーアンプが真空管のモノーラルからステレオ仕様になり、トランジスター化されたり、
トーンアームがオルトフォン製からEMT製に変ったりはしているものの、
大きく見た場合、旧態依然のプレーヤーともいえる。

世の中のプレーヤーは大半はダイレクトドライヴであり、クォーツロックまで搭載されていた。
EMTと同じ西ドイツのデュアルも、EMT同様、それまではリムドライヴを一貫して採用してきていたけれど、
ダイレクトドライヴ式のプレーヤーに切り換えていた。
ベルトドライヴはかろうじていくつか現役の製品があっても、
リムドライヴは過去の方式となっていた。

そんな時代に大金を払って、旧型のリムドライヴのプレーヤーを購入したのは、
もちろんEMTのプレーヤーでなければ聴くことができない音の良さ、持ち味に惚れてのことである。
とはいうものの、決してそれだけではなかった。

Date: 6月 3rd, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その1)

オーディオ機器のなかにも、ロングラン製品と呼ばれるものがある。
ロングセラー製品、ロングライフ製品と呼ばれることもある。

ステレオサウンドでも、以前「ロングラン・コンポーネントの秘密をさぐる」という連載が数回続いた。
1回目の47号のデンオンDL103シリーズ、ダイヤトーン2S305、ラックス38シリーズから始まり、
2回目の48号ではJBLのパラゴン、オルトフォンのSPUシリーズ、QUADのESL、
3回目の49号ではグレースのF8シリーズ、フィデリティ・リサーチのFR1シリーズがとりあげられた。

すぐに気がつくのはカートリッジが半数を占めていること。
47、48、49号とも1978年の発行の号だからCDは登場していないとはいえ、
スピーカーシステムよりもカートリッジがわずかとはいえ多く、
しかもカートリッジのすべてはシリーズ展開されているという共通点がある。

ステレオサウンドの、この企画はロングランというタイトルからもわかるように、
あくまでも現行製品という条件がある。

ロングランとは”a long run”であり、演劇、映画などの長期公演のことである。
だからロングラン・コンポーネントはいいかえるとロングセラー・コンポーネントということでもある。
長く市場で売られ続けている製品として、
ステレオサウンドの「ロングラン・コンポーネントの秘密をさぐる」である。

ステレオサウンドの「ロングラン・コンポーネントの秘密をさぐる」は残念なことに3回で終ってしまった。
個人的にはもっと続いてほしい企画だった。
まだまだロングラン・コンポーネントと呼べるものはいくつもあった。
例えばSMEのトーンアームがそうだし、EMTの930st、927Dstがある。
アンプはどうしても改良のスピードが、カートリッジやスピーカーといった変換器よりも速いために、
なかなかロングラン(ロングセラー)と呼べるものは少ないけれど、
1978年の時点では、少しロングセラーと呼ぶには足りなかったのかもしれないが、
マークレビンソンのLNP2は十分ロングラン(ロングセラー)アンプである。

スピーカーは、スピーカーシステムとしてよりも、スピーカーユニットにロングラン(ロングセラー)は多い。
カートリッジがアナログプレーヤーシステムの一部分としてあるのと同じように、
スピーカーユニットもスピーカーシステムの一部分としてロングラン(ロングセラー)は実に数多くある。
アルテックの604シリーズ、JBLのD130、375、075など。
タンノイのデュアルコンセントリックユニットもそうだ。
日本のモノではダイヤトーンのP610が、すぐ浮ぶ。
スピーカーユニットについては、ここでひとつひとつ名前を挙げていくと、かなりの数になる。

オルトフォンのSPUシリーズはいまも健在だし、デンオンのDL103シリーズも残っているものの、
いまではロングラン(ロングセラー)コンポーネントは少なくなってしまった。
スピーカーユニットの多くは消えてしまった。
スピーカーシステムのロングランとなると、タンノイのウェストミンスター。
あとは何があるだろう……と考え込まなければならない。
考えれば、いくつか出てくる。
でも、なんとなくではあるが、昔のロングラン・スピーカーシステムよりも影が薄い気がしなくもない……。

そういえばオーディオ雑誌でも、ロングラン、ロングセラーという言葉をあまりみかけなくなった。

けれど使い手側にとってロングランとなると、ここに別の意味あいが加わってくる。
その使い手にとって現行製品という意味でのロングランになり、
かなり以前に製造中止になってしまったモノでも、
ずっと使い続けられていくのであればロングラン・コンポーネントになる。

ここではロングセラーという意味はないけれど、ロングライフという意味はある。
ロングラン(ロングライフ)のモノとはいったいどういうものか。
どういう条件を満たしているのか、を考えると、そこにはデザインが重要な要素を持っていることに気づく。