快感か幸福か(夢の中で……・その1)
数年前にある人からいわれたことがある。
ステレオサウンドから去ったことについて、「負け組だね」と。
その人に悪気があったとは感じなかったし、
オーディオマニアにとって、
ステレオサウンド編集部という仕事場、いい環境といえる(そうでないともいえるけれど)。
オーディオ好きにとって、ステレオサウンドという仕事場は、おもしろくおかしくやっていけるところである。
そういうところから去って、生活的にもしんどくなった時期があるわけだから、
その人が「負け組だね」というのも、私が反対の立場だったら……、と考えると、腹も立たない。
たしかにステレオサウンドにいたほうが、おもしろおかしくオーディオをやっていけるのだから、
それは快感である。
快感が持続できる生活を幸福と思える人にとっては、幸福なことなのかもしれない。
けれど、あのままステレオサウンドにいたとして、
瀬川先生に何を報告できただろうか、とおもうのだ。
実際の生活にはなんら影響しない夢の中で瀬川先生に会えたところで、
何になるの? と思う人にとっては、
たとえ夢の中でも、瀬川先生になんら報告することがない生き方をなんとも感じないのだろう。
あのままステレオサウンドにいて、いま瀬川先生が夢の中にあらわれてくれたとして、
胸を張って報告できることがなかったら、それはどんなにオーディオをおもしろくおかしくやっていけてても、
私は幸福だとは思わない。