Archive for category 40万の法則

Date: 7月 6th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その6)

クレデンザと555を組み合わせてのステレオ再生を、仮に実現できたとしよう。
その音を聴けたら、すぐに次の段階に移る準備をはじめたくなるだろう。

モノーラルであればクレデンザと555の組合せの音だけでも満足して、そのまま聴いているだろうが、
ステレオとなると、どうしてもクレデンザ+555を核として、ウーファーとトゥイーターをもってきたくなる。

そんてことは邪道だといわれようが、クレデンザを2台用意して、ということを考えた時点で、
そんなことはわかっている。それでも一度は、どんな音がするのか、聴いてみたい欲求がある。

おそらくクレデンザ+555の組合せがカヴァーできる帯域は、100Hzから4kHzだろう。
仮にもう少し帯域が広かったとしても、この100Hzから4kHzのあいだで使いたい。
それは、この帯域が40万の法則になっているからである。

40万の法則からスピーカーを考える際、
スピーカーシステムとしての周波数特性、エネルギーバランスが40万の法則になっていればいい、とするのか、
それとも現時点ではスピーカーシステムはマルチウェイにするしかない、
いくつかのスピーカーユニットを使うことになるわけだが、そのうちのひとつが40万の法則に則っていること、
このふたつの40万の法則を満たすことができないか、と思う。

クレデンザ+555の組合せを核として、ウーファーとトゥイーターを加え、
低域を30Hzあたりまで延ばせたとしたら、高域は40万を30で割った13.33kHzまで延ばす。

つまりただワイドレンジを目指すのではなく、
つねにふたつのポイントにおいて40万の法則を意識してレンジを延ばしていく、ということだ。

Date: 7月 5th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その5)

おそらくクレデンザは一台一台職人の手による完全な手作業によるモノだろうから、
作られた時期が違えば、多少の違いは仕方ないだろう。
できるだけ同じ時期に作られたもので、程度のいいモノを2台探し出して、
さらにウェスターン・エレクトリックの555も、程度のいいモノを2つ……となると、
いったいどれだけの予算を必要とするのか。

個人で、こんなことをやっておられる方は、きっといないはず、ではなくて、
どこかにおられるはず、だと思う。
一度でもクレデンザと555の組合せの音を聴いたことがある人で、
つまりその人は、そういう音に興味を持っている人であろうから、聴けば惹かれる、と思う。

以前、朝日新聞社が発行していた「世界のステレオ」の1号のカラーページに、
野口晴哉氏のリスニングルームが6ページにわたり紹介されている。

当時、この記事を見たとき、そこに紹介されているオーディオ機器の多くは、まだ知らないものばかりだった。
1976年の冬のことで、オーディオに関心をもってまだ数ヵ月、しかもこの本はこづかいが足りなくて買えなかった。
世の中には、すごい人がいるものだ、とただ驚いていた。

いま野口氏のコレクションを見ても、凄いと思う。
これだけのモノを、あの時代、よく集められたものだ、と思ってしまう。
予算がどれだけ潤沢にあっても、ただそれだけでは、あの時代、これらのモノのいくつかは入手し難かったはず。

野口氏のような御仁は、まだ他にもおられるはず。
そういう方の中に、きっとクレデンザ+555でステレオを楽しまれている方がおられても不思議ではない。
むしろひとりもいない、というほうが、私には不思議に感じられる。

Date: 7月 4th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その4)

クレデンザにウェスターン・エレクトリックの555レシーバーがそのまま取りつけられることは、
意外に知られていないようで、このことを話すと、少し驚かれることがある。

じつはこのことも池田圭氏の「盤塵集」に書いてあることで、
知識だけではあったが、10代のころに知ってはいた。
ただ実際にその音を聴くことができたのは、かなりあとのことになるが、
クレデンザ+555の音は、555にことさら関心をもっていなかった私なのに、
できれば手に入れたい、と思ってしまった。

555が優れたドライバーだということは、オーディオに関心をもち始めたころから知ってはいたし、
何度か音を聴く機会もあった。その音のすべてが十全に鳴らされていたわけではないが、
少なからぬ数の人を魅了するだけの「何か」はあると感じたものの、
だからといって池田圭氏のように、組み合わせるホーンは15Aというのは無理なこと。
ホーンとの組合せを考えると、購入できるだけの資金があるとかないとかよりも、そのことがネックに思えてくる。
家庭で使うにふさわしい、つまり劇場用ではないホーンがなければ、欲しい、という衝動までにはいたらない。

同じ劇場用のスピーカーでも、シーメンスのオイロダインは欲しい、と思うから、
ホーンがどうのというのは、後付けの理由に近いもので、
なぜか555には、モノとしての魅力もそれほど感じていなかった。

そんな私でも、クレデンザと組み合わされた555の音は、何かを変えてくれるほどの魅力があった。
クレデンザ+555の音は、いずれもモノーラルでしか聴いていない。
聴いているときは、いい音だ、と感じ、
モノーラル専用というよりもSPから復刻されたCD専用のスピーカーシステムと使ってみたい、と思っていても、
その音から離れひとりになってみると、ステレオで聴いてみたい、と思っている。

Date: 7月 3rd, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その3)

B&Oのラジオは、私も見たことないし存在としてはマイナーである。
もうすこし名が知られているものとなると、クレデンザがある。

クレデンザなんて見たことないという人はおられるだろう。
けれど「クレデンザ」という固有名詞をこれまでいちども聞いたことがないという人はおられないと思う。

クレデンザは、アメリカのヴィクターが1925年11月2日にニューヨークで発表した
アクースティック蓄音器のことだ。
アクースティック蓄音器にはスピーカーはない、とうぜんアンプもない。
ピックアップが拾った振動がそのまま音になる。
だから、より大きな音量を得るためにはホーンが必要になってくる。

クレデンザは蓄音器としてもっとも大きな部類である。
つまりクレデンザの大きさはほほすべてはホーンを収めるためのものである。
より大きな音で、より低い音まで、を追求した分割折曲げホーンが収められている。

このクレデンザの周波数特性のグラフが、
ステレオサウンドから1979年に発行された池田圭氏の「音の夕映え」に載っている。
これが見事に40万の法則そのままの特性といえる。
低域はほぼ100Hzまでで、ここから下は急激に音圧が下っている。
高域も2kHzあたりとくらべるとすこし音圧は低下しているものの、ほぼ4kHzまで延びていてる。
100×4000で40万となる。

クレデンザの40万の法則は偶然なのか、それとも意図的なのか。
はっきりとしないところがあるが、クレデンザの折曲げ分割ホーンを開発したのはウェスターン・エレクトリックで、
クレデンザの登場と同じ年に特許をとっている。
つまり設計はウェスターンエレクトリック、製作がヴィクターとなる。
だからなのか、クレデンザのサウンドボックスのかわりにウェスターン・エレクトリックの555を、
何の加工もせずに、じつに簡単に取りつけられる。

Date: 7月 2nd, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その2)

40万の法則が、人間の可聴帯域の下限と上限の積からきているとしたら、
低域に関してはそれほど個人差はないだろうけど、高域に関しては個人差があるし、
同じ人でも年齢とともに聴こえる高域の上限は低くなってくる。

若くて健康であれば40万の法則だろうが、歳をとり高域が仮に12kHzまでしか聴こえなくなっていたら、
下限の20Hzとの積で、24万の法則なってしまうのか、という反論があろう。

BBCのニクソンが、どうやってこの40万の法則を唱えるようになったのかは、
「盤塵集」を読むだけではわからない。
だからはっきりしたことは言えないのだが、
単純に下限の20と上限の20000をかけ合わせただけではないように思う。

B&Oの古い製品に、ラジオがある。
ポータブルラジオで、どんな音がするのか聴いたことはない。
このB&Oのラジオの音は、西新宿にあったサンスイのショールームで実際に聴いた人による、
ひじょうに素晴らしい音のバランスだった、ときいている。
瀬川先生が毎月行われていたチャレンジオーディオで、
このB&Oのラジオを鳴らされ、40万の法則について語られた、そうだ。

B&Oのラジオの周波数帯域は、ほぼぴったり40万の法則にそうものだったらしい。
ということはポータブルラジオで、おそらくスピーカーユニットはフルレンジ1発だろうから、
低域はせいぜい100Hz、とすると高域は4kHzということになる。
日本のメーカーだったら、同じ規模のラジオでももっと高域を延ばすことだろう。
8kHz、10kHzまで延ばすことは造作ないことだから。
もちろんB&Oも、4kHz以上まで高域を延ばすことはなんでもないことだったはず。
なのに、あえて4kHzなのである。

B&Oの、そのラジオは、ほんとうに美しい音がした──、
この話を数人の方から聞いている。

Date: 7月 2nd, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その1)

40万の法則が、ある。
といって、も若い世代の方には、なんのことかわからない方のほうが多いのではないだろうか。
私と同じ世代でも知らない方がいても不思議はない。

私はラジオ技術に、当時(1977年ごろ)連載されていた池田圭氏の「盤塵集」を読んでいたから、
オーディオに関心をもって、わりとすぐに40万の法則について知っていた。

人間の可聴範囲は20Hzから20000Hzとされている。
下限の20Hzと上限の20000Hzをかけ合せると400000(40万)になるところから、きている。

つまり理想的にはオーディオのシステム全体の周波数特性は20Hzから20000Hzまで平坦であること。
だだ実際に、とくにこの40万の法則についてあれこれ語られていた時代は、
低域も高域に関しても、そこまで帯域を延ばすことは困難なことだった。

となると音のバランスについて論じられるようになってくる。
そのあたりから40万の法則は生れてきたようで、「盤塵集」によれば、
40万の法則を最初に主張したのはBBCのニクソンという人、とのことだ。

40万の法則に則れば、低域の再生限界が仮に50Hzだとすれば、これで音のバランスがとれる高域の範囲は、
400000÷50=8000(Hz)、つまり50Hzから8kHzということになる。
低域が40Hzになると高域は10kHz、30Hzで13.33kHz、25Hzで16kHz。
こうやってみていくと高域のレンジが狭いと感じられるだろう。
それで40万の法則ではなく、50万の法則、60万の法則、というのも出てきた。

たしかに40万の法則では、いまの感覚では高域の値が低すぎると感じるけれど、
40万の法則が音のバランスついて論じられたところから生れてきたことを思い出せば、
必ずしも低い値とはいえないともいえる。