黄金の組合せ(その35)
現代の黄金の組合せは可能なのか。
それに対する瀬川先生の答は、次のとおりである。
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さて、そうであるなら、こんにちの最新録音を、十二分とまではゆかないにしても一応、聴きとれるだけの能力を具えながら、かつての〝黄金の組合せ〟的に、全体として必ずしも大がかりな形をとることなく、そして価格的にも大げさでない、いわば〝現代の黄金の組合せ〟といったものが考えられるものか、どうだろうか。
結論を先に言ってしまうなら、現代ではもはや、十年前のように明確に、これ一組、と言い切れるほどの絶妙の組合せは考えられなくなっていると思う。というのは、現在では、十年前と違って、水準をつき抜けた優秀なパーツが、非常に数多く出揃っているからで、またそれに加えて、すでに述べてきたように、音楽の種類もまた聴き手の要求も、おそろしく多様になってきていることもあって、たった一組の〝絶妙の〟組合せに話を絞ることは難かしい。
とはいうものの、黄金のあるいは絶妙の組合せ、というタイトルは、これ自体なかなか魅力的なテーマであって、必ずしも一種類に限らなくとも、いろいろとリストアップしながら考えてみたい誘惑にかられる。果して現代の黄金の組合せとは、どんな形になりうるのか、いくつかの考えをまとめてみたくなってきた。
かりに、価格や大きさを無視して考えてみると、たとえばこんな組合せが……。
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残念なことに、瀬川先生の、この原稿は未完成であり、
前書きにあたる、この部分はここで終っている。
肝心の、現代の黄金の組合せに対する瀬川先生が考えられたかたち、
それについての部分はまったくない。
ただ後半にあたる録音を俯瞰したところはある。
その最後のところに、こう書かれている。
《レコードの録音は、ほんとうに変りはじめている。そういう変化を前提として、そこではじめて、これからの再生装置のありかたが、浮かび上ってくる。》
そして──以下次号──、ともある。
前書きを書かれ、後半の録音についても書かれたあとに、
現代の黄金の組合せについてのところを書かれるつもりだったのか。
なので、瀬川先生がどんな組合せを考えられたのか、
提示されたであろうかは、もう想像するしかないが、
きっとそこにはロジャースのPM510の組合せは登場していたはずだ。