老いとオーディオ(その10)
小林秀雄氏は1902年4月11日、
五味先生は1921年12月20日の生れである。
五味先生は、フルトヴェングラーの「トリスタンとイゾルデ」を、
三十代ではじめて聴いて《勃然と、立ってきた》と、
ステレオサウンド 2号の「音楽談義」でそう語られている。
小林秀雄氏は、「そんな挑発的ものじゃないよ。」と返されている。
このとき小林秀雄氏は六十代である。
フルトヴェングラーの「トリスタンとイゾルデ」は1952年の録音。
ということは小林秀雄氏は、
フルトヴェングラーの「トリスタンとイゾルデ」を聴かれた時は、すでに五十代である。
五味先生ははじめて聴いたのが三十代である。
もし小林秀雄氏が三十代のころ、
フルトヴェングラーの「トリスタンとイゾルデ」があったならば、
その演奏を聴かれていたならば、なんといわれただろうか。
《勃然と、立ってきた》といわれただろうか。