ブラームス 弦楽六重奏曲第一番 第二番(その5)
もう一人はT君だ。
T君は、義務教育の九年で、六年は同じクラスだった。
よく互いの家に遊びに行く仲だった。
T君は、中学のころ、視力回復センターに通うようになった。
理由をきくと、航空自衛隊に、戦闘機のパイロットになりたいから、ということだった。
T君の飛行機好きなのは、小学校のころから知っていた。
飛行機に詳しかったし、プラモデルもよく作っていた。
戦闘機のパイロットになるには、裸眼視力がT君の場合、足りなかった。
視力だけではなく、身長も少し足りなかったようだ。
別に小柄というわけではなかった。
私より少し背が低いだけだったけれど、規定の身長には足りなかった。
T君は、だから中学の部活動はバスケットを選んだ。
特にバスケットが好きなわけではなかった。
それでも身長が少しでも伸びる可能性があるのならば、という理由でのバスケットだった。
T君のことを笑う人もいるかもしれない。
そんなことで視力が回復したり、身長が伸びたりするわけないのに、と。
香ばしい青春だこと、と揶揄することだろう。
そうかもしれない。
けれど、T君は夢に向って真剣だった。
T君は賢かった。
そのT君が、わずかな可能性に賭けていた。
本人が、ほんのわずかしか可能性がないことはよくわかっていたのかもしれない。
T君は、中学卒業のころには諦めていたようだった。
高校ではバスケットはやらなかったし、視力回復センターにも通わなくなっていた。
M君とT君のふたりのことを、
この項を書き始めたころから、どこかで書こうと思い始めていた。
どこで書こうか、もそうだが、ここで書くようなことだろうか、とも思っていた。