ブラームス 弦楽六重奏曲第一番 第二番(その4)
(その1)を書いてしばらくして、小学校時代同じクラスだった二人のことを、
なぜだか思い出していた。
一人はM君という。
小学校三、四年のとき、同じクラスだった。
家が近くだったこともあって、帰りは一緒だったこともあるし、M君の家に遊びに行ったこともある。
とはいえ、特に仲がよかった、というほどではない。
おそらくM君は私のことなど憶えていないだろう。
そんなM君が、ある日、「ラサールを中学受験して東大に行くんだ」と話してきた。
M君が、そういうことを話してきたきっかけがなんだったか憶えていないし、
こちらとしても、ラサール中学・高校が有名な進学校というぐらいは知っていたけれど、
まさか同じ学校に通っている同級生が、中学受験をするなんて、驚き以外のなにものでもなかった。
当時の私の感覚としては、
同級生はみな小学校のすぐ近くにある中学校に進学するものだと思い込んでいた。
中学までは義務教育だから、わざわざ私立の学校に受験して入学するなんて、
東京とか大阪の都会の話だという認識しかなかった。
M君は、たしかに成績は良かった。
でも同級生にはNさんという、学年一の優秀な女の子がいた。
同じクラスになったことはないけれど、それでもNさんの優秀さは伝わってきていたことも、
驚きにつながっていた。
M君は宣言通り、ラサールに入学した。
中学、高校と首席かそれに近い成績だというウワサが聞こえてきた。
模試でも東大合格間違いなし、という成績だった、らしい。
けれどM君は東大受験に失敗した。
一浪して再び受験した。けれどダメだった、らしい。
本番に弱かったのだろうか。
M君は、有名私大に入学した。
ここまではウワサで聞いて知っていた。
いまになってM君のことを思い出して、そういえば、M君の夢はなんだったのか、と考える。
東大に合格することが夢だったのか。
それとも東大に合格して東大で学び卒業して、そこから先がM君の夢だったのか。
小学四年だった私は、M君に「夢は東大に合格すること?」と訊くことはなかった。
そんなこと考えもしなかったからだ。
M君の夢はなんだったのか、
東大には入れなかったけれど、夢は実現しているのかもしれない。