瀬川冬樹氏のこと(UREI Model 813・その10)
1979年秋のステレオサウンド別冊、
「SOUND SPACE 音のある住空間をめぐる52の提案」のひとつ、
瀬川先生による「空間拡大のアイデア〝マッシュルーム・サウンド〟」は、
面白い提案だと高校生だった私は、まずそう思ったけれど、
現実には、この提案を実現するには、四畳半とはいえ、
家を建てることが前提のものであるだけに、
どちらかといえば、興味をおぼえたのは、
狭い空間に平面バッフルを収める方法についてだった。
賃貸住宅に住んでいるかぎりは、マッシュルーム・サウンドは無理、と思っていた。
でも、その考えが変ったのは十年ほど経ってからだった。
そのころからだったと思うが、ロフトと呼ばれるアパートが出てきはじめた。
屋根裏を居住空間としたもので、一時期流行っていた。
とはいえ、ロフト部分は屋根裏にあたるだけに冬は暖かいが、夏は暑い。
それにメインの居住空間は、暖かい空気がロフト部分に逃げるため、冬は寒い、ともいわれている。
結局、ロフト部分はふだん使わないものの物置き的使い方になってしまう、ともいわれていた。
けれど、このロフト形式のアパートこそ、瀬川先生のマッシュルーム・サウンドに近い。
ロフト分だけ空間拡大されているし、
それになんといっても天井高が意外にも確保できる。
建物にもよるが、一番高いところでは4mほどにもなる。
それに天井が傾斜しているわけだから、
床と天井という大きな平行面が一つなくなる、という利点もある。
もっともロフト部分へは梯子での昇り降りであり、
たいていのロフト付きのアパートでは、梯子の位置が、
スピーカーの配置の邪魔になる場合も少なくない。
それでもロフト部分は、空間拡大のためだけと割り切ってしまえば、
梯子を外してしまうことだって可能だ。