岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代(その6)
高校生の時から星新一の小説にはまった。
いわゆるショートショートである。
数年間はまっていた。
書店に行き、星新一の文庫本を見つけたら即買って帰宅しては一気に読んでいた。
ほとんどすべての星新一の作品は読んでいる。
何本のショートショートを読んだのだろうか。
星新一のショートショートの中で「岩崎千明と瀬川冬樹がいない時代」に関係して思い出す一篇がある。
こんな話だった。
ある男のもとに天使のような者がやってくる。
願いをかなえる、という。
ただしライバルには、その願いの二倍のものを与える、という条件つきで。
男はいう、「○○のところへ行ってくれ」と。
○○とは男がライバルと思っている存在である。
天使のような者は、だから○○のところへ向う。
男は、自分のところへ大きな幸運がやってくるものだと期待して待っていた。
けれど、そんなものはやって来なかった。
男は○○をライバルだと思っていた。
○○は男をライバルだとは思っていなかった。
そんなショートショートだった。
読後、ライバル同士といわれていても、実のところはそういうものかもしれない、と思った。
だが岩崎千明と瀬川冬樹は、そうではなかった。
ふたりは、互いにもっとも手強いライバルだと意識し合っていた。