毅然として……(その9)
バーンスタインのライヴ録音といえば、1961年のグレン・グールドとのブラームスのピアノ協奏曲がある。
このディスクが出る以前から、バーンスタインとグールドのテンポの解釈の相違があり、
バーンスタインが演奏前に、今回はしぶしぶグールドのテンポに従う、といった旨を話した──、
そのことだけが伝わってきていた。
だから、このディスクには、バーンスタインのその部分も収録されている。
英語で話しているわけだが、ライナーノートには邦訳がついていてた。
それを読んでもわかるし、それがなくともバーンスタインの口調からも、
決してしぶしぶグールドのテンポにしたがったわけではないことは伝わってくる。
一部歪曲された話が伝わり広まっていたことが、このディスクの登場ではっきりした。
ブルーノ・ワルター協会から、このディスクが発売される時、
このバーンスタインのコメントがことさら話題になっていた。
もしこのライヴ録音が、バーンスタインのコメントを収録せずに、
バーンスタインがそういったことを話したことを知らない聴き手が聴くのと、
前説が収録されたディスクを、そういったことを承知している聴き手が聴くのとでは、
このライヴ録音のドキュメンタリーの意味合いはかなり違ってくるだろう。
ライヴ録音におけるドキュメンタリーについて考えていくと、いくつかのレコードのことが浮んでくる。
たとえばラインスドルフのモーツァルトのレクィエムのことも。