毅然として……(その8)
レナード・バーンスタインがドイツ・グラモフォンから1980年に出したベートーヴェンの交響曲全集は、
ライヴ録音ということも話題になった。
このライヴ録音については「バーンスタインのベートーヴェン全集(その7)」でふれているのでくり返さないが、
一般的なライヴ録音とは違っている。
バーンスタインのベートーヴェンの「第九」には、もうひとつ、ライヴ録音がある。
1989年12月25日に、東ベルリンのシャウシュピールハウスで、
ベルリンの壁崩壊を記念して行ったコンサートをおさめたライヴ録音である。
オーケストラはバイエルン放送交響楽団とドレスデン・シュターツカペレの合同を主として、
ニューヨークフィハーモニー、ロンドン交響楽団、レニングラード・キーロフ劇場オーケストラ、
パリ管弦楽団といったオーケストラのメンバーも加わってのものだ。
このふたつのバーンスタインの「第九」の意味合いは同じとはいえない。
1979年のウィーンフィルハーモニーとの「第九」は、
録音のために聴衆が集められてのライヴ録音であり、
いわばスタジオからコンサートホールに場所を移して、聴衆をいれての公開スタジオ録音ともいえる。
1989年の混成オーケストラによる「第九」は、文字通りのライヴ録音であり、
演奏終了後の拍手だけでなく、開始前の拍手もCDでは聴ける。
つまり、1989年のバーンスタインの「第九」は、通常の音楽CDとは少し違う側面もある。
「第九」の終楽章のFreude(歓喜)をFreiheit(自由)に変えている点からして、
1979年の「第九」よりドキュメンタリーとしての側面が色濃くなっている、ともいえよう。
そういう録音をおさめたCDだから、
輸入盤には、ベルリンの壁のカケラがついてくるヴァージョンもあった。