便利であっても(その4)
匂いといえば、思い出すことがある。
田舎にいたころは輸入盤を扱っているレコード店は身近になかった。
東京に少しでも早く出て来たかったのは、輸入レコードを専門に扱う店がいくつもあったことも理由のひとつである。
どの店に最初に行ったのかはもう忘れてしまっている。
けれど、銀座コリドー街にあったハルモニアには、かなり早い時期に行っていた。
ハルモニアが最初だったかもしれない。
ハルモニアはそれほど大きな店舗ではない。
広さだけでいえばハルモニアよりも大きな店は、1980年代の東京にはいくつもあった。
それでもここでハルモニアを取り上げるのは、
ハルモニアにはじめて入ったときの匂いのことを、やはり憶えていて、それを思い出したからである。
ハルモニアは輸入盤ばかりを扱っているから、
そこでの匂いは輸入盤による匂いといっていいはず。
輸入盤一枚でも鼻を近づければ匂いは嗅げる。
けれどハルモニアぐらいの規模の店で、あれだけの枚数の輸入盤がそこにあれば、
その匂いの濃厚さは、田舎の国内盤ばかりを扱っていたレコード店しか知らなかった私には、
衝撃に近かったのかもしれない。
だからこうして思い出して、ここに書いているのだから。