Archive for 5月, 2024

Date: 5月 10th, 2024
Cate: MERIDIAN

メリディアン DSP3200のこと(その7)

三年ぶりに再開したaudio wednesdayでの音出し。
1月10日のaudio wednesday (next decade)序夜では、
メリディアンのDSP3200を鳴らしたことは別項で書いている。

メリディアンの218を使っての音出しだった。
といっても218をD/Aコンバーターとして使用したのではなく、
218とDSP3200との接続は、SpeakerLinkだった。

この時から、DSP3200にスーパートゥイーターを足したら──、
そんなことを考えていた。

トゥイーターならばエラックがある。
DSP3200のようなアクティヴ型スピーカーにスーパートゥイーターを足すことは、
特にDSP3200のようなデジタル入力のみに対応しているタイプだと、
面倒なことと思われるかもしれないが、
218があればパワーアンプを持ってくれば、わりと簡単にできる。

DSP3200との接続は上に書いているようにSpeakerLinkで、
スーパートゥイーターとの接続は218のアナログ出力をパワーアンプに接続すればいい。

これだけで済む。だからこそ試してみたくなる。
もちろんaudio wednesdayで予定している。

Date: 5月 9th, 2024
Cate: 使いこなし

スピーカー・セッティングの定石(その6)

三十分ほど前に、KEFのModel 105 SeriesIIを鳴らしている友人から連絡があった。
スピーカーのセッティングについてだった。

そういえば──、と思い出したのは、105 SeriesIIのエンクロージュアの角度についてだった。
この項の(その1)を書き始める十年前くらいから、
ウーファーに関しては聴き手に向って角度をつけるよりも、
正面を向ける、つまり後の壁と平行になるように置く。

これがいい結果を生むのではないか。そう思うようになっていた。
もちろん中高域に関しては、聴き手に向って振るように置く。

こういうセッティングが可能になるのは、主に自作スピーカーで、
低音用のエンクロージュアの上に、
中高域のユニットが独立して置かれている場合では容易だが、
既製品のスピーカーシステムでは、ほとんどが無理である。

KEFのModel 105はこういうセッティングを可能にした。
105以前に、そういうスピーカーシステムがあったのかどうかは寡聞にして知らない。

友人は最初のころは、
105のエンクロージュアも聴き手に向けて角度をつけたセッティングだったが、
最近になってエンクロージュアは角度をつけずに、
上部の中高域ユニットのみ聴取ポイントに向けて角度をつけるセッティングに変更。

そのことによって、バランスがとりやすくなった、とあった。

そうだろうな、と思いながら読んでいた。

ただし自作スピーカーでも、それぞれのユニットが独立していて、
それぞれ角度を自由につけられる場合でも、
ウーファーの受持帯域が広い場合、
つまりウーファーのカットオフ周波数が高い場合には、
必ずしもいい結果が得られるとは限らない、と私は感じている。

500Hz以下くらいの低いカットオフ周波数が好ましいようである。

Date: 5月 8th, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) – 第四夜を終えて(その7)

ウェスターン・エレクトリックの757Aを聴き終って、思い出していたのが、
吉田秀和氏の、ゼルキンについて書かれた文章だった。
以前、別項で引用しているが、もう一度読んでほしい。
     *
 そのうち、私は、レコード会社の人からきいた、一つのエピソードを思い出した。
 もう大分前のことになるが、現代の最高のピアニストの一人、ルドルフ・ゼルキンが日本にきた時、その人の会社でレコードを作ることになった。ゼルキンはベートーヴェンのソナタを選び、会社は、そのために日本で最も優秀なエンジニアとして知られているスタッフを用意した。日本の機械が飛び切り上等なことはいうまでもない。約束の日、ゼルキンはスタジオにきて、素晴らしい演奏をした。そのあと彼は、誰でもする通り、録音室に入ってきて、みんなといっしょにテープをきいた。ところが、それをきくなり、ゼルキンは「これはだめだ。このまま市場に出すのに同意するわけにいかない」と言い出した。理由をきくと「これはまるでベートーヴェンの音になっちゃいない」という返事なので、スタッフ一同、あっけにとられてしまった。今の今まで、そんな文句をいわれた覚えがないのである。
 ことわるまでもないかも知れないが、レコードというものは、音楽家が立てた音をそっくりそのまま再現するという装置ではない。どんなに超忠実度の精密なメカニズムであろうと、何かを再現するに当って、とにかく機械を通じて行う時は、そこにある種の変貌、加工が入ってこないわけにはいかないのである。そう、写真のカメラのことを考えて頂ければ良い。カメラは被写体をあるがままにとる機械のようであって、実はそうではない。カメラのもつ性能、レンズとかその他のもろもろの仕組みを通過して、像ができてくる時、その経過の中で、被写体は一つの素材でしかなくなる。あなたの鼻や目の大きさまで変ってみえることがあったり、まして顔色や表情や、そのほかのいろんなものが、カメラを通じることにより、あるいは見えなくなったり、より強度にあらわになったりする。そのように、音楽家が楽器から出した響きも、録音の過程で、音の高い部分、中央の部分、低い部分のそれぞれについて、あるいはより強調され、ふくらませられたり、あるいはしぼられ、背後にひっこめられたり等々の操作を通過してゆく間に、変貌してゆく。
 その時、「本来の音」を素材に、そこから、「どういう美しさをもつ音」を作ってゆくかは、技師の考えにより、その腕前にかかっている。レコードの装置技師は、いわゆる音のコックさんなのだ。もちろん、それでも、いや、それだから、すぐれた技師は、発音体から得られた本来の音のもつ「美質」を裏切ることなしに、その人その人のもつ音の魅力をよく伝達できるような「音」を作るといってもいいのだろう。
 だが、ゼルキンが「これはベートーヴェンの音じゃない」といった時、日本の最も優秀な技術者たちは、その意味を汲みかねた。「何をもってベートーヴェンの音というのか?」困ったことに、それをいくら訊きただしてみても、ゼルキン先生自身、それ以上言葉でもって具体的に説明することができず、ただ「これはちがう、ベートーヴェンじゃない」としかいえない。それで、せっかくの企画も実を結ばず、幻のレコードに終ってしまった──というのである。
(「ベートーヴェンの音って?」より)
     *
5月1日にかけたカザルスとゼルキンによるベートーヴェンのチェロ・ソナタ。
「これはまるでベートーヴェンの音になっちゃいない」、
絶対に、そうはいわれなかったという自負はある。

Date: 5月 7th, 2024
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェンの「第九」(audio wednesdayと第九)

二百年前の5月7日、ベートーヴェンの第九の初演が行われている。
5月1日のaudio wednesdayでは、第九をかけた。

誰の指揮による演奏を選ぶのか、
一楽章から終楽章まですべてかけるわけにはいかないから、
何楽章をかけるのか、
スピーカーはJBLのユニットによる757Aレプリカだから、
うまく第九がかかってくれるだろうか──、
そんなことをなんとなく思いながら当日を迎えていた。

プログラムソースがCDだけならば、あらかじめ決めておくしかないが、
TIDALも使うということは、ぎりぎりまで決めてなくてもすむ。
直前にかけたいとおもった第九にすればいい。

757Aレプリカの音を聴きながら、すこしずつ絞っていっていた。
直前まで私のなかで候補として残っていたのは、二つ。
どちらもかけたい気持は強かったけれど、
ジュリーニ/ベルリンフィルハーモニーによる第九を、結局は選んだ。

もう一つは、ライナー/シカゴ交響楽団による第九だ。

どちらも思い入れがある。
喫茶茶会記でも、第九をかけたとき、やはりジュリーニだった。
私は、ジュリーニの第九がどうしようもなく好きなようだ。

これが最高の第九の演奏かと問われれば、
けっしてそうではない、とこたえるけど、私にとって特別な第九である。

最高とか完璧とか、そういうことを何かを求めようとは、いつしか思わなくなっている。
特別ながあれば、それでいいというより、それがいい。

「特別」を持つことなく、最高やら完璧を求めていくのは、その人の勝手だ。

Date: 5月 6th, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) – 第四夜を終えて(その6)

アルテックの604が、604Eから604-8Gになった際に、
インピーダンスが16Ωから8Ωとなった。
その理由として、トランジスターアンプにとって16Ωよりも8Ωのほうがパワー的に有利だから、
そんなことがいわれていた。

たしかにトランジスターアンプの場合、16Ω負荷よりも8Ω負荷のほうが、
パワーは二倍になる。

けれど、この理由づけは、中学生の時に読んだ時から少し疑問もあった。
真空管アンプの場合、出力トランスを備えているから、
負荷が16Ωであろうと、8Ω、4Ωであってもパワーは同じである。

なのに、真空管アンプ時代のスピーカーのインピーダンスは、
16Ω、15Ωと表示されているものが大半だった。

ウェスターン・エレクトリックの757Aも、そんな真空管アンプ時代のスピーカーである。
757Aの時代、トランジスターアンプは存在していなかった。

ならば当時の常識で捉えるならば、757Aのインピーダンスは16Ωと思ってしまう。
けれど実際は4Ωである。
8Ωでもなく4Ωである。

757Aのネットワーク702Aは、
28μFのコンデンサーと0.91mHのコイルからなる12dB/oct.のスロープ特性てある。
クロスオーバー周波数は、ほぼ1kHzである。

なぜ4Ωなのか。
コイルの値を小さくしたかったからではないのだろうか。

Date: 5月 6th, 2024
Cate: 電源

モバイルバッテリーという電源(その17)

5月1日のaudio wednesdayでも、
アンカーのモバイルバッテリーのPowerHouse 90を使っている。

メリディアンのD/Aコンバーター、218の電源をPowerHouse 90をとった。
消費電力が5Wと小さいため、PowerHouse 90の容量でも十分実用になる。
しかもどちらも小さく軽いので、
audio wednesdayの音出しのための持ち運びが楽というのも、
私にとっては、大きなメリットである。

システムのどこかをAC電源から完全に独立させることは、音質向上に大きく寄与する。
いまでは容量がかなり大きなモバイルバッテリーがあるから、
218のように消費電力が小さいモデルを選ばなくても、問題ない。

モバイルバッテリーを使わずとも絶縁トランスを使えば──、という人もいるが、
ストレーキャパシティが存在する限り、完全な分離は無理である。

このあたりのことは富田嘉和氏が、
ラジオ技術にかなり詳しい記事を連載されていたので、そちらも参考にしていただきたい。

5月のaudio wednesdayの音は、PowerHouse 90を使っていなければ、
ずいぶん違う結果になっていただろう。

Date: 5月 5th, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) – 第四夜を終えて(その5)

757Aレプリカで、あれこれ聴いた後で、757Aを設置する。

野口晴哉氏のリスニングルームにある757Aを、
手前の稽古場に移動する際に気づいたことがある。

757A(オリジナル)のほうは、
東洋ウェストレックス製(と思われる)パワーアンプに接続されていた。
かなり大型の真空管アンプである。
このアンプについては、後日、じっくりと確かめてみたい。

757Aは728Bをベースに、713CドライバーとKS12027ホーンを組み合わせた2ウェイ。
ネットワークは702A。

Typical Specifications
Frequency Response: 60-15,000 cycles.
Input Impedance: 4 ohms.
Coverage Angle: 90 degrees.
Power Handling Capacity: 30 watts.
Efficiency: At a distance of 30 feet on axis the 757A will produce a level of 93 dB above 10-16 watt per square centimeter at 30 watts. This level is on a basis of a warble frequency covering a range from 500 to 2500 cycles per second.
Dimensions: 20″ high, 30 1/2″ wide, 13 3/4 deep.
Weight: 82 pounds.
Cabinet: Acoustically treated front. Remainder of cabinet gray finish which can be refinished to blend with individual installations.
(注:10-16 wattは10の-16乗 wattのこと)

757Aの用途としては、
Wired Program; Recording Studios; Program distribution; Broadcast Station monitoring
となっている。

Date: 5月 5th, 2024
Cate: オーディオの科学, ケーブル

オーディオケーブルの謎(金田・江川予想とその周辺)

オーディオケーブルの謎(金田・江川予想とその周辺)」が、再頒布されている。
どういう内容なのか、入手方法はリンク先にアクセスしてほしい。

ケーブルをかえることで音は変ることを経験していても、
ではなぜ音は変化するのか、そのことについて説明することはかなりの困難である。

128ページの冊子「オーディオケーブルの謎(金田・江川予想とその周辺)」は、
サウンドロマンの1977年6月号から1978年10月号までの14回の連載記事に、
無線と実験の1981年9月号掲載の記事、
1987年の世界のステレオ掲載の記事をまとめたもの。

濃い内容だ。
リンク先にも、こう書いてある。
     *
この冊子は、この商品としてのオーディオケーブルが産まれた時代に 日本のオーディオメーカーの技術者が自社開発品の技術的根拠、 開発意図を説明したオーディオ雑誌などの記事を題材に、 (常識的な電気工学者としての)私が書いてみた記事をまとめたもので、 技術者以外の個人、商店、商社などによるオーディオアクセサリー開発者の 魔術的信仰と主張については触れていません。私にはまったく理解できませんから。

当初の構想では、電気音響工学の対象となる、 周波数特性(振幅・位相)以外に、 非直線性やCDなどの量子化(デジタル・オーディオ)の問題、 後に江川三郎さんが傾倒した「純度(私には理解できない)」の問題、 理論家にとって重要な「なぜ一部の人が電気計測では識別できない (オーディオケーブルなどの)音の違いを認識できるのか」 という原理的問題について書く予定だったのですが、 雑誌自体が休刊になったため、連載も打ち切りになりました。

というわけで、当時の歴史的記述としても完全ではありませんが、 オーディオケーブルが話題になった当時、 どんな主張があり、真実はどうだったのかといったことはわかると思います。
     *
在庫がなくなると頒布も終了となるようなので、
ケーブルについて理解したい方はお早めに。

Date: 5月 4th, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) – 第四夜を終えて(その4)

JBLの2420のカタログには、周波数特性は500Hzから20kHzとなっている。
とはいえ、実際に聴けばすぐにわかることだが、20kHzまでフラットなわけではない。
周波数特性のグラフをみると、10kHzあたりからなだらかに下降している。

このままで聴いても、うまく鳴ってくれる曲もあったが、
あれこれ聴いていると、しかもスーパートゥイーターが二つ、その場にあるわけだから、
試してみたくなる。

まずはJBLのUT405を試す。
2405の小型版といえるユニットを箱におさめ、ネットワークを搭載した製品。

UT405を接続すると、あきらかに上がのびるのは誰の耳にもあきらかなほどだけど、
うまくいっているかというと、そうではない。

短い時間ではあったが、いくつか試してみたけれど、いい結果は得られそうにない。
結局、エラックの4PI PLUS.2にかえる。
先月から置きっぱなしにしている。

最初に鳴ってきた音だけで、やっぱり4PI PLUS.2だ、ということになる。
4PI PLUS.2の置き位置を変えたり、カットオフ周波数をかえたりしながら、
といってもそれほどこまかな調整ではなく、
まずはおおまかな調整(セッティング)をやっていく。

このへんになってくるとしばらく鳴らされていなかった757Aレプリカも、
少しずつ調子を取り戻してくれるかのように鳴ってくる。

そしてある程度までいったところで、D/Aコンバーターのメリディアンの218で、
ポラリティを反転させる。
ここでの変化はかなり大きいものである。

ならば最初から反転させておけば、と思われるだろうが、
反転させた時の変化量の大きさは、この時点でやるからこそ大きいものである。

Date: 5月 4th, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) – 第四夜を終えて(その3)

757Aレプリカのウーファーは何なのか。
次回行った時に確かめてくる予定だが、
ドライバーが2420ならば、2202の可能性が高い。
フルレンジユニットを採用しているのならば、2130だろうか。

そんなことを考えながら当日のセッティング。
最初に鳴ってきた音は悪くはなかったけれど、
左チャンネルの音圧レベルが低い。

ユニットになにかしらの不具合があったらどうにもできないけれど、
まずはネットワーク(外付け)をチェックする。

ずっと手を入れてなかった状態だから、とにかく接点のクリーニング。
それからケーブルの取りつけをしっかりとやり直す。

これだけのことをやったら、ユニットの不具合はなさそうだ、という音が鳴ってきた。
このネットワークには巻線抵抗のレベルコントロールがついているが、
右と左とでは同じ部品でありながら、まわした感触がけっこう違う。

ネットワークに関しては、あらたに作るつもりでいる。
喫茶茶会記でやっていたころ、一般的な並列型ネットワークから、
直列型ネットワークへと変更した。

この757Aレプリカでも、直列型を試してみたい。
外付けのネットワークを使うにしても、きちんとしたメンテナンスは必要と感じた。

つまり757Aレプリカは、ネットワークをきちんとすることで、
かなり良くなりそうな手応えはあった、といえる。

Date: 5月 3rd, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) – 第五夜・選曲について

6月5日のaudio wednesdayは、
ウェスターン・エレクトリックの757Aを鳴らす。

一本だけしかない757Aだから、モノーラル録音をモノーラル再生ということになる。
私の選曲だから、とうぜんクラシックが多くなる。

カザルスはもちろん、ティボー、コルトーもかける。
ジネット・ヌヴーもいいし、エネスコもかけたい。
それからリパッティも、ぜひとも757Aで聴きたい。

こんな感じで聴きたい(かけたい)録音をあげていくと、
三時間では足りなくなるほどだ。

それでもどうしてもかけたい(聴きたい)のが、ビリー・ホリディだ。

岩崎先生の文章が浮んでくる。
     *
 D130が私に残してくれたものは、ジャズを聴く心の窓を開いてくれたことであった。特にそれも、歌とソロとを楽しめるようになったことだ。
 もともと、アルテック・ランシングとして44年から4年間、アルテックにあってスピーカーを設計したジェイムズ・B・ランシングは、映画音響の基本的な目的たる「会話」つまり「声」の再現性を重視したに違いないし、その特長は、目的は変わっても自ら始めた家庭用高級システムとハイファイ・スピーカーの根本に確立されていたのだろう。
 JBLの、特にD130や130Aのサウンドはバランス的にいって200Hzから900Hzにいたるなだらかな盛り上がりによって象徴され予測されるように、特に声の再現性という点では抜群で、充実していた。
 ビリー・ホリディの最初のアルバムを中心とした「レディ・ディ」はSP特有の極端なナロウ・レンジだが、その歌の間近に迫る点で、JBL以外では例え英国製品でもまったく歌にならなかったといえる。
 JBLによって、ビリー・ホリディは、私の、ただ一枚のレコードとなり得た、そして、そのあとの、自分自身の空白な一期間において、折にふれビリー・ホリディは、というより「レディ・ディ」は、私の深く果てしなく落ち込む心を、ほんのひとときでも引き戻してくれたのだった。
 AR−2は、確かに、小さい箱からは想像できないほどに低音を響かせたし、二つの10cmの高音用は輝かしく、現在のAR−2から考えられぬくらいに力強いが、歌は奥に引込んで前には出てこず、もどかしく、「レディ・ディ」のビリーは雑音にうずもれてしまった。JBLを失なってその翌々年、幸運にも山水がJBLを売り出した。
「私とJBLの物語」より
     *
 いくら音のよいといわれるスピーカーで鳴らしても、彼女の、切々とうったえるようなひたむきな恋心は、仲々出てきてはくれないのだった。一九三〇年代の中頃の、やっと不況を脱しようという米国の社会の流れの中で、精一ばい生活する人々に愛されたビリーの歌は、おそらく、その切々たる歌い方で多くの人々の心に人間性を取り戻したのだろう。
 打ちひしがれた社会のあとをおそった深い暗い不安の日々だからこそ、多くの人々が人間としての自身を取り戻そうと切実に願ったのだろう。つまりブルースはこの時に多くの人々に愛されるようになったわけだ。
 音のよい装置は、高い音から低い音までをスムーズに出さなければならないが一九三〇年代の旧い録音のこのアルバムの貧しい音では、仲々肝心の音の良さが生きてこないどころか、スクラッチノイズをあからさまに出してしまって歌を遠のける。
 スピーカーが、いわゆる優れていればいるほど、アンプが新型であればあるほど、このレコードの場合には音の良さとは結びつくことがないようであった。
「仄かに輝く思いでの一瞬」より
     *
757Aで聴きたいではないか。
岩崎先生にも聴いてもらいたい──、そうおもう。

Date: 5月 3rd, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) – 第四夜を終えて(その2)

ウェスターン・エレクトリックの757Aが一本だけ、
野口晴哉氏のリスニングルームにあることは、
1976年末の「世界のステレオ」掲載の記事(写真)で知っていた。

といっても、この時点では、757Aがどういスピーカーシステムなのかも、
まったく知らなかったのだから、ただ一本だけあるんだな、と記憶に残っていた。

1982年1月からステレオサウンドで働くようになって、
ウェスターン・エレクトリックについて少しずつ知るようになってきた。
特に、サウンドボーイの編集長であったOさんは、
ウェスターン・エレクトリックのマニア、信奉者ともいえた人だったから、
Oさんの知識は半端なかった。

757Aについても断片的には知ることができた。
それに音も、とあるところで聴くことができた。
といっても、一応きいた、といえるぐらいのことであって、
757Aの実力を知ることができた、とは思っていない。

それにいまにしておもえば、あれはオリジナルだったのか、そのへんもあやしい。

野口晴哉氏のリスニングルームには、757Aを範としたスピーカーシステムがある。
757Aレプリカといえるモノだ。

エンクロージュアの形状・寸法は同じ。
ユニット構成も2ウェイなところは同じ。

ホーンはJBLの2397で、ドライバーは2420。
ウーファーは12インチ口径なのかはわかっているが、
エンクロージュアを開けていないので未確認。

クロスオーバー周波数は790Hzで、12dB/oct.となっている。

このスピーカーがオリジナルの757Aの両脇に置かれている。

Date: 5月 3rd, 2024
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) – 第四夜を終えて(その1)

5月1日は、あいにくの雨だった。
霧雨、小雨ではなく、しっかりと朝から降っていて、
夏日があった4月下旬とはうってかわって、やや肌寒い日。

なので来られる方は少ないだろう、そう思っていた。
実際そうだったけれど、この日来られた方は、最後の一時間に満たない時間ではあったが、
ウェスターン・エレクトリックの757Aの音に驚歎されたのだから、
幸運な人たちといえる。

そのくらいに757Aの音は、いま聴いても、とだけでなく、
いまこそ聴くべき、という意味でも価値ある、とはっきりといえる。

ウェスターン・エレクトリックの音は、
同世代の人たちのなかでは早い時期から聴く機会に恵まれていた。

二十代のころから、その凄さには触れることができた。
たしかにウェスターン・エレクトリックはすごい、とそう思っている。

けれど、そう言ったところで、
すでにウェスターン・エレクトリックの製品は新品での入手は無理。
中古市場の相場もそうだし、コンディションのよいモノがどれだけあるのか、
そういったもろもろのことを考えると、
素直にウェスターン・エレクトリックはすごい、とはいえなくなる。

ウェスターン・エレクトリックで商売をしている人たちがいる。
良心的な商売をしている人もいれば、そうでない人もいるわけで、
買う側がそのへんのところをしっかりと見極めることができれば問題は生じないけれど、
現実はそうではない。

だからウェスターン・エレクトリックはすごいですよ、とは、
できればいいたくない。

それでも、757Aの音を聴いてしまうと、
やはりすごいですよ、というしかない。

Date: 5月 2nd, 2024
Cate: ディスク/ブック

夜と朝のあいだに

TIDALで日本人の歌手を検索するひとつの方法として使っているのが、
“golden best”である。

ベスト盤はいろんな国でだされているけれど、
“golden best”とつけるのは日本と韓国ぐらいのようで、
“golden best”の検索結果には、かなりの日本人の歌手が表示される。

そうやって一週間ほど前に見つけたのが、
ピーターの「夜と朝のあいだに」だった。

小学生だったころにテレビやラジオから流れてくる「夜と朝のあいだに」は、
けっこうな回数きいた記憶がある。
歌詞も半分ほどは憶えていた。

それでも今回改めて聴くと、ピーターの歌唱に少しばかり驚き。
ジャケットの写真は、かなり若い。
けれど歌の印象と写真とが一致しない。

「夜と朝のあいだに」はいつごろのヒット曲で、
その当時ピーターがきくつだったのか調べてみると、まだ十代である。
ジャケットの写真が若いのは、当然だ。

TIDALではMQAで聴ける。
昨晩のaudio wednesdayでは、トゥイーターの位置を含めての調整に、
「夜と朝のあいだに」を何度もかけた。