今日の午後、MQAが経営破綻というニュースが流れた。
海外のサイトで発表されているし、
ソーシャルメディアでも話題になっている。
新しい買手が見つからなければMQAという会社は破産することになる。
世の中には、このことを喜んでいる人がやっぱりいる。
MQA破綻のニュースを見て、最初に思ったことが、このことだった。
ショックだとか、これからどうなるんだろうかという不安はなくて、
MQAがダメになる、やったー、と喜ぶ人がいて、
ソーシャルメディアに書きこむんだろうな、と思ったあと、
どこかが買収するだろうから、MQAがなくなることはないだろう、と楽観視している。
といっても、どこかが買収の交渉をしているとか、具体的な情報を知っているわけではなく、
根拠なく、そうおもっているだけである。
六十年間生きていると、予期せぬこと、予測できないことが起るものだとおもうようになる。
なのでなるようになるでしょう、と楽観視しているわけだが、
買収してくれるところが現れない可能性もある。
そうなればMQAという会社は破綻して、これから先MQAの音源はリリースされなくなるだろう。
そのことも考えても、それほど不安とか落胆とか、そういう感情がないのは、
MQAで聴きたいアルバムが、かなりの数、MQAにすでになっているからだ。
2021年にソニー・ミュージック、ソニー・クラシカルが全面的にMQA推しになった。
グレン・グールドの全アルバムがMQA Studioで聴けるようになった。
MQAでグールドが聴ける日が来ることは、まったく期待していなかった。
ソニーからMQA対応のハードウェアは発売されていたけれど、
ハードウェアだけなのだろう、と勝手に思い込んでいたから、あきらめてもいた。
そこにグールドがMQAで聴けるようになった。
グールドだけではない、カザルスもジュリーニもライナーも、
挙げたい人はまだまだいるけれど、とにかく愛聴盤として大切におもっているアルバムが、
MQAで聴ける、それもかなりの数が聴けるようになった。
2022年は旧EMIの録音がワーナー・クラシックスからMQAでかなりの数出ている。
それまでも積極的にMQAに対応していたけれど、2022年はすごかった。
フルトヴェングラーは2021年リマスター、
デュ=プレは2022年リマスターでMQAで聴ける。
44.1kHz、16ビットのデジタル録音もMQAになっている。
旧EMIに関しても挙げたい人はまだまだいる。
これからはMQAで聴けるわけだ。
TIDALで音楽を聴くようになって、新しい演奏家をかなり積極的に聴くようになった。
いいなぁ、と感じる演奏家も少ない。
それでも、そういった新しい演奏家の最新録音を立て続けに一週間ほど聴いて、
愛聴盤である古い演奏家の古い録音を聴くと、最新の演奏・録音のほうが色褪てしまう。
輝きが鈍ってしまう。
六十年間生きてきたわけだから、あとまともに聴けるのは二十年ほどか。
その二十年で、新たに愛聴盤に加わる演奏家が、何人登場してくるだろうか。
おそらくわずかだろう。
いまの演奏家が古の演奏家と比較して、という話ではなく、
これまで聴いてきた時代が関係してのことだから、
おそらく二十年で大きく変ることはないはずだ。
だとすれば、愛聴盤の多くがすでにMQAで聴けるのだから、
それで満足といえば満足できる。
ただユニバーサル・ミュージックがもう少し本気でMQAに取り組んでくれたら──、
とは思ってしまう。
カスリーン・フェリアーのバッハ・ヘンデル集だけでもいいから、
MQAにしてほしい。
それからヨッフムのマタイ受難曲も。
他にも挙げたいアルバムはあるけれど、この二枚だけはMQAで聴きたい。
つまり私が、いま二十代、三十代だったら、
今回のニュースを知って、驚き慌てたことだろう。
でも、すでに六十である。
残り時間のほうが少ない。
愛聴盤がある、MQAでけっこう数が聴ける。
ならば、それけで満足しようじゃないか。
たとえ最悪の状況になったとしてもだ。