宿題としての一枚(その12)
瀬川先生からの宿題としての一枚。
コリン・デイヴィス指揮のストラヴィンスキーの「火の鳥」である。
熊本のオーディオ店。
瀬川先生が鳴らされた音。
JBLの4343、
トーレンスのリファレンス、
マークレビンソンのLNP2、
SUMOのTHE GOLD、
これらのシステムが鳴らした音は、忘れられない音だ。
絶対に忘れられない音の記憶である。
別項で書いているように、この時が、瀬川先生が熊本に来られた最後だった。
いつもならば、試聴会の終りに、リクエストはありませんか、といわれるのに、
その日は、具合がひどく悪そうで、「火の鳥」を片面鳴らされたあと、すぐに引っ込まれた。
体調が悪かったのか……、そんなこともあるよなぁ……、
そんな感じで受け止めていたのだけれど、
そのオーディオ店を出て歩いていたら、駐車場から瀬川先生をのせた車が出てきた。
車内で瀬川先生はぐったりされていた。
そうとうに具合が悪いのは、誰にだってわかるほどにだ。
あの時の「火の鳥」の音は、なんだったのか──、と考えることがいまでもある。
高校生のときに聴いた音だから、それ以上の音をそれまで聴いたことがないから、
すごい音と感じたということは否定できないけれど、それ以上の音であったようにも思う。
冷静に聴くことができれば、欠点はいくつか指摘できる音だったのかもしれないが、
あの時の「火の鳥」はそういうことを一瞬にしてどうでもいいことと思わせるほど、
そんなふうな音だった──、といまでもおもっている。