Archive for 11月, 2014

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(ステレオサウンド別冊・魅力のオーディオブランド101)

1986年、ステレオサウンド創刊20周年記念別冊として、「魅力のオーディオブランド101」が出ている。
その名のとおり、国内外のオーディオブランドを101社紹介した内容。
海外メーカーに関しては菅野沖彦、柳沢功力、山中敬三の三氏による座談会形式だが、
国内メーカーに関しては、取材方法が違っている。

井上卓也、上杉佳郎、菅野沖彦、長島達夫、柳沢功力、山中敬三、
この中から二氏、または三氏がメーカーの試聴室を訪ねての構成となっている。
すべての国内メーカーを訪問しているわけではないが、
アキュフェーズ、アカイ、オーディオテクニカ、デンオン、ダイヤトーン、フォステクス、ケンウッド、
京セラ、ラックス、マランツ、ナカミチ、NEC、オンキョー、パイオニア、サンスイ、ソニー、ティアック、
テクニクス、ビクター、ヤマハのに関しては、
試聴室の写真と試聴機器のラインナップ、それに試聴ディスクが紹介されている。

「魅力のオーディオブランド101」は、この部分だけでも資料としての価値がある、といえる。
ステレオサウンド創刊20周年だから、1986年当時、
国内メーカーがどういうスピーカーシステムで、どういうアンプを使い、
どういうプログラムソースを鳴らしているのかが、その一部とはいえ知ることができる。

このことは少し時間が経ってから眺めるほうが興味深い、と私は感じている。
個人的におもしろいな、と感じたのはダイヤトーンだった。

できれば上記メーカーすべての試聴機器と試聴ディスクについて書き写しておきたいが、
意外と面倒な作業なので、ダイヤトーンだけにしておく。

試聴システムは、オープンリールデッキがアンペックスの440C、
デジタルレコーダーが三菱のX80、CDプレーヤーはフィリップスのLHH2000。
入力系はすべて業務用機器に統一されている。

アンプはパワーアンプがスレッショルドのStasis1である。
すでに製造中止になっているモノを使い、
コントロールアンプは無しで、P&GのPAF3022W(パッシヴフェーダー)でレベルコントロールをしている。

スピーカーシステムはダイヤトーンのDS10000と2S305。

試聴プログラムソースは、
CDがハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団によるマーラーの交響曲第四番、
PCMテープは三菱オリジナル録音のもの、
オープンリールのアンペックス用は、2S305をモニター使用したオリジナルテープ「ティファナ・タクシー」。

このことから見えてくるものは人によって違ってくるかもしれない。
おそらく違うだろう。
こんなことが何の役になるのか、と思う人もいるだろうけど、見えてくるものがはっきりとあることは確かである。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その13)

ステレオサウンド 60号は創刊15周年記念号で、特集はアメリカン・サウンドだった。
瀬川先生が登場された最後のステレオサウンドになった。

4345について、瀬川先生が語られている。
     *
 もちろん、中~高域にかけて、ネットワークやユニットの部分改良があり、全体によくなっているという発表はありますが、それだけではないと思うんです。やはり、あの低音の土台あっての柔らかさだ。自分のうちへ持ち込んでみてびっくりしたんですが、音がすばらしくソフトなんです。実に柔らかくてフワーッとしています。しかしそれは、腰抜けの柔らかさじゃなくて、その中にきちんと芯がある。かなり惚れ込んで聴いています。
 もちろん、まだまだパーフェクトだとは思いません。むしろ、4345まで聴いてみて、改めて、JBLでは鳴らせない音というものが、だんだんぼくの頭の中ではっきりし始めました。
 たとえばイギリスのBBCの流れをくむモニタースピーカーを、いい状態で鳴らしたときに、弦楽四重奏なんかをかけると、鳴った瞬間からウッドの胴体を持った弦の音が突然目の前に出現するけれど、4345では、いきなりそういう感じはなかなか出ないですね。どうしても中に金っ気がまじります。JBL嫌いの人は、昔からそこを非常にオーバーに指摘してきた。それは4345になってずいぶん抑えられたとはいうものの、どうしようもなくちゃんと持っていますね。あそこは越えがたい一線じゃないかという気がする。スピーカーがかなりパーフェクトに近づいてきて初めて、そこのところが見えてきたみたいな……。あるは少しはあばたがえくぼでなくなってきたのかなという気はします。でも、全体としてはやっぱり凄く惚れ込んでいますよ。
     *
ステレオサウンド 58号の記事はもうほとんど記憶していた。
やっぱり4345はいいスピーカーなんだ、PM510はもう目標としなくともいいのかもしれない、と思いながら、
途中まで読んでいた。

けれど、4345まで聴いてみて、改めて、JBLでは鳴らせない音がある、と発言されている。
そしてBBCモニターを引き合いに出されている。
こうも言われている。
「スピーカーがかなりパーフェクトに近づいてきて初めて、そこのところが見えてきたみたいな……。」と。

やはりPM510は必要なのか。
そうなると4345とPM510となるのか。

だが4345は4343ほどカッコよくない。
ステレオサウンド 58号で書かれていたことが浮んでくる。
     *
 ♯4343と並べてみると、ずいぶん大きく、しかもプロポーションのせいもあってか、ややズングリした印象だ。♯4343は、初対面のときからとてもスマートなスピーカーだと感じたが、その印象は今日まで一貫して変らない。その点♯4345は、寸法比(プロポーション)も、またそれよりもいっそう、グリルクロスを外して眺めたときのバッフル面に対するユニットの配置を含めて、♯4343の洗練された優雅さに及ばないと思う。この第一印象が、これから永いあいだに見馴れてゆくことで変ってゆくのかゆかないのか、興味深いところだ。
     *
瀬川先生は4345のプロポーションを見馴れてゆかれたのだろうか。
それについての発言は60号にはなかった。

見馴れてゆくにしろ、4343の「洗練された優雅さ」は4345にはないことは変ってゆかない。
ならば、4343(アルニコ)とPM510ということになるのか。
目標が揺らいでいく……。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: ショウ雑感, ジャーナリズム

2014年ショウ雑感(オーディオ・ジャーナリズム・その4)

別項でふれているMAC POWERというMac関係の月刊誌。
MAC POWERはあるときから編集者が誌面に積極的に登場するようになっていった。
ステレオサウンドの、編集者は黒子であれ、とはまさに正反対の編集方針であり、
そのこともMAC POWERを面白く感じる理由になっていたように思う。

MAC POWERでは筆者の記事よりも、編集者の記事の方が興味深いことも少なくなかった。
そのことは編集部も感じていたのかもしれない。
おそらく筆者も感じていたことだろう。
そうやって本が面白くなっていく。
けっこうなことだと思うし、そういう編集方針をオーディオ雑誌に取り入れたら、とも想像していた。

MAC POWERと似たようなことはステレオが以前からやってはいた。
編集部による実験的な試聴記事が毎号数ページ掲載されていた。

だが、それはどうしても内輪ネタといった印象から抜け出ることはなかった。
少なくとも私はそんなふうに感じていた。
MAC POWERにはそういうところが皆無だったとはいわないけれど、内輪ネタには留まっていなかった。
だから面白く読めた。

ステレオサウンドでMAC POWERのように編集者が積極的に誌面に登場するようにはできないか、
それになぜ編集者は黒子でなければならないのか、について考えてもいた。

ある時、ある人から聞いた。
ステレオサウンドがオーディオ評論家を前面に推し出し、編集者を黒子とするのか、
その理由についてである。

ある人は、原田勲氏から直接聞いたこととして、私に話してくれた。
「そういう理由もあったのか……」と思った。

いまここで、その理由については書かない。
いつか書くことになるかもしれないが、いまは書かない。

ある人から聞いたことだけが黒子の理由の全てではないにしても、
こういう考えがあるのなら、編集者にオーディオ・ジャーナリズムは芽生えない、とだけはいっておく。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: ショウ雑感, ジャーナリズム

2014年ショウ雑感(オーディオ・ジャーナリズム・その3)

私が在籍していたころのステレオサウンドの編集長は原田勲氏だった。
いまオーディオ評論家になられている黛さんが編集次長だった。
とはいえ、実質的に黛さんが編集長であった。

この時代、原田編集長からいわれていたことは「編集者は黒子だ」ということだった。
これはステレオサウンドという専門雑誌を創刊して20年近く、
つねにオーディオ雑誌としてトップにいつづけてきたことから得たことなのだろう。

あの時代は黒子でよかった、というよりも、黒子であったから、ステレオサウンドはうまくいった。
けれど編集者が黒子でいては、編集者にジャーナリズムは芽生えるのだろうか、といまは思う。

別項「オーディオにおけるジャーナリズム」でも引用している瀬川先生の、ステレオサウンド 50号での発言。
     *
新製品をはじめとするオーディオの最新情報が、創刊号当時にくらべて、一般のオーディオファンのごく身近に氾濫していて、だれもがかんたんに入手できる時代になったということも、これからのオーディオ・ジャーナリズムのありかたを考えるうえで、忘れてはならないと思うんです。つまり初期の時代、あるいは、少し前までは、海外の新製品、そして国産の高級機の新製品などは、東京とか大阪のごく一部の場所でしか一般のユーザーは手にふれることができなかったわけで、したがって「ステレオサウンド」のテストリポートは、現実の新製品知識を仕入れるニュースソースでもありえたわけです。
 ところが現在では、そういった新製品を置いている販売店が、各地に急激にふえたので、ほとんどだれもが、かんたんに目にしたり、手にふれてみたりすることができます。「ステレオサウンド」に紹介されるよりも前に、ユーザーが実際の音を耳にしているということは、けっして珍しくはないわけですね。
 そういう状況になっているから、もちろんこれは「ステレオサウンド」だけの問題ではなくて、オーディオ・ジャーナリズム全体の問題ですけれども、これからの試聴テスト、それから新製品紹介といったものは、より詳細な、より深い内容のものにしないと、読者つまりユーザーから、ソッポを向かれることになりかねないと思うんですよ。
     *
ここでのオーディオ・ジャーナリズムにはオーディオ評論家、オーディオ雑誌の編集者も含まれて、のはずである。
だが実際にはどうだったのか。

試聴という取材の場に立ち会ってはいても取材をしているとはいえない編集者。
黒子でいいのであれば、これでもいい。
むしろ、好都合といえるのか。

だがオーディオ・ジャーナリズムを芽生えさせ育てていくうえで、黒子のままでよかったとはいえない。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その12)

56号から半年後のステレオサウンド 58号。
ここにJBLの4345の記事が載る。
もちろん瀬川先生が書かれている。
試聴記の最後に、こうある。
     *
一応のバランスのとれたところで、プレーヤーを、P3から、別項のマイクロSX8000とSMEの新型3012Rの組合せに代えてみた。これで、アッと驚くような音が得られた。が、そのことはSMEの報告記のほうを併せてご参照頂くことにしよう。
     *
58号の新製品紹介のページには、SMEの3012-Rも登場している。
さっそく読む。
     *
 音が鳴った瞬間の我々一同の顔つきといったらなかった。この欄担当のS君、野次馬として覗きにきていたM君、それに私、三人が、ものをいわずにまず唖然として互いの顔を見合わせた。あまりにも良い音が鳴ってきたからである。
 えもいわれぬ良い雰囲気が漂いはじめる。テストしている、という気分は、あっという間に忘れ去ってゆく。音のひと粒ひと粒が、生きて、聴き手をグンととらえる。といっても、よくある鮮度鮮度したような、いかにも音の粒立ちがいいぞ、とこけおどかすような、あるいは、いかにも音がたくさん、そして前に出てくるぞ、式のきょうび流行りのおしつけがましい下品な音は正反対。キャラキャラと安っぽい音ではなく、しっとり落ちついて、音の支えがしっかりしていて、十分に腰の坐った、案外太い感じの、といって決して図太いのではなく音の実在感の豊かな、混然と溶け合いながら音のひとつひとつの姿が確かに、悠然と姿を現わしてくる、という印象の音がする。しかも、国産のアーム一般のイメージに対して、出てくる音が何となくバタくさいというのは、アンプやスピーカーならわからないでもないが、アームでそういう差が出るのは、どういう理由なのだろうか。むろん、ステンレスまがいの音など少しもしないし、弦楽器の木質の音が確かに聴こえる。ボウイングが手にとるように、ありありと見えてくるようだ。ヴァイオリンの音が、JBLでもこんなに良く鳴るのか、と驚かされる。ということきは、JBLにそういう可能性があったということにもなる。
 S君の提案で、カートリッジを代えてみる。デンオンDL303。あの音が細くなりすぎずほどよい肉付きで鳴ってくる。それならと、こんどはオルトフォンSPUをとりつける。MC30とDL303は、オーディオクラフトのAS4PLヘッドシェルにとりつけてあった。SPUは、オリジナルのGシェルだ。我々一同は、もう十分に楽しくなって、すっかり興に乗っている。次から次と、ほとんど無差別に、誰かがレコードを探し出しては私に渡す。クラシック、ジャズ、フュージョン、録音の新旧にかかわりなく……。
 どのレコードも、実にうまいこと鳴ってくれる。嬉しくなってくる。酒の出てこないのが口惜しいくらい、テストという雰囲気ではなくなっている。ペギー・リーとジョージ・シアリングの1959年のライヴ(ビューティ・アンド・ザ・ビート)が、こんなにたっぷりと、豊かに鳴るのがふしぎに思われてくる。レコードの途中で思わず私が「おい、これがレヴィンソンのアンプの音だと思えるか!」と叫ぶ。レヴィンソンといい、JBLといい、こんなに暖かく豊かでリッチな面を持っていたことを、SMEとマイクロの組合せが教えてくれたことになる。
     *
これを読み、私の目標はまた変更になった。
4345とSMEの3012-R。
このふたつがあれば、スピーカーは一本(1ペア)ですむかもしれない、と。

4343とPM510(スピーカーとスピーカー)が、4345と3012-R(スピーカーとトーンアーム)へと変っていく。
けれど、また半年後のステレオサウンド 60号で迷うことになる。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その11)

そうなると気になってくることがあった。
ステレオサウンド 54号の瀬川先生の4343Bの試聴記の最後にある。
     *
音量を絞り込んだときの音像のクリアネスでは、旧型がわずかによいのではないか。
     *
これが気になってきた。
54号を読んだときにすでに、すこし気になっていたけれど、
それはBタイプの「ふっくら」と引き替えに、ということで納得できていた。

けれどPM510と4343という、一体いつになったら実現できるのかわからないことを夢想しはじめると、
フェライトの4343Bよりもアルニコの4343こそが、私にとって、ということ以上に、
PM510といっしょに使うスピーカーとして、
音量を絞り込んだときの音像のクリアネスのよさは、よりよいのではないか、と。

アマにこの4343はなくなってしまう。買えないわけだ。
だからウーファーの2231Aとミッドバスの2121だけでも、なんとか買っておこうか、と考えたこともある。

4343と4343Bの違いは、ウーファーとミッドバスだけの違いであり、
エンクロージュアもネットワークも同じである。
正確にはレベルコントロールの表示が4343BではdB表示に変更されている。

とにかく数年後に4343Bをなんとか手に入れるとして、
そのときにウーファーとミッドバスをアルニコのユニットに換装する。
そうすれば新品のアルニコの4343を手に入れたのと同じになる。

これも高校生の私には実現できなかったプランである。
こんなことを夢想しながら、あのころはステレオサウンドを読んでいた。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その10)

4343と4343B。
ステレオサウンド 54号の記事を読みながら、目標は4343Bへと変っていった。
いますぐ買えるのであればどちらにするのかはわからないけれど、
早くても数年後であれば、4343Bということになる。

けれど半年後のステレオサウンド 56号。
ここにロジャースのPM510が登場している。
瀬川先生が書かれている、その記事を読んでいて、
やっぱり4343Bではなく4343かも……、と思いはじめていた。

PM510という新製品は、このスピーカーに惚れたということだけではなかった。

瀬川先生はKEFのLS5/1A、それにJBLの4341の両方を鳴らされていた。
4341は4343になり、最後は4345になっている。

私も……、と当時思っていた。
LS5/1Aは入手できない。
そんなところにPM510が出て来た。

PM510と4343。
実はこれが目標であった。

瀬川先生のPM510の試聴記を読めば、ここにも「ふっくら」とした魅力があることが伝わってくる。

同じ「ふっくら」でもPM510と4343Bのそれとでは同じではないことはわかっている。
わかっていても、PM510も目標となると、
そしてPM510と4343の両方を鳴らすのであれば、4343Bよりも4343のほうが、
両者の個性が際立つのではないか、そんなことを想像していた。

どちらもすぐには買えないのに、だ。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: スピーカーとのつきあい

emotion

感情はemotion。
emotionは、外(ex)と持ち出す(motion)から成っている。

いまの時代、メール(mail)にeがついてe-mail、EMAILとなり、電子メールのことである。
電子ブックがePubであったりする。

この場合のeは電子のことであり、emotionのe(ex)とは違うのはわかっている。
わかったうえで、オーディオのこと、
スピーカーの鳴らし方について考えると、
ここでのemotionのeは、外(ex)だけでなく、電子でもあるような気がしてくる。
もちろんこじつけである。

別項「理由」の(その20)に、こう書いた。

音楽は「感性的」なもの。オーディオを通して、その「感性的な」音楽を聴くときに、
スピーカーには「感情」を、私は、いまは求めようとしています。

スピーカーは電気・電子によって動くもの。
ゆえにemotionだと思えるし、まさにemotionでもあるといえる。

Date: 11月 14th, 2014
Cate: 素材

羽二重(HUBTAE)とオーディオ(舟を編む)

先日、映画「舟を編む」を観た。
国語辞典をつくる話だ。

辞典をつくっていくことの大変さは、なんとなく想像はしていたけれど、
実際はこれほど大変なことなのか、と知らされた。
校正にしても、雑誌と辞典では回数が大きく違う。

この物語の主人公は、辞書編集部の馬締光也。
国語辞典つくりが佳境になってきたころ、
製紙会社からもちこまれた紙について「ぬめり感がない」というシーンがある。
「ぬめり感?」ととまどう製紙会社の社員に、ある辞書をめくりながらぬめり感を説明する。

良質の辞書を使っている人ならば、辞書に使われている紙が薄く、指に吸いつくように、
けれど数ページがまとまってめくれたりはしないことを思い出されるはず。

辞書に使われている紙は薄い。
厚ければページ数の多い辞書の厚みはさらに増し、使いにくくなる。
薄くて丈夫で、一ページ一ページをきちんとめくれること。

このぬめり感(紙の質感)もまた、辞書のデザインであると気づかされた。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、聴くこと)

レコード(アナログディスク)は思い入れをこめやすいメディアである。
だが忘れてはならないのは、アナログディスクも工業製品である、ということだ。
大量複製される工業製品であり、工業製品である以上、そこにはなんらかの規格が存在する。

レコード会社が意図的にステレオ以降もRIAA以外のカーヴでレコードをつくっていたとしよう。
だが、レコード会社が録音カーヴについて伏せている以上、
そのステレオLPの再生カーヴはRIAAで、ということになる。

ラッカー盤のカッティング時にカッティング・エンジニアがなんらかの信号処理をすることはすでに書いた。
リミッターをかけることもある。
イコライザーで周波数特性を操作することもある。
つまり、この信号処理の延長でRIAA以外のカーヴを使用した、と私は考える。

RIAAカーヴなのかどうかについて考える時に、レコード会社側に立って考えてみる。
音質的なメリットがあるとして、RIAA以外のカーヴでレコードをつくったとする。
では、そのレコードをどう再生してもらいたいのか。

録音カーヴと逆の特性のカーヴで再生してほしいのであれば、
そのステレオLPのジャケットにその旨を書いておくのではないだろうか。
なんら記載がないということは、仮にRIAA以外のカーヴでつくられたレコードだとしても、
再生カーヴはRIAAで、ということになる。

再生はRIAAカーヴでいいから、録音カーヴについての情報がなにも与えられていない。
そういうことなのではないのか。
カッティング時にイコライザーをいじる。
だが、そのことについての情報は何も与えられない。

どの周波数をどのくらい上げ下げしたのか、
仮にそのことがジャケットに記載されていようと、何になるのか、と思う。
録音カーヴにしても同じことである。

それでも録音カーヴと逆の特性で再生しなければならない、と言い張る人はいる。
そう考えるのならば、そうしたらいいではないか。
だがレコード会社から録音カーヴについて、なんの情報も与えられていなければ、
それはRIAAカーヴで再生することがレコード会社の意図に添う再生であり、
録音カーヴと逆のカーヴで再生することが、レコード会社の制作意図に添う、とはいえない。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、前提はなにか)

EMTのアナログプレーヤー、930st、927st、927Dstは放送局やスタジオといった、
プロフェッショナルの現場で実際に使われてきた。
930stも927Dstもプロ用機器である。プロ用のようなモノではない。

そのEMTにはステレオ再生に関してはRIAAのみである。
ステレオLPの録音カーヴについて疑問をもっている人は、
このことについて一度考えてみてはどうだろうか。

それでもマランツのModel 7は……、という人もいるだろう。
でもModel 7もRIAA以外のカーヴを選択した時にはモノーラルになるようにしたかったかもしれない。
そう考えられないだろうか。
Model 7のイコライザーカーヴ切り替えのためのレバースイッチは、
もともと小信号用のものではなく、一般市販されていた汎用品ときいている。

ここにロータリスイッチを使っていたら、Model 7もEMTのイコライザーアンプのように、
RIAA以外のカーヴではモノーラルになるようにしのではないか、と私は思っている。

このことに関しては、私のようにステレオLPはRIAAという者には、いま書いているように受けとれるし、
いやステレオLPにもRIAA以外のカーヴがある、と疑問をもっている人にとっては、違う見方ができる材料になる。

私がRIAA以外のカーヴがあるのではないか、ということに懐疑的なのは、
カッティングマシンがどうなっていたのか、がある。
ステレオLP用のカッティングマシンに録音カーヴの切り替え機能があったのか、ということだ。
なかったとしても、レコード会社の人が独自のカーヴ用のモジュールをつくり使用することは可能である。

だからRIAAカーヴ以外のステレオLPが存在しなかった、とは断言できない。
だが存在していたとしても、それらのステレオLP(RIAAカーヴ以外のステレオLP)は、
RIAAカーヴでの再生を前提としているはずである。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、把握すること)

なぜ ステレオLPの録音カーヴに対して疑問を抱く人が出てくるようになったのか。
マランツのModel 7のようにイコライザーカーヴを切り替えられるコントロールアンプが存在していたことが、
大きく関係している、と考えられる。

あるレコードがうまく鳴ってくれない、
たまたまその人が使っていたコントロールアンプが、
Model 7のようにイコライザーカーヴが切り替えられるものだった。
試しにRIAA以外のカーヴにしてみた。
RIAAカーヴよりも、いい具合に鳴ってくれた。

これはもしかするとRIAAカーヴではないんじゃないのか……、
そう思うようになっていたことから始まってきたのかもしれない。

そう思うようになってみると、なぜModel 7がイコライザーカーヴを切り替えられるようになっているのか、
そのことについて考えてみるようになる。
ソウル・B・マランツは、
LPのイコライザーカーヴがステレオ以降もRIAAに完全に統一されていないことに気がついていたんだ──、
そんなふうに関連づけていくことだってできる。

けれど果してそうなのだろうか。
Model 7はイコライザーカーヴを選べる。
それもステレオ再生においてもだ。
だがこの機能は、モノーラルLPのための機能であり、
それをステレオLP再生時にも利用できる、ということにすぎないのではないか。

同じくイコライザーカーヴを切り替えられるものに、EMTのアナログプレーヤー内蔵のアンプがある。
四種類のカーヴが切り替えられる。
DIN45 536、DIN45 53、BBC、FLATであり、
DIN45 536がRIAAと同じく75/318/3180μSのROAAカーヴだ。
あとの三種類のカーヴは、そのポジションにすればモノーラル再生となる。

Date: 11月 13th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは、疑うな)

井上先生に何度もいわれたこと、
こうやって毎日オーディオ、音、音楽のことについて書いていて深く実感するようになってきたことに、
「レコードを疑うな」がある。

井上先生は、このことを何度もくり返された。
それは井上先生自身が、強く実感されていたからなのかもしれない、と最近思うようになってきている。

「レコードは神さまだ、その神さまを疑ってはいけない」
これは何もレコードを神聖化しろ、ということではない。

初めて聴くようなマイナーレーベルのレコードは例外があるかもしれないが、
少なくともメジャーレーベルのレコードに関しては、そのレコードを疑うべきではない、ということになる。

これに関係しているのは、「スピーカーが悪いのではない、鳴らし方・使い方が悪いんだ」がある。
これも出来の悪すぎるスピーカーは例外として存在しても、大半のスピーカーの場合、
スピーカーに非があるよりも使い手側に非があることが圧倒的に多い。

オーディオはさまざまな要素が絡んでいる。だからこそレコードは疑うべきではないともいえる。
レコードを疑ってしまえば、オーディオは基準とでもいおうか、
なにひとつ確かなものがないともいえるからだ。

だから私はステレオLPになってからの録音カーヴはRIAAであり、
ほかのカーヴが使われたとは思っていない。

ただ世の中には例外はある。
ごく一部のレコードで、ステレオ以降もRIAAカーヴではないものが存在していなかった、とは断言できない。
それでもはっきりといえるのは、そういうレコードであってもRIAAカーヴで再生するものである、ということだ。

Date: 11月 12th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・まず大事なのは)

1953年6月にRIAAカーヴが制定されている。
1954年から1956年にかけてRIAAに統一されている。

RIAAカーブはRCAが1952年9月から使いはじめたニュー・オーソフォニックのカーヴとまったく同一である。
つまりRCAのLPに限っては1952年9月以降はRIAAと考えていい。

このあたりの事情については岡先生が「マイクログルーヴからデジタルへ」で書かれている。
     *
 アメリカで、RCAを別として逸早くRIAAに切換えたレーベルとしてはエンジェル、アトランティック、EMS、MGMなどで、コロムビア、エピック、ヴォックスは一九五四年二月からと、かなり早く転換した。ロンドンはLL八四七以降がRIAAになっているから、これも五四年はじめ頃からである。そのあとを追って、マーキュリー、キャピトル、バルトーク、ウェストミンスター、ヴァンガードも五四年後半から五五年中にかけてRIAAに切換えている。アメリカのレコードで一九五六年以降に出たものの録音特性は、特別なものを除いては、RIAAになっていると考えてほぼ間違いはないと、おもう。
 このふるいLPの録音特性のことで、はっきりしないのはヨーロッパのレコードである。英デッカのはあまりにも有名だから問題ないとして、ほかのレーベルでは、EMI(HMV、英コロムビア)は米コロムビアと同一のカーヴで録音されていたことぐらいで、DGGやテレフンケン、フランスの各社などはデータがわからない。しかし、RIAAの録音特性はすぐにCCIRやEIAでも承認されているので早い機会にこのカーヴになったものと考えられる。五〇年代前半のヨーロッバのLPは日本で入手できる機会はほとんどなかった。日本プレスのLPも、ごく初期にコロムビアがアメリカからメタル・マザーを取り寄せてプレスしていたものを除いては、RIAA特性になっているはずである。
     *
少なくともステレオLPはRIAA以外のカーヴはない。
にも関わらず、RIAAカーヴ制定後に発売されたLPについて、
その録音カーヴはRIAAではない、という人が、今も昔もいる。

確かにRIAAが制定される以前はレコード会社によって録音カーヴが違っていたのは事実である。
だからといってステレオLPにおいてもカーヴが違う、と考えるのはどうか、と前々から思っていた。

それでも個人で、アナログディスク再生をする際に、
1956年以降のLPでRIAAカーヴのものであっても、他のカーヴのほうが結果として好ましいことはあるだろう。
だからといって、そのレコードの録音カーヴがRIAAではない、ということにはならない。

それに常識として、カッティング時にもカッティング・エンジニアがイコライザーで周波数特性をいじっている。
この場合、RIAAカーヴでカッティングしても、
パラメトリックイコライザー、もしくはグラフィックイコライザーを使うわけだから、
トータルのカーヴとRIAAと少しずれてしまう。
その可能性を無視して、RIAAではない、というのはどうだろうか。

それにもうひとついいたいことは、RIAAかどうかを判断する再生装置の音のことである。

何かを測る時に定規が直線ではなく、曲っていたらどうなるか。
つまり再生装置の音のバランスがきちんと整えられているのであればいい。
けれどそうでなければ、多少なりとも曲った定規ということになる。

その曲った定規で、RIAAカーヴなのかどうかがわかるのか、ということである。
定規(基準)が直線なのか、
ここを曖昧にしたままでの録音カーヴ議論はいつまでも結論が出ない。

それが楽しい、というのであれば、別なのだが……。

Date: 11月 12th, 2014
Cate: audio wednesday

第47回audio sharing例会のお知らせ(気になる新製品)

12月のaudio sharing例会は、3日(水曜日)です。

今年も数多くの新製品が登場し、消えていった製品もある。
オーディオとは関係のない仕事をしているから、すべてを聴くことはできないし、
聴けたのはほんのわずかである。
それでも気になっている新製品はある。

今回は年末ということで、
2014年をふり返って気になっている新製品を中心に、新製品をテーマにしたいと考えている。

場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。