型番について(その23)
QUAD・ESL63が出て、そう経たないうちにステレオサウンドで働くようになったから、
意外にも早く、それも販売店の試聴室とは比較にならない、いい条件で聴くことができた。
たしかに、ステレオサウンド 61号で、
特集「ヨーロピアン・サウンドの魅力」と長島先生による「QUAD ESL-63研究」、
この二本の記事で高い評価を得ていたし、期待はふくらむだけふくらんでいた、
そして実際のESL63の音は、ステレオサウンド 61号に書かれている通りの音だった。
でも、私としては不満があった。
音がしっとりしていない、ただその一点だけがどうしても受け入れられなかった。
音がしっとりしていない、
つまり音が乾燥気味に聴こえる。
ただ、これはあくまでもESLのしっとり感と比較しての印象であって、
乾ききった音ではないのだが、
どうしてもコンデンサー型スピーカーに対して照らし合せると、
しかもそのコンデンサー型スピーカーの音イメージは旧型のESLによってつくられているから、
だからこそやっかいなのだが、
ESL63の音は立派ではあっても、しっとり感が足りないというだけで不満だった。
型番がESL63ではなく、ESL62とかESL64だったら、
そこまで不満にも思わなかった。
ESL63だから、1963年生れの私は、個人的な強烈な思い入れがあった。
その思い入れが、ほんのすこしだけ損なわれた、というだけの話であっても、
当時まだ10代だった私は、とても大きなことではあった。