Archive for 10月, 2009

Date: 10月 21st, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その5)

タンノイ・オートグラフも、ベーゼンドルファー(BORDMANN)VC7も、
ユニットが発する音以外は極力抑えようというスピーカーの在り方とは正反対のところにある。

スピーカーユニットが技術的に完璧なものであって、無共振ということが、ほぼ実現できるであれば、
その在り方のみを純粋に徹底して追求していくのもいいだろうが、
現実には、まだまだスピーカーユニット自体は未完成というよりも、からくりの一種のいえるものであるし、
これから先はわからないが、無共振の素材、つまりいっさいの固有音をもたない素材で、
エンクロージュアに使えるもの、そんなものは、いまのところ、ない。

実験室レベルで、無共振スピーカーシステムをめざしていくのは、それはそれでいい。
けれど、現実のスピーカーシステムとしては、どこかで、からくりであること、
理想の素材は存在しないこと、とうまく折り合いをつけてこそ、
スピーカーでしか味わえない音楽体験が生れてくるのだと思っている。

折り合いのつけ方として、オートグラフやVC7という在り方も、
一方の極のリファレンスとして必要ではないだろうか。

Date: 10月 20th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その4)

タンノイ・オートグラフの、それぞれの受持ち帯域はどうなっているかというと、
中高域は、デュアルコンセントリック型ユニットのクロスオーバー周波数が1kHzなので、それ以上の帯域、
ウーファーは1kHz以下どこまでかというと、フロントショートホーンの開口部の大きさが関係してくることもあって、
それほど低いところまでは受け持っていないのはたしかだろう。

バックロードホーンが、それより下の帯域を受け持つことになるわけだが、
1960年代のタンノイのカタログには250Hz以下で効果を発揮している、という記述もあるし、
ステレオサウンド別冊「The British Sound」には、350Hzより下、とある。

250Hzなのか350Hzなのかははっきりしないが、300Hz近辺として、
オートグラフでは、300Hzと1kHz、
ベーゼンドルファー(BRODMANN)のVC7は、130Hzと2kHz。
わりとちかい値といえないだろうか。
しかもLCネットワークによるクロスオーバーは、どちらもひとつだけである。

そしてもうひとつ共通点として、オートグラフは同軸型ユニット採用、
VC7は、ウーファー、トゥイーターは別個のユニットではあるものの、
ユニットの放射パターンを考えると、仮想同軸配置といえなくもないわけだ。

Date: 10月 20th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その3)

200万円の予算があれば、各ブランドのトップモデルか、
トップモデルとまではいかなくても、充実した技術的内容をもつ中堅機が購入できる。

それらのスピーカーとくらべてみると、VC7は、ウーファーの口径は13cm(4発ついているものの)と、小さい。
トゥイーターはソフトドーム型ユニットが2つ。
いわばVC7の価格の大半は、エンクロージュアの代金といってもよいだろう。
この価格の比率は、往年のタンノイ・オートグラフにおけるそれに近いのではないだろうか。

どちらもエンクロージュアの響きの助けを借りて、
それぞれの、それでしか聴くことのできない低音を創り出している。

VC7は、トゥイーターが2kHz以上、エンクロージュアの両側に2基ずつのウーファーは130Hzまでを、
130Hzより下の帯域は、独自の、プレート・ホーン・レゾネーターが受け持つ。

Date: 10月 20th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その2)

優秀なモノーラル録音をきちんと再生すれば、かなりのリアリティのある音が得られる。
ただしオーケストラなどの編成の大きいものや、ひとつの楽器でも、ピアノのように大きなものではなく、
人の声、チェロぐらいの大きさの音源のソロというぐあいに限られるとはいえ、
説得力ある表現に、モノーラルでもいいかな、とそのときは思わせてくれる。

ヴァイオリンも楽器のサイズとしては小さいが、倍音成分の再現となると、
ステレオ録音に圧倒的に分がある。
とはいえ、モノーラル録音、つまり真空管全盛の時代の録音のなかには、
再生音ならではの、ヴァイオリンの美があり、これはこれで、捨て難い魅力をもつ。

ステレオ録音は、極端な表現をすれば、音源だけモノーラル録音に、
音場感というステージ(空間)が加わる。音色の美しさに響きの美しさが加わった世界である。

ベーゼンドルファーのスピーカーは、安いものではなかった。かなり高価なスピーカーシステムだった。
BRODMANNのスピーカーも、ほぼ同じ価格だろう。となるとVC7は、ペアで200万円をこえるであろう。

Date: 10月 19th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その41)

個人のブログやサイトで、AC電源のループを問題にしている記述をよく見かけるようになった。
この問題については、1980年代のおわりごろに、ラジオ技術誌で、富田嘉和氏が指摘されていたし、
その記事の中で富田氏が推薦されている技術書を読めば、
それ以前から、この問題が指摘されていたことがわかる。

つまり決して新しい問題ではない。だから、なぜいまごろ? という感じがするし、
それだけでなく電源系のループを問題にする前に、信号系のループにも、というか、
こちらのほうに先に目を向けるべきでないか、とも思う。

アンプ(電子機器)のなかには、いくつものループ(環)が存在している。
しかもそれらは重なっているものがある。

これは、もう直感でしかないが、これらのループをいかに減らし、
そして重なり具合を減らし、しかもループの面積をいかに小さくしていくかが、
音を良くする、というよりも、音を劣化させない(させにくい)ことにつながっていると思う。

Date: 10月 19th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その1)

ヤマハがベーゼンドルファーを買収したというニュースを聞いて、
危惧したのは、スピーカーシステムの製造をやめさせてしまう、ということで、
事実、2008年のインターナショナルオーディオショウのノアのブースには、
ベーゼンドルファーのスピーカーの姿はなかった。

この項の(その1)で、最後のところにちらっと書いているが、
スピーカー部門の主要スタッフは独立している。

去年暮には、BRODMANN Acoustics という会社を興している。
ウェブサイトも、すぐに公開されていたが、いつアクセスしても、
ベーゼンドルファーのスピーカーには似つかわしくない、派手なFLASHによる画面が表示されるだけで、
他のページはまったく作られていなかった。

数ヵ月経ってアクセスしてみても、同じまま。トップページのみのウェブサイトだった。
資金繰りがうまくいかず、消滅してしまうのか……とまで思ってしまうほど、
いつまで経っても、何の動きもなかった。

今日、やはり数ヵ月ぶりにアクセスしてみたら、まだまだ手つかずのページが残っているが、
トップページも変更され、ベーゼンドルファー時代のスピーカーの姿が、そこにあった。
復活していた。

Date: 10月 18th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その40)

スピーカーのネットワークの回路図は、ちょっと探せば、いろんなところに載っている。
そのウーファー部分だけでいいから、抜き書きしてみる。

そして入力のところはオープンになっているはず。そこに、実際の使用ではアンプが接がられるわけだから、
オープンのままにしないで、アンプを示す三角マークを書いてもいいし、
アンプはスピーカーにとって信号源であるから、丸の中に「〜」を描いた記号で閉じてみる。
ネットワークのコイルやコンデンサーの値は入っていなくていい。

この回路図を見ると、いくつものループ(環)があることに気がつかれるだろう。
ネットワークなしの場合だと、アンプとスピーカーの間にはなんら素子は介在しないので、
ループは、大きいものがひとつだけである。

−6dB/oct.のネットワークの場合は、コイルが直列にはいるだけであり、このループに関しては変化はない。
−12dB/oct.以上のネットワークとなると、並列にコンデンサーが挿入されることになり、
このループが増えることになる。
しかもそのループは重なっていることに注目してほしい。

Date: 10月 18th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その39)

内蔵ネットワークのアース(マイナス)線を、こうやって分離していくと、
たとえばJBLの4343は、4ウェイで、ウーファー以外の3つのユニットにはレベルコントロールがついているから、
スピーカーシステムから出てくるアース線は、最低でも13本になる。

4343では、さすがに試したことはないが、アース線をきちんと分離していく効果は大きい。
自作スピーカーの2ウェイなら、それほどの手間をかけずに、このような配線に変更できる。

ネットワークがスピーカーシステムに内蔵させれ、
パワーアンプとスピーカーシステム間を1組のスピーカーケーブルで結ぶのは、
見直すべき時期に来ているのかもしれない。

ネットワークの動作原理を考慮すれば、アース線を分離すべきであろうし、
アース線をなんでもかんでもいっしょくたにした状態で、ひじょうに高価なスピーカーケーブルを導入したとして、
そのケーブルが真に優れたものであったとしても、
その効果のほどは、実際のところ、かなり半減しているのかもしれない。

半減といえば、せっかくの高価なスピーカーケーブルを導入しながらも、
ケーブル長があまっているからと、トグロをまかせていては、単なる自己満足で終ってしまう。

Date: 10月 17th, 2009
Cate: ジャーナリズム

オーディオにおけるジャーナリズム(その31)

スケッチの項でふれた、瀬川先生のメモは、オーディオ誌の企画書といえるもので、
それも月刊誌を想定したものである。

本のコンセプトだけではなく、1冊のオーディオ誌として、全体と細部について、
かなり具体的に書かれているところもある。

私も、以前、同じようなものを、2回、書いたことがある。
こういうオーディオ誌をつくりたいという想いから書いたもので、誰かに見せることはなかった。
それにもう手元にもない。

だからというわけでもないが、瀬川先生が、これを書かれたときの心境が、
私なりではあるが、わかる(気がする)。

なぜ、書かれたのか──。

それまでのオーディオ誌に、つまりステレオサウンドにも、必ずしも満足されていなかった、
と読んでいるとそう思えてくる。

Date: 10月 16th, 2009
Cate: 川崎和男, 瀬川冬樹

スケッチ

今日から、Detour展が開催されている。
会場となるMoMA Design Storeには、建築家、映画監督、デザイナー、イラストレーター、
文筆家、音楽家らのノートブックが展示されている。
川崎先生のノートブックも展示されており、スケッチに間近で触れることができる(らしい)。

つまり、まだ行っていない。
夕方から人と会う約束があったからで、かわりというわけでもないのだが、
瀬川先生のスケッチとメモをいだたいてきた。

スケッチは、プリメインアンプを描かれていて、けっこうな枚数ある。
トレーシングペーパーに描かれているものもあり、昭和49年のものである。

メモは、ひとつは昭和39年に書かれたもので、はしり書きなので、正直かなり読みにくい。
スケッチや回路図も含まれている。
これを、瀬川先生は取って置かれたわけだ。だから、いま私に元にある。
読んでいくと、なぜなのかが感じられる。

そしてもうひとつのメモは、日付はどこにも書かれていないが、内容から判断するに、
1977年(昭和52年)ごろのものと思われる。

ステレオサウンドの原稿用紙に、横書き、はしり書き、箇条書きで、
メモというより、オーディオ誌はどうあるべきか、といった内容である。

私にとって、これらは宝である。

Date: 10月 16th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その38)

具体的には、プラス側の配線は1本だが、
アース側は、コンデンサーからの配線が1本、ウーファーのマイナス端子からの配線が1本、
計2本を独立して、アンプの出力端子までひっぱってくることになる。

−18dB/oct.の減衰量のネットワークでは、コイルがもうひとつ直列に入るだけで、
並列に挿入される素子(ハイカットの場合、コンデンサー)はないので、
−12dB/oct.のときと同じ、アース側の配線は2本でいい。

−24dB/oct.の減衰量となると、コイル(直列)、コンデンサー(並列)、コイル(直列)、
コンデンサー(並列)となるので、アース側の配線が1本増える。つまり3本になる。

−12dB/oct.と−18dB/oct.のネットワークのバイワイヤリングだと、
プラス側はウーファー、トゥイーター側に1本ずつで計2本、
アース(マイナス)側は、ウーファー、トゥイーターともに2本ずつで計4本、
つまり3組のスピーカーケーブルを使うことになる。

さらにトゥイーター側にアッテネーターが挿入されている場合には、
このアッテネーターからの配線が1本増えることになる。

Date: 10月 16th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その37)

あれこれ試していくうちに、パワーアンプ出力からスピーカーシステムの入力端子までの配線において、
なにを重要視すべきかということが、すこしずつ把めていると思う。

意外にも重要なのは、アース(マイナス)側だと思っている。
そうなると、ネットワークを含めて考えると、アース側の配線(スピーカーケーブル)の本数は、
もっと増やしたくなる。

内蔵ネットワークが−6dB/oct.の減衰量であれば、ウーファーに対して直列にコイルがひとつはいるだけだから、
アース側の配線を増やすことはない。
−12dB/oct.の減衰量のネットワークとなると、あくまでウーファーだけの話しですすめていくが、
コイルのあとにコンデンサーが並列にはいる。
ということは、このコンデンサーを流れる信号と、ウーファーを流れる信号は異るわけだ。
なのにアース側の配線は、一緒くたにしている。
流れる信号が異れば、共通インピーダンスまで勘案すると、わけるべきである。

Date: 10月 15th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その36)

シングルワイヤーからバイワイヤリング接続にするときに試してほしいと思うことがある。

シングルワイヤーでタスキ掛けの接続(片方はウーファーのプラス、
もう片方はトゥイーター側のマイナス、もしくはその逆の接続)もそうだが、
プラス側はウーファー、トゥイーターで分離して、マイナス側はまとめて1本にしたときの音、
そしてその反対の、プラス側はウーファー、トゥイーターはまとめて1本、
マイナス側をウーファー、トゥイーターで分離してみる。

これらのことはほとんどお金をかけずに試してみることができる。
そうであるならば、積極的に、接続を思い浮かぶすべての方法で、その音をどんよくに聴いてみる。

井上先生が、デジタル出力を、アンプのライン出力に接続されたように、とにかくやって、
その音を聴き、経験則を身につけていく。

Date: 10月 14th, 2009
Cate: Kathleen Ferrier, 挑発

挑発するディスク(その16)

「誠実」ということでは、カスリーン・フェリアーの歌こそが、私にとって、
ある意味、もっとも、そして静かに挑発的であるといえよう。

Date: 10月 13th, 2009
Cate: ジャーナリズム

オーディオにおけるジャーナリズム(その30)

仲間内だけで、ステレオサウンドについてあれこれしゃべっていても、
それでは、いつまでもたっても伝わらない。

手紙なり電話をするなり、手段はいろいろある。
良くなってほしいと思っているのなら、伝えてなくてはならない。

いまのステレオサウンドがおもしろいと思っている人たちも、もちろんいる。
そういう人たちは、いまのままでいいから、と黙っていると、時代が変化するにともない、
本のあり方も変っていかざるを得ない。
そんなとき、自分の声を伝えていなければ、望まない方向に変っていくかもしれない。
変ってしまったあとに、あれこれいっても、なかなか元には戻らないものである。

だから、いまのステレオサウンドのあり方に賛同する人はする人で、
きちんと編集部に声を届けるべきだろう。