Archive for 2月, 2009

Date: 2月 10th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その3)

LNP2とMC2300で鳴らされるオートグラフは、
従来のオートグラフのイメージからは想像もつかない、パワフルで引き締った音がした、
と井上先生は語られている。

さらにモニタースピーカー的な音に変り、エネルギー感、
とくに低域の素晴らしくソリッドでダンピングの効いた表現は、4343にまさるとも劣らない、とある。
たしかに、ここで語られるとおりの音が鳴っていたら、まさしくオートグラフのイメージからは想像できない。

この組合せの音について、井上先生に直にきいてみたい、
ステレオサウンドで働くようになってから、そう思っていた。

Date: 2月 10th, 2009
Cate: 伊藤喜多男, 岩崎千明

金声堂

岩崎先生の「オーディオ彷徨」におさめられている「オーディオ歴の根底をなす……」のなかに出てくる、
レコード店の金声堂。
神保町の九段寄りのところにあったとある。

ここに昭和26年から、ウェスターン東洋支社に入社される昭和28年まで働いておられたのが、伊藤先生だ。
「もみくちゃ人生」(ステレオサウンド刊)の「電蓄屋時代」の冒頭に書かれている。
     *
神田神保町二ノ四、当時の都電の停留場名でいえば専修大学前、いまはない銀映座という映画館の隣り角にあったレコード店、そこへ私が転がり込んだのが昭和二十六年の四十歳のときでした。
     *
このレコード店が、金声堂のはず。
当時レコードだけでなく、アルテックのユニットや、ウェスターンの728Bを取り扱っている店が、
そういくつもあるわけがないから、伊藤先生は店の名前を書かれていないが、まず間違いないだろう。

岩崎先生は、ちょうど、このころ金声堂に行かれている。
     *
神保町の九段よりのたしか金声堂というちっぽけだが、おそろしく高価なレコードをちょびちょびと並べてあった店で、正面レコード・ケースの上にデンと604がのせてあった。学生時代をやっと通り抜けた分際で、恐いもの知らずも手伝って、その値段を聴いたら「10万円」とひとこといってぐっと背の低いその老人ににらまれた。
     *
背の低い老人は、金声堂の主人であり、伊藤先生ではないだろう。

伊藤先生と岩崎先生、もしかしたら金声堂で出会われていたかもしれない。
言葉を交わされていた可能性もあるだろう。

Date: 2月 10th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 井上卓也

井上卓也氏のこと(その2)

井上卓也の名前を強烈に感じたのは、
1977年にステレオサウンドの別冊として刊行されていた「コンポーネントステレオの世界 ’78」と
1979年刊行の「世界のオーディオ」シリーズのタンノイ号である。

「世界のオーディオ」のタンノイ号で強烈だったのは、タンノイを生かす組合せは何か、という記事だ。
ここで井上先生は、タンノイのバークレイ、アーデン、ウィンザー、バッキンガムの他に、
GRFとAutograph(オートグラフ)の組合せをつくられている。
驚くのは、オートグラフの組合せで、高能率の、
このスピーカーにあえてハイパワーアンプのマッキントッシュのMC2300を組み合わせて鳴らされている。

しかもコントロールアンプは、マッキントッシュと対極にあると、当時思っていたマークレビンソンのLNP2である。

79年といえば、まだ16歳だった私のオーディオの思い込み、常識を、軽く破壊してくれた組合せである。
本文を読んでいただくとわかるが、MC2300のパワーメーターが、ときどき0dBまで振れていた、とある。
つまり300Wのパワーが、オートグラフに送りこまれていたわけだ。

それでジャズだ。
菅野先生録音の「サイド・バイ・サイド」を鳴らされている。
山崎ハコの「綱渡り」も聴かれている。

この人は、何かが違う、この記事を読みながら、そう感じていた。

Date: 2月 9th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, 五味康祐

タンノイ・オートグラフ

五味先生の本「五味オーディオ教室」でオーディオにどっぷりつかってしまった私にとって、
五味先生の書かれたものが、いわば「核」である。

だからタンノイのオートグラフは、JBLの4343とも、他のどんなスピーカーとも、
私の裡では、別格の存在であり、憧れである。
2000年に、タンノイがオートグラフを復刻した時は、真剣に欲しいと思った。
親になんとか借金してでも、と思いもしたが、
オートグラフを迎え入れる部屋が用意できない。
それに、いくらなんでも500万もの借金は、頼めない。

「なぜ、限定なんだろう」と憾んだものだ。

タンノイには、オートグラフと、ほぼ同じ構成のウェストミンスターがある。
いまのウェストミンスター・ロイヤル/SEは何代目だろうか。
息の長いスピーカーで、確実に改良され、堂々とした風格をもつ。

オートグラフでなくてもいいじゃないか、
ウェストミンスターのほうがずっと使いやすいだろう、という声が、裡にある。

オートグラフとウェストミンスター、どちらがいいか、そんなことを人に聞かれたら、
ためらわずウェストミンスター・ロイヤル/SEをすすめる。
だが自分のモノとするとなると、話は違う。

やはりオートグラフである。

ウェストミンスターは、何度か、ステレオサウンドの試聴室で聴いている。
聴き惚れたこともある。
試聴室で、ひとり鳴らしたブラームスのピアノ協奏曲のロマンティックな甘美さは、
いまも耳に残っている。
これがブラームスだ、そう思って聴いていた。
アバドとブレンデルの演奏だった。

そうなのだ、私にとって、ウェストミンスターはブラームスである。
オートグラフはベートーヴェンである。

この違いは、私にとって、決定的であり、どうやっても埋められない違いである。

言葉足らずで、なんのことか、わかってもらえないだろう。
それでも求めるのは、ベートーヴェンであり、オートグラフである。

Date: 2月 9th, 2009
Cate: JC2, LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その11)

私がステレオサウンドを読みはじめたのは、1976年12月に出た41号と、別冊の「コンポーネントの世界 ’77」だ。

どちらを読んでも、LNP2の評価は、特に瀬川先生の評価は高かった。
41号では、JC2と比較して、
「音楽の表現力の幅と深さでLNPはやはり価格が倍だけのことはあると思う」と書かれている。
「コンポーネントの世界 ’77」でも、瀬川先生の組合せにLNP2は登場しているが、JC2の出番はなし。

くり返し、この2冊に読み耽っていた中学2年の私は、
マーク・レヴィンソンが自家用として使っているのは、LNP2だと思い込んでいた。

ところが数号後のステレオサウンドには、JC2(ML1L)をメインとして使っている、と出ていた。
頭が混乱したのを憶えている。

「えっ、なぜ? レヴィンソンは社長だから、いちばんいいモノを使っているはず。
だからLNP2でしょ? なぜJC2なのだろう……」

このときは、まだLNP2もJC2も、まだ聴いていなかった。
だからステレオサウンドの記事だけが頼りだった。

JC2はML1Lになり、純度を高めてML6L(シルバーパネル)へと到る。
たしかに、レヴィンソンが使っていたのはJC2(ML1L)だったのだろう。

だとすれば、レヴィンソン自身にとって、LNP2の存在はなんだったのか、と考え込む……。

Date: 2月 9th, 2009
Cate: Mark Levinson

LNP2について(その10)

過剰さということならば、チャンネルデバイダーのLNC2も忘れてはならない。
1976年当時、 LNP2は108万円、JC2は58万円、LNC2も58万円していた。
しかもLNC2は2ウェイ専用モデルであり、3ウェイ化にはもう1台、4ウェイだとさらにもう1台追加である。

3ウェイの場合、1台で、いちおう使えるようになっていたと記憶しているが、
スロープ特性もゆるやかで補助的なもので、あくまでも本気で取り組むのであれば、追加が必要になる。
このころの感覚では、同じメーカーのコントロールアンプとチャンネルデバイダーが同じ価格ということは、
ほとんど例がなかった。

しかもLNC2のレベルコントロールは、
10回転タイプで、0.1dB刻みの目盛りがついているだけでなく、ストップレパーまである。

マーク・レヴィンソンは、マルチアンプで聴いている、と瀬川先生が書かれていた。
レヴィンソンは、マルチアンプのレベルコントロールを、0.1dBまで追い込んでいたのだろうか。
彼がどういう音楽の聴き方をしていたのかが、LNC2の構成から、一面だけとはいえ伺えるよう。

Date: 2月 8th, 2009
Cate: 930st, EMT, 五味康祐, 挑発

挑発するディスク(その14)

五味先生は「ステレオ感」(「天の聲」所収)で、EMTの930stのことを、次のように書かれている。
     *
いわゆるレンジののびている意味では、シュアーV一五のニュータイプやエンパイア一〇〇〇の方がはるかに秀逸で、同じEMTのカートリッジをノイマンにつないだ方が、すぐれていた。内蔵イクォライザーの場合は、RIAA、NABともフラットだそうだが、その高音域、低音とも周波数特性は劣下したように感じられ、セパレーションもシュアーに及ばない。そのシュアーで、例えばコーラスのレコードを掛けると三十人の合唱が、EMTでは五十人にきこえるのである。私の家のスピーカー・エンクロージアやアンプのせいもあろうと思うが、とにかくおなじアンプ、同じスピーカーで鳴らして人数が増す。フラットというのは、ディスクの溝に刻まれたどんな音も斉みに再生するのを意味するだろうが、レンジはのびていないのだ。近頃オーディオ批評家の(むしろキカイ屋さんの)揚言する意味でハイ・ファイ的ではないし、ダイナミック・レンジもシュアーのニュータイプに及ばない。したがって最新録音の、オーディオ・マニア向けレコードを掛けたおもしろさはシュアーに劣る。そのかわり、どんな古い録音のレコードもそこに刻まれた音は、驚嘆すべき誠実さで鳴らす、「音楽として」「美しく」である。
     *
EMTもスチューダーも、最新の音を聴かせてくれるわけでもないし、最高性能に満ちた音でもない。
信頼の技術に裏づけられた音だ。
はったりもあざとさもない、それこそ誠実さで音楽を鳴らしてくれる。
だから信頼できる。

井上先生は、「レコードは神様だ、疑うな」と言われた。
そのために必要なのは、私にとっては、驚嘆すべき誠実さで鳴らしてくれる機器なのだ。
だからこそ、音の入口となるアナログプレーヤー、CDプレーヤーに、EMTとスチューダーを選ぶ。

ときに押しつけがましく感じることのある、思い入れのたっぷりの機器は要らない。
ただし、これがアンプの選択となると、なぜだか、そういう機器に魅力を感じてしまうことも多い……。

Date: 2月 8th, 2009
Cate: SX1000 Laboratory, Victor, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その6)

ビクターのSX1000 Laboratoryを、
たとえばゴールドムンドのMIMESIS22 SignatureとTELOS2500のペアだったら、
どんなふうに鳴るのかは、やはり、多少ならずとも興味がある。

とは言え、このペア、2000万円でも足りない。
別格の音がして当り前だろうから、組合せとしては面白さを感じない。

SX1000 Laboratoryを鳴らしてみたいアンプの第一候補は、オラクルのSi3000だ。
Si3000も手頃な価格のアンプではない。それでもゴールドムンドのペアの10分の1だ。
このアンプの面構えと存在感の圧倒的なところが、SX1000 Laboratoryにぴったりのような気がしてならない。

形式上はインテグレーテッドアンプだが、
どう見ても、これは、ボリューム、セレクター付きのパワーアンプだろう。
だから最初はSi3000だけで鳴らしてみて、
しばらくして、ぴったりのコントロールアンプが見つかったら……、そんなことも考えている。

Date: 2月 8th, 2009
Cate: EMT, 挑発

挑発するディスク(その13)

プロ用機器とコンシューマー用機器の違いは、音づくりの違いとも言える。

プロ用機器は、その器材がどういう用途でどういう状況で使われるのか、
そして求められる性能と信頼性の実現が、最優先されていることだろう。
そこには──あえて言うが──アマチュアの、思い入れは存在していない。

別項で書いているマークレビンソンの初期のアンプとは、
正反対の考え方からつくりこまれているともいえるだろう。

EMTもスチューダーも、もちろん試聴テストをくり返し行なっていることだろう。
だが、試聴よりも、まず研究・開発の比重の方がずっと大きいように感じられるのだ。

パーツの選択にしても、マーク・レヴィンソンは、おそらく入手できるかぎりのパーツを集めて、
ひとつひとつをひとりで聴き選んでいった──そう勝手に想像しても、間違っていないだろう。

EMTやスチューダーのパーツの選択は、まず信頼できるものを、というふうに感じられる。
求めている性能を満たしていて、なおかつ長期間に渡り安定していること。
この安定していることは、設計面に関しても言えることだ。

ひとつの機器をつくりあげるまでの試聴の回数も、マーク・レヴィンソンの方がずっと多いかもしれない。

だからプロ用機器の音を素っ気無く感じてしまう人がいても不思議ではない。
逆に言えば、それは堅実で信頼できる音づくりでもあり、
これこそEMT、スチューダーに共通する良さ、誠実さだ。

Date: 2月 8th, 2009
Cate: 川崎和男

川崎和男氏のこと(その18)

2002年の7月4日は、よく晴れた、暑い日だった。

出掛ける前に、すこし迷ったことがある。
どのCDを持っていこうか、出掛ける寸前で、どうしても迷ってしまった。

1月に聴いて「これだ」と決めたCDを手にしながらも、
ほんとうにこれを持ってきて、これを聴いてもらうのは……、と思いはじめると、
いくつかのことがすごく気になってくる。

これも持っていくけど、もう1枚別のCDも持っていこう、とも思ったが、
やはり、1月、このCDを聴いた時の直観を信じよう、と決め、1枚のみ持って出掛けた。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その28)

ML3Lの音は、穏やかである。

LNP2のところで書いているが、JC2、 LNP2L、ML2Lに共通する過剰さが感じられない。
LNP2だけでなく、JC2にもML2Lにも、ある種の過剰さがある。
その過剰さが過激さにつながっている、と書いた。

JC2のように、音質向上のため、トーンコントロールを省き、モードスイッチの簡略化などを行い、
多少の使い難さも、音のために我慢して当然というスタイルは、
いまでこそあたりまえのことになり、抵抗もなく受けとめられているが、
JC2が登場した1974年当時では、過激ですらあった。

マーク・レヴィンソンは、アメリカのオーディオ関係の人間から、
JC2の使い難さを指摘されて、すこし不機嫌になりながら、
「これ(JC2)は、車に例えるならフェラーリだから」
と答えたという(RFエンタープライゼスの広告に、そうある)。

しかも外部電源にすることで、1Uサイズという薄型を実現したことも、
その後に続くアンプへの影響は、そうとうに大きかった。

ML2Lもそうだ。
片チャンネルあたり400Wの消費電力ながら、出力はわずか25W。
しかもそれまでどのアンプも実現できなかった、2Ωまでの計算通りに倍々で増えていくパワーを可能にしている。
しかも2台ブリッジ接続にすることで、A級動作では大出力といえる100Wも可能としている。

これらのアンプに見られるマーク・レヴィンソンの徹底的なこだわりは過剰であり、過激であり、
そのことが、神経質なまでの、音の過敏さを生み出している。

この過敏さが、ML3Lにない。少なくとも、私は感じとれなかった。

Date: 2月 7th, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その9)

通常のボリュームは、絞れば絞るほど、回路に直列に入る抵抗値が高くなる。
このこともあってか、ボリュームは絞って使うと、音が悪くなると言われることがあるが、
果たしてそのとおりなのだろうか、とも思う。

以前は、確かにそう思っていた、というより信じ込んでいた。
でも現実には、良質のボリュームであれば、絞って使ったほうがいいと感じることもある。

そのことに対する理屈は、人によってはどうでも良いことなんだろうが、
私はやっぱり気になる。何か、少なくとも納得のいく理由がひとつくらいはあってもいいはずだ。

LNP2でいえば、インプットアンプの入力端子から見れば、信号源の出力インピーダンスは、
直前に設けられているインプットレベルコントロールも含めてのものである。
ラインレベルの信号受け渡しは、ローインピーダンス出しの、ハイインピーダンス受けのため、
それほどインピーダンスについて語られることはないが、
内蔵のフォノイコライザーアンプにしろ、
ライン入力に接続されるチューナーやCDプレーヤーの出力インピーダンスの、
周波数特性はどうなっているだろうか。

NFBがかけられている半導体アンプで考えてみる。
NFBを、ある一定量、掛けるアンプのオープンループ(NFBをかける前の裸特性)の周波数特性は、
それほど広いものではない。可聴帯域のかなり低い周波数からゲインは落ちていく。
つまり周波数によって、NFB量は同じではない、ということだ。
低域ほどNFB量は多く、20kHzでは少なくなっているため、
出力インピーダンスもNFB量によって改善度が異り、低域ではかなり低い値でも、
1kHz、20kHzと周波数があがれば、少なからず出力インピーダンスも上昇していると見ていい。

それにインプットアンプにたどりつくあいだにケーブルの存在があり、
そのインダクタンスによっても、高域のインピーダンスは、また上昇する。

仮に信号源の出力インピーダンスを、20Hzでは100Ω、20kHzで300Ω、
ボリュームの値が10kΩとして、インプットアンプから見た出力インピーダンスの計算してみてほしい。
ボリュームをそれほど絞らない状態で、直列に入る値が1kΩ、並列に入る値が9kΩ、
絞った状態としての値が、9kΩ、1kΩとしよう。
実際にボリュームをかなり絞った状態では、直列の値はもっと高くなるが、
ここではボリュームの角度による出力インピーダンスの傾向を知ってもらうためなので、
計算しやすい値にしている。

抵抗を並列にした時の合成値は、それぞれの抵抗値を掛け合わせた値を、抵抗値を加算した値で割る。
信号源の出力インピーダンスも直列にはいるわけなので、
(信号源のインピーダンス+直列に入るボリューム値)×並列に入るボリューム値を、
(信号源のインピーダンス+直列に入るボリューム値+並列に入るボリューム値)で割る。

20Hzで、ボリュームをそれほど絞らない場合は、
(100+1000)×9000を100+1000+9000で割るわけだ。

こうやって、4つの場合の値を出してみてほしい。
そして、20Hzと20kHzの値を較べてほしい。
ボリュームを絞った場合とそうでない場合、20Hzと20kHzの値がほぼ同じになるのは、
どちらなのかが、はっきりする。

ボリュームを絞ることにも、メリットがあるといえよう。

Date: 2月 7th, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その8)

SN比に関して言えば、LNP2の場合、インプットアンプのゲインを0dB(増幅率:1)にすれば、
インプット、アウトプットレベルコントロールともに、それほど絞ることなく使えるだけでなく、
インプットアンプそのもののS/N比も、ゲインを低くすれば、その分NFB量を増すことになり、
+40dB時のSN比よりも、物理的に改善されるだけに、優位となる。

なのに音を聴くと、インプットアンプのゲインは高めに設定したくなる。
ぜひ、これだけは言っておきたいが、それほど音量を大きめにできない時こそ、
インプットアンプのゲインを高めにして、レベルコントロールを絞りぎみにする。

小音量になるほど、ゲインを高めにしたほうが、音が生きてくるし、冴えてくる。
そのかわり、レベルコントロールの設定は、すこしシビアになってくるけれども。

小音量時に必要とされるゲインからすると、インプットアンプのゲインを+40dBにすることは、
余剰ゲインを増やしていることになる。ますますオーバーゲイン(ゲイン過剰)のアンプになるわけだ。

この過剰さこそ、この時代のマークレビンソンのアンプに共通した特質でもあり、
それは過激さへとつながっている。
これこそ、個人的に、マークレビンソンのアンプ(JC2、LNP2L、ML2L)の、
もっとも魅力的なところだと、私には感じられる。

Date: 2月 6th, 2009
Cate: JC2, LNP2, Mark Levinson

LNP2について(余談)

JC2 (ML1L) の左右独立のレベルコントロール(バランスコントロール)も、
ラインアンプのNFB量を、1dBステップで変化させている。
±5dBの変化幅だから、NFB量は最大で10dB違うわけだ。

だから、どのポジション、つまりNFB量を減らすか増やすかによって、音の出方が変化する。
どのポジションで使うかは、その人次第だが、いずれにしても、
0dBのポジション以外で使うとなると、ツマミが斜めになる。

これが嫌で、JC2を使っていた時、実は+5dBにしていたが、ツマミは垂直になるようにしていた。
他の人からすれば、どうでもいいこだわりなのだが、
中央ふたつのツマミは、垂直になっていたほうが、キチッとした感じがして、見ていて気持ちいい。

Date: 2月 6th, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その7)

最初、0、+10、+20dBだったゲイン切換えに、なぜ+30、+40dBの2ポジションを足したのか。

+30、+40dBのポジションにすれば、使い難さが生じることは、
マーク・レヴィンソン自身、よくわかっていたはずだ。
なのに、あえてつけ加えているのは、+30、+40dBのポジションの音に、
彼自身、良さを感じとっていたからではないだろうか。

インプットアンプのゲイン切換えはNFB量を変えて行なっている。
+20dBと+40dBのポジションでは、NFB量が20dB異る。かなりの違いだ。

つねに細かい改良が加えられているLNP2だから、完全な同一条件での比較は無理だが、
おそらく初期のLNP2の+20dBの音と、+40dBまで増えたLNP2の+20dBの音は、基本的には同じだろう。

モジュールのLD2も外部電源も同じなら、多少外付けパーツに変化があっても、
基本的な素性は同じはずだ。
LNP2の良さ──というよりもJC2を含めた、このころのマークレビンソンの音──は、
同社の他のアンプとくらべてみると、どんな微細な音をあますところなく緻密でクリアーに表現するところにある。
音の冴えが研ぎ澄まされている。

この音の特質を追求した結果、ややオーバーゲインといえるポジションが追加されたと考えていいだろう。
+30、+40dBのポジションを使うと、インプットレベルコントロールをかなり絞ることになる。

従来、ボリュームをあまり絞り過ぎた位置で使うと、音が極端に悪くなるので、
できるだけ減衰量の少ないところを使ったほうがいいとも言われていた。
たしかに質の悪いボリュームだと、絞り気味にすると、
左右の減衰量に差が生じるギャングエラーを起こすものがあった。

こういうボリュームは論外だが、少なくともLNP2が採用しているボリュームでは、
絞ったからといって、音が痩せたり、悪くなったりする印象は感じられなかった。

むしろ、私の個人的な印象だが、インプットアンプのゲインを+40dBまであげて、
インプットレベルコントロールを絞りぎみにしたときの音は、
むしろLNP2の良さが映えてくるとさえ思っている。

さすがにあまり絞り過ぎると、左右独立だけにレベル合わせが面倒になるので、
アウトプットレベルコントロールのほうも、かなり絞りぎみにするというよりも、
どちらのレベルコントロールも、基本的には絞りぎみで使う。

こういう設定でのLNP2 (L) の音を、機会があれば、聴いてみてほしい。