金声堂
岩崎先生の「オーディオ彷徨」におさめられている「オーディオ歴の根底をなす……」のなかに出てくる、
レコード店の金声堂。
神保町の九段寄りのところにあったとある。
ここに昭和26年から、ウェスターン東洋支社に入社される昭和28年まで働いておられたのが、伊藤先生だ。
「もみくちゃ人生」(ステレオサウンド刊)の「電蓄屋時代」の冒頭に書かれている。
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神田神保町二ノ四、当時の都電の停留場名でいえば専修大学前、いまはない銀映座という映画館の隣り角にあったレコード店、そこへ私が転がり込んだのが昭和二十六年の四十歳のときでした。
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このレコード店が、金声堂のはず。
当時レコードだけでなく、アルテックのユニットや、ウェスターンの728Bを取り扱っている店が、
そういくつもあるわけがないから、伊藤先生は店の名前を書かれていないが、まず間違いないだろう。
岩崎先生は、ちょうど、このころ金声堂に行かれている。
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神保町の九段よりのたしか金声堂というちっぽけだが、おそろしく高価なレコードをちょびちょびと並べてあった店で、正面レコード・ケースの上にデンと604がのせてあった。学生時代をやっと通り抜けた分際で、恐いもの知らずも手伝って、その値段を聴いたら「10万円」とひとこといってぐっと背の低いその老人ににらまれた。
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背の低い老人は、金声堂の主人であり、伊藤先生ではないだろう。
伊藤先生と岩崎先生、もしかしたら金声堂で出会われていたかもしれない。
言葉を交わされていた可能性もあるだろう。