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Date: 2月 22nd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続々・ある記事を読んで)

負荷インピーダンスを1/4波ごとに8Ω/4Ωを瞬時に切り替える状態での高調波歪率は、
そのグラフを見ると、こうも違うものかと驚く。

ステレオサウンド 52号、53号での測定結果はすでに知っているわけだから、
ある程度の予測はしていたものの、実際に測定器に示される値をグラフにしていくと、
差の大きなアンプでは二桁近い歪率の悪化が見られる。

高調波歪率のグラフには3本の線が描かれている。
1本目は8Ω負荷、2本目は4Ω負荷、3本目が8Ω/4Ω切替え負荷である。
念のためいっておくが、すべて抵抗負荷である。52号、53号で使われたダミースピーカーではない。
アンプにとって、もっともいい数値を出しやすい抵抗負荷の8Ωと4Ωに瞬時に切替えるだけで、
アンプによっては驚くほど歪率が悪化(そのカーヴも大きく異る)するのがある一方で、
ここでも52号、53号でのダミースピーカーでの歪率が抵抗負荷とほぼ同じ歪率を示すモノがあったように、
ほぼ変化しないアンプがあるのも、また事実である。

64号では高調波歪率はあくまでも参考データ扱いで、掲載されているのは9モデル分で、
国産アンプと海外アンプの区別はつけてあるものの、どれがどのアンプかは明記していない。
もっとも丹念に見ていけば、どのアンプなのかはおおよその見当はつく。

64号の測定のメインは、瞬時電力供給能力のほうである。
こちらもやはり1/4波ごとに抵抗負荷の8Ωと1Ωにトライアックで自動的に瞬時に切替えて、
そのときの電流波形を写真で捉えている。
掲載されている写真は2枚で、1枚は8Ω負荷時での出力が6.125W時(つまり1Ω負荷時で50Wになる)のもの。
もう1枚は1Ω負荷時に8Ω負荷時の最大出力となるもの(8Ωで100Wのアンプであれば、8Ω負荷12.5Wとなる)。
さらに棒グラフでどの程度供給能力が低下するのかをパーセンテージで示したものも掲載している。

この測定結果は全アンプ掲載されている。

Date: 2月 22nd, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(続・ある記事を読んで)

ステレオサウンド 64号には、特別寄稿として、
「現代にはびこる特性至上主義アンプの盲点をつく──これでもアンプはよくなったといえるのだろうか」という、
長島先生による7ページの、今回の測定に関する記事がある。

ステレオサウンドは52号、53号で抵抗負荷での歪率測定だけでなく、
アンプ測定用のダミースピーカー(三菱電機によるもの)を負荷としたものも測定している。
たいていのアンプ(特に国産アンプ)は、抵抗負荷時の歪率のほうが低い。
アンプによってはかなり差が出ているものがあった。
抵抗負荷時には逆レの字型の歪率のカーヴを描くのに、
ダミースピーカーが負荷となると歪率が違うだけでなくカーヴそのものも変化するものも多い。

海外アンプはというと、おもしろいことに抵抗負荷時よりもダミースピーカー負荷時の歪率ほぼ同じというモノ、
さらにダミースピーカー負荷時の歪率のほうが低い、というモノも数は少ないながらも存在していた。

サインウェーヴを入力してアンプの負荷に抵抗を接続した状態の物理特性を、一般に静特性というが、
実際にアンプがシステムに組み込まれると、入力信号はサインウェーヴではなく音楽信号に、
負荷も抵抗からスピーカーシステムへ、となる。
この状態での物理特性を動特性とすれば、
聴感とより密接に結びつくのは静特性よりも動特性であることは容易に想像できるものの、
それでは動特性をどう測定するかは難しい問題でもある。

ステレオサウンドがダミースピーカーを使ったのは、
少しでも動特性を測定するための工夫であり、
64号での負荷インピーダンスを瞬時に切り替えるというのも、そういうことである。

実際の測定はサインウェーヴの山が一番高くなった時点で負荷インピーダンスを8Ωから1Ω(もしくは4Ω)に、
トライアック(双方向性スイッチング素子)を使い瞬時に切り替える。
サインウェーヴが0Vにきたところでまた切り替え8Ωにし、今度はマイナス側の山のところでまた1Ω(4Ω)にする。
つまり半波の半分、1/4波ごとに負荷インピーダンスを自動的に瞬時に切り替えて、
パワーアンプの瞬時電力供給能力の実態を視覚化するとともに、
いくつかのアンプでは高調波歪率も測定している。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: ジャーナリズム, 正しいもの, 測定

測定についての雑感(ある記事を読んで)

10日ほど前の産経新聞のサイトに、
日本の家電メーカー各社がルンバ(掃除ロボットと呼ばれている製品)を作れない理由、
といった記事が公開されていた。

記事には、パナソニックの担当者の発言として「(ルンバを作る)技術はある」としながらも、
商品化しない理由として、「100%の安全性を確保できない」ことをあげている。

たしかにアイロボット社のルンバも、使っている人にきくと完璧なモノではないらしい。
それでも便利なモノで、結局は使っている、とのこと。
けれど、日本のメーカーは、産経新聞のサイトによると、
掃除ロボットが仏壇にぶつかりロウソクが倒れると火事になる、とか、
階段から落下して人にあたる、とか、
よちよち歩きの赤ちゃんの歩行の邪魔して転倒させる、とか、
こういったことがクリアーされないと、日本の家電メーカーは商品化に及び腰になる、と読める。

この記事を読んでいて思い出したのは、ステレオサウンドで行ったアンプの測定のことだった。
64号の特集は「スピーカー相性テストで探る最新アンプ55機種の実力」で、
プリメインアンプとセパレートアンプを、
ヤマハのNS1000M、タンノイのArden MKII、JBLの4343B、
この3種のスピーカーシステムで試聴する内容。
測定も長島先生によって行われている。

64号では1機種当りのページ数は2ページ。
ページのゆとりはあまりないけれど、ここでの測定は、それまでとは違い、
負荷インピーダンスを測定中に瞬時に切り替えるというものだった。
パワーアンプの瞬時電力供給能力を測定する、というものだ。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: ベートーヴェン, 正しいもの

正しいもの(その6)

断わるまでもなく私はオーディオ・マニアである。気ちがい沙汰で好い再生音を希求してきた人間である。大出力アンプが大型エンクロージュアを駆動したときの、たっぷり、余裕を有って重低音を鳴らしてくれる快感はこれはもう、我が家でそういう音を聴いた者にしかわかるまい。こたえられんものである。75ワット×2の真空管アンプで〝オートグラフ〟を鳴らしてきこえる第四楽章アレグロは、8ワットのテレフンケンが風速三〇メートルの台風なら五〇メートル級の大暴風雨だ。物量的にはそうだ。だがベートーヴェンが苦悩した嵐にはならない。物量的に単にffを論じるならフルトヴェングラーの名言を聴くがいい。「ベートーヴェンが交響曲に意図したところのフォルテッシモは、現在、大編成のオーケストラ全員が渾身の力で吹奏して、はるかに及ばぬものでしょう。」さすがにフルトヴェングラーは知っていたのである。
     *
上に引用した文章は五味先生の書かれたものだ。
「人間の死にざま」に収められている「ベートーヴェンと雷」の中に出てくる。
だから第四楽章アレグロとは、交響曲第六番のそれである。
75ワット×2の真空管アンプは、説明する必要はないだろうが、マッキントッシュのMC275のこと。
テレフンケンとは、テレフンケン製のS8のスピーカーシステム部のことで、
8ワットは、300Bシングルのカンノ・アンプのことだ。

この項の(その4)で引用した中野英男氏の文章の中に、
「シャルランはあのレコードの存在価値を全く認めていなかったのである」と。
あのレコードとは、若林駿介氏の録音による、
岩城宏之氏指揮のベートーヴェンの交響曲第五番とシューベルトの未完成のカップリングのレコードのこと。
中野氏は、「日本のオーケストラの到達したひとつの水準を見事に録音した素晴らしいレコード」と書かれている。
そのレコードを、シャルランは全く認めなかったのは、
結局のところ、引用した五味先生の文章が語っていることと根っこは同じではなかろうか。

どんなに素晴らしい音で鳴ろうが、交響曲第六番の四楽章をかけたとき、
それが「ベートーヴェンが苦悩した嵐」にならなければ、それはベートーヴェンの音楽ではない。

シャルランが言いたかったことは、そういうことではないのだろうか。

Date: 2月 20th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その4)

ページ数が以前のようにとれないのであれば、
製品の写真を小さくして、測定データも小さい扱いでもいいから、という意見はあるだろう。
けれどステレオサウンドが測定を始めたころと時代は大きく違っている。
測定データのグラフは、小さな扱いでは細かいところまで読み取りにくくなるから、
どうしてもある程度の大きさは必要となってくる。

ステレオサウンドは、なぜ測定を始めたのか。
それは、当時はメーカー発表の測定値(カタログに載っているデータ)にいいかげんなものが少なくなかった、から。
カタログに発表されている値がほんとうに出ているのかどうかを検証するために始めた、というふうに聞いている。

測定をはじめた当初は、ずいぶんメーカーの発表値とステレオサウンドでの実測値が違うモノがあったそうだ。
つまりカタログに載っている値を満たしているものは、わずかだったらしい。
そうなるとメーカーの信頼にも関わってくることなので、カタログに載っているデータは正しいものとなってきた。
そういう時代があったわけだ。

そうなってくるとステレオサウンドが測定をする意義も変化していくことになる。
それまでのようにただメーカーの発表値のチェックだけでは意味のないことであり、
そういうものを誌面を載せるのこそ、無駄であるから。

メーカーがやっていない(もしくはやっていたとしてもカタログに発表していない)測定を行なうのも、
ステレオサウンドが測定を行なう(続けていく)意義となる。

Date: 2月 20th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その78)

リークもQUADも、
コントロールアンプも交流点火としているのは、パワーアンプの入力感度の高さが関係しているようにも思う。

真空管アンプの時代もそうだったし、
トランジスターアンプが主流になってもしばらくはイギリスのパワーアンプの入力感度は全般的に高かった。
アメリカのパワーアンプが入力1Vで最大出力が得られるのに、
イギリスのパワーアンプは50mV、100mVという値だった。10倍から20倍、感度が高い。
つまりアメリカのアンプでコントロールアンプでゲインを稼ぎ、
イギリスのアンプはパワーアンプでゲインを稼いでいた、ゲイン配分といえる。

ただ、なぜイギリスはこういうゲイン配分としたのか、その理由は正直よくわからない。
もしかするとBBCの規格がそうだったのかもしれない、とは思うのが確証はない。

リーク、QUADが交流点火だったのは、
スピーカーシステムの能率が低いせいではないか、と思われる人もいるかもしれない。
たしかにQUADのESLは低い。
けれどリークやQUADと同時代にはタンノイ、ヴァイタヴォックスの大型システムが存在していた。
これらのスピーカーシステムと組み合わせられることもイギリスでは多かったはず。

事実、五味先生がタンノイにオートグラフを発注された時、
タンノイに「いかなるパーツを使用すべきや」と問合せされたとき、
タンノイからの回答は、カートリッジはデッカ、トーンアームはSME、アンプはQUADであった、と
「オーディオ巡礼」(ステレオサウンド刊)所収の「わがタンノイ・オートグラフ」に書かれている。

オートグラフの能率であっても、QUADの22のS/N比で特に問題はない、ということだろう。
となると、イギリスのメーカーが交流点火でも実用的なS/N比を確保できていたのは、
アメリカ勢(マッキントッシュ、マランツ)に使われていた真空管の製造メーカー、
イギリス勢(リーク、QUAD)に使われていた真空管の製造メーカーの違いが、
理由としてはいちばん大きいのではなかろうか。

アメリカ勢とイギリス勢では、直流点火と交流点火という違いがあり、
アメリカ勢のマッキントッシュとマランツはどちらも直流点火ではあるものの、
まったく同じとはいえない違いがある。

Date: 2月 15th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その4)

「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、DSS731の周波数特性は、もうひとつ載っている。
それはMFB量による周波数特性の違い、である。
MFB量が0dB、0.5dB、5dB、10dB、15dBのカーヴが載っていて、
0.5dBのMFB量では3kHzあたりにゆるやかな山ができていて、高域はほぼ0dBのときの特性と重なる。
低域はMFB量0dB時よりは伸びているが20Hzまでフラットとはいかない。
MFB量5dBで、3kHzの山はほとんど平坦に近くなり、10dB時全帯域にわたりほぼフラットな特性となる。
高域の伸びも低域の伸びもあきからに改善されている。
15dBでさらにフラットな特性にはなるものの、かわりに20kHz以上にピークが発生するようになる。

MFB量による周波数特性の変化の実測データがあるということは、
カッターヘッドのドライブアンプ側にMFB量を可変できる機能がついている、ということだろう。

「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、カッターヘッドのドライブアンプについての表もある。
この表は詳細は書いてないものの、ビクターで使われているもののはず。
表をみていくと、ビクターでは純正のアンプの他にビクター製のアンプも使われていることがわかる。

ノイマンSX68にはノイマン純正のSAL74、
このアンプはトランジスターの準コンプリメンタリーのOCL型で出力トランジスターは3パラレル。
最大出力は600W、ピーク出力は230V p-p, 8Aとなっている。
この他にビクター製の、
出力管にテレフンケンのEL156を使用したパラレルプッシュプルで出力は200Wの真空管式のものも使われている。
SX74には純正のSAL74のほかに、
ビクター製のトランジスターアンプ、これは純コンプリメンタリーの出力トランス採用のもので、出力は300W。

ウェストレックス3Dには、純正の真空管式。
これは出力管に807をパラレルプッシュプルで使い、100Wの出力をもつ。
3DIIAにはビクター製の真空管式。ただしSX68用のものとは多少異るEL156のパラレルプッシュプルだ。
出力は200Wと同じだが、SX68用のモノはトランスに専用の巻線をもうけたカソードNFをかけているのに対し、
3DIIA用のアンプは無帰還となっている。
そのためSX68用のアンプは、高調波歪率:1%以下(200W時)、混変調歪率:0.3%以下(100W)だが、
3DIIA用のアンプは、歪率:2%以下(200W)となっている。

オルトフォンDSS731には、
純正のトランジスターの準コンプリメンタリーのブリッジ構成のもので出力は500Wが使われている。
このアンプはオルトフォン・ブランドとなっているが、
おそらくオルトフォンと同じデンマークのB&Kによる設計・製作である。

Date: 2月 15th, 2012
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その57)

アンプの設計者には、どちらかといえばプリアンプに妙味を発揮するタイプの人と、パワーアンプの方が得意な人とに分けられるのではないかと思う。たとえばソウル・マランツは強いていえばプリアンプ志向のタイプだし、マッキントッシュはパワーアンプ型の人間といえるだろう。こんにちでいえば、GASの〝アンプジラ〟で名を上げたボンジョルノはパワーアンプ型だし、マーク・レビンソンはどちらかといえばプリアンプ作りのうまい青年だ。
     *
ステレオサウンド 52号の特集の巻頭言「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」のなかに、
瀬川先生はこう書かれていた。
このとき、私はまだGASのアンプ(ボンジョルノのアンプ)を聴く機会はなかった。
だから、この瀬川先生の言葉をそのまま信じていたし、
実際にGASのラインナップをみても、パワーアンプの方を得意とするメーカーのようにも自分でも感じていた。

GASを離れてSUMOをつくったボンジョルノは、The PowerとThe Goldを発表した。
しばらくしてThe Powerの弟分にあたるThe HalfとThe Goldの弟分のThe Nineも出した。
このことも、ボンジョルノはパワーアンプ型のアンプ・エンジニアだ、
と思い込むことに私のなかではつながっていた。

だからパンダThaedraが欲しかったのは、ボンジョルノにはたいへん失礼なことではあるけど、
フロントパネルのユニークさに惹かれて、が大きな理由だった。

マークレビンソンのLNP2やJC2とくらべると、
Thaedraは高さのあるシャーシーに、独特のレイアウトのコントロールアンプであり、
どちらが精緻な印象をあたえるフロントパネルかといえば、
LNP2と答える人はいても、Thaedraの方だ、と答える人はおそらくいない、と思う。

いかにも繊細な音を出してくれそうな、そして実際に出していたLNP2と、
ユニークで、しかもアメリカ的な(マッキントッシュの与えるアメリカ的なものとはまた違う)、
といいたくなるThaedraとでは、
私のなかでは正統派のコントロールアンプの最上級のところにLNP2がいて、
Thaedraはすこし外れたところにいるアンプ。
コントロールアンプとしてコントロールする、その操作に伴う精緻な感覚にただ憧れていた私には、
LNP2のマーク・レビンソンはコントロールアンプ型、
ユニークではあっても……のジェームズ・ボンジョルノは、どちらかといえばパワーアンプ型、
そんなふうに思っていたから、The Goldと接いだときの音は、意外だったのだ。

Date: 2月 14th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その3)

ウェストレックスの3DIIA、ノイマンのSX74の周波数特性は、
誠文堂新光社から1976年に無線と実験、初歩のラジオ別冊として出された
「プレーヤー・システムとその活きた使い方」に載っている。

この本は日本ビクターの音響技術研究所所長の井上敏也氏による監修で、執筆者は34名。
おそらく大半の人が日本ビクターの方々だろう。

この「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、SX74、3DIIAのほかに、
オルトフォンのDSS731の周波数特性も載っている。
DDD731はCD4用に開発されたカッターヘッドで、
その構造もSX74、3DIIAとは大きく異る。

SX74、3DIIAは、左右チャンネルのドライブ用コイル、フィードバック用コイル(ムービング・エレメント)が、
それぞれ45度の角度を保つように配置されている構造なのに対して、
DSS731ではジャイロ方式と呼ばれる構造をとっている。
DSS731でもムービングエレメントそのものの構造はSX74、3DIIAと基本的には同じでも、その配置が異っている。

ロッキング・ブリッジと呼ばれるものの上に、垂直に左右チャンネルのムービングエレメントは取付けられていて、
ロッキング・ブリッジの下側中央にカッター針があり、
このカッター針とムービングエレメントと
ロッキング・ブリッジとの結合部(フレキシブル・ジョイント)の位置関係は直角二等辺三角形となっている。

この構造のためなのかどうかはわからないが、DSS731の裸の周波数特性は共振のピークは2.5kHzあたりにあり、
これより上の周波数は減衰していくだけだが、
これより下の周波数においては、500Hzから30Hzあたりまではフラットとなっている。
MFBを13dBかけた状態での周波数特性はグラフをみるかぎり、20Hz以下までフラットを維持している。
DSS731ならば、録音RIAAカーヴを電気的な処理だけですむことになる。

Date: 2月 13th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その2)

ウェストレックスの3DIIAのMFBをかけたあとの周波数特性は、
ノイマンのSX74の特性よりも全体的にゆるやかなカーヴを描いていて、いわゆるカマボコ型の特性。
フラットな帯域のところはどこにもない。
けれど実際のカッティング特性はSX74とほぼ同等の性能といえる。

レコード(LP)にはRIAAカーヴがある。
1953年6月に制定された規格で、カッティング時にはRIAA録音カーヴ、
再生時には録音RIAAカーヴと逆特性のRIAA再生カーヴがもちいられる。

RIAAカーヴは1kHzを規準として700Hzで-1.2dB、400Hzで-3.8dB、300Hzで-5.5dB、200Hzで-8.2dB、
100Hzで-13.1dB、70Hzで-15.3dB、50Hzで-17.0dB、30Hzで-18.6dB、
高域はというと、2kHzで2.6dB、3kHzで4.8dB、4kHzで6.6dB、5kHzで8.2dB、6kHzで9.6dB、7kHzで10.9dB、
8kHzで11.9dB、9kHzで12.9dB、10kHzで13.8dB、12kHzで15.3dB、15kHzで17.2dBとなっている。
ほぼオクターヴあたり6dBで高域に向って上昇していくカーヴに近い。

つまり低域に関しては、カッターヘッドに入力される信号を減衰させているわけだ。
だから低域に関しては、電気的な処理による減衰量を、カッターヘッドの低域の特性を補整するようにしておけば、
なんら問題は生じないことになる。

つまり、このことは録音側(レコード制作側)では低域に関しては、
録音RIAAカーヴをカッターヘッドの機械的な特性とカッターヘッドをドライブするアンプの前段での電気的な処理、
このふたつを組み合わせて正確なものとしているわけだ。

一方再生側はというと、可聴帯域内の周波数特性はほぼフラットであり、
カッターヘッドの周波数特性よりも劣っているカートリッジは、
よっぽどのローコストの製品には存在するかもしれないが、まずそういうカートリッジは存在しない。
20Hzまではほとんどのカートリッジがフラットな周波数特性をもっている。
つまり再生側では、再生RIAAカーヴはフォノイコライザーアンプの電気的な処理だけで行っているわけである。

Date: 2月 12th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その1)

中学生のとき、カッターヘッドの裸特性を見て、驚いた記憶がある。
カッターヘッドにはMFB(Motional Feedback)がかけられていることは知っていた。
アンプにおけるNFBと同じようなもので、
カッターヘッドの裸特性もアンプの裸特性と似たようなものだろう、と考えていただけに、
よけいにカッターヘッドの裸特性のカーヴには驚かされた。

もっとも知名度の高いノイマンのSX74にしても、その裸特性はどこもフラットな帯域が存在しない。
周波数特性は1kHzを中心とした山の形をしている。
ウェストレックスの3DIIAにしても同じで、やはり1kHzにピークがあり、
SX74同様フラットな帯域はどこにもない。

つまりどちらのカッターヘッドも1kHzにピークをもつ共振特性をもっている。
それをMFBをかけることで共振を抑えフラットな周波数特性にするわけで、
カッターヘッドにはドライブ用のコイル(スピーカーユニットのボイスコイルに相当するもの)とは別に、
フィードバック用のコイルが同じ軸上に巻かれていて、
このコイルからの信号をカッターヘッドのドライブアンプに戻している。

アンプのNFBがアンプの周波数特性だけを改善するのではないのと同じで、
MFBはカッターヘッドの周波数特性を改善するだけでなく、カッターヘッドの機械的歪も減少させ、
クロストークも改善している。
そして、MFBの量がカッターヘッドのダンピングに関係している。

SX74のMFB(5kHzで12dBのMFB量)をかけたあとの周波数特性は、
可聴帯域内はほぼフラットになっている。
ノイマン発表のSX74の規格にもMFBのことが載っている。

Frequency range:7-25000Hz
Frequency response (approx.9dB feedback at 5kHz):15-16000Hz ±0.5dB, 10-20000Hz ±1dB, 7-25000Hz ±3dB
Active feedback range:7-14000Hz
Feedback capability at 5kHz:≧12dB, typically 14dB

ノイマン発表の周波数特性は15Hzから16kHzまでがほぼフラットになっているが、
実際の周波数特性のカーヴでは、低域はもう少し高い数10Hzからゆるやかに減衰しているが、
これがそのままSX74の録音特性(カッティング特性)とイコールというわけではない。

それはレコードの録音特性、つまりRIAAカーヴが関係してくるからである。

Date: 2月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・余談)

D130の特性は、ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 4 に載っている。
D130の前にランシングによるJBLブランド発のユニットD101の特性は、どうなっているのか。
(これは、アルテックのウーファー515とそっくりの外観から、なんとなくではあるが想像はつく。)

1925年、世界初のスピーカーとして、
スピーカーの教科書、オーディオの教科書的な書籍では必ずといっていいほど紹介されているアメリカGE社の、
C. W. RiceとE. W. Kelloggの共同開発によるスピーカーの特性は、どうなっているのか。
このスピーカーの振動板の直径は6インチ。フルレンジ型と捉えていいだろう。

エジソンが1877年に発明・公開した録音・再生機フォノグラフの特性は、どうなっているのか。

おそらく、どれも再生帯域幅の広さには違いはあっても、
人の声を中心とした帯域をカバーしていた、と思う。

エジソンは「メリーさんの羊」をうたい吹き込んで実験に成功している、ということは、
低域、もしくは高域に寄った周波数特性ではなかった、といえる。
これは偶然なのだろうか、と考える。
エジソンのフォノグラフは錫箔をはりつけた円柱に音溝を刻む。
この材質の選択にはそうとうな実験がなされた結果であろうと思うし、
もしかすると最初から錫箔で、偶然にもうまくいった可能性もあるのかもしれない、とも思う。

どちらにしろ、人の声の録音・再生にエジソンは成功したわけだ。

GEの6インチのスピーカーユニットは、どうだったのか。
エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、
スピーカーの特許がアメリカとドイツで申請されている。
どちらもムービングコイル型の構造で、つまり現在のコーン型ユニットの原型ともいえるものだが、
この時代にはスピーカーを鳴らすために必要なアンプがまだ存在しておらず、
世界で初めて音を出したスピーカーは、それから約50年後のGEの6インチということになる。

このスピーカーユニットの音を聴きたい、とは特に思わないが、
周波数特性がどの程度の広さ、ということよりも、どの帯域をカヴァーしていたのかは気になる。

なぜRiceとKelloggは、振動板の大きさを6インチにしたのかも、気になる。
振動板の大きさはいくつか実験したのか、それとも最初から6インチだったのか。
最初から6インチだったとしたら、このサイズはどうやって決ったのか。

Date: 2月 11th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その3)

新製品紹介ページの大幅な、ステレオサウンド 56号からの変更は、読者として諸手をあげて歓迎だった。
56号以前でも、注目すべき新製品がどれなのかはきちんと伝わっていた。
その機種が特集での登場まで待てば、詳しいことが掲載される。

とはいうものの読者としては、とくに地方在住の、身近なところにオーディオ専門店がない者にとっては、
特集記事で取り上げられるまでの期間が、実に長い。
ステレオサウンドは季刊誌だから3ヵ月に1度、年に4冊しか出ないわけだから、
登場するタイミングの悪い製品だと、特集で取り上げられるまで、それこそ1年近くかかることだってありうる。

待てないわけではない、待つしかないのだから。
でも、できれば、もう少しでいいから注目すべき新製品に関してはページ数を増やして欲しい、と、
ステレオサウンドに夢中な読者となっていた私はずっと思いつづけていた。
それが56号で、いわば叶ったわけだ。
ステレオサウンドがますます理想のオーディオ誌に近づいてくれた、そうも思っていた。
そんな時期があった……。

56号からはじまった新製品紹介のやり方は、まだ10代で世間のことはほとんど知らない読者だった私にとっては、
歓迎すべきことで、この方向をもっともっと徹底してやっていてほしい、と思うだけですむのだが、
編集を経験してきた者としては、難しい面ももっている、といえる。

当り前すぎることだが、一冊のステレオサウンドにはページ数の制限が存在する。
定価が高くなってもいいからページ数を増やして欲しい、と思われる読者もいるだろう。
たとえ定価を高くしても、コストだけの問題ではない。
製本の問題があって、ページ数はそう簡単に増やしていけるものではない。

しかも56号(1980年)とこの10年(20年といってもいいかもしれない)とでは、
新製品の数も大きく違っている。

ページ数の制約があって新製品の数が増えている、ということは、
つまり新製品紹介のページを充実させていけば、その分、ほかの記事のページ数があおりを喰うことになる。

この項の(その1)でふれたステレオサウンド 42号のプリメインアンプの特集記事と、
ここ数年のステレオサウンド、どの号でもいい、特集記事のページ数を数えてみればわかることだ。
もう42号のときのように1機種あたりに5ページも割くことは、難しいことではなく、無理なことになっている。

Date: 2月 10th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その2)

ステレオサウンドの新製品紹介のページは、
56号以前は井上先生と山中先生がふたりで担当されていた時期が続いていた。
ずっと以前のバックナンバーまで遡ればそれもまた違ってくるのだが、
私が読みはじめたステレオサウンド 41号では井上先生と山中先生、ふたりの担当だった。
それでも少しずつ記事の構成には変化があったものの、
基本的には海外製品を山中先生、国内製品を井上先生となっていた。

記事はすべてモノクロでページ数も32ページ前後。
それが大きく変ったのは、上に書いたように56号からである。
この56号から新製品紹介のページが2本立てになった。
カラーページの「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」と、
モノクロページの「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」になり、
井上・山中両氏だけではなく、他の筆者による記事が載るようになった。
いまのステレオサウンドの新製品紹介の原型・始まりともいえるのが56号である。

カラーページのトップを飾っていたのは、56号の表紙でもあったトーレンスのリファレンスだった。
書かれていたのは、瀬川先生。リファレンスに割かれているページ数は8ページ。
読みごたえのある文章だった。何度も読み返したものだった。
当時、リファレンスの価格は358万円。
「近ごろの私はもう、ため息も出ない、という状態だ。」とリファレンスの記事を締めくくられているように、
このころの358万円はそうとうな価格だった。

──こんなふうに書いていくと話は逸れていくばかりなので、元に戻そう。
56号にはモノクロページでロジャースのPM510も、これもまた瀬川先生の文章で載っていた。
だからとということもあって、56号の新製品の記事の変化は、読者としてすごく印象深いものとなっている。

それ以外にも56号には、
瀬川先生によるパラゴンの記事(Big Sound)と組合せの記事(これは連載となる予定だったもの)があり、
さらに黒田先生の「異相の木」も載っている。
38号とともにくり返し読んだ回数の多いステレオサウンドである。

Date: 2月 9th, 2012
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(余談・もう少しツマミのこと)

今日量販店のオーディオコーナーに行ってみた。いくつかのオーディオ機器のツマミに触れて、
「えっ、こんなことになってしまったの!?」といささか驚いてしまった。
それで、ツマミに関しては項を改めて書く、と先日書いたばかりにも関わらず、
どうしても一言書きたくなってしまった。

ツマミが飾りと化しているオーディオ機器がいくつか目についた、ということだ。
いつのころからオーディオ機器もリモコン装備・操作がごく当り前のことになっている。
以前はCDプレーヤーだっけだったリモコンも、いまではコントロールアンプでも、
それにそうとうな高級機器でもリモコンが標準装備になっているのが多い。

個人的にはリモコンがあってもコントロールアンプに関しては、
フロントパネルのツマミに触って操作したい、と思う方だ。
けれど、メーカー側の考えは、今日いくつかのオーディオ機器にふれた感じでは、どうも違うようだ。
いまのところ、ツマミに触って、これはおかしい、と感じたのはまだ少数だった。
私が触れた範囲では、2社だけだった。

この2社の製品(すべての製品ということではない)は、
ツマミを操作する時に指がフロントパネルをこすってしまう。
こすらないようにツマミの、極力、先端を触れるようにするとツマミが短すぎるのと、
ツマミの形状が円柱ではなくテーパーがかけられているため、ひじょうにつまみにくい。
ツマミを操作できるようにつまもうとすると、くり返すが指がフロントパネルをこすることになってしまい、
私はそのことを非常に不愉快に感じてしまう。

これは2社、2つの製品に共通していえることで、
さらに1社ひとつの製品ではフロントパネルに大きくカーヴしているため、
ツマミを大きく回転させようとすると指がフラットなフロントパネル以上に指がこすることになってしまう。

おそらくどちらも製品も、リモコン操作を前提としているのだろう。
操作はすべてリモコンで行ってください、ということで、
フロントパネルのツマミに、その会社の人間は誰も触っていないのでは? 
そんなあり得ないことを想像してしまうほどにおかしなことになっている。

ツマミが短いタイプは、今日触ってきたオーディオ機器の中に他にもあった。
でもそれらは指がフロントパネルをこすらないような配慮がツマミのまわりになされていた。
そのオーディオ機器にもリモコンはついている。
けれど、リモコン操作だけに頼っていない、ツマミがツマミとして機能している。

ツマミがツマミとしてきちんと機能していない2社のオーディオ機器では、
ツマミがツマミではなく、飾りになりつつある。おかしなことだ。

ツマミについては書くことは、最初考えていた以上にいくつかのことと絡んでいて、
じっくり書いていけそうな気がしている。