Archive for category テーマ

Date: 5月 15th, 2012
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(続々続々・JBL SA600)

三角形の記号であらわすOPアンプは、
+側と−側のふたつの入力端子をもつためほとんどのOPアンプの初段は差動回路になっている。
2個のトランジスター(もしくはFET)のエミッター(ソース)をひとつにし、
それぞれのトランジスター(FET)のベース(ゲート)を+側、−側の入力端子としている。

半導体の動作の原理がはっきり理解できていなくても回路図を見ていくと疑問に感じることが見えてくる。
むしろ原理がまだ理解できていないからこそ、
回路図をグラフィックとして見ているから気づきやすいこともあると思う。

初段が差動回路で出力段がエミッターフォロアーになっている、とする。
入力は+側と−側のふたつあるのに対し、出力はひとつのみである。
出力が入力同様+側、−側のふたつあれば、それぞれから反対の極性の入力端子へとNFBを戻すことになる。
けれど大半のアンプはアンバランス出力だから出力はひとつ。
NFBも出力端子から−側の入力端子とへかけている。これは非反転アンプも反転アンプもいっしょである。

回路図をただ眺めていたとき、
非反転アンプの場合、初段の+側のトランジスター(FET)はNFBの範囲に入っていないように見えた。
反転アンプだと入力信号を受ける−側の初段のトランジスター(FET)はNFBの中に入る。

これは非反転アンプと反転アンプの大きな違いではないか、
とまだ詳しいことは何もわからずとも、直感的にそう思えてくる。

このことと前に書いたことをあわせて考えると、
NFBをかけたアンプであれば反転アンプの方が実は理に適っているのではないか、と、
これも30数年前に思ったことである。

Date: 5月 14th, 2012
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(続々続・JBL SA600)

私がこんなことを考えていた時は、まだLPの時代でありCDは登場していなかった。
だからシンプル・イズ・ベストがほんとうに最上の方法であると仮定して、
その極端な例としてカートリッジに直接スピーカーを接ぐということを考えてみる。

MC型カートリッジの出力は小さい。MM型カートリッジでもMC型よりも大きいとはいえ数mVの値。
けれど、ステレオサウンド 43号に広告が載っているウイン・ラボラトリーのSDT10というカートリッジは、
0.5Vの出力をもつ(最大出力1V/RMSとある)。

しかもこのSDT10にはRIAAイコライザーを必要としない。
だからコントロールアンプのライン入力、もしくはボリュウム付きのパワーアンプであれば直接接続できる。

SDT10は実物を見ることもできなかった。
どういう音を聴かせてくれるのかはわからない。
けれど、カートリッジの発電方式によってはかなり高い電圧を得ることもできる。

そしてスピーカーの能率がそうとうに高いものがあれば、
カートリッジとスピーカーを、
音量調整さえ必要としなければ直接接続し鳴らすことも技術的には決して不可能ではない。

これは非常に極端な例をあえて考えているわけで、
オーディオを理解しようとしたとき、ときにはこういうふうに極端な例を考えたり、
極端な値を想定してみることも、私は必要だと思っている。

カートリッジとスピーカーの直接接続は極端すぎるから、
そこに音量調整もでき、音量もさらに得られるようにと考えたとき、
カートリッジとスピーカーの間に挿入するのは、非反転アンプなのか、反転アンプなのか。

アンプの動作の理屈はどうであれ、直感的には反転アンプのほうが、
カートリッジとスピーカーの直接接続に、より近い、と概略図を描いてみると、そうなる。

非反転アンプはNFBをかけようがかけまいが信号はアンプを通ることになる。
けれど反転アンプはNFBをかけたときとかけないときとでは、その信号経路が変ってくるようにも見える。
NFBをかけなれば反転アンプでも非反転アンプと同じにみえる。

だがNFBをかけた反転アンプであれば、
カートリッジとスピーカーを結ぶラインに直列にはいるのは、
昨日も述べたように入力抵抗と帰還抵抗であり、アンプは帰還抵抗に対して並列にはいるかたちとなる。

これはあくまでもOPアンプと抵抗だけの概略図を見た印象での話であることはわかっている。
それでも非反転アンプと反転アンプではNFBの作用が異るのではないか、と疑問をもったのが、
いまから30数年前のことである。

Date: 5月 13th, 2012
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(続々・JBL SA600)

“straight wire with gain”(増幅度をもったワイアー)がアンプの理想像と、一時期よくいわれたもので、
ちょうどそんなころオーディオに関心をもちはじめた私は、
単純にも、どうしたらワイアーに増幅度を持たせることができるのだろうか、と考えたことがある。

いくつかばかげたことも考えた。
次に考えたのは増幅度をもったワイアーが無理だったら、増幅度をもった部品ということを考えた。
中学3年から高校1年にかけてのころの話だ。

抵抗を直列にいれれば、電流×抵抗値分の電圧降下が生じる。
これはロスなのだが、マイナスの増幅度といえなくもない、と考えた。
そんなことを考えながら、OPアンプの教科書的な本を読むと、
そこには反転アンプと非反転アンプの解説が載っている。

世の中の大半のアンプは非反転アンプであり、
そのOPアンプの本もどちらかといえば非反転アンプにページをより割いてあったように記憶している。

OPアンプは三角形の期号。これに入力が+側と−側のふたつあり、出力はひとつ。
非反転アンプはその名が表すように入力と出力の信号が同相である。
つまり信号は+側の入力端子に加えられる。
NFB用の抵抗は−側端子に接続する。

反転アンプは−側の入力端子を使う。
NFBの抵抗も−側の端子に接続する。もちろん入力信号と出力信号は180度、つまり位相が反転する。

非反転アンプも反転アンプの概略図は抵抗2本(ギザギザののこぎりの記号)とOPアンプ(三角形の記号)だけ。
これは自分で描いてみるのがてっとり早いのだが、
非反転アンプの場合、信号はOPを通って出力される。当り前のことである。

反転アンプはどうかといえば、概略図の描き方次第なのだが、通常の描き方では非反転アンプ同様、
信号はOPアンプ通って出力されるように見える。
けれど、入力抵抗とNFB用の帰還抵抗をまっすぐに直列に描いて、
帰還抵抗に並列になるようにOPアンプの三角形を描いてみると、
信号は抵抗2本だけを通って出力されるようにもみえる図になる。

その図は、”register with gain”(増幅度をもった抵抗器)といえなくもない。

Date: 5月 13th, 2012
Cate: Digital Integration

Digital Integration(続DNA)

CSIを見ているとDNAをグラフィカルに表示したものがいくつか出てくる。
表示方法にもいくつかあるようで、そのうちのひとつにCDのピットを思わせるものも登場する。

これを見て、DNAはデジタルデータなんだ、と思った次第である。
そういえば映画「ジュラシックパーク」で琥珀にとじこめられた蚊が吸った恐竜の血液からDNAを取り出して、
現代に恐竜を甦らせていたことも、
DNAがデジタルデータであるからこそ可能なこと(空想可能なこと)だとも思った。

もしDNAがアナログデータであったとしたら、犯罪捜査においてこれほどDNAに役に立たないのでは、とも思う。

つまり情報伝達手段としてデジタルの優位性、それも圧倒的な、といいたくなるほどの優位性があるし、
デジタルデータのDNAの塩基配列が蛋白質のアミノ酸配列に対応して生き物の体がつくられているわけだから、
「デジタルなんて非人間的」と簡単に言い切ってしまっている発言を見かけるたびに、
ほんとうにデジタルだから非人間的なのか、デジタルだから冷たい、のかと問い返したくなる。

デジタルだから……、という気持がまったく理解できないわけではない。
ただ言いたいのは、それがほんとうにデジタルだからなのか、ということである。

CDが登場したときに、デジタルだから音が冷たい、とか、非人間的な音だ、といった否定的なこともいわれた。
それは果してデジタルだから、そういう音になったのか、ということである。
デジタルそのものの本質的なところに非人間的なものがあったり、冷たく感じさせるものがあると考えるよりも、
実は違うところにそう感じさせる問題点がひそんでいたと考えべきではないのか。

Date: 5月 12th, 2012
Cate: Digital Integration

Digital Integration(DNA)

facebookにタイムラインが導入され、3月からはfacebookページにおいてもタイムライン表示にできるようになった。
facebookページこそタイムライン表示が使えればいいのに、と思っていたから、
facebookページの「オーディオ彷徨」はすぐさまタイムライン表示へと切り換えた。

それまでは記事を公開した日付順に並んでいくだけで、
記事を年代順にするためには年代順に公開していくしかなかった。
タイムライン表示は公開順に関係なく、記事の年月日を自由に設定できるおかげで、
「オーディオ彷徨」では、いま記事の並び替えを行っている。
年代順に並び替えていくと、それまで気がつきにくかったことがはっきりとしてくる。

だから、もうひとつのブログ、the Review (in the past)も年代順に、いま並び替えているところである。
すでに公開記事が5000本を超えているので、一挙に並び替えることは無理で、
時間が空いたときにまとめて行っている。

ひとつの記事の公開日を変更するのに、こちら側の手間としては年月日を指定するだけだが、
更新ボタンをクリックしてから処理が終るまでには、Movable Typeでブログを構築している関係で、1〜2分かかる。
10秒、20秒で終るのであれば、ずっと作業効率は捗るし、
逆にもっと時間がかかればほかの作業を平行して、ということもできるけれど、
1〜2分間というのは、その意味では中途半端な間隔で、結局ほかの作業もできず日付変更だけになってしまう。

とはいっても頭を使う作業ではないので、Huluで海外ドラマを見ながらやっている。
いまはCSI:科学捜査班を横目でみながら、である。

CSI(Crime Scene Investigation)では、当然DNAという単語がよく登場する。
DNA(デオキシリボ核酸)、遺伝情報を担っている、この物質はデジタルではないか、とCSIを見ていて思った。

Date: 5月 11th, 2012
Cate: 境界線

境界線(その11)

コントロールアンプは、プリアンプとも呼ばれる。
コントロールアンプを使うのか、プリアンプを使うのかは人によってそれぞれだし、
基本的にはコントロールアンプの方を使う人でも、
トーンコントロールやフィルターなどのコントロール機能を音質向上の名目で省略してしまったアンプについては、
あえてプリアンプと呼びわけることもある。

プリアンプのプリ(pre)には、あらかじめ、とか、○○の前部に、といった意味があり、
Pre Amplifierの日本語訳は前置増幅器である。
なにかの前に置かれるアンプがプリアンプであり、
このなにかとは、パワーアンプのことである。

パワーアンプはメインアンプとも呼ばれるし、
いまではほとんど使われなくなったけれどベーシックアンプとも呼ばれていた。
ヤマハのパワーアンプのBIやB2、B3などのBはbasicの頭文字である。

パワーアンプがメインアンプ(Main Amplifier、日本語訳は主要増幅器か)やベーシックアンプと呼ばれるのは、
初期の電気蓄音器のアンプ部はボリュウム付きのパワーアンプだったからだ。

コントロールアンプと呼べるアンプは電子回路の進歩にともなって、
オーディオの系にあとから割りこんできた存在とも、だからいえよう。

私がコントロールアンプをオーディオの系の中点と考えているのは、このこととも関係している。

Date: 5月 11th, 2012
Cate: iPod

「ラジカセのデザイン!」(その11)

1976年に、ソニー、松下電器、ティアックの3社提唱によるエルカセット(ELCASET)が登場した。
カセットテープを文庫本サイズにまで大きくしたもので、
カセットテープの手軽さでオープンリールテープ並の音質を実現、ということを謳い文句にしていた。

いくつかの原因が語られているが、エルカセットはあっというまに消えてしまった。
1980年にはすでに市場には残っていなかったと記憶している。

エルカセットの11年後の1987年にDATが登場する。
テープのサイズはカセットテープよりも小さい。
1992年にはカセットテープのオリジネーターのフィリップスと松下電器が共同で開発したDCCが登場する。
DCC(Digital Compact Cassette)はカセットテープとほぼ同寸法の専用テープにデジタルで記録する。
カセットテープとの互換性も考慮された規格で、DCCのデッキでは通常のカセットテープの再生が可能だった。
92年にはソニーからMDも登場している。

エルカセットもDATもDCCもMDも、カセットテープに代るものとして開発されたものといえるのだが、
もっとも普及したといえるMDでもカセットテープに比べれば、広く一般に普及したとはいえない。

結局カセットテープに取って代ったのは、iPodだ、と私は思っている。
20世紀中にはカセットテープに代るものは現れなかった。
21世紀になりAppleからiPodが登場し、ものすごいスピードで広く普及していった。

ジョブスがiPodをカセットテープと同じ寸法にしたのは、
iPodを次世代の携帯音楽プレーヤーとしてではなく、21世紀のカセットテープを目指していたからだ、と、
B&OのBeolit 12を見ていても、それだけでなく量販店に並ぶ数多くの、iPodと装着できる機器を見れば見るほど、
そう思えてくる。

ここが、類似の携帯音楽プレーヤーとの決定的に異る点であり、
数年前に、ソニーが携帯音楽プレーヤー(ウォークマン)の発表会において
「半年でiPodを追い抜く」と宣言しながらいまだ達成できないのは、
携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」を生み出しただけに、
デジタルになっても、21世紀になってもウォークマンを「ウォークマン」として捉えているせいではないだろうか。

Date: 5月 11th, 2012
Cate: iPod

「ラジカセのデザイン!」(その10)

iPod Hi-Fiにいまごろ関心をもっているし、
1週間ほど使ってみたい、とも思っているけど、自分のモノとしたいという気持は、いまのところない。

なぜかといえば、これはiPod Hi-Fiが登場した時から好きになれないところでもあるのが、
筐体上部にiPodを挿し込んで使うというところにある。
2006年には、こういう使い方、接ぎ方しかできなかったのだが、いまではAirPlayというワイヤレス技術がある。

AirPlayに対応している機器であれば接続する必要はない。
iPod touch、iPhoneとAirPlay対応機器の組合せならば、家の中だけでなく外にも持ち出せる。

この項を書き始めたのは2月23日。
ゆっくり書いていたら4月のはじめにB&OがBeolit 12を発表、発売した。
もちろんAirPlayに対応している。

すこし厚みのある弁当箱にも見えるBeolit 12。
嬉しいのは、きちんとハンドルがついていること。
正確にはハンドルではなくベルトなのだが、すっと持ち上げてどこへでも持っていけるようになっている。

いいな、と思っている。

Date: 5月 10th, 2012
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その36)

数年前にステレオサウンドがひさしぶりにスピーカーシステムの測定を行っていた。
そこにソナス・ファベールのスピーカーシステムも含まれていて、
私のまわりでも、その測定結果を見た何人かが
「ソナス・ファベールって、特性もいいんですね」といった感想をもらしていた。

私は、というと、実はその少し前に傅さんから、
ソナス・ファベールのセルブリンのスピーカーづくりについて、聞いていたことがあったので、驚きはなかった。
傅さんから聞いた話はこうだった。
セルブリンは開発中のスピーカーシステムのどこかを変えたら、まず音を聴く。
そしてその後、マイクロフォンをセッティングして、その場ですぐに測定をする。
細部はすこし曖昧になっているが、こんな話を聞いていた。

こういう開発を行っているのだから、
スピーカーシステムとしての基本的な物理特性はしっかりしている、と予想できていたから、
ステレオサウンドに掲載された測定結果を見て、驚きはなかった。

そういうセルブリンのいう「スピーカーは楽器だ」なのだから、
そのままスピーカー楽器論と結びつけていくのではなく、
もう少し違うニュアンスがここには含まれていると考えるべきではないだろうか。

これは私の勝手な想像だが、セルブリンはスピーカーは忠実な変換器であるべき、と考えているのだ、と思う。
そして「スピーカーは楽器だ」は、その忠実な変換器であるスピーカーシステムを、
楽器のごとく鳴らす、ということだと解釈している。

Date: 5月 9th, 2012
Cate: 理由

「理由」(その27)

この項の(その25)ではインドの古典「バカヴァッド・ギーター」の一節、
「真の自己にとって浄化された自己は友であるが、浄化されていない自己は敵である」を、
その26)ではシモーヌ・ヴェイユの「純粋さとは、汚れをじっとみつめる力」を、引用した。

浄化されていない自己が敵であるのならば、
「音は人なり」をオーディオの真理と信じている私にとっては、
スピーカーから、浄化されていない自分が音として出てくる、と考えることもできる。
つまりその音は敵ということになる。

それを聴く(耳をすます)力が、求められる音楽とそうでない音楽とあるような気がする。
その力が求められる音楽を聴く、という行為は、音と対決する、ということではないのか。

音楽に涙したから、といって浄化された、と思えるほど、そこまでおめでたくはない。
結局、対決しなければ、と思う。

Date: 5月 2nd, 2012
Cate: 素朴

素朴な音、素朴な組合せ(その22)

オーディオは音楽を聴くものであるから、
聴く音楽(再生するディスク)によって、その表情をがらりと変えてくれないと困る。

音楽はひとときたりとも同じ音、同じ表情をしていない。
つねに変化していく。同じフレーズをくり返していてもまったく同じということはない。

録音では、同じフレーズのくり返しに最初のフレーズの演奏をそのまま使うこともできる。
そうすれば物理的にはまったく同じフレーズであり、そのくり返しになるといえるわけだが、
音楽としては、そのくり返しのフレーズの前後に出てくる別のフレーズによって、
まったく同じくり返しであっても、聴き手にとっては、音楽的にはまったく同じくり返しにはならない。

だから千変万化していく音を、オーディオに求めるし、音の判断の重要なポイントでもある。
いわゆる音色的魅力の濃厚な、特にスピーカーシステムにおいては、
その音色の濃さが音楽の表情の変化への対応を鈍らせてしまうことになる。

スピーカーシステムには、どんなスピーカーシステムであろうと固有の音色がある。
その固有の音色は、オーディオを介して音楽を聴く上では、
必ずしも不要なものであったり、悪であったりするわけではない。
録音から再生までを広く眺めたときには、その固有の音色はうまく作用することがあるからだ。
このことについて述べていくと長くなってしまうから、ここではこれ以上書かないが、
そうであっても濃すぎる音色は、過剰であり、その音色が支配的になってしまうことが多い。

そうなってしまうと、音(音色)を聴いているのか、音楽を聴いているのか、その境が曖昧になる。

聴き手として音楽を聴くこと(再生すること)を最優先すれば、濃すぎる音色は邪魔になる。
とはいうものの、音色の魅力は、オーディオマニアにとっては格別のものがある。
良質の好きな音色がたっぷりと出てくれれば、音楽の聴き手としての強い気持が揺らいでしまうところが、
すくなくとも私にはある。

私にとって以前のBBCモニター系列のスピーカーシステムの音がそうだし、
フィリップスのフルレンジユニットの音がまさにそういう存在である。

Date: 5月 2nd, 2012
Cate: 素朴

素朴な音、素朴な組合せ(その21)

その音を聴いて、コロッと参ってしまったフィリップスのフルレンジユニットはAD7063/M8である。
17.8cm口径のダブルコーンの、このフルレンジをおさめた知人による自作スピーカーから出てきた音は、
冷静に判断すれば非常に個性的な音であり、この音がダメな人にとっては癖の強い音ともなろう。

フィリップスのユニットは、素直な音、癖の少ない音を出そうとしてつくられたスピーカーユニットではないことは、
誰の耳にはっきりとわかるくらいに、その音は人工的な、といいたいところがあり、
この音が好きな者にとってはなんとも心地よく、巧みな音の美しさ、とも思えてくる。

プレス製のフレームに、ダブルコーン仕様、価格も1979年当時で6500円。
物量を投入したつくりではないし、高性能を追求したユニットではない。
周波数特性のグラフをみても、音を聴いても、ワイドレンジを狙ったものではない。

すべてがほどほどに、バランス良くうまくまとめられたユニットであるから、
このAD7063/M8で高忠実度再生を目指そうとは思わないし、
たとえばこのユニットから始めて、トゥイーターを追加してその次にはウーファー……、
といった瀬川先生が発表されている発展的4ウェイ自作スピーカーに使いたいとは思わない。

このフルレンジユニットは、もうこれ一本だけで使おう、というところで心が落ち着く。

なぜ、そういう気持になるのかといえば、フィリップスのフルレンジユニットの音には、
このユニット、この音ならではの説得力があるからではないだろうか。

Date: 5月 1st, 2012
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その7)

CD(Compact Disc)はフィリップスによる名称であり、
CDに規格が統一される前、メーカー各社から発表されていたいくつもの規格のディスクのことを、
DAD(Digital Audio Disc)と呼んでいた。

1982年のCD登場から30年後のいまになって考えているのは、
フィリップスによる名称には、digitalの文字はないこと、である。

カセットテープのオリジネーターであるフィリップスだから、
コンパクトカセットテープのディスク版ということでのコンパクトディスク(Compact Disc)なのは、
誰でも気がつくことで、私もそう理解していた。

CDはフィリップスとソニーによる規格である。
もしCDが日本のメーカーだけによってつくられた規格であったとしたら、
間違いなく名称のどこかにdigitalの文字が入っていた、と思う。
DADのままだったり、Digital Compact Disc(略してDCD)とかなどである。

なぜ、フィリップスはDigital Discということを名称で謳わなかったのだろうか。
深い意味はなかったのかもしれない。
名称にはなくても、CDのロゴにはDIGITAL AUDIOの文字があるからだ。
それでも、digitalを使わなかったことは、いまになって考えると意味深長な名称だと思う。

Date: 4月 30th, 2012
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その6)

私が最初に聴いたCDの音は、
以前書いた通り、フィリップス(マランツ)のCD63の試作モデルで、小沢征爾指揮の「ツァラトゥストラ」だった。
このときの音についてはすでに書いているのでそちらをお読みいただきたいが、
とにかく、その安定度の高さに驚いたことだけは、くり返し伝えておきたいことである。

CDが登場する以前、1970年代中頃からデジタル録音によるLPが発売されるようになってきた。
デンオンからまず始まったデジタル録音は、海外でも行われるようになってきた。

このころのレコード評をいま読み返すと、デジタル録音のLPはかなり高い評価を得ていることが多い。
デジタル録音によるLPのすべてが優れていたわけではないのは、
アナログ録音のLPのすべてが優れていたわけではないのといっしょで、
優れた録音に関しては、アナログだろうとデジタルだろうと、聴き手としての関心はあっても、
実のところどうでもいいことである。
いい音でいい音楽が聴きたいのだから。

CDが登場した1982年秋は瀬川先生が亡くなられて1年後のことであった。
だから、「瀬川さんがCDを聴かれたらなんと言われるだろう……」「どんな評価をされるのだろうか」ということを、
幾度となくきいている。

私も瀬川先生はどうCDを評価されるのか、知りたかった。
このとき私は、CDの音をデジタルの音だと思っていた。
CDプレーヤー・イコール・デジタルプレーヤーであると思っていた。

それが勘違いであることに気がつくには、けっこうな時間を必要とした。

Date: 4月 29th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その25)

伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、初段がEF86で位相反転にはE82CCが使われている。
E82CCのカソードは結合されてはいるものの、いわゆるムラード型の位相反転ではなくオートバランス型である。

つまり+側の信号はEF86、E82CCという信号経路だが、
−側はEF86、E82CC、E82CCと信号経路としてE82CCを一段余計に通る。
NFBは+側のE82CCのプレートからEF86のカソードにかけられている。

ウェストレックスのA10も回路は同じで、
初段が6J7、位相反転6SN7、出力管が350B、という使用真空管の違いだけである。
伊藤先生の349AプッシュプルアンプはA10のスケールダウン仕様といえる。

でも、この回路構成が低音がボンつかない理由とはいえない。

349Aプッシュプルアンプは無線と実験に発表されたものだが、
実際に製作されたアンプと掲載されている回路図は多少異る点がある。
そのもっとも大きな違いは、出力トランスの1次側インピーダンスで、
無線と実験に載っている回路図、部品表ではラックスのCSZ15-8、
つまり1次側インピーダンスが8kΩということになっているけれど、実際に搭載されているのはCSZ15-10、
1次側インピーダンスが10kΩ仕様であり、
このことは低音がボンつかない理由に関係しているとは思えるものの、それほど大きな理由とは思えない。

このことは、しばらく疑問のままだった。
アンプの回路を信号部だけを見て考えていたままだったら、
いまでも、なぜだか低音はボンつかない、としかいえないままだったはずである。

アンプの回路は、信号部と電源部から成っている、という当り前すぎることを再認識すると、
ウェストレックスのA10、伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、
ビーム管、五極管を出力段に使いながらオーバーオールのNFBがかけられていないということと、
電源部に直列に1kΩの抵抗が挿入されていることは切り離せないことではないか、と気づく。