Archive for category テーマ

Date: 7月 1st, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その10)

ビクターのダイレクトカップル方式のカートリッジも、
MC-L1000以外のモデルは、ダイレクトカップルとはいっても、
針先とプリントコイルの取り付け位置までには、わずかな距離がある。
この距離があるおかげで針先そのものの交換は、可能なのではないだろうか。

私は、こんな技術はもっていないから、
自分で実際に試したことはないので、確かなこととはいえない面もあるが、
ダイアモンドの針先に直接プリントコイルを取り付けたMC-L1000だと、
プリントコイルを損傷させずに針先から剥がさなくてはならない。

薄く軽量につくられているプリントコイルを、うまく剥がせるものなのだろうか。
うまく剥がせたら、それをまた針先に接着する。

MC-L1000は1980年代半ばのカートリッジである。
MC-L1000をメインのカートリッジとして使っているのであれば、
針先の交換は一度だけではすまなくなる。

ビクターがMC-L1000の針交換に応じてくれているあいだは問題はなくても、
ビクターによる針交換ができなくなって、どれだけの期間が経っているのか、私は知らないけれど、
もう短くない期間であろう。

MC-L1000のプリントコイルは、針先そのもの交換の際の剥がしと再接着に、何回耐えられるのだろうか。

意外に丈夫なものなのかもしれない。
そうでないのかもしれない。
そのへんのことは、私にはわからない。

どちらにしてもプリントコイルが、3Dプリント技術によって製造できるようになれば、
MC-L1000の針交換も可能になる(もしくは楽になる)のではないだろうか。

Date: 7月 1st, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その9)

器用な職人による、こういう針交換はすべてのMC型カートリッジで可能なのかといえば、
必ずしもそうとはいえない。

通常のカンチレバーのもつタイプのMC型カートリッジであっても、
カンチレバーの材質が非常に硬いもの、たとえはボロン製のカンチレバーでは非常に難しいときいている。

その点、アルミ製のカンチレバーは、アルミという材質の特性もあり、
針の差し替えが何度か行える、ときいている。

それにアルミ製のカンチレバーの場合、
針先を取り付ける孔を、針先よりもほんの少しだけ小さくして、
文字通り針先を押し込むことで、がっちりとカンチレバーに取り付けることができる。

ところがアルミよりも硬い材質では、こういう取り付け方はできず、
接着剤の力を借りることになる。

そうなるとダイアモンドの針とカンチレバーの間に、
それはわずかとはいえ接着剤が介在することになる。
アルミ製カンチレバーで接着剤を使わない場合には、
カンチレバーとダイアモンドが直接接触していることになる。

カンチレバーの材質として何が最良なのか。
内部音速の速さ、剛性の高さなどから判断すれば、
アルミニウムよりも優れた材質はいくつかある。
けれど実際のカートリッジとして、その製造方法まで含めて眺めてみると、
意外にもアルミ製カンチレバーは優秀といえる面が確実にある。

Date: 7月 1st, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その8)

MC型カートリッジはユーザーによる針交換は、ごく一部のメーカーの製品を除き、
基本的にはできない。
だからメーカーに針交換に出すことになる。

メーカーも針交換という言葉を使っていたし、ユーザーも販売店も使っていた。
そのためなのかどうかはわからないが、
MC型カートリッジの針交換を、ほんとうに針を交換するものだと思っていた人と会ったこともあるし、
インターネットで見ていても、そんな人がいないわけでもない。

いうまでもなくMC型カートリッジの針交換とは、メーカーによる新品との交換である。
針交換に出せば、新品が戻ってくるわけだ。

だから、オルトフォンのSPUの初期型を運良く入手できたとしても、
オルトフォンに、そのSPUを針交換に出してしまうと、新品のSPUになって戻ってくる。
おそらくSPU-Classicになってくるのだろう。

こう書くと、EMTのTSD15、XSD15はシリアルナンバーが同じ固体が戻ってきているのではないか、
こんな反論がありそうだが、EMTでも新品交換である。
ただ、なぜなのか理由ははっきりしないが、
EMTは針交換として戻ってきた固体と同じシリアルナンバーを新品に打って、
ユーザーの元に戻してくれる。

うれしいサービスといえばそういえるけれど、
それでも針交換とは新品交換である。

つまりビクターのMC-L1000をビクターに針交換に出そうとしても、
プリントコイルの製造ができないのであれば、針交換は原則としてできないことになる。

もっとも、器用な職人による針交換を行ってくれるところはある。
この場合の針交換は、カンチレバーに取り付けてあるダイアモンド針を抜いて、
そこに新しい針を埋めこむ作業によるものだ。

Date: 6月 30th, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(sharingという感覚)

終のスピーカー「Harkness」の写真をfacebookにて公開した。
D130を撮ったものだ。

その写真につけるコメントを書いていて、気づいたことがある。
コメントには「岩崎先生のD130。」と書いた。

岩崎先生のD130だった、わけで、いまは私のD130であり、私のHarknessであることに間違いはないのだが、
それでも心のどこかに、岩崎先生と共有しているという感覚があることを、
写真のコメントを書いていて気づかされた。

あと一ヵ月半で、audio sharingを公開して丸13年になる。
いま私が感じている、この感覚もaudio sharingなのだろう。

Date: 6月 30th, 2013
Cate: audio wednesday

第30回audio sharing例会のお知らせ

7月のaudio sharing例会は、3日(水曜日)です。

テーマは、来てくださった方からリクエストがあれば、
そのテーマについて話そうと思っていますし、
リクエストが特になければ、昨日、迎えにいってきた「終のスピーカー」のことを中心に、
いくつかのことについて話したいと考えています。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 6月 30th, 2013
Cate: 岩崎千明, 楽しみ方

Electro-Voiceの1828Cというドライバー(その3)

エレクトロボイスの1828Cというコンプレッションドライバーを、
一般的なドライバーとして捉えずに、コーン型のスピーカーユニットとしてとらえれば、
このダイボール型のコンプレッションドライバーで、
岩崎先生が何をされようとされていたのか──、
もしかすると、という答が浮んでくる。

タンノイのオートグラフのような、フロントショートホーンとバックロードホーンを組み合わせた、
そういう構造のスピーカーにされることを考えられていたのではないか──、
そんな気がしてならない。

1828Cはコンプレッションドライバーだから、当然ホーンをつけて鳴らす。
前側だけでなく後側にもホーンを取り付けられる1828Cだから可能な構造といえば、
オートグラフのような複合ホーンである。

FC100と組み合わせた1828Cは250Hzから10kHzとなっている。
ワイドレンジではない、かなりのナロウレンジだが、
良質のラジオの延長としてのシステムを構築しようとするならば、
この帯域幅でも充分とはいえなくとも、不足はない、といえなくもない。

ホーン型だから能率は高い。
周波数特性からいっても、ハイパワーの最新のパワーアンプは必要としない。
真空管アンプ、それもシングルアンプあたりをもってきたい。
スピーカーの周波数特性からいって、トランスに広帯域のモノをもってくる必要もない。

真空管アンプ以外だったら、D級の小出力の小型アンプもおもしろいかもしれない。
D/Aコンバーター内蔵のヘッドフォンアンプでも、鳴るように思えてくる。

だとしたらiPodとヘッドフォンアンプ(iPodのデジタル出力を受けられるモノ)という、
ミニマムなシステムが可能になる。
しかもドライバーはエレクトロボイスのフェノール系のダイアフラムなのだから、
人の声のあたたかみは、格別ではなかろうか。

岩崎先生が実際のところ、何のために、この1828Cを購入されたのかはわからない。
誰にきいたところでわからないだろう。
それでもいい、
とにかくいま手もとに岩崎先生が所有されていたエレクトロボイスの1828Cとホーンがあり、
それを眺めては、こんな妄想を楽しんでいる。

こういうのもオーディオの楽しみのひとつなのに……、ともおもう。

Date: 6月 30th, 2013
Cate: 岩崎千明, 楽しみ方

Electro-Voiceの1828Cというドライバー(その2)

エレクトロボイスの1828Cは、実はいまも現行製品としてエレクトロボイスのサイトには載っている。
トランス付きの1828Tとなしの1828Cがある。
Hi-Fi用ではなく、”Commercial Sound Compression Drivers”という括りになっている。

828HFと組み合わせされていたA8419ホーンが、
トランペットスピーカーのような構造となっていることからもわかるように、
1828CとペアとなるホーンFC100の外観はトランペットスピーカーのホーンそのものの形をしている。

こういう用途のドライバーをなぜ岩崎先生は所有されていたのだろうか。
この、正解のわからぬことを考えてみている。

誰もが思いつくのはPatrician IVの代替ドライバーとして用意されていた、
ということだろうが、これはおそらく可能性としてはかなり低いと思う。

1828Cと同じダイボール型ドライバーと呼べるモノに、848HFがあった。
828HFに少し手を加えてダイアフラムの両側にホーンを取り付けられる仕様にしている。
1828は、用途は違うものの、848HFの後継機ともいえるのかもしれない。

1828Cと組み合わせるためなのか、ホーンもいただいてきたモノの中に入っていた。
トゥイーターのT35とほぼ同サイズのホーンで、スクリューマウント式になっている金属製。
ホーンの色も1828Cと同じである。

このホーンでは低い周波数までは使えない。
1828CはFC100ホーンとでは250Hz以上を受け持つことができる、
そういうドライバーであるから、
ただ単に、金属製のホーンとの組合せで使うことを考えられていたわけでもないはずだ。

Date: 6月 30th, 2013
Cate: 岩崎千明, 楽しみ方

Electro-Voiceの1828Cというドライバー(その1)

JBLの「Harkness」以外にも、いくつかのオーディオ機器をいただいてきた。
トーレンスのTD224も、それには含まれている。
キャビネットはスイングジャーナルの編集者であった藤井氏の製作によるもの。
オートチェンジャーゆえに横幅は70cmをこえる。
EMTの927Dstよりも横幅は広い。

その他にもトーンアームを数本。
エレクトロボイスのドライバー1828Cと専用と思われるホーンもあった。

このエレクトロボイスのペアは箱こそ古くなっているものの、
どうにも未使用のようだ。

1828という型番はきいても、どんなドライバーだっけ? と思われる方が大半だろう。
ただ型番の「828」に気づけば、もしかして、あのドライバーのヴァリエーションなのか、と思われるだろう。

828HFは、Patrician IVのミッドバスに採用されていたユニットで、
二回折返しホーンのA8419と組み合わせされていた。

828HFはJBLやアルテックのコンプレッションドライバーを見慣れた目には、
やや特殊な構造のドライバーとしてうつる、そういうドライバーである。

JBLやアルテックではドーム状のダイアフラムの凹面側にフェイズプラグがあり、
こちら側から音を放射する。

828HFはダイアフラムの凸面側にフェイズプラグがあるだけでなく、
音が放射されるのは、バックチェンバー側でもある凹面側であるわけだから、
フェイズプラグ側は開放状態となっている。

いわばダイボール型コンプレッションドライバーといえなくもない。
そういうドライバーが、今日いただいてきたモノの中にあった。

Date: 6月 29th, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(2013年6月29日)

数時間前、「Harkness」を迎えに、岩崎先生のお宅に向っていた。
いま目の前に「Harkness」がいる。

2013年6月29日、私にとっての終のスピーカーとなる「Harkness」と出合えた。

今日は、Tour de Franceの100回大会の初日でもある。
Tour de Franceとともに、私の「夏」がはじまる。

今日はそういう日である。

Date: 6月 28th, 2013
Cate: 再生音

続・再生音とは……(その12)

ロボット(robot)は、カレル・チャペックの戯曲「R.U.R.」において、
初めて提示され、このロボットの着想にはゴーレム伝説が影響していると、チャペックが述べている。

ゴーレムは泥人形であり、機械仕掛けのロボットではない。
その意味では、ゴーレムは、アトムやその他のロボットよりも、
イメージとしてはピノキオに近い、といえるだろう。

ピノキオは、意志をもって話をすることができる木をゼペットじいさんが人形に仕上げたものだ。
ピノキオにも、手足を動かしたりする機構は、ゴーレム同様ない。
意志をもった木であっても、ピノキオに人間の脳に相当するものがあるわけではない。

ピノキオのストーリーについては多くの人が知っていることだから省くけれど、
小学生の時、学校の図書館にあったピノキオの本の結末と、
その10年以上後に文庫本で読んだピノキオとでは、若干ディテールに違いがある。

ピノキオは人間になる。
小学生のころ読んだ本では、木で作られたピノキオの体がそのまま人間の肉体へと変化していき、
人間の少年になる。
ところが文庫本では(こちらは原作通りなのだが)、
ピノキオの意志(魂)が、新たに与えられた人の体に、いわば乗り移るかたちで人間の少年となる。
そして抜け殻となった、それまでの自分の意志(魂)の容れ物であった木の体を見てつぶやく一言は、
オーディオマニアとしては、再生音とは何かを考えていく者としては、いろいろと考えさせられる。

Date: 6月 27th, 2013
Cate: 型番

型番について(その20)

オルトフォンのSPUよりも前に登場し、
いまでは製造中止になってしまったものの、かなりのロングランを続けたのが、JBLのD130である。

このD130も、SPUと同じように極初期のモデルと後期のモデルとのあいだには、いくつかの変遷がある。
これも型番は変らなくても、時代によって変化が見られる。

もっとも厳密にいえば、極初期のD130は、ユニット本体の銘板には「D-130」と表記されている。
細かなことだが、Dと130の間にハイフンがはいっている。
このD-130の写真もインターネットで検索すれば、すぐに見つかる。
われわれがD130ときいてすぐにイメージするユニットと基本的には同じであっても、
細部にはいくつもの違いをすぐに見つけられる。

でも、どれもJBLの15インチのユニット、D130である。

D130は1980年代のコバルトの極端な不足によりアルニコマグネットからフェライトへと仕様変更された時に、
D130Hは型番にも変更があった。
D130Hも1980年代半ばには製造中止になっている。

D130と似た型番に、E130というユニットがある。
口径もコーン紙もD130と同じであるから、D130の後継機として受けとめている人も中にはいるようだが、
E130は正確にはD130Fの後継機である。

D130とE130は何が違うのか。
D130はショートボイスコイルである。
E130はそうではない。磁気回路の前側プレートの厚みとボイスコイル幅が同じになっている。

D130とE130のコーンアッセンブリーは同じのはずだから、
D130F及びE130では前側プレートが、D130よりも薄い、ということになる。

ところで、D130の「D」は何を意味しているのだろうか。

ランシングがアルテックを辞めた理由として「家庭用の美しいスピーカーをつくりたい」といっていた──、
こんなことが昔からいわれている。
ただ真偽のほどはさだかでない。
アルテックとは最初から5年契約だったことはわかっている。
だから単純に、その時期が来たからだったのかもしれない。

けれどD130の「D」は、domesticの「D」かもしれない、ともおもう。
D130のウーファー版の130Aにも、最初はD130AとDがついていた。
175も最初はD175だった。
やはり「D」はdomesticを意味しているのだろうか。

たぶんそうなのだろう、とおもうとともに、私個人にとってD130の「D」は、
まだ別の意味をもつ。
differentの「D」である。
それは私にとって、D130は「異相の木」であるからだ。

Date: 6月 26th, 2013
Cate: 型番

型番について(その19)

ステレオサウンド 48号に載っている、菅野先生と井上先生の対談による
「ロングランコンポーネントの秘密をさぐる」のSPUの記事の最後は、
井上先生の次の言葉で結ばれている。
     *
特に、サスペンション機構を凌駕するものがないということにおいて、ライスとケロッグがダイナミック型のスピーカーを開発して、それを越えるものがないのと同じで、実に偉大なものだと、ほくは思います。
     *
この井上先生の発言の前に、菅野先生も
「実際にSPUを根本的に凌駕したものが未だにないんだからね」と発言されている。

この対談を読んだとき、私は15歳。
SPUを使ったことも、音もまだ聴いていなかった。
そのためもあって、菅野先生、井上先生の発言を読んでも、実感が湧くことはなかった。
ただ、知識としてそこに印刷してある活字を読んでいた。

だから、このときはSPUは私にとって、Stereo Pick Upの略語でしかなかった。
それ以上の意味を持つことはなかった。

それから30年以上。
SPUの音を何度も聴いてきた。
ステレオサウンドの試聴室であれこれ調整もしてきた経験がある。
少なくない経験を積んできた、知識もあのころとはずいぶん違う。

そうなってくるとSPUはStereo Pick Upの略語というよりも、
私にとってはStandard Pick Upの略語とおもえてくるし、
さらにはSpecial Pick Upの略語にもなってきている。

SPUというカートリッジの存在は、私にとって、いまではそういうモノとなっている。

Date: 6月 26th, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(その10)

小林貢さんの、それまでのメインスピーカーであったHarknessへの想いは、
小林さんの連載「果てしなき変遷」の担当編集者の N Jr.さんは、
エンクロージュアの写真のキャプションに
「ダブルウーファーを収めた特注エンクロージュアから、ハークネスを追放した主のセンチメンタリズムが漂ってくる」
とつけている。

この記事が載っているステレオサウンドは67号、1983年6月に出ている。
このときより、いま読んだほうが、小林さんの気持ちがわかるような気がする。

小林さんが、あの当時目指されていた音の方向に対して、
Harknessは明らかにそぐわなくなっていた。

小林さんのHarknessを模した特注エンクロージュアは、
Harknessよりも大型になっている。
このサイズになると、あの金属脚がもう似合わなくなっていることに気がつく。

Harknessのかっこよさは、あのスタイルであり、あの大きさだからこそ、
あの金属脚がよく似合うことを確認できたわけだ。

小林さんはHarknessを模したエンクロージュアから、レイオーディオのモニターにさらに突き進まれた。
レイオーディオには、いうまでもないことだが、もうHarknessの面影はカケラもない。
ここで、小林さんははっきりとHarknessと訣別されたのだろう、と勝手におもっている。

小林さんは1983年にHaknessを手離された。
私は、その30年後の2013年、Harknessを「終のスピーカー」として迎え入れる。

Date: 6月 26th, 2013
Cate: 型番

型番について(その18)

針圧調整とはいったいどういうことなのかについて考えずに、
ただカタログ、取扱い説明書に表記してある標準針圧(最適針圧)にぴったり合せる。
その針圧でうまくトレースできないレコードのときには針圧を少し増す。

中にはレコードの寿命を少しでも伸ばすため(傷つけないためにも)、
針圧は針圧範囲内での軽めの値に合せる、という人もいる。

こういうカートリッジの使い方が、いかにカートリッジを理解していないことによるものか、
それについては別項「オーディオ機器の調整のこと」で今後書いていく。

ここでいいたいことは、オルトフォンのSPUの最適針圧の値がいくつなのかを、
カタログや昔の資料などをあさって調べるよりも、
カートリッジの構造と、その構造からくる動作を理解した上で、
針圧とインサイドフォースキャンセラー量の調整とは、どういうことをアジャストする行為なのか、
それを身体感覚として身につけた上で、SPUに限らずカートリッジの調整を行ってほしい、ということだ。

カートリッジは新品のときとしはらく使っていったあとでは、針圧の調整が必要となる。
いまはエアコンがほぼどこにでもあり、気密性の高い住宅も増えてきているため、
昔と比べて住居内の温度変化は、とくに低い方に関しては小さくなっている、と思う。

そのため、カートリッジを動作させる温度に関しては、無頓着になりつつあるのではないだろうか。
昔は、部屋を暖めて(それも急に温めてるのはよくない)、
カートリッジもレコードも冷えきった状態ではなくなってから、かけていたものだ。

温度の低下はカートリッジだけでなく、レコードにも影響している。
こういったことをすべてふまえて、身体感覚としてカートリッジの取扱いを身につける必要がある。

Date: 6月 25th, 2013
Cate: 型番

型番について(その17)

われわれ使い手側によるカートリッジの針圧調整とは、いったいどういことなのか。
カタログに書かれている標準針圧(最適針圧)にぴったり合せることではない。

針圧調整の意味を正しく理解するには、
インサイドフォースキャンセラー量の調整とセットで考えるべきものである。

針圧は垂直方向のバイアス量であり、
インサイドフォースキャンセラー量は水平方向のバイアス量であり、
無音溝に針を降ろした時に、MC型カートリッジならば、
発電コイルの位置が磁界の中心にあるということである。