Archive for category テーマ

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その5)

もちろんどんなに軽い材質の振動板であろうと、質量はある。

たとえばイオン化した空気を入力信号に応じて変調させ放電強度を変化させることで、
イオン化された空気の変化が気圧の変化として音が発生させるイオン型(放電型)には、
いわゆる振動板がなく質量ゼロの発音体という認識で受けとめられているが、
実際にはイオン化された空気が振動板(振動体)であるから、
そのイオン化された空気の質量分だけは存在する。

ベンディングウェーヴの振動膜にも質量はあるのだが、
ピストニックモーションのように振動板(振動膜)全体をいっきょに前後に動かすわけではない。
ボイスコイルが取り付けられている端から振動膜が波打ち、振動膜全体が振動する。
だからこそ振動膜の動きやすさ(波打ちやすさ)が重量になり、
その意味での可動質量はピストニックモーションとは異り、無視できる、
さらには解放されている、といえるのではないか。

とすればである。
ここから先が、この項のテーマである「真夏の夜の夢」なのだが、
カートリッジにおけるベンディングウェーヴ方式が実現できれば、
可動質量から解放されるのではないか──、と夢見ているわけだ。

実際にはどういう構造にすればいいのか、
果してステレオ・カートリッジが成立するのか、
トレース能力は充分に確保できるのか、
実現はかなり困難のように思えるのだが、
ベンディングウェーヴのスピーカーユニットが現実のモノとして、
素晴らしい音を聴かせてくれているのだから、
ベンディングウェーヴ方式のカートリッジがもし実現すれば、
誰も聴いたことがない音をアナログディスクから抽き出してくれるはずだ。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その4)

世の中の大半のスピーカーはピストニックモーションであるけれど、
ごくわずかではあってもピストニックモーションではない発音原理のスピーカーが存在する。
ベンディングウェーヴによるもので、
ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニット、マンガーのBWTユニットがある。

DDD型ユニットにしてもBWTユニットにしても、振動板がないわけではない。
どちらにも振動板(板というよりも膜といったほうがいい)はある。

このふたつのユニットは振動板をピストニックモーションさせてない。
ここが決定的に異る点である。

マンガーのBWTユニットの振動板に触れたことはないが、
ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットのチタンの振動板には触れている。

チタンといえば強度の高い金属と思われている方もいると思うが、
DDD型ユニットに採用されているチタン膜は薄く、感触としてはぷにょぷにょしている。

つまりボイスコイルから伝わってきた振動は、振動板を前後に動かす(ピストニックモーション)のではなく、
振動膜を波打たせる。

ベンディングウェーヴ方式にとって、ピストニックモーションにおける振動板の質量は、
振動膜の動きやすさ(きれいに波打つことができるかどうか)である。
これは考えようによっては、振動板の質量からの解放である。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その3)

スピーカーの振動板と同じように、振動系の軽量化、可能であれば質量ゼロこそが理想といえるものに、
カートリッジがある。

カートリッジはダイアモンドの針先があり、形状や材質に違いはあるもののカンチレバーの先端に、
その針先は埋めこまれる。
つまりこれをスピーカーにあてはめてみれば、針先はボイスコイルにあたる。
カンチレバーは振動板といえる。

スピーカーの場合、振動板は空気が相手になる。
カートリッジの場合、MC型であれば、それは発電コイルと考えていいだろう。

カートリッジはスピーカーと異り、ひとつのカートリッジで左右チャンネルとなる。
スピーカーのように、左右チャンネルで独立したモノではない。
だから針先の動きは前後(カートリッジでは上下というべきか)にだけ動けばいいわけではない。
そのことはわかったうえでいうのだが、
これまで登場してきたカートリッジの、それぞれの構成部品の関係性は、
スピーカーにおけるピストニックモーションと基本的に同じである、といえるのではないか。

それだからこそカンチレバーの材質に求められる条件は、
スピーカーの振動板に求められる条件とほぼ重なる。

つまりカートリッジもまた振動系の質量から解放されることはない。
新素材の採用や軽量コイルの実現などで軽量は果せても、解放は絶対にない。

だが、けれども……と最近考えるようになってきた。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その2)

理屈として、音楽信号をフーリエ変換すれば、複数のサインウェーヴの合成によるものとなるわけだから、
すべての可聴帯域のサインウェーヴを完璧に再生できれば、
つまり正確なピストニックモーションを実現できれば、音楽信号を再生できる。

こんなふうに考えればいいことはわかっていても、
それと感覚的な納得とはまた別のことである。

なぜ紙の振動板のスピーカーから、馬のしっぽのヴァイオリンの音が聴こえてくのか、
金属の皿をひっぱたいたシンバルの音がしてくるのか、
皮をピンと張った太鼓の音がそれらしく聴こえるのか、
これも感覚的納得のいかないことだったし、
考えれば考えるほどわからなくなっていた。

考えた。でもあの時、自分を感覚的に納得させられる答を見付けることはできなかった。
だから、とにかくピストニックモーションの実現が大事なことなのだと思い込ませた。

ピストニックモーションを追求していくと、振動板の質量はできるだけ小さくしたい。
とはいえただ軽いだけの振動板ではピストニックモーションの実現は困難である。
すくなくともダイナミック型のスピーカーでは無理である。

そこで振動板全面に駆動力を与えるコンデンサー型があるし、
それに類似した方式がいくつか考え出されてきた。

けれどピストニックモーションである以上、
振動板の質量をどれほど軽量化しようとも振動板の質量から解放されることは絶対にない。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その1)

オーディオについて理解しようと思い始めて、
最初にぶつかった難問が、実はスピーカーの動作についてだった。

動作といっても、フレミングの法則が理解できなかったのではなく、
なぜ、振動板が前後に動くことで、音楽(つまりさまざまな音)が再生できるのか──、
その動作が感覚として理解できなかった。

スピーカーはピストニックモーションを前提としている。
だから振動板は分割振動することなく、入力信号に応じて前後運動をすることが、
ピストニックモーションでは理想とされるし、
そのために振動板の実効質量を軽くしたり、剛性を高くしたり、内部音速の速い素材を採用する。

理屈からして、その方向が間違っていないことはわかる。
でもスピーカーから単音が出てくるのであれば、感覚として理解できる。
たとえば1kHzのサインウェーヴを完璧に再生しようとしたら、
正確なピストニックモーションが求められる。

けれど実際にスピーカーから聴くのは、いくつもの音が複雑に絡み混じり合ったものである。
ヴァイオリンが鳴っていれば、チェロも鳴っている。
それだけではなく他の楽器も鳴っている。
ヴァイオリンにしてもソロ・ヴァイオリンのときもあれば、何人もの奏者によるヴァイオリンのときもある。

こういう複雑な音をなぜフルレンジユニットであっても、そこそこに鳴らしわけられるのか。
振動板は基本的に前後にのみ振動している。
振動板が紙ならば、中域以上では分割振動が発生しているとはいえ、
基本はピストニックモーションである。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 録音

インバルのマーラー・ツィクルス

エリアフ・インバルのマーラーの交響曲の録音は、
1980年代、デンオンへの録音があり、
四番と五番は録音の良さでかなり話題になったし、
ステレオサウンドの試聴室で、この二枚のマーラーはどれだけの回数再生されただろうか。

四番の録音はワンポイントということで話題になった。
五番はワンポイントではないものの、補助マイクロフォンに対してデジタル信号処理によるディレイをかけて、
メインのマイクロフォンとの時間のズレを補正していることで話題になっていた。

売行きが良かったこともあり、当時登場した金蒸着CDも発売された。
インバルのマーラーをそれほどいいと思っていなかった私だけれど、
金蒸着CDを買ってしまった。

でもしばらくすると聴かなくなっていた。

このインバルのマーラーを、私は高く評価しないけれど、
録音だけでなく、演奏においても高く評価する人が少なくないことは知っていた。

このことに関しては、どちらの耳が確かなのか、といったことよりも、
マーラーの音楽に何を聴き取ろうとしているのかの違いでもあり、
ひとりの人間でも、いろんなマーラーの演奏を求めて聴くわけで、
その範囲がかなり広い人もいれば、そうでない人もいる。

私の場合、その範囲にインバルはひっかかってこなかっただけである。

いまインバルと東京都交響楽団によるマーラー・ツィクルスが始まっていることは、
そんな私でも知っている。
エクストン・レーベルからSACDで出ている。

一番と二番がレコード店の店頭に並んでいる。
一番はワンポイント録音である。

デンオン録音のインバルでも、一番はワンポイントではなかった。
デンオンでのインバルとエクストンでのインバルとのあいだには、約30年の開きがある。

その月日がどう録音に関係してくるのかに、興味がないわけではない。
エクストンでの二番はワンポイントではない。
編成の規模からすれば当然だろう。

でもきっと四番はワンポイント録音で出てくる、と期待している。
もしかすると五番もワンポイント録音になるのでは、とこれもまた期待している。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RS-A1のこと・その5)

RSラボの回転ヘッドシェル、RS1が登場したのはいつだったか。
1980年代の後半だったか。
とにかく、その頃の私がつかっていたアナログプレーヤーではRS1は使えない。
なので、友人に買わせた。

オーディオテクニカのヘッドシェルをベースに回転ヘッドシェル改造したものだから、
オーディオテクニカのヘッドシェルよりも高かった。
自分で買ったものでもないということもあってうろ憶えだが、一万円くらいしたのではなかったか。

それでも、友人はノってくれた。

RS1のシェルリード線は、細い。
オーディオテクニカのヘッドシェルにもともとついていた線よりもずっと細くしなやかである。
カートリッジの取り付け時にうっかりすると断線させてしまう人もいるかもしれない、
と思うほどの細さのように記憶している。

とにかく友人の標準カートリッジを取り付けて、レコード盤面に針を降ろす。
音溝に対して接線方向にカートリッジが向く。

頭でわかっていたことでも、こうやって目の前で回転ヘッドシェルが動作しているのをみてしまうと、
カートリッジには、これだけの力が加わっていることを視覚的に確認できる。

音は、通常のヘッドシェルに取り付けた時の音とは、あきらかに違うものを感じさせる。
そのころのラジオ技術では、発案者の三浦軍志氏だけでなく、
ほかの方たちも追試の実験、記事の発表をやられていた。

RS1の音(回転ヘッドシェルの可能性)を聴いてしまうと、
そういう気持になるのもわかる気がした。

Date: 8月 7th, 2013
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(facebookにて・追補)

「オーディオ彷徨・改訂版」は書店売りはしていない。
ステレオサウンドに直接注文するか、Amazonへの注文しかない。
だから、これから買う人は、5月30日に出た方を手にすることはまずない。

けれど、新宿のディスク・ユニオン隣の書店「BIBLIOPHILIC」では、
この4オーディオ彷徨・改訂版」を売っている。
ただ先月中旬、ここで売られていた「オーディオ彷徨・改訂版」は5月に出たものだった。
7月に増刷された分ではなかった。

なので、「BIBLIOPHILIC」のように売っているところで購入される方は、
奥付を確認された方がいい。

Date: 8月 7th, 2013
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(facebookにて・その14)

やりたい仕事を常にやれるとは限らない。

「オーディオ彷徨」が出た1977年、私はまだ高校生だった。
2013年、「オーディオ彷徨」が復刊されたが、私はとっくにステレオサウンドから離れている。

「オーディオ彷徨」に、だから私は携わることはできなかった。

けれど、今回岩崎先生の原稿を直接手にとることが出来、
しかも「オーディオ彷徨」に所収される時点で書き換えが行われていることを見つけ、
そのことをfacebookに書いたことで、結果として訂正されることになった。

つまり7月に増刷された「オーディオ彷徨」には、間接的にはあっても携われた、という感触がある。
これが、ふたつめの嬉しいことである。

もし私がずっとステレオサウンドで働いていて、
「オーディオ彷徨」を復刊させようとしたとしても、
1977年に出た「オーディオ彷徨」の、明らかな箇所以外は訂正することができずに、
そのまま踏襲して出すことになる。

このことに思いを馳せると、ステレオサウンドから離れたから、ということにたどりつく。

ステレオサウンドにあのままい続けていたら、audio sharingをつくることはなかった。
audio sharingを公開していなければ、岩崎先生のご家族と連絡をとれることが訪れることはなかった。
そして世の中にSNSというものがあらわれ、facebookに「オーディオ彷徨」というページをつくった。
(現在は「岩崎千明/ジャズ・オーディオ」に変更している)

この「岩崎千明/ジャズ・オーディオ」に「いいね!」をしてくれる、
元オーディオメーカーに仕事をされていた方たちがいた。

昨年5月、毎月第一水曜日に四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記で行っている例会に、
岩崎先生の娘さんと息子さんが来てくださり、「岩崎千明を語る」というテーマを行えた。
今年6月には「岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代」というテーマで行えた。
ここで、岩崎先生の原稿と出合えた。

「オーディオ彷徨」の復刊にあわせて、岩崎先生の原稿がぽっと私の前にあらわれたわけではない。
これらのことをやり続けてきたから、の結果だという感触は、私だけのものだろうか。

Date: 8月 7th, 2013
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(facebookにて・その13)

facebookグループのaudio sharingで、ステレオサウンドのNさんのコメントはもう少し続いた。

私が指摘した箇所だけではなく、他にも気になるところがあるので、
岩崎先生の原稿をコピーして送ってほしい、ということだった。

コンビニエンスストアに行きコピーするのがいちばん楽なのだが、
それでは私とステレオサウンドのNさんだけしか見れないことになる。

なので原稿をスキャンすることにした。
300dpiでスキャンした。
私がもっているスキャナーはA4までしかスキャンできないから、
400字詰め一枚の原稿用紙をスキャンするには、二回にわけて半分ずつスキャンして、
画像処理で一枚の画像にする。
この作業が意外と面倒なのだが、岩崎先生の原稿は前にも書いているように片桐さんから借りているものだから、
こうやってスキャンして画像処理しておかなければ私のところにもデータとして保存できないのだから、
遅かれ早かれ、この作業はやるつもりだった。

こうやって岩崎先生の原稿をスキャン作業は終り、
すべての家蔵を圧縮してダウンロードできるようにしている。
ステレオサウンドのNさんだけでなく、興味のある方みんなに見ていただきたいから、そうした。

jpeg画像だから、誰でも見れる。
ダウンロード先は、上記のfacebookグループのaudio sharingのコメント欄に書いている。
facebookのアカウントを持っている人、
しかも私が管理しているfacebookグループのaudio sharingに参加されている人、
という制限はつけさせてもらった。

Date: 8月 7th, 2013
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(シェルリード線のこと・その5)

電源コードを交換すれば音は変る。

家庭用のAC100Vが発電所から部屋のコンセントに届くまでのあいだに、
どれだけの距離を通り、どれだけのものを通っているのかを考えれば、
いくら電源コードが1mとか2mとか、シェルリード線に比べれば長いとはいえ、
発電所からの長い距離の中で見れば、その割合はシェルリード線よりも小さい。
にも関わらず電源コードを交換すれば、音は変る。

AC100Vに関しても、理想をいえば100Vの発電機が近くにあり、
その発電機のコイルから直線銅線がのびていて、途中ブレーカーやコンセントなとの接点を経由せず、
できれば発電機から伸びてきている銅線で、電源トランスの一次側のコイルを巻く、ということになる。

こんなことは実際にはできないことだけど、これを理想とすれば、
現実の電源の供給には、途中途中にいくつものものが挿入されている。
カートリッジの信号をアンプの入力端子に伝送する系と同じように、だ。

だからこそ、電源コードで音が変るのだ、と私は考えている。

つまりどちらも理想の状態からは遠く離れている。
いくつものモノが挿入されている。そのことによって崩れているなにかがある。

つまり、私達がリスニングルームでやっていること、
シェルリード線を交換すること、電源コードを交換することは、
なんとか整合性をとろうとしている、つじつまをあわせそうとしている、
そういう行為のように感じている。

全体からみれば、そんな細かい(短い)ところを交換しても……、
とこんなふうにケーブルの交換に昂ずるのを批判的に見ている人もいるけれど、
そうとも一概にはいえない。

昂じている人がどういう意識でやっているのか、
傍から見ていてはわからないところもある。
ただ音の変化を楽しんでいるだけなのかもしれないし、
無謀ともいえるかもしれない整合性の確保、つじつまあわせをしているのかもしれない。

Date: 8月 6th, 2013
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(シェルリード線のこと・その2について補足)

エラックのSTS455Eの仕様について、資料があったはず、と探してみた。
見つかった。
1976年に誠文堂新光社から無線と実験別冊としてでた「プレーヤー・システムとその活きた使い方」、
この本の207ページに一欄表が載っている。
国産・海外カートリッジの代表的なモデルの、直流抵抗、インダクタンス、
1kHz、10kHz、20kHzの電気インピーダンスの計算値が表になっている。

STS455Eの直流抵抗:1310Ω、インダクタンス:508mH、
インピーダンス:3.5kΩ(1kHz)、32kΩ(10kHz)、64kΩ(20kHz)、
以上のことから、MM型カートリッジとしてもハイインピーダンス型といえる。

同じエラックの4チャンネル再生用のSTS655-D4の値は、
それぞれ652Ω、216mH、1.5kΩ、14kΩ、27kΩである。

エラックとともにMM型カートリッジの特許をもつシュアーの代表的モデルといえばV15 TypeIIIの値は次の通り。
1350Ω、434mH、3.0kΩ、27.3kΩ、55kΩとSTS455Eと近い値となっている。

同じMM型でも国産カートリッジは、エラック、シュアーより、全体的にローインピーダンス寄りといえる。

Date: 8月 6th, 2013
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(シェルリード線のこと・その5)

現実のアナログプレーヤーの信号伝送経路を子細にみていくと、
まず発電コイルからの引き出し線がカートリッジの出力ピンにハンダ付けされる。
ここでまず出力ピンという異物がひとつ加わることになる。

この出力ピンにシェルリード線がハンダ付けされることはまずなく、
シェルリード線の両端には金属製のカシメがつけられる。
ここでもカシメ、それにシェルリード線という異物が加わる。
ヘッドシェルのプラグ部分にも金属製のピンという異物がある。

ヘッドシェルの出力ピンと接触するトーンアーム側のプラグイン・コネクターにも接点ピンという異物があり、
トーンアームパイプ内の配線と接続されている。
このパイプ内部配線がトーンアームの出力端子までいき、そこで出力端子の接点へとハンダ付けされる。
ここから先はトーンアームの出力ケーブルがあり、
このケーブルの両端にはRCAプラグがついているわけだから、
同じように異物が存在することになる。

ざっとこれだけのモノがカートリッジの発電コイルからアンプの入力端子までの経路である。
カートリッジの発電コイルからそのまま配線を長くしていった理想の在り方からすると、
なんと多くの異物が途中途中に挿入されていることになる。

しかも実際にはハンダが含まれ、接点箇所には接点ならではの微細な異物もある。

私は、これがたった数cmのシェルリード線を変えても音が変ることの理由ではないか、と考えている。

Date: 8月 6th, 2013
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(シェルリード線のこと・その4)

それぞれに謳い文句があり、しかも価格もそれほど高価ではない。
アントレーのSR48は500円と安価な方だった、高価なものもあった。
けれど高価といっても、シェルリード線の長さということもあって、手軽に交換が楽しめる範囲におさまっていた。

私は前述した理由でシェルリード線の交換にはまることはなかったけれど、
このカートリッジには、このヘッドシェルとこのシェルリード線を組み合わせて、
このレコードを聴く──、
そんな音づくりの楽しみ方もあっただろう、とは思う。

トーレンスの101 Limitedを早々と買ってしまい、
カートリッジ交換の楽しみから遠いところにある環境になったため、
こういう楽しみ方をすることはなかった。

もしSMEの3012-R Specialを使い続けていたら、
そういう楽しみ方をしただろうか……、と、ふり返る。

とにかく各社から登場してくるシェルリード線を見ていて思っていたのは、
理想としてのシェルリード線の在り方についてだった。

おそらく理想はカートリッジの発電コイルに使っている銅線(もしくは銀線)が、
そのままシェルリード線になっていくことのはず。
そして、これを突き進めていくと、さらに延長し、そのままトーンアーム・パイプ内の配線となり、
さらにトーンアームの出力ケーブルまで延ばすことになる。

つまり発電コイルからアンプの入力端子まで、一本の銅線(銀線)が途切れることなく続いている、
つまり接点もどこにも存在しないし、途中に他の物質が挿入されるわけでもない。
これが、シェルリード線の理想の在り方だと仮定すれば、
現実のアナログプレーヤーの信号伝送系のケーブルと接点は、ずいぶん遠いところにあった、といえよう。

Date: 8月 6th, 2013
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(シェルリード線のこと・その3)

アントレーのSR48に交換したことが、
すべての面でよい方向になったわけではないが、それでも音の変化は確認できた。
わずか数cmのシェルリード線を交換しただけで、音は変る。

シェルリード線はぎりぎりの長さになっているものは少ない。
長さ的に余裕があり、通常の使用ではシェルリード線がまっすぐになることはない。
あまっている長さの分だけカーヴすることになる。

SR84はリッツ線ゆえにカーヴすると芯線がバラける傾向があった。
それが気になっていた。

SR48はどのくらい使っていただろうか。
そんなに長くはなかった。
ヘッドシェルを、オーディオクラフトから出たばかりのAS4PLにしたまでの間だけだった。

AS4PLにはオーディオテクニカのMG10についていたシェルリード線よりも、
見た感じの立派なモノがついていたし、
たしか片側がハンダ付けされていたため、シェルリード線の交換ができなかった、はず。

MG10 + SR48でエラックのSTS455Eを使うよりも、AS4PLに取り付けたほうが好ましかった。
その後に新たに購入したオルトフォンのMC20MKIIも、AS4PLに取り付けて使っていた。

このオーディオクラフトのAS4PLが、私にとっての標準ヘッドシェルになっていった。
もしAS4PLを使っていなければ、各社から発売されていた各種のシェルリード線にはまっていっていた、だろう。

さまざまなシェルリード線が、あのころはあった。