Archive for category ブランド/オーディオ機器

Mark Levinsonというブランドの特異性(その28)

ML3Lの音は、穏やかである。

LNP2のところで書いているが、JC2、 LNP2L、ML2Lに共通する過剰さが感じられない。
LNP2だけでなく、JC2にもML2Lにも、ある種の過剰さがある。
その過剰さが過激さにつながっている、と書いた。

JC2のように、音質向上のため、トーンコントロールを省き、モードスイッチの簡略化などを行い、
多少の使い難さも、音のために我慢して当然というスタイルは、
いまでこそあたりまえのことになり、抵抗もなく受けとめられているが、
JC2が登場した1974年当時では、過激ですらあった。

マーク・レヴィンソンは、アメリカのオーディオ関係の人間から、
JC2の使い難さを指摘されて、すこし不機嫌になりながら、
「これ(JC2)は、車に例えるならフェラーリだから」
と答えたという(RFエンタープライゼスの広告に、そうある)。

しかも外部電源にすることで、1Uサイズという薄型を実現したことも、
その後に続くアンプへの影響は、そうとうに大きかった。

ML2Lもそうだ。
片チャンネルあたり400Wの消費電力ながら、出力はわずか25W。
しかもそれまでどのアンプも実現できなかった、2Ωまでの計算通りに倍々で増えていくパワーを可能にしている。
しかも2台ブリッジ接続にすることで、A級動作では大出力といえる100Wも可能としている。

これらのアンプに見られるマーク・レヴィンソンの徹底的なこだわりは過剰であり、過激であり、
そのことが、神経質なまでの、音の過敏さを生み出している。

この過敏さが、ML3Lにない。少なくとも、私は感じとれなかった。

Date: 2月 7th, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その9)

通常のボリュームは、絞れば絞るほど、回路に直列に入る抵抗値が高くなる。
このこともあってか、ボリュームは絞って使うと、音が悪くなると言われることがあるが、
果たしてそのとおりなのだろうか、とも思う。

以前は、確かにそう思っていた、というより信じ込んでいた。
でも現実には、良質のボリュームであれば、絞って使ったほうがいいと感じることもある。

そのことに対する理屈は、人によってはどうでも良いことなんだろうが、
私はやっぱり気になる。何か、少なくとも納得のいく理由がひとつくらいはあってもいいはずだ。

LNP2でいえば、インプットアンプの入力端子から見れば、信号源の出力インピーダンスは、
直前に設けられているインプットレベルコントロールも含めてのものである。
ラインレベルの信号受け渡しは、ローインピーダンス出しの、ハイインピーダンス受けのため、
それほどインピーダンスについて語られることはないが、
内蔵のフォノイコライザーアンプにしろ、
ライン入力に接続されるチューナーやCDプレーヤーの出力インピーダンスの、
周波数特性はどうなっているだろうか。

NFBがかけられている半導体アンプで考えてみる。
NFBを、ある一定量、掛けるアンプのオープンループ(NFBをかける前の裸特性)の周波数特性は、
それほど広いものではない。可聴帯域のかなり低い周波数からゲインは落ちていく。
つまり周波数によって、NFB量は同じではない、ということだ。
低域ほどNFB量は多く、20kHzでは少なくなっているため、
出力インピーダンスもNFB量によって改善度が異り、低域ではかなり低い値でも、
1kHz、20kHzと周波数があがれば、少なからず出力インピーダンスも上昇していると見ていい。

それにインプットアンプにたどりつくあいだにケーブルの存在があり、
そのインダクタンスによっても、高域のインピーダンスは、また上昇する。

仮に信号源の出力インピーダンスを、20Hzでは100Ω、20kHzで300Ω、
ボリュームの値が10kΩとして、インプットアンプから見た出力インピーダンスの計算してみてほしい。
ボリュームをそれほど絞らない状態で、直列に入る値が1kΩ、並列に入る値が9kΩ、
絞った状態としての値が、9kΩ、1kΩとしよう。
実際にボリュームをかなり絞った状態では、直列の値はもっと高くなるが、
ここではボリュームの角度による出力インピーダンスの傾向を知ってもらうためなので、
計算しやすい値にしている。

抵抗を並列にした時の合成値は、それぞれの抵抗値を掛け合わせた値を、抵抗値を加算した値で割る。
信号源の出力インピーダンスも直列にはいるわけなので、
(信号源のインピーダンス+直列に入るボリューム値)×並列に入るボリューム値を、
(信号源のインピーダンス+直列に入るボリューム値+並列に入るボリューム値)で割る。

20Hzで、ボリュームをそれほど絞らない場合は、
(100+1000)×9000を100+1000+9000で割るわけだ。

こうやって、4つの場合の値を出してみてほしい。
そして、20Hzと20kHzの値を較べてほしい。
ボリュームを絞った場合とそうでない場合、20Hzと20kHzの値がほぼ同じになるのは、
どちらなのかが、はっきりする。

ボリュームを絞ることにも、メリットがあるといえよう。

Date: 2月 7th, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その8)

SN比に関して言えば、LNP2の場合、インプットアンプのゲインを0dB(増幅率:1)にすれば、
インプット、アウトプットレベルコントロールともに、それほど絞ることなく使えるだけでなく、
インプットアンプそのもののS/N比も、ゲインを低くすれば、その分NFB量を増すことになり、
+40dB時のSN比よりも、物理的に改善されるだけに、優位となる。

なのに音を聴くと、インプットアンプのゲインは高めに設定したくなる。
ぜひ、これだけは言っておきたいが、それほど音量を大きめにできない時こそ、
インプットアンプのゲインを高めにして、レベルコントロールを絞りぎみにする。

小音量になるほど、ゲインを高めにしたほうが、音が生きてくるし、冴えてくる。
そのかわり、レベルコントロールの設定は、すこしシビアになってくるけれども。

小音量時に必要とされるゲインからすると、インプットアンプのゲインを+40dBにすることは、
余剰ゲインを増やしていることになる。ますますオーバーゲイン(ゲイン過剰)のアンプになるわけだ。

この過剰さこそ、この時代のマークレビンソンのアンプに共通した特質でもあり、
それは過激さへとつながっている。
これこそ、個人的に、マークレビンソンのアンプ(JC2、LNP2L、ML2L)の、
もっとも魅力的なところだと、私には感じられる。

Date: 2月 6th, 2009
Cate: JC2, LNP2, Mark Levinson

LNP2について(余談)

JC2 (ML1L) の左右独立のレベルコントロール(バランスコントロール)も、
ラインアンプのNFB量を、1dBステップで変化させている。
±5dBの変化幅だから、NFB量は最大で10dB違うわけだ。

だから、どのポジション、つまりNFB量を減らすか増やすかによって、音の出方が変化する。
どのポジションで使うかは、その人次第だが、いずれにしても、
0dBのポジション以外で使うとなると、ツマミが斜めになる。

これが嫌で、JC2を使っていた時、実は+5dBにしていたが、ツマミは垂直になるようにしていた。
他の人からすれば、どうでもいいこだわりなのだが、
中央ふたつのツマミは、垂直になっていたほうが、キチッとした感じがして、見ていて気持ちいい。

Date: 2月 6th, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その7)

最初、0、+10、+20dBだったゲイン切換えに、なぜ+30、+40dBの2ポジションを足したのか。

+30、+40dBのポジションにすれば、使い難さが生じることは、
マーク・レヴィンソン自身、よくわかっていたはずだ。
なのに、あえてつけ加えているのは、+30、+40dBのポジションの音に、
彼自身、良さを感じとっていたからではないだろうか。

インプットアンプのゲイン切換えはNFB量を変えて行なっている。
+20dBと+40dBのポジションでは、NFB量が20dB異る。かなりの違いだ。

つねに細かい改良が加えられているLNP2だから、完全な同一条件での比較は無理だが、
おそらく初期のLNP2の+20dBの音と、+40dBまで増えたLNP2の+20dBの音は、基本的には同じだろう。

モジュールのLD2も外部電源も同じなら、多少外付けパーツに変化があっても、
基本的な素性は同じはずだ。
LNP2の良さ──というよりもJC2を含めた、このころのマークレビンソンの音──は、
同社の他のアンプとくらべてみると、どんな微細な音をあますところなく緻密でクリアーに表現するところにある。
音の冴えが研ぎ澄まされている。

この音の特質を追求した結果、ややオーバーゲインといえるポジションが追加されたと考えていいだろう。
+30、+40dBのポジションを使うと、インプットレベルコントロールをかなり絞ることになる。

従来、ボリュームをあまり絞り過ぎた位置で使うと、音が極端に悪くなるので、
できるだけ減衰量の少ないところを使ったほうがいいとも言われていた。
たしかに質の悪いボリュームだと、絞り気味にすると、
左右の減衰量に差が生じるギャングエラーを起こすものがあった。

こういうボリュームは論外だが、少なくともLNP2が採用しているボリュームでは、
絞ったからといって、音が痩せたり、悪くなったりする印象は感じられなかった。

むしろ、私の個人的な印象だが、インプットアンプのゲインを+40dBまであげて、
インプットレベルコントロールを絞りぎみにしたときの音は、
むしろLNP2の良さが映えてくるとさえ思っている。

さすがにあまり絞り過ぎると、左右独立だけにレベル合わせが面倒になるので、
アウトプットレベルコントロールのほうも、かなり絞りぎみにするというよりも、
どちらのレベルコントロールも、基本的には絞りぎみで使う。

こういう設定でのLNP2 (L) の音を、機会があれば、聴いてみてほしい。

Date: 2月 4th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その50)

国産4ウェイ・スピーカーの多くが、ピストニックモーションの追求を徹底していた。

振動板への新素材の積極的な採用、フレームやエンクロージュアの構造を見直し、
不要輻射、雑共振の2次放射を徹底的に抑える。
このふたつは、前に述べたように、聴感上のSN比を高めていくことである。

いまや海外のスピーカーの多くも、4ウェイ構成でなくとも、同じところを目指しているように感じられる。
完全なピストニックモーションの実現は、たしかに理想追求の果てにあるといえるだろう。
けれども、はたしてピストニックモーションの完全な実現だけが、
スピーカーの理想の姿とは思えないし、考えられない。

1930年以前に、シーメンスが、リッフェル型のスピーカーをつくりあげている。
0.05mm厚の、555×120mmのジュラルミン振動板は平面だけに、
一見リボン型スピーカーのように勘違いされるが、
このスピーカーこそ、ジャーマンフィジックスのDDDユニットの、もうひとつのルーツである。

ピストニックモーションではなく、ベンディングウェーブのスピーカーユニットが、
ジャーマンフィジックスだけでなく、やはり同じドイツのマンガーからも登場したことは、
約80年前に、すでにこの方式のスピーカーをつくっていた国ということと無関係とは思えない。

シーメンスのリッフェル型スピーカーも、DDDユニットに採用されているチタン箔を使い、
現在のコンピューター解析と技術があれば、スピーカーの新しい可能性を示してくれそうな予感がする。

ピストニックモーションの追求を否定する気は、さらさらない。
だが、ピストニックモーションだけがスピーカーの原理ではないことは、
もう一度、思い返さなければならないことだ。

昨年、パイオニアが、リッフェル型のトゥイーターを採用したスピーカーをつくっている。
最近、ヴァリエーションが増えつつあるハイルドライバーも、ベンディングウェーブの一種といえるだろう。

スピーカーの、これからの展開がどうなっていくのか──、
そこに新しい動きが現われていることは確かである。

Date: 2月 4th, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その6)

1970年代の後半、4連ボリュームが、国産アンプのいくつかに採用されたことがあった。
通常は2連ボリュームで、ラインアンプの前に置かれるが、
4連ボリュームだと、ラインアンプの前後両方にくる。

20dBの減衰量がほしいとき、2連ボリュームだと、ラインアンプに入る信号を、その分減衰させる。
4連ボリュームだと、ラインアンプの入力で10dB、出力で10dBの減衰量となる。
ラインアンプに入力させる信号レベルが10dB高くなり、その分SN比が向上する。
SN比はいうまでもなく、信号(Signal)と雑音(Noise)の比率だけに、
アンプの雑音が同じなら、信号レベルを高くすればSN比は向上する。

LNP2のインプットレベルコントロールとアウトプットレベルコントロールは、
連動こそしていないが、4連ボリューム的なところもある。

それぞれの減衰量をうまく調整することで、SN比は多少悪くもなるし、良くもなる。
SN比ということだけでみれば、パワーアンプの直前で減衰させるのがいいことになる。

LNP2のインプットアウトプット、ふたつのレベルコントロールを設けた理由のひとつは、
SN比の向上のためだったのだろう。
ならば、なぜLタイプになり、インプットアンプのゲインを40dBにまであげたのだろうか。

Date: 2月 3rd, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その5)

CDが登場以前、ラインアンプのゲインは、たいてい20dB前後だった。

LNP2のインプットアンプの最大ゲインは──このあとにアウトプットアンプがさらにあるのに──40dBというのは、
常識的なゲイン配分からすると、かなり高い。
オーバーゲインかどうかは、組み合わせるパワーアンプのゲイン、スピーカーの能率と関係することなので、
安易に決めつけるわけにはいかないのだが、トータルゲインは過剰気味といえる。

とくにラインレベルの高いCDプレーヤーだと、LNP2のゲイン設定は、使い難い。
ゲイン切換えを絞り気味に使うと、音が、どうも冴えなくなる。
音の冴えを失ったLNP2では、これにこだわる理由が薄れてしまう。

だからオーバーゲインにして、インプットレベルコントロールをかなり絞って使うことになる。
そのためだろう、CDプレーヤーを、AUXなどのライン入力に接続せずに、
テープ入力に接ぎ、テープモニター・スイッチを使えば、
インプットアンプを介さずに、アウトプットレベルコントロールとアウトプットアンプのみを経由する。

LNP2のブロックダイアグラムを見ると、レコードアウト(Record Out)が、
いわゆる一般的なコントロールアンプの出力に近い。

インプットアンプの出力は2つに分岐され、ひとつはアウトプットアンプへ、
もうひとつはレコードアウトになる。
つまりボリュームコントロールを、
左右独立したインプットレベルコントロールで調整するのが苦にならない人、
そしてトーンコントロールは不要だという人は、
レコードアウトをパワーアンプに接げるという手もある。

どちらにしろ、アンプをひとつ通らずにすむので、音の鮮度も高い──、
そう考えるのは安易すぎ、短絡的すぎはしないか。

なぜマーク・レヴィンソンは、インプットアンプのゲインを、
Lタイプになったときから、20dBから40dBにアップしたのか。

オーバーゲインで使い難いという声があがるのは、わかっていたはずだ。
なのにあえて、この変更を行なっている。

その理由を考えるべきではないのか。

Date: 2月 1st, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その4)

LNP2のブロックダイアグラムを見ると、
フォノアンプだけでなく、インプットアンプもアウトプットアンプも、
ある程度のゲインの高さが求められていることがわかる。

インプットアンプは、NFB量を変化させることでゲイン切り換えが可能になっており、
Lタイプになってからは、+20dBだったのが+40dBに変更されている。
NFBをある程度かけた状態での40dBのゲインは、中間アンプとしては、かなり高い設定である。

アウトプットアンプは、3バンドのトーンコントロールを備えているため、
トーンコントロールの増減分だけのゲインの余裕は最低でも必要となる。
ここも、ゲインは、それほど低くはない。

つまりLNP2は、かなりの余剰ゲインを持つ(オーバーゲインな)アンプなのだ。

Date: 2月 1st, 2009
Cate: LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その3)

出力段は、JC2と同じFETのソースフォロワーかもしれない。
JC2は2パラレルプッシュプル構成だが、ジョン・カールがインタビューで答えているように、
LNP2のモジュールLD2には消費電力の制限があり、そのためA級動作にはなっていない。
つまり消費電力が増えるパラレルプッシュプルはありえない。
しかもAB級動作のはずだ。

JC2のフォノアンプと、LD2の回路構成は基本的に同じ可能性はあるだろう。
1974年に、そういくつもの回路のヴァリエーションを、ひとりの技術者が生み出すとは思えないからだ。

差動2段構成に、AB級動作のFETのソースフォロワー(もしくはトランジスターのエミッターフォロワー)つき、
これが私が推測するLD2の回路構成である。
LD2の大きさがJC2のフォノアンプモジュールに近いことも、理由のひとつである。

ジョン・カールが消費電力の点で苦労したというのも、うなずける。
差動回路を2段にすることで、使用トランジスターの数は、JC2のラインアンプよりも多くなっている。
それだけ消費電力は増えているわけだ。各段のアイドリング電流を極力抑える必要がある。
ただ、これがローノイズにうまく作用している面もあるだろう。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: JC2, LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その2)

ジョン・カールの設計思想として、それほどゲインを必要としない場合には、
差動回路を使っても初段のみである。
差動2段回路のJC2のフォノアンプは、ジョン・カール設計のアンプとしてはめずらしい。

JC2のフォノイコライザーはNF型イコライザーである。
RIAAカーブをNFBでつくり出している。そのためNFBループにコンデンサーが2つ使われている。
NFBがかけられているアンプはすべてそうだが、
次段のアンプの入力インピーダンスとともにNFBループ内の素子も負荷となる。
つまりNF型イコライザーアンプの負荷は容量性であり、
当然周波数の上昇とともにインピーダンスは低下していく。
それに対し安定した動作を確保するため、
JC2のフォノアンプの出力段はパラレルプッシュプル仕様となっているのだろう。

差動2段増幅になっているのも、このNF型イコライザーと関係している。
RIAAカーブは、1kHzを基準とすると、20Hzは+20dB、20kHzは−20dBのレベル差がある。
20Hzと20kHzのレベル差は40dBである。

20kHzのゲインを0dBとしても、20Hzでは最低でも40dBのゲイン(増幅率)は必要となる。
まして20kHzでゲイン0dBということはあり得ないから、
NFBをかける前のゲイン(オープンループゲイン)は、ある程度の高さが求められる。
ゲインの余裕がなければ、低域に十分なNFBがかけられなくなる。

十分なゲインを稼ぐための、差動2段増幅と考えていいだろう。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: JC2, LNP2, Mark Levinson

LNP2について(その1)

マークレビンソンのLNP2のモジュールLD2の回路構成はどうなっているのか。

ジョン・カールにインタビューした時に聞いておけばよかった、と後悔しているが、
取材の目的はヴェンデッタリサーチについてだったので、仕方なかった。

私が持っているジョン・カールが設計したアンプの回路図は、
マークレビンソンのJC2、JC3、ディネッセンのJC80、
あとは自分で実物をみながら回路図をおこしたヴェンデッタリサーチのSCP1だけである。
このなかで、LNP2の回路を推測する上で、重要なのはJC2以外にないだろう。

LNP2はフォノアンプ、インプットアンプ、
アウトプットアンプのすべてに共通のモジュールLD2が使われているのに対し、
JC2は、フォノアンプとラインアンプは、モジュールの大きさも異るし、当然回路構成も大きく違う。
JC2のラインアンプは、初段のみ差動増幅の上下対称回路(2段増幅)、
JC3の電圧増幅部とほぼ同じといってよい。

フォノアンプは、上下対称回路ではなく、2段差動増幅回路になっている。
初段の差動回路の共通ソースには定電流回路が設けられ、
2段目の差動回路はカレントミラー負荷になっている。
出力段はFETによるプッシュプル回路で、しかもパラレル仕様である。

使用トランジスター数は、ラインアンプが6石(内FET4石)、フォノアンプは11石(内FET7石)となっている。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(その7)

一度、ステレオサウンド試聴室のリファレンススピーカーだったJBLの4344のレベルコントロールを、
自分なりに徹底的に調整してみようと思い、夜、ひとりで試聴室にこもったことがある。

意外にもミッドハイのレベル差が大きく、少しずつ連続可変のレベルコントロールを動かしては音を聴き、
また席を立ち4344のところに行き、ほんの少しいじる。

あるポイントで、ひじょうにいい感じで、ヴォーカルが鳴りはじめた。
センター定位も、かなり気持ちよく、ぴたっと安定している。
もうひと息だな、とその時、思った。

このときの音は、これはこれで満足度の高い音だったが、直感的にもう少し詰められる、と感じたからだ。

さきほどよりも、さらにほんの少しだけレベルコントロールを触った。
椅子に坐り、音を聴く。先ほどの音が良かった。
ひとつ前の状態に戻した。もどしたつもりだったが、
鳴ってきた音は、もどっていない。さっきの音が鳴ってこない。

もう一度4344のところに行き、いじる。
けれども、レベルコントロールに使われている巻き線による連続可変型のためなのか、
同じ位置にしても(したつもりでも)、けっして同じ音にはならない、そんな気がしてくるほど、
不安定要素(不安要素といってもいいだろう)がある。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: 4343, BBCモニター, JBL

BBCモニター考(その6)

ステレオサウンドの50号前半の数号にわたって、JBL 4343研究という記事が連載されていた。
詳細は憶えていないが、JBLのスタッフふたりによる4343の鳴らし込みといった内容の回もあった。
彼らが聴感でレベルコントロールを調整した結果(写真)が載っていたが、
左右でレベルコントロールの位置は、多く違っていた。

部屋の影響ももちろんあっての結果であるし、
4343に搭載されているユニットに、多少の音圧上のバラツキもあるのだろう。
それにレベルコントロールに採用されている巻き線式のアッテネーターの精度も、個人的には疑いたい。
意外にも、ここのバラツキが大きかったのかもしれない。

どこにいちばんの原因があるのかは置いておくとして、
少なくとも完成品としての4343は、一台一台すべての周波数特性が、
ある範囲内にぴったり収まっているわけではない。

4343のミッドバス、ミッドハイ、トゥイーターのレベルコントロールは飾りではない。
積極的に、それぞれのユニットのレベルを揃えるために必要不可欠なものだから、ついている。

彼らの調整が終った後、編集部による、
当時話題になっていたポータブル型のスペクトラムアナライザーのIvieの結果は、
左右の4343のレベルが見事に揃っていることを示していた。

BBCモニターに、4343のような連続可変のレベルコントロールがついている機種はない。
工場出荷時には、左右のペアの特性が揃えられていることも、関係していよう。

Date: 1月 31st, 2009
Cate: 4343, BBCモニター, JBL

BBCモニター考(その5)

JBLの4343のウーファー2231A(フェライトモデルは2231H)は、マスコントロールリングを採用している。
コーン紙とボイスコイルボビンとの接合部に金属製のリング(アルミ製)を装着することで、
比較的軽いコーン紙を使いながらも、振動板のトータル質量を増すことで、f0を拡張している。

マスコントロールリングなしで、コーン紙を厚くして同等の質量とすると、中低域のレスポンスが低下する。
質量の増加を、ボイスコイル付近に集中させているのが、この方式の特徴である。
というものの、やはり振動系の質量は100gをゆうにこえていたと記憶している。
38cm口径のコーン型スピーカーとしても、その質量は重量級といえる。

これを強力な磁気回路で駆動すれば、能率はそこそこ高くなる。

ロジャースPM510の軽量級のポリプロピレンのコーン紙とほどほどの磁気回路でも、
2231Aとほぼ同じ能率を実現している。
理屈の上では、能率が同じであれば、初動感度は等しい。
だが感覚的には同じとは認識しないのではないだろうか。

低能率のスピーカーをハイパワーアンプで鳴らせば、高能率とスピーカーと同等の音圧を得られる。
だからといって、高能率なスピーカーに共通する特質を、そこに聴くことはできない。

数値上でつじつまは合っていても、感覚的なつじつまはどうなのだろう。