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Mark Levinsonというブランドの特異性(その22)

ML2LとJC3のもっとも大きく異る点は、出力の大きさだと思う。
スイングジャーナルのCESの記事に載っているマークレビンソンの試作パワーアンプの出力は15W+15W。

ジョン・カールから手渡されたJC3の回路図が、2種類あることは書いた。
ひとつはネット上で公開されているもので、何かのオーディオ誌に掲載されたもののコピー、
もうひとつはジョン・カールの手書きによるもののコピーで、こちらは電源回路も含まれている。

JC3の基本回路構成は、いわゆる上下対称回路と呼ばれているもので、
初段はFETの差動回路、2段目はトランジスターによる増幅で、ドライバー段、出力段と続く。

ふたつのJC3の違いは、出力段とドライバー段、バイアス回路のトランジスターは同じものが使われているが、
初段FETの+側と2段目のトランジスターが他の品種に置き換えられている。
そのこともあってか、NFBの定数が異る。

もうひとつ異る点で見逃せないのが、出力段の電圧だ。
手書きのJC3の回路図では18V、もうひとつのJC3では20Vになっている。
わずかとはいえ出力アップが図られている。

JC3は、出力段の電源電圧の18Vから推測するに、出力は15Wとして設計されているのだろう。
1976年のCESで、マークレビンソンのブースに展示してあった試作品のパワーアンプは、
まずJC3そのものと考えて間違いないはずだ。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その21)

ML2Lを開発する前に、マーク・レヴィンソン自身が使っていたパワーアンプの中には、
パイオニア/エクスクルーシヴM4が含まれていた、と何かの記事で読んだことがある。

M4は50W+50Wの、A級動作のステレオ仕様のパワーアンプだ。
スピーカーははっきりとしないが、QUADのESLを使っていたことは間違いないだろう。
ML2Lと前後して発表されたHQDシステムの中核は、ESLのダブルスタックなのだから。

瀬川先生は、ML2Lは、輸入元(R.F.エンタープライゼス)の測定では、
50W(8Ω負荷)の出力が得られた、と書かれている。
おそらく公称出力の25Wまでが完全なA級動作で、それ以上はB級動作に移行しているだろう。

井上先生は「ML2Lでオペラのアリアを聴いていると、いい音で、気持ちいいんだよなぁ。
でも曲が盛り上がってきて、合唱が一斉に鳴り出した途端に、音場感がぐしゃと崩れるのがねぇ……。
そうとう能率の高いスピーカーでない限り、25Wの出力は、やっぱりきつい。」と言われていた。

ML2Lがクリップすると言われているのではない。
それまできれいに展開していた音場感が、曲の高揚とともに、それなりの出力を要求される領域になると、
途端に音が変化すると言われている。

25Wまででカバーできているときの音は素晴らしいけれど、それ以上の出力となると、
おそらくA級動作からはずれるのであろう、その音の違いが如実に現われたのかもしれない。

ESLの能率は低い。25Wでは出力不足を感じることもあっただろう。
だからブリッジ接続による出力増大が必要になったのかもしれない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その20)

ML2Lは、出力段がA級動作のため、消費電力は常時400Wながら、出力は8Ω負荷時で25W。
ただ、同時代の他のパワーアンプと違うのは、スピーカーのインピーダンスが4Ω、2Ωとさがっていくと、
理論通りに50W、100Wの出力を保証している。

4Ω負荷で2倍の出力を得られるものは数は少ないながらもいくつか存在していたが、
2Ωまで保証していたものはなかった。

またML2Lを方チャンネル当り2台必要とするブリッジ接続では、
8Ω負荷で、これも理論通りの100Wを実現している。
ブリッジ接続時では4Ω負荷で200Wまで保証している。

このブリッジ接続に関しても、大抵のアンプは2倍までの出力増にとどまっていた。

ブリッジ接続はスピーカーの+側と−側の両方からドライブする。
つまり8Ω負荷の場合、アンプ1台あたりの負荷は半分の4Ωになる。
負荷が4Ωになれば、出力は2倍になる。しかも±両側からのドライブだから、
さらに2倍になり、4倍の出力が得られるわけだ。

ML2LはA級動作ということに加え、出力が理論通りに増加することの実現で、
理想的なアンプ、完璧なアンプという印象を与えようとしていたように、いまは感じなくもない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その19)

ML2Lが登場した時にも、その後にも話題になったことはほとんどないが、
ML2Lはバランス入力を装備している。
1970年代後半のこの時期、バランス入力をもつコンシューマー用パワーアンプは、
すこし前に登場したルボックスのA740ぐらいだった。

当時バランス出力をもつコントロールアンプは、コンシューマー用モデルには存在してなかった。
だから話題にならなくて当然とも言えるのだが、なぜML2Lはバランス入力だったのか。
LNP2LもXLR端子は備えていても、アンバランス出力であり、
少なくともマーク・レヴィンソンが指揮していた時代に、バランス出力のコントロールアンプは登場しなかった。

ML2Lの入力端子は、CAMAC規格のLEMOコネクターによるアンバランス入力が2系統ある。
通常の非反転入力(正相)、反転入力(逆相)、それにバランス対応のXLR端子だ。

アンバランス入力で使用する場合には、使わないアンバランス入力にショートピンを挿しておく。
XLR端子でショートさせても同じことだ。

反転入力の場合、バッファーアンプを経由することになる。

ML2Lのバランス入力はブリッジ接続を可能にするためにつけられたのではないかと、私は見ている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その18)

ジョン・カールは、ML2Lの回路とコンストラクションは、JC3と同じだと言っていた。
だから彼に訊いた。「あのヒートシンクは、特注品なのか、誰のアイデアなのか」と。

私の中では、星形のヒートシンク・イコール・ML2Lとイメージができ上がっているほど、
強烈な印象を与えていたヒートシンクは、実は、一般に市販されていたもので、
JC3にも当然使用していた、とのこと。

そういえば1970年代なかごろ、ダイヤトーンのパワーアンプDA-A100は、
カバーがかけられているため目立たないが、ML2Lと同じ型のヒートシンクを使っている。
それにマークレビンソンと同じ時代のアンプ・ブランド、
ダンラップ・クラークのDreadnaught 1000、Dreadnaught 500も、サイズはひとまわり小さいようだが、
やはり同型のヒートシンクを、シャーシーの左右に、むき出しで取りつけている。
Dreadnaught 1000は空冷ファンを使っているため、ヒートシンクは横向きになっている。

たしかに、ジョン・カールが言うように、市販されている、一般的なパーツだったようだ。

なのに、なぜML2Lだけに、星形のヒートシンクのイメージが結びついているのか。
Dreadnaught 500も、真上から見たら、ML2Lと基本的なコンストラクションは同じといえよう。

異るのは、ヒートシンクの数とその大きさ。
ML2Lを真上から見ると、ヒートシンクが3、中央のアンプ部のシャーシーが4くらいの比率で、
ヒートシンクは左右にあるため、半分以上はヒートシンクが占めている。

一方Dreadnaught 500は、ヒートシンクがひとまわり小さい。
それにパネルフェイスの違いもある。

ML2Lは中央下部に電源スイッチがひとつと、ラックハンドルだけのシンプルなつくりなのに対して、
Dreadnaught 500は、2つの大きなメーターのほかに、電源スイッチと4つのツマミがあり、
どうしてもパネルの方に目が行ってしまう。

ML2Lには精悍な印象がある。音だけでなく、見た目にも無駄な贅肉の存在が感じられない。

1976年のCESのマークレビンソンのブースに展示されていたステレオ仕様のパワーアンプが、
ジョン・カールが主張するJC3そのものだとしたら、
ML2Lのイメージは、JC3のイメージそのものであり、
おそらくこのアンプこそ、JC3であった可能性が高い。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その17)

ML2Lは、シャーシー両サイドに3基ずつ、計6基のヒートシンクを備えていて、
この星形のヒートシンクが、ML2Lの外観上の大きな特徴にもなっている。

アンプ内部のコンストラクションは、フロントパネルの真裏に電源トランス、
そして平滑用コンデンサー、金属の仕切り板(シールド板)があり、
その向こうにプリント基板が2枚垂直に取りつけられている。
リアパネル側に近いほうが電圧増幅段で、もう1枚が定電圧回路と保護回路となっている。

6基あるヒートシンクは、左右で+側と−側に分かれており、
それぞれフロントパネルの真裏の1基ずつが定電圧回路の制御トランジスターが取りつけてある。

ML2Lは、電圧増幅段だけでなく、ドライバー段、出力段の電源供給をすべて定電圧電源から行なっている。
言うまでもなくML2LはA級動作のパワーアンプである。
この部分の放熱量もかなりのものとなる。

真ん中と後ろ側のヒートシンクが、出力段のためのもので、
それぞれのヒートシンクにパワートランジスターが2つずつ取りつけられている。
真ん中のヒートシンクにはドライバー段も含まれている。

つまりML2Lの出力段は、4パラレル・プッシュプルである。

これらのヒートシンクは、上下の取りつけネジを外せば、容易に取り外せる。
電圧増幅段の基板、定電圧電源・保護回路の基板も、
メイン基板にコネクターで接続されているので、交換は容易だ。

メンテナンス性は高く設計されている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その16)

ヴェンデッタリサーチを興したころのジョン・カールにインタビューした時の話を元に書いている。

その時は不思議に思わなかったけれど、彼は、この時、JC3の回路図のコピーを用意していた。
事前に、マークレビンソン時代のことを訊くことは伝えていなかったし、
マークレビンソンのことが話題になったのも話の流れから、であった。

なのに彼は、JC3の回路図のコピーを2枚渡してくれた。
1枚は手書きのもので、もう1枚はインターネットで公開されているもの。
ほとんど同じだが、一部定数が異る箇所があるくらい。

インタビューは、1987年ごろだった。マーク・レヴィンソンと決裂して10年は経っている。

いま思えば、ジョン・カールは、アンプの技術者としての誇りを、
まわりは、なぜ? そこまでこだわるのか、と思うほど、大切にしていたのだろう。
だからこそ、己が設計(デザイン)したアンプには、JCとつけるのであって、
それを無断で外されること以上の、彼に対する侮辱はないのかもしれない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その15)

JC1、JC2のJCは、ジョン・カール (John Curl) の頭文字である。

ジョン・カールに聞いた話では、当時、彼が住んでいたスイスまで、
マーク・レヴィンソンが訪ねてきて、彼の手もとにあったJC3を回路図と一緒にアメリカに持ち帰った。
それから1年以上が経ち、マークレビンソンからML2Lが発表された。
しかも、そのまえに、JC2がML1Lへと変更されている。

MLはもちろんMark Levinson の頭文字である。
この変更についても、事前にジョン・カールに何の連絡もなかった、ときいている。

このふたつの件で、ジョン・カールとマーク・レヴィンソンの仲は、完全に決裂する。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その14)

1976年のスイングジャーナルのオーディオのページに、CESの記事が載っている。
そこに興味深いものが写っている。

マークレビンソン・ブランドのパワーアンプである。
ML2Lの登場は77年であり、モノーラル・パワーアンプで、出力は25W。

写真のパワーアンプにはまだ型番はなく、プロトタイプと思われる。
外観はML2Lそっくりで、独特の星形のヒートシンクが左右に3基ずつある。

ML2Lとの相違点は、ステレオ・パワーアンプということ、そして出力は15W+15W。
しかもフロントパネル中央には、電源スイッチが2つついている。

2つの電源スイッチが、左右独立したものなのか、片方がスタンバイスイッチなのかは、
まったく説明がないのと、写真が不鮮明で小さいため、はっきりとしたことはわからない。

おそらくこれがジョン・カールが言う「JC3」なのだろう。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その13)

マーク・レヴィンソン自身はアンプの技術者ではない。
だから、マークレビンソンのアンプには3人の男が関わっている。

ひとりめは、LNP1、LNP2の初期ロットやLNC1(LNC2の前身)に採用されたモジュールの設計者、
リチャード・S・バウエン(ディック・バウエン)だ。

ふたりめはLNP2の自社製モジュールの設計、ヘッドアンプのJC1、
薄型コントロールアンプの流行をつくったJC2を手がけたジョン・カール。

最後のひとりは、ML7Lの設計者として、はじめて名前が明かされたトム・コランジェロ。

マークレビンソン・ブランド初のパワーアンプML2Lの設計者は、当初、マーク・レヴィンソンだと伝えられた。
かなり後になり、ML2Lは、トム・コランジェロを中心としたチームの設計だと訂正された。

だがジョン・カールは「ML2はJC3と呼ぶべきアンプ」だと主張する。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その12)

石清水を入力したのに、出てきたのは濁水だった……。
そこまでひどいアンプは、当り前だが存在しない。

でも石清水の味わいが失われて、蒸留水に近くなったり、
蒸留水に、ほんのわずかだが何かが加わって出てくる。
そういう精妙な味わいの変化は、アンプの中で起こっている。

完全な理想のアンプが存在しない以上、
アンプの開発者は、なにかを優先する。

ある開発者は、できるだけアンプ内で失われるものをなくそうとするだろう、
また別の開発者は、不要な色づけをなくそうとするだろう。

もちろん、その両方がひじょうに高いレベルで両立できれば、それで済む。
現実には、特にマーク・レヴィンソンがLNP2に取り組んでいたころは、
失われるものを減らすのか、それとも色づけをなくしていくのか、
どちらを優先するかで、つねに揺れ動いていても不思議ではない。

ふたつのLNP2を聴いて、私が感じていたのは、そのことだった。

バウエン製モジュールのLNP2は、失われるものが増えても、色づけを抑えたい、
マークレビンソン製のモジュールのLNP2Lは、できるだけ失われるものを減らしていく、
そういう方向の違いがあるように感じたのだった。

LNP2Lは失われるものが10あれば、足されるものも10ある。
LNP2は足されるものは5くらいだが、失われるものは15ぐらい、
少し乱暴な例えではあるが、わかりやすく言えば、こうなる。

水の話をしてきたから、ミネラルウォーターに例えると、
LNP2Lは硬水、LNP2はやや軟水か。水の温度も、LNP2Lのほうがやや低い。

これは、どちらのLNP2が、アンプとして優れているかではなく、
オーディオ機器を通して、音楽を聴く、聴き手の姿勢の違いである。

音楽と聴き手の間に、オーディオ機器が存在(介在)する。
その存在を積極的に認めるか、できるだけ音楽の後ろに回ってほしいと願うのか、
そういう違いではないだろうか、どちらのLNP2を採るか、というのは。

そして、LNP2Lを通して足されるものに、黒田先生は、
マーク・レヴィンソンの過剰な自意識を感じとられたのではないのか。

足されるものは、聴き手によって、演出になることもあるし、邪魔なものになる。

瀬川先生は、LNP2Lによって足されるものを、積極的に評価されていたのだろう。
だからこそ、アンプをひとつ余計に通るにも関わらず、バッファーアンプを搭載することに、
積極的な美(魅力)を感じとられた、と思っている。

だからML7Lが登場したとき、
黒田先生は、積極的に認められ導入されている。
瀬川先生は、ML7Lの良さは十分認めながらも、音楽を聴いて感じるワクワクドキドキが薄れている、
そんなことを書かれていたのを思い出す。

JBLの2405とピラミッドのT1Hの試聴記も思い出してほしい。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談)

「人間の死にざま」(新潮社)に所収されている「音と悪妻」で、

このところ実は今迄のマッキントッシュMC275の他に、関西のカンノ製作所の特製になる300B-M管一本を使ったメイン・アンプを併用している。これは出力わずか8ワットという代物である。さすがに低域はマッキンの豊饒さに及ばぬが、だが、何という高音の美しさ、音像の鮮明さ、ハーモニイの味の良さ……昔の愛好家がこの真空管に随喜したのもことわり哉と、私は感懐を新たにし、マッキンよりも近頃は8ワットのカンノ・アンプで聴く機会が多い。

と書かれ、組み合わされているコントロールアンプについて、「ベートーヴェンと雷」のなかで、
マークレビンソンのJC2だとされている。

念のため、関西の、と書かれているが、正しくは、小倉の、である。

カンノ・アンプをお使いだったことは、以前から知っていた。
コントロールアンプはマッキントッシュのC22かマランツの#7のどちらかで、
おそらく#7かな、と思っていただけに、
JC2の文字を見た時は、驚きよりもうれしさのほうが大きかった。

実は、私もJC2を使っていたからだ。

1987年だったか、とある輸入商社の方にお願いして、アメリカから取り寄せてもらった。
しかもジョン・カールによってアップグレードされたJC2だった。
しかもJC1が搭載されているものだった(「人間の死にざま」を手に入れたのは2000年ごろ)。

ツマミは、初期の、細くて長いタイプ。
見た目のバランスは、途中から変更になった、径が太くなり、短くなったツマミの方がいいのはわかっているけど、
JC2の、あの時代のアンプの中で、ひときわとんがっていた音にぴったりなのは、やっぱり細いツマミだからだ。

五味先生のJC2がどちらなのかは、写真で見たわけではないのでわからない。
けれど、きっと初期のモノだと、確信している。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その11)

岡先生は、バウエン製もジュールのLNP2を購入されたあとに、
マークレビンソン自社製モジュールのLNP2との比較も行なわれたうえで、
バウエン製モジュールのLNP2を、高く評価されていた。

瀬川先生は、バウエン製モジュールのLNP2は聴かれていないはず。
もし聴かれていたとしても、自社製モジュールのLNP2をとられたであろう。

なぜそうなるのか。
おふたりの、オーディオを通しての、音楽の聴き方の違いから、であろう。

70年代のステレオサウンドの別冊で、
岡先生、瀬川先生、黒田先生の鼎談が掲載されている。
読んでいただければわかるが、岡先生と黒田先生の意見に対し、
瀬川先生の意見が、まるっきりかみ合わない。
これはレコード音楽の聴き方の相違から生れてくるもので、
相手を理解していないからでは、決してない。だから、ひじょうに面白い鼎談になっている。

この時期(70年代後半)に、黒田先生が、2つのLNP2を聴かれたら、
おそらく岡先生と同じようにバウエン製モジュールのほうを選ばれたかもしれない。

1980年にML7Lが登場したときに、黒田先生がステレオサウンドに書かれた文章に、興味深いことが出てくる。

ML7L以前のマークレビンソンのアンプには、己の姿を鏡に写して、それに見とれているような、
そんな印象を受けていた。ML7Lには、そういうところがなくなっている。
そんな意味合いのことだった。

黒田先生が言われる、ML7L以前のアンプは、LNP2とJC2 (ML1L) のことであり、
LNP2は、自社製モジュールの搭載のもの。

黒田先生は、世紀末はナルシシズムの時代とも書かれていた。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その10)

“straight wire with gain” を目指したアンプは、
味も風味もない、素っ気無い音の代名詞のようにいわれた時期があった。
蒸留水のような音、とも言われていた。

この「蒸留水のような」という表現は、あきらかに誤解を生み易い。
たしかに蒸留水は、味気のない水で、ちっともおいしくはない。

けれど、もう一度、”straight wire with gain” をきっちりと捉えなおしてほしい。

もし完璧な “straight wire with gain” といえるアンプが存在していたとしよう。
このアンプに蒸留水を入力すれば、出力には蒸留水のまま、水量だけが変化して出てくる。
清冽な石清水を入れたら、やはり水量だけ変化して石清水が、成分はまったく変化せずに、
濁水ならば、浄水されることなく、そのまま濁水で出てくる。

石清水を入れても濁水でも、出てくるのが蒸留水であるのなら、
それはフィルターを通した水(音)であり、この手のアンプは、断じて “straight wire with gain” ではない。

蒸留水イコール無色透明なわけではない。

これから先、どんなに技術が進歩しようと、少なくとも私が生きている間には、
“straight wire with gain” を実現できるアンプは現われはしないだろう。

2台のLNP2(岡先生のLNP2とステレオサウンド常備のLNP2L)は、
内部のモジュールが違い、外部電源の仕様もまったく違う。
そのモジュールも、設計者が同じならばまだしも、かたやリチャード・S・バウエン、
もう片方はジョン・カールと、これもまた違う。
つまりまったく別物のアンプと捉えるべきだ。なのに外観がまったく同じ。
こんな例はおそらくLNP2が初めてだろうし、最後だろう。

どちらのLNP2を良しとするかは、聴き手次第であり、私は、迷うことなくLNP2Lをとる。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その9)

1970年代の半ばごろか後半か、アメリカのオーディオジャーナリストのジュリアン・ハーシュが、
理想のアンプの条件として、”straight wire with gain(増幅度をもったワイヤー)” と定義した。

いまではあまり見かけなくなり語られなくなったようだが、一時期はよく引き合いに出されていた。

ジュリアン・ハーシュが、どこからインスピレーションを得て、この言葉を思いついたのかは不明だが、
LNP2や、さらにシンプルな機能のJC2の登場が、多少は関係しているように思われる。

この “straight wire with gain” といっしょに語られていたのが、アンプの理想を蒸留水とした例えである。