Archive for category テーマ

Date: 11月 5th, 2013
Cate: 3D Printing

アナログディスクと3D Printing(その4)

DMMのように工程を省略するのであれば、
3D Printingによってスタンパーをつくり出す、ということも考えられる。
そうすればアナログディスクの量産にも問題はない。

だが私はおもうに、アナログディスクの音の魅力というのは、
やはりカッティングヘッドによって、
電気信号が機械的振動に変換されて溝が刻まれていくことにある、と。

これになんの根拠もない。
しかもラッカー盤というやわらかいものをカッティングするのと、
銅円盤という、金属としてはやわらかい銅とはいえ、ラッカーに比べれば硬い。
そういう硬いものをカッティングするのとでは、音に違いが出て当然である。

工程が省けるかどうかによる音の違いもあるから、
通常のスタンパーの製造過程とDMMによる製造過程の音の違いは論じにくい、ともいえる。

私がいま夢想しているのは、
これまで通りラッカー盤をカッティングする。
そのラッカーマスターを光学的にスキャンして得られたデータを、
3D Printingによってスタンパーとして出力する、ということだ。

これはもう夢物語ではない。
現実につくりあげる技術は揃っている。
あとは、それらの技術をどう構築していくか、である。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: 3D Printing

アナログディスクと3D Printing(その3)

メタルマザーができた時点で検聴が行われる。
それまでの工程でミスがなかったどうかの確認のためである。

異常がなければメタルマザーにニッケルメッキを施しスタンパーをつくる。
これがアナログディスクのプレスにつかわれるスタンパーとなり、
ひとつのメタルマザーから複数枚のスタンパーがつくられる。

これがスタンパー工程である。

メタルマスターもスタンパーとして使用できるのだが、
メタルマスターをスタンパーとして使ってしまうと、
一枚のラッカーマスターから一枚のメタルマスターしかつくれないわけで、
つまりは一枚のラッカーマスターからは一枚のスタンパーしからつくれないことになり、
量産向きとはいえなくなる。

だからマザー工程を経てスタンパーをつくる。

ラッカーマスター、メタルマスター、メタルマザー、スタンパーというふうにつくられていくわけで、
ラッカーマスターの溝を忠実に反転したスタンパーをつくろうとしているわけだが、
これだけの工程を経ていると、どれだけラッカーマスターに忠実なのかは正直なんともいえない。

ならば少しでも工程を省いてしまえば、ずっとラッカーマスターの溝に忠実になるはず。
そういう発想から誕生したのが、テルデックが1982年ごろに開発したDMM(Direct Metal Mastering)である。

DMMは銅円盤に、高周波バイアスをあたえて直接カッティングする。
それによりメタルマザーがカッティング工程だけでできあがる。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: 3D Printing

アナログディスクと3D Printing(その2)

スタンパーとはラッカー盤に刻まれた溝をそのまま反転して突出したものである。
アナログディスクに刻まれている溝を音溝というならば、スタンパーのは音山とでもいおうか。

しかもプレスに使うものだからスタンパーは硬いものでなければならない。
そのスタンパーをカッティングしたラッカー盤(ラッカーマスター)から直接つくれればそれにこしたことはない。

けれどそうもいかなくて、まずラッカーマスターの表面にごく薄い硝酸銀の膜を吹きつける。
こうすることで電気の不良導体であるラッカーマスターが電導体となる。
この処理のことを、銀鏡処理という。
つまりメッキするための下準備である。

銀鏡処理がすんだラッカーマスターにニッケルメッキを行う。
始めは電流を少なくして、ある程度ニッケル層ができ上がってきてからは電流を増していき、
ニッケル層を十分な厚みまで増していき、ラッカーマスターから剥離する。
これで厚さ約0.3mmのニッケル盤ができ上がる。

このニッケル盤のことをメタルマスターと呼び、
ここまでの工程がマスター工程となる。

ラッカーマスターからメタルマスターを剥離する時に、
ラッカーマスターに吹きつけた銀はメタルマスター(ニッケル)側にすべてついてくる。

つまりラッカーマスターの音溝をもっとも忠実に転写しているのは、この銀の部分ということになる。
この銀膜は厚さ約0.08ミクロンから0.1ミクロンほどの薄さだ。

このメタルマスターにさらにニッケルメッキを施す。
それを剥離したものがメタルマザーと呼ばれるもので、
ラッカーマスターから転写を二回行っているから、メタルマザーはラッカーマスターと同じ溝のディスクであり、
もちろん、このメタルマザーはラッカーマスターと同じように再生することができる。

とはいえメタルマザーなので(材質の違いにより)、ラッカーマスターとは異る音だという。
しかもニッケルは磁性体なので、マグネットが強力なMC型カートリッジは引きつけられるため、
メタルマザーの検聴には向かない。

メタルマスターからメタルマザーをつくる過程を、マザー工程と呼ぶ。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: 3D Printing

アナログディスクと3D Printing(その1)

3Dプリンターでアナログディスクを出力する──、
こんなことを試した人がいることを約一年前に紹介している。
Digital Integration(デジタル/アナログ変換・その2)をお読みいただきたい。

こういう発想は思いつかなかった。
アナログディスクの製造方法として少量生産ならばおもしろいだろうが、
あるまとまった数になると効率がいいとはいえない。
やはり、従来と同じようにプレスしていくのが効率的である。

プレスしていくためにはスタンパーが必要になり、
そのスタンパーをつくる工程としては、まずカッティングがある。

カッティングマシンによりラッカー盤への切削である。

ラッカー盤とは平坦なアルミ盤(厚さ約0.95mm)の両面に、
硝化綿(ニトロセルロース、別名ラッカー)をコーティングしたもの。
ラッカーのコーティング層の厚みは約0.185mm。

ラッカー盤の製造会社は、アナログディスク全盛時代には海外に三社あった。
ラッカー盤以前はロウ盤が使われていた。

ロウ盤でもレコードの製作は可能なのだが、
テストカッティングしたロウ盤は再生することができなかった。
ラッカー盤は基本的に一回の再生には耐えられる。
もちろん一度再生したラッカー盤はそのまま廃棄される。

カッティングされたラッカー盤はいわばアナログディスクの原型でもある。
これをベースにしてスタンパーがつくられるわけなのだが、
その過程はいくつかの工程にわけられる。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: デザイン

オーディオ・システムのデザインの中心(LINN EXAKT)

インターナショナルオーディオショウに最終日にも行ってきたのは、
VOXATIVのAmpeggio Signatureをもう一度聴きたかったのがまず第一にあり、
初日に聴き忘れていたLINNの新システムEXAKT(イグザクト)を聴いておきたかったのも理由のひとつである。

EXKATの詳細についてはLINNのサイトを参照していただくとして、
この新システムを構成するコンポーネントは一組のスピーカーシステムKLIMAX EXAKT 350と、
入力機器にあたるEXAKT DSMだけである。
コントロールアンプもパワーアンプも要らない。

パワーアンプはスピーカーエンクロージュア内にフローティングされて搭載されている。
実にシンプルな構成のシステムである。
実際にはハードディスクも必要となるが、
EXKAT DSMを含めてこれらは目につかないところに隠して置くこともできる。

そうなると聴き手の視覚にはいってくるのはスピーカーシステムのKLIMAX EXAKT 350だけとなる。
他の仕上げがあるのかどうかは知らないが、LINNのブースにあったKLIMAX EXAKT 350は黒仕上げだった。
存在を目立たせないように黒を選んだようにも思えた。

LINNはシステムを消し去りたいのかもしれない──、
そんなことも思ってしまった。

LINNのEXAKTシステムで聴き手が操作のために触れるのは、
専用アプリをインストールしたiPadになる。
そうなると専用アプリのインターフェースのデザインこそが、
EXAKTシステムのデザインの中心となるのだろうか。

この項を書き進めていくにあたり、
このことを踏まえて考え直さなければならないかもしれない──、
そんなことを考えていた。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: ショウ雑感
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2013年ショウ雑感(行けば楽しい・その2)

国際フォーラムに搬入するということは、その前に各メーカー、輸入商社は自社からの搬出作業がある。
その搬出作業の前には機材のチェックがあるはずだし、梱包作業がある。
そうやって搬出し、会場に搬入し、開梱して設置する。
場合によっては、梱包資材はブースに置ければいいけれど、そうもいかなければ持って帰ることにもなる。
搬出作業はこの逆を行う。

実際にやってみると、たいへんなことである。
しかも今週末(8、9、10日)は大阪でまたオーディオショウがある。
ほとんどの会社が前日には大阪入りすることだろうから、
インターナショナルオーディオショウとハイエンドオーディオショウの両方に出展する会社は、
例年よりも大変であろう。

いま東京で開催されるオーディオ関係のショウはほとんどが無料である。
インターナショナルオーディオショウもハイエンドオーディオショウも入場するのにお金は要らない。
もっとも会場で欲しい、と思ったモノを手に入れるには、かなりの金額を必要とするけれども。

けれど会場を借りるのにはお金が必要となる。
搬入搬出作業にもお金はかかる。
お金はそれ以外にも出ていく……。

そういうオーディオショウが無料で入場できるわけだ。
なのに、人が多いとか、まともな音なんか聴けないから、とか、
電車に乗るのが面倒だから、とか、家族サービスをしなければならない、とか、
行かない理由なんて、いくらでもつけようと思えばつけられる。
そうやって行かない人は、もしオーディオショウが開催されなくなったら、
なんというだろうか。

毎年開催してくれている、とおもっている。
それも営業活動だろう、といえばそうである。
けれど、直接的な営業活動ではない。
あくまでも間接的な営業活動でしかない。

Date: 11月 4th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(行けば楽しい・その1)

今年のインターナショナルオーディオショウには初日と最終日に行った。
行くまでは、人が多いんだろうな……、そんなことを思っている。
でも会場に着き、それぞれのブースを廻っていると、やはり楽しい。

音なんて、ブースに入って瞬間にわかる、
だから一分もいないよ、
──こんなことを堂々と語る人を知っている。
インターネットにも同じようなことを書いている人もいる。
同じ人なのかどうかはわからないけれど、
こんなことを言って、何が楽しんだろう……、と思う。

自分の耳の良さでも自慢したいのだろうか。
そうやって自慢しなければならないほどの耳なのか。

どのブースにしても100%の状態で鳴っているわけではない。
そんなことは、このインターナショナルオーディオショウに何度か来ている人ならばみなわかっている。

だから聴く価値がない、という人もいる。
ほんとうにそう思っているのだろうか。

いくつか注文をつけたくなるところは私も持っている。
それでも、行けば楽しい。

おそらくショウ初日の前日の夜に、
各ブースの人たちは搬入作業をやっているはず。
エレベーターの数は限りがあるから順番を守っての搬入になるはずだ。

インターナショナルオーディオショウで使うブースはほとんどが会議室としてつくられているわけだから、
展示場として設計されている施設よりも搬入条件はよくない、と思う。

そうやって搬入してオーディオ機器の設置、それにブースの設置などの作業。
それから音を出しての調整。

初日の朝も、調整しているところもある、と思う。
実際に数年前、ショウの二日目の朝、あるブースで調整の最中だった場に遭遇している。

Date: 11月 4th, 2013
Cate: audio wednesday

第34回audio sharing例会のお知らせ(瀬川冬樹氏のこと・再々再掲)

今月のaudio sharing例会は今週の水曜日(6日)である。
翌7日は、瀬川先生の命日であり、三十三回忌となる。

だから、前日6日のaudio sharing例会では、
私が所有している瀬川先生の未発表原稿(未完原稿)、
デザインのスケッチ画、かなり若いころに書かれたある記事のプロットといえるメモ、
瀬川先生が考えられていたオーディオ雑誌の、いわば企画書ともいえるメモ、
その他のメモなどを持っていく。

これらはいずれきちんとスキャンして公開していくつもりだが、
原稿、メモ、スケッチそのものを公開するのは、この日(11月6日)だけである。
今後一般公開しない。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 11月 4th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その8)

デモンストレーションとは、辞書(大辞林)には、
勢力・技能・性能などをことさらに示すこと。また、そのための行動や実演、とある。

勢力・技能・性能などを示すことがデモンストレーションであるのなら、
音出しをデモンストレーションと呼ぶことに抵抗はないのだが、
「ことさらに」とあるから、デモンストレーションは使いたくないし、抵抗を感じる。

ことさらとは、際立つように意図的に物事を行うさま。故意に、わざと、と辞書にはある。

オーディオフェアのような会場では、「ことさらに」も必要となってきたかもしれないが、
インターナショナルオーディオショウでは「ことさらに」は必要ではない。
だからデモンストレーションではない。

ならば、講演なのか。

講演とは、聴衆の前で、ある題目のもとに話をすること。また、その話であるから、
インターナショナルオーディオショウでオーディオ評論家と呼ばれている人がそれぞれのブースで、
そこで取り扱っているオーディオ機器について話すことは、講演の範疇に、言葉の意味としては入る。

講演と呼ぶことを理解はできても、それでも納得がいかない。
講演と呼んでいいのか、というおもいがどうしても残る。

講演の講の文字が頭につく言葉には、講解、講学、講義、講座、講師、講釈、講読、講評、講明、講論などがある。
講演を含めて、これらから受ける印象が、
どうしてもインターナショナルオーディオショウのブースでやられていることとはあわない。

何もすべての、それぞれのブースでやられていることが講演と呼べないとは私だって思っていない。
講演だ、と思える場合も確かにある。
でも、残念なことにそれはわずかである。

インターナショナルオーディオショウで行われている、いわゆる講演のすべてをきくことはできない。
体はひとつしかないから。
でも、関心があまり持てない人でも、一度は、そのブースに行ってきいてはいる。

Date: 11月 4th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その3)

ステラのブースで鳴っていたスピーカーもアンプも、それにAir Force Oneも、
私にとっては初めて聴くモノばかりであった。
そういうシステムで、しかも比較対象がない状況でどれだけ正確に音を判断できるのか。
そのことに疑問を持たれるかもしれない。

アナログプレーヤーを、聴きなれているモノと比較できれば、
より正確にAir Force Oneの実力・素姓は掴める。

今日の音出しは、何ひとつ変えることなく、二時間Air Force Oneによるアナログディスクの再生だった。
同じディスクのCDが再生されることもなかった。

それでもアナログディスクにはスクラッチノイズが、宿命的につきまとう。
そしてこのスクラッチノイズが、こういうなにもかもが聴くのが初めてのシステムであっても、
確かな基準となってくれる。

別のブースでのことだが、ここでもアナログディスクがかけられていた。
高価なカートリッジ、高価なトーンアーム、高価なターンテーブル、
トータル金額はAir Force Oneには及ばないものの、かなり高価なシステムである。
このシステムも、初めて聴くモノばかりで構成されていた。

このプレーヤーでのスクラッチノイズは出方は、
私が良しとするアナログプレーヤーでので方とは異質の出方だった。
ノイズの量としては多くはないけれど、やけに耳につく。
なぜ、そういうノイズになってしまうのか、
そのアナログプレーヤーを自分の手で調整してみて音を聴いてみないとはっきりとしたことは何も言えないが、
ただ単に調整がおかしいだけとは思えない、そんなノイズの出方・質(たち)であった。

Date: 11月 4th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その2)

朝からの用事が予想以上にはやく片づいたので、今日もインターナショナルオーディオショウに行ってきた。
会場に着いたのが13時ごろ。

まずアークのブースに行き、VOXATIVが鳴らされる時間をチェックして、
それまでの間リンのブースに行っていた。
それからアークのブースに15時までいて、
ふと前を通りかかったステラのブースに入ったら、
ちょうど柳沢功力氏によるテクダスのAir Force Oneの音出しが始まるところだった。

一昨年展示してあったAir Force One、
この時は音は聴けなかった。
去年はインターナショナルオーディオショウに行けなかった。
なのでやっと今年、その音を聴くことができた。

最初にかけられたディスクは、柳沢氏ということから、すぐに、あれか、と思われる方も少なくないと思う、
ローズマリー・クルーニーだった。
このローズマリー・クルーニーのディスクは所有していないけれど、
何度か聴いたことのあるディスクである。

ローズマリー・クルーニーのディスクの上にカートリッジの針先が降ろされ、
音が鳴り出すまでのわずかの間、ここから、おっと思わせる。
音が鳴る。
見事だ、と素直に思える音が鳴ってきた。

アナログディスク再生に関しては、これまでいくつかの印象に強く残る出合いがある。
トーレンスのReferenceを初めて聴いたときのこと、
EMT・927Dstを聴いた時、
トーレンス101 Limitedを手に入れての、はじめての音出し。
その101 LimitedにノイマンのDStとDST62を取り付けて鳴らした音、
マイクロのSX8000IIをステレオサウンドの試聴室で初めて聴いた時、
そしてそのSX8000IIにSMEのSeries Vを取り付けて聴いた時、などである。

テクダスのAir Force Oneの音も、そうなる。
特にSeries Vを聴いた時、アナログディスクでもここまで鳴るのか、と、
アナログディスクの仕組み上のあきらめなければならないと思っていたことを、
Series Vは見事に克服していた。

そのSeries Vに感じた、同じことをAir Force Oneにも感じていた。

Date: 11月 3rd, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その7)

オーディオフェア・オーディオショウで音を出さないブースはない。
来場者は音を聴きに来ているわけだから、音を出さないわけにはいかない。

この音を出す行為は、なんと呼ぶのがいいのだろうか。

晴海でのオーディオフェアでの音出しは、会場がああいうものだったこともあり、
デモンストレーション(demonstration)がぴったりきていた。

インターナショナルオーディオショウのように各ブースが音響的に隔離されているわけではなかった。
晴海の見本市会場に仕切を立てて各社はブースをつくっていく。
来場者の数も多い。
会場内のS/N比は、インターナショナルオーディオショウとは比較にならぬほど悪かった。
そういう環境での音出しだからこそ、デモンストレーションだった。

いまはそうではない。
インターナショナルオーディオショウの会場となる国際フォーラムの扉は重く分厚い。
会議室としてつくられているだけに、扉を閉めてしまえば遮音は完璧とはいかないものの、悪くはない。
こうなってくると、ここでの音出しは、もうデモンストレーションとは呼びにくいし、そう呼ぶことに抵抗もある。

ではなんと呼べばしっくり来るのか。

すべてのブースではないが、半数以上のブースではオーディオ評論家と呼ばれている人たちによる音出しをやる。
これをインターナショナルオーディオショウでは講演と呼んでいる。
これも、まったくしっくりこない呼び方だ。

Date: 11月 3rd, 2013
Cate: デザイン

オーディオ・システムのデザインの中心(その8)

フランケンシュタインは理想の人間をつくろうとする。
そのために墓を暴き死体を掘り起し、それらの死体をパーツとしてつなぎ合わせて「理想の人間」をつくる。

だが「理想の人間」は容貌が醜かった。
醜かったから「理想の人間」ではなく怪物と呼ばれるようになった。

フランケンシュタインがやろうとしたこと、やったことは、
いまわれわれがオーディオでやっていることと同じではないのか。

フランケンシュタインのように墓を暴くという犯罪行為こそしないものの、
理想の音を求めて、それを実現するため、少しでも近づこうとするために、
あらゆるパーツを組み合わせて、ひとつのシステムをつくり上げる。

カートリッジはA社のこれ、トーンアームはB社のこれ、ターンテーブルはC社……、
こんなふうにケーブルにいたるまで、いくつものパーツを試して(試聴して)、組み合わせていく。
フランケンシュタインがやっていたこととまったく同じではないか。

Date: 11月 3rd, 2013
Cate: デザイン

オーディオ・システムのデザインの中心(その7)

いまのQUAD、いまのマッキントッシュの、
それもアンプのデザインは決していいとはいえない。

好き嫌いは別として、以前のマッキントッシュのアンプのデザインには説得力のようなものがあった。
明るいところで電源が入っていない状態でしか見たことのない人もいるだろう。
マッキントッシュのアンプは、一度でいいからどこかのリスニングルームに置かれ、
少し暗くした状態で電源を入れた時に映える。

いまのマッキントッシュのアンプ、
特にコントロールアンプは安っぽくなった、という印象を拭えない。
アンプそのものが軽く感じられてしまう。

QUADに関しても創業者のピーター・ウォーカーがいなくなってからは、
デザインの統一感に関しては魅力的でなくなってきている。

マッキントッシュも、ゴードン・ガウがいなくなって久しい。
これは仕方のないことなのかもしれない。

オーディオというシステムにおけるデザインについて考えていると、
フランケンシュタインのことが浮んでくる。

フランケンシュタインについては説明は不要なような気もするが、
日本では人の体をつなぎ合せてつくられた怪物の名前がフランケンシュタインだと勘違いされることもある。
いうまでもなくフランケンシュタインは怪物の名前ではなく、
この怪物をつくりあげたスイス人の青年の名前が、フランケンシュタインであり、
怪物には名前はない。

Date: 11月 3rd, 2013
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, ショウ雑感

Bösendorfer VC7というスピーカー(2013年ショウ雑感)

Bösendorfer VC7というスピーカー」という項を立てて、(その28)まで書いている。
まだ書いて行く。

Bösendorfer(ベーゼンドルファー)からBrodmann Acousticsに変ってから、
日本へは輸入されていない。
現行製品ではあるけれど、日本ではいまのところ買えない。

だからこそ書いていこう、と思っているし、その反面、輸入が再開される可能性も低いだろう、と思っていた。

今年のインターナショナルオーディオショウでの、予想していなかった嬉しい驚きは、
Bösendorfer(Brodmann Acoustics)のスピーカーシステムが、
フューレンコーディネイトのブースの片隅に展示されていたことだった。

目立たないように、という配慮なのだろうか。
うっかりすると見落してしまいそうな感じの展示である。

今日の時点ではフューレンコーディネイトのサイトには何の情報もない。

Brodmann Acousticsのスピーカーシステムの日本での不在の期間(三年ほどか)がひどく永く感じられた。
このスピーカーシステムは、だからといって日本でそれほど売れるとは思えない。
思えないからこそ、このスピーカーシステムの輸入を再開してくれるフューレンコーディネイトには、
感謝に近い気持を持っている。

スピーカーのあり方は、決してひとつの方向だけではない。
そんなことはわかっている、といわれそうだが、
実際に耳にすることのできるスピーカーシステムの多くがひとつの方向に集中しがちであれば、
この当り前のことすら忘れられていくのではないだろうか。

その意味でも、Brodmann Acousticsが聴けるということは、
大事にしていかなければならないことでもある。
フューレンコーディネイトが、その機会をふたたび与えてくれる。