M君は東大に、
T君は航空自衛隊に、
それぞれ明確な目標を持っていた。
この二人とは違うけれど、忘れられない友人にA君がいる。
彼は東京から、小学五年のときに転校してきた。
20代まで私はガリガリだった。
A君もまた痩せていた。
二人とも、青瓢箪といわれてもいた。
それだからなのか、不思議と仲がよかった。
A君とは中学一年まで、約三年間同じクラスだった。
A君が東京から、熊本の片田舎に引っ越してきた理由は、
布教活動だった。
A君の一家はみなエホバの証人の信者だった。
だからといって、私にエホバの証人のことをすすめたりはしなかった。
けれど中学に入ると、体育の授業で柔道の時間がある。
A君は、エホバの証人の教えに反するという理由で、柔道のときには見学していた。
A君は、いろんなことに真面目だった。
勉強もよくできた。
けれどA君は高校進学をしなかった。
仕事に就き、布教活動に専念していた。
中学二年からは別々のクラスだったし、
そういうわけでA君は高校にいかなかったけれど、つき合いは続いた。
私が上京してからも、手紙のやりとりを何度かしていた。
当時はインターネットもスマートフォンもなかったし、
電話代も、東京と熊本とでは高かった。
A君はわりと早くに結婚した。
エホバの証人の女性と、である。
A君ならば、いい高校に行けたはずだし、大学もかなりのところに合格したと思う。
エホバの証人の信者でなければ、
信者であっても、不真面目な信者であったならば、
就職先にしても条件のいいところに入れただろうし、
ずっと裕福な生活を送っていただろうに……、と思ったことがある。
そんなことは彼に言ったことはないし、
もう会わなくなってけっこう経つ(単に私が帰省していないだけなのだが)。
以前は成人してからも、帰省したときに会っていた。
T君もM君も、自らの夢(目標)に向っていた。
A君は、そうではない(と私の目には映っていた)。
親が決めた、もしくはエホバの証人が決めた道を歩んでいる。
でもA君の口から、愚痴めいたことはいままで聞いたことがないし、
A君は幸せそうである。