Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 5月 31st, 2009
Cate: BBCモニター, D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

BBCモニター考(その8)

そういえば瀬川先生が、ステレオサウンド 56号に書かれていたことを思い出す。

JBLのパラゴンのトゥイーター(075)・レベルについて
「最適ポイントは決して1箇所だけではない。指定の(12時の)位置より、少し上げたあたり、少なくとも2箇所に、それぞれ、いずれともきめかねるポイントがある。そして、その位置はおそろしくデリケート、かつクリティカルだ。つまみを指で静かに廻してみると、巻線抵抗の線の一本一本を、スライダーが摺動してゆくのが、手ごたえでわかる。最適ポイント近くでは、その一本を越えたのではもうやりすぎで、巻線と巻線の中間にスライダーが跨った形のところが良かったりする。まあ、体験してみなくては信じられない話かもしれないが。」
という記述だ。

パラゴンと4344というシステムの違いはあるが、巻線抵抗のレベルコントロールは共通している。
その微妙さ(ときには不安定さ)も共通しているといえよう。

さきほどまでの、いい感じで鳴ってくれた音と、もう少しと欲張り、先に戻せなかった音の、
レベルコントロールの位置の差は、
まさに「巻線と巻線の中間にスライダーが跨った」かどうかの違いだったのかもしれない。

そうやって微妙な調整を経て、音はピントが合ってくるもの。
だから、巻線抵抗のレベルコントロールに文句を言っているように感じられるだろうが、
否定しているわけではない。

BBC モニター系列のスピーカーにレベルコントロールがついている機種は、あまりない。
ついていても連続可変ではなく、タップ切替による段階的なものである。

Date: 5月 30th, 2009
Cate: Mark Levinson, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(余談)

2345、つまりツウー、スリー、フォー、ファイブ、というカッコいい型番を与えられているホーンを読者はご存知だろうか。23ナンバーで始まる四ケタ番号は、JBL・プロ用の中高音ホーンだ。そのあらゆるホーンの中で2345という名は、決して偶然につけられたものではなかろう。このナンバーのもつ響きの良さ、語呂のスムーズさは、それだけでも商品としての魅力を持ってしまうに違いない。名前が良くて得をするのはなにも人間だけではない。オーディオファンがJBLにあこがれ、プロフェッショナル・シリーズに目をつけ、そのあげく2345という型番、名前のホーンに魅せられるのは少しも変なところはあるまい。マランツ7と並べるべくして、マッキントッシュのMR77というチューナーを買ってみたり、さらにその横にルボックスのA77を置くのを夢みるマニアだっているのだ(実はこれは僕自身なのだが)。理由はその呼び名の快さだけだが、道楽というのは、そうした遊びが入りやすい。
     ※
「ベスト・サウンドを求めて」で、こんなことを書かれている岩崎先生は、
真空管時代からトランジスターの初期の時代のマランツのモデルナンバーに、
#11と#17が欠けているのを、とても気にされていた、と沼田さんがレコパルに書いている。
#13も欠番なのだが、欧米では凶数だから、なくて当然だろう。

私が気になるのは、マークレビンソンのMLナンバーの欠番である。
レヴィンソンは、型番を順番通りにつけている。
LNP2にしても、その前に4台しかつくられなかったLNP1というモデルが存在しているし、
MLシリーズにしても、JC2からモデルチェンジしたML1からはじまり、ML2、ML3……とつづき、
ML12までラインナップされているが、ML4、ML8が欠番になっている??、
そう思い込んでいただけで、ML8は存在している。

ML8は、Brüel & Kjaerの測定用マイクロフォン・カプセル、4133/2619用につくられたプリアンプである。
ML5の資料に書いてあった。
日本ではあまり知られていないようだが、ML5は、
スチューダーのオープンリールテープレコーダーA80のエレクトロニクス部を、
マークレビンソンでつくりかえたもの。
このML5には、ML5Aという改良モデルがあったようで、これに搭載されているアンプが、L1カードである。
L1カードは、ML7のラインアンプでもある。とうぜん設計者は、トム・コランジェロ。

ただML5の設計者がコランジェロかどうかははっきりとしない。
ジョン・カールの可能性も捨てきれない。
ジョン・カールは、マークレビンソンのアンプを設計する以前は、アンペックスのエンジニアだった。
テープレコーダーの設計にも携わっていた。
だからジョン・カールがML5を設計し、ML5Aに採用されたL1はコランジェロということなのかもしれない。

ML4が存在していたのか、それともほんとうに欠番だったのかは、まだはっきりとしない。
日本が大きな市場だったマークレビンソンにとって、4は日本では嫌われているのを知っていて、避けたのか。
MLシリーズが12で終ってしまったのは、やはり13が凶数だからなのか。

この他にR1というモデルが存在していたこともわかった。
マランツ#10BやセクエラのModel1の設計者と知られるリチャード・セクエラによる
リボン型トゥイーターT1の、マークレビンソンによるモディファイ版である。

HQDシステムに採用されたデッカのリボン型トゥイーターは7kHzからの使用なのに対し、
磁気回路もリボン・ダイアフラムもひとまわり近く大きいT1(R1)は、5kHzから、となっている。

Date: 5月 29th, 2009
Cate: D44000 Paragon, JBL, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その13)

岩崎先生は、またパラゴンのことを、「プライベートなスピーカー」とも語られている(ステレオサウンド 38号)。

パラゴンは使いこなしが難しいスピーカーだと思われている方には、意外だろうが、
「大きな音はもちろん、キュートな小さい音」も鳴らせるパラゴンは融通性があり、
アンプによる音の変化も他のスピーカーよりも小さく「たいへん使いやすいスピーカー」であるとまで言われている。

ただ「レコードの音の違いを細密に聴き比べたいといった使い方には、やや不向き」だと思われていたためだろう、
39号のカートリッジ123機種の聴き比べでは、アルテックの620Aを試聴用のメインスピーカーとして使われている。

39号では、岡俊雄、井上卓也、岩崎千明、3氏によるカートリッジの試聴テストが特集で、
井上先生だけステレオサウンドの試聴室で、岡先生と岩崎先生は、それぞれの自宅で試聴されている。

岩崎先生は620AをクワドエイトLM6200Rとマランツの510の組合せで鳴らされ、
さらにステレオ音像のチェック用として、アルテックの12cm口径のフルレンジ405Aを、
自作のエンクロージュアに収められ、
至近距離1mほどのところに設置するというヘッドフォン的な使い方もされている。

これらのシステムは音をチェックするためのシステムであり、
「もっと総合的に、音楽を確かめる」ためにセカンドシステムでの試聴も行われている。
くり返すが、123機種のカートリッジを2つのシステム計3つのスピーカーで聴かれているわけだ。

まずカートリッジの取りつけをチェックしたうえで、トーンアームに試聴カートリッジを着装し、
ゼロバランスをとり適性針圧をかける。それからインサイドフォースキャンセラーも確かめ、
場合によってはラテラルバランスの再調整も必要となる。
そしてトーンアームの高さの調整。最低でも、これだけのことをカートリッジごとに適確に行なっていかなければ、
カートリッジの試聴は、まずできない。

Date: 5月 28th, 2009
Cate: D44000 Paragon, JBL, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その12)

岩崎先生は、パラゴンをどう捉えられていたのか。
ステレオサウンド 41号が参考になる。
パラゴンの使い手としての文章でもある。
     ※
 家の中に持ち込んでみてわかったのは、この「パラゴン」ひとつで部屋の中の雰囲気が、まるで変ってしまうということだった。なにせ「幅2m強、高さ1m弱」という大きさからいっても、家具としてこれだけの大きさのものは、少なくとも日本の家具店の中には見当らない見事な仕上げの木製であるとて、この異様とも受けとめられる風貌だ。日本人の感覚の正直さから予備知識がなかったら、それが音を出すための物であると果してどれだけの人が見破るだろうか。何の用途か不明な巨大物体が、でんと室内正面にそなえられていては、雰囲気もすっかり変ってしまうに違いなかろう。「異様」と形容した、この外観のかもし出す雰囲気はしかし、それまでにこの部屋でまったく知るはずもなかった「豪華さ」があふれていて、未知の世界を創り出し新鮮な高級感そのものであることにやがて気づくに違いない。パラゴンのもつもっとも大きな満足感はこうして本番の音に対する期待を、聴く前に胸の破裂するぎりぎりいっばいまでふくらませてくれる点にある。そして音の出たときのスリリングな緊張感。この張りつめた、一触即発の昂ぶりにも、十分応えてくれるだけの充実した音をパラゴンが秘めているのは、ホーンシステムだからだろう。ホーン型システムを手掛けることからスタートした、ジェイムズ・B・ランシングの、その名をいただくシステムにおいて、正式の完全なオールホーンを探すと、現在入手できるのはこのパラゴンのみだ。だから単純に「JBLホーンシステム」ということだけで、もはや他には絶対に得られるべくもない、これ限りのオリジナルシステムたる価値を高らかに謳うことができる。このシステムの外観的特徴ともいえる、左右にぽっかりとあく大きな開口が見るからにホーンシステム然たる見栄えとなっている。むろんその堂々たる低音の響きの豊かさが、ホーン型以外何ものでもないものを示しているが、ただ低音ホーン型システムを使ったことのない平均的ユーザーのブックシェルフ型と大差ない使い方では、その真価を発揮してくれそうもない。パラゴンが、その響きがふてぶてしいとか、ホーン臭くて低い音で鳴らないとかいわれたり、そう思われたりするのも、その鳴らし方の難しさのためであり、また若い音楽ファン達の集る公共の場にあるパラゴンの多くは、確かに良い音とはほど遠いのが通例である。しかしこれは、決して本来のパラゴンの音ではないことを、この場を借り弁解しておこう。優れたスピーカーほどその音を出すのが難しいのはよく言われるところで、パラゴンはその意味で、今日存在するもっとも難しいシステムといっておこう。パラゴンの真価は、オールホーン型のみのもつべき高い水準にある。
 パラゴンは、米国高級スピーカーとしておそらく他に例のないステレオ用である。正面のゆるく湾曲した反射板に、左右の中音ホーンから音楽の主要中音域すべてをぶつけて反射拡散することによりきわめて積極的に優れたステレオ音場を創成する。この技術は、これだけでもう未来指向の、いや理想ともいえるステレオテクニックであろう。常に眼前中央にステージをほうふつとさせるひとつの方法をはっきり示している。

Date: 5月 27th, 2009
Cate: D44000 Paragon, JBL, 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その11)

ステレオサウンド 38号の取材で、井上先生は、
岩崎千明、瀬川冬樹、菅野沖彦、柳沢巧力、上杉佳郎、長島達夫、山中敬三(掲載順)、
以上7氏のリスニングルームを訪ねられ、それぞれのお宅の「再生装置について」、囲み記事を書かれている。

タイトル通り、オーディオ機器の説明を、井上先生の視点でなされている。
音については、全体的にさらっと触れられている程度なのだが、
岩崎先生のところだけは、違う。
     ※
この部屋で聴くパラゴンは、聴き慣れたパラゴンとはまったく異なる音である。エネルギーが強烈であるだけに、使いこなしには苦労する375や075が、まろやかで艶めいて鳴り、洞窟のなかで轟くようにも思われる低音が、質感を明瞭に表現することに驚かされる。2、3種のカートリッジのなかでは、キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」のレコードのときの、ノイマンDST62は、感銘の深い緻密な響きであった。パラゴン独得なステレオのエフェクトが、聴取位置が近いために効果的であったことも考えられるが、アンプの選択もかなり重要なファクターと思われる。やはり、このパラゴンの本質的な資質をいち早く感じとり、かつて本誌上でパラゴンを買う、と公表された岩崎氏ならではの見事な使いっぷりである。
     ※
井上先生に、もっと岩崎先生のことを訊いておけばよかった……、といま思っている。

Date: 5月 25th, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 瀬川冬樹

930stとLNP2(その5・補足)

(その5)に書いた4343の組合せのトーンアームに、フィデリティ・リサーチのFR64がある。
これはFR64Sのほうではなく、アルミニウム製のFR64を選ばれている。
こちらを瀬川先生は高く評価されていた。

一般に評価の高いステンレス製のFR64Sについては、「私の試聴したものは多少カン高い傾向の音だった。
その後改良されて音のニュアンスが変っているという話を聞いたが、現時点(1977年)では64のほうを推す次第。」
とステレオサウンド 43号に書かれている。

もう1本のほう、オルトフォンのRMG309については、こう書かれている。
「SPU(GおよびA)タイプのカートリッジを、最もオルトフォンらしく鳴らしたければ、
やはりRMG309を第一に奨めたい。個人的には不必要に長いアームは嫌いなのだが、
プレーヤーボードをできるだけ堅固に、共振をおさえて組み上げれば、しっかりと根を張ったようなに安定な、
重量感と厚みのある渋い音質が満喫できる。こういう充実感のある音を、
国産のアームで聴くことができないのは何ともふしぎなことだ。」

この時期、オルトフォンのRMG212が再発売されている。
かなり以前に製造中止になっていたのだが、
瀬川先生が、1975年に来日したオルトフォンの担当者に要請したのが、再生産のきっかけである。

こうやって読んでいくと、瀬川先生がアナログプレーヤーに求められていたものが、
すこしずつはっきりしてくるような気がする。

Date: 5月 24th, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(補足)

EMTとプロ用機器のメーカー、トーレンスはコンシューマー用機器のメーカー、
トーレンスのプレーヤー(TD125)をプロ用機器として仕上げたのがEMTの928であり、
トーレンス同様、コイルスプリングによるサスペンション機構を備えているし、
三相シンクロナスモーターを使用していところは、930stも928も同じだが、
928は発振器とアンプによる駆動方式を採用することで、電源周波数の50Hz、60Hzに関係なく使用できる。

ただストロボスコープに関しては、切替スイッチがついている。

930stと928は、アイドラーかベルトかという違い以上に、
細部を見ればみるほどコンセプトそのものの違いがわかってきておもしろい。

930stとトーレンスの101 Limitedにも、ちいさな違いがある。
すべてのロットがそうなっていたのかまでは不明だが、少なくとも私が使っていた、ごく初期のモノは、
出力端子の裏側に抵抗がハンダ付けしてある。
930stの回路図には、この抵抗は存在しない。

101 Limited (930st) の出力端子は、1a、1bが右チャンネルの+と−、4a、4bが左チャンネルの+と−で、
この抵抗は1aと1b、4aと4bを結ぶように取りつけられている。
出力に対し並列に入っているわけで、インピーダンス整合のためのものであることは、はっきりしている。

930stはプロ用機器でプロが使うモノとして、この抵抗は取りつけられていない。
930stが使われる現場では、必要のないものだし、使う人もインピーダンス整合のことは理解しているからだ。

その930stをコンシューマー機器として出すにあたっての、これは、トーレンスの配慮であろう。

101 Limitedが使われるであろう、一般家庭にあるコントロールアンプで
600Ω(もしくは200Ω)の入力をもつモノは、まず存在しないからだ。

トーレンス101 Limitedは、930stの色を塗り替えただけのモノではない。
たった抵抗2本のことにすぎないが、ここにメーカーの良心を感じる。

Date: 5月 24th, 2009
Cate: 930st, EMT

930stとLNP2(余談)

瀬川先生は、ステレオサウンド 55号でも、専用インシュレーター930-900なくしては、
「930stの音の良さは全く生かされない」と断言されている。
「コンポーネントステレオの世界 ’78」の組合せで、当然使われている。

930-900をお使いの方ならば、後ろ側に短いリード線が出ているのに気づかれているだろう。
意外と、このリード線をどこにも接がず、そのままにされている方も少なくないようだ。

930-900についてくる、たった1枚の説明書(ともいえいない内容)には、
どこに接続しろ、とは書いてなかったと記憶している。
不親切だともいえるのだが、930stはプロ用機器であり、
これを使うのは本来プロの現場に携わっている人たちだから、
そんなことは書かなくてもわかっているだろう、とEMTの人たちは考えていたのだろうか。

たしかにそうなのだが、それでもインシュレーターだけで約30万円もするのだから、
輸入元が独自に説明書をつけてもよかっただろうに、とは思う。

ではどこに接続するのか。

930-900から出ているリード線をよく見てほしい。
黄色と緑のまだら線だ。基本的にこれはアース用の配線を示している。
次に930stの出力端子の周辺をじっくり見てほしい。
このコネクターを固定しているネジのところに、同じ模様のリード線が接続されているはず。

私は101 Limitedを使っていたとき、ここに接続していた。
これ以外に接続はできない。ちょうどよい長さになっていることにも気がつく。

もっとも接がなかったからといってハムが出たり不具合が生じるわけではない。
ただ、いまのように高周波ノイズが飛び交っている状況では、
原則としてデッドメタル(どこにも接続されていない金属)は極力なくしたい。

デッドメタルをなくすことで、ほんのわずかSN比が向上するかもしれないし、
場合によっては、音が悪くなることもないわけではない。

ここは先入観をもたずに音を聴いて、どうするかは判断してほしい。

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, JC2, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(その12)

LNP2のフォノアンプには、このようなキメ細かい対応は用意されていない。
両機種のブロックダイアグラムやこれらのこと、
さらにLNP2は信号系のモジュールはすべて共通だが、
JC2はフォノアンプとラインアンプのモジュールは回路構成からして異ることなどを比較してはっきりしてくるのは、
JC2はアナログディスク再生に、LNP2はライン入力に主眼がおかれていることだ。

JC2の、この構成は、のちにディネッセンのJC80を生むことにつながっていく。
そしてJC2のもつ可能性が本領発揮となるには、ML6までの時間を必要とした。
JC2は未完の大器的色あいが濃い。

このことは別項「Mark Levinsonというブランドの特異性」で書く予定だが、
もう少し先、というかかなり先になりそう。

実は、この項は2回で終るつもりだったのが書いているうちに(その12)になってしまった。
ML6のことも書き始めると、かなり長くなりそうな気がする……。

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, JC2, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(その11)

LNP2のモジュールの数は通常で、VU駆動用のものを含めて8つ、オプションのパッファーを加えると10。
JC2とはいうと、フォノアンプ、ラインアンプのモジュールがそれぞれ2つずつ、
それにフォノアンプ・モジュール用の専用の電源モジュールの計5つ。
オプションとして、ヘッドアンプのJC1のモジュールタイプ(JC1SM)を、
フォノアンプ・モジュールの間に組み込めるようになっている。

フォノアンプ・モジュールはフロントパネル寄りにあり、モジュールとリアパネルのあいだに、
RIAAイコライザー用のカードが挿さっている。
コンデンサー、抵抗から構成されている。このカードが、フォノアンプのNFB素子となる。
このカードを交換することで、JC2のフォノアンプは、A3、D5、D6システムへとなる。
シリアルナンバー2148以前のJC2はどうなっていたかというと、ABCDEFの6つのシステムが用意されていた。
JC2のINSTRUCTION MANUAL には、こうある。

A System
Two UP-1A  cards are normally supplied with the JC-2 unless otherwise specified. This system accepts Input impedance: 47kOhms.
B System
The UP-1B system offers lower sensitivity but increased headroom for the highest output magnetic phono cartridges.
C System
This set provides exact equalization for the Brüel & Kjaer series of cartridge measurement records. Information on request.
D System
This system includes two UP-1D cards and a JC-1SM module. It offers DIRECT moving coil cartridge input.
E System
Provides equalization and DC current source for certain gauge cartridges. Information on request.
F System
Flat response amplification. Specify application and requirements.

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, JC2, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(その10)

レヴィンソンがスイスに渡ったときに、
トーレンスのベルトドライブ機をベースにしたEMTの928の存在を知ったのか、
それ以前に知っていたのか、どうかは判断しようがないが、
ほとんどなんの根拠もない推測(妄想にちかい)だが、928を使っていたのではないかと思えてくる。

927Dst、930stのイメージと若き日のレヴィンソン自身のイメージがうまく結びつかないのと、
928ならば、なんとなくレヴィンソンが使っていても不思議ではないという気がするというだけなのだが……。

もしそうだとしたら、JC2のREMOTE PHONOの説明がつく。
電源がPLS150への変更による強化、入出力端子がRCA端子からCAMAC規格のLEMO端子になったときに、
シリアルナンバー2148番からのJC2(日本での型番はJC2L)にはREMOTE PHONO端子はない。
かわりにPHONO入力が2系統に増えている。

さらに内部も変更が加えられ、フォノカードに、A3、D5、D6の3種類が用意されるようになった。
A3が、いわゆる通常のフォノ入力で、MM型カートリッジもしくは昇圧トランス、ヘッドアンプ用。
D5、D6はMC型カートリッジ用で、D5カードの説明には、
System D5 offers 54 and 60dB gain positions. 54dB is recommended as the optimum for the EMT cartridge. The gain setting will yield an incredible signal to noise ratio without overloading for EMT.
と記されている。

D5カードがゲインを54、60dBに切り換えられるように、A3カードも、30、40dBと切換え可能だ。
こちらの説明は次のとおり。
Certain high output moving coil cartridges such as the EMT, the Supex 901, the Satin, and the Ultimo, may be used in more efficient systems with the 40dB gain implemented.

少なくともEMTのカートリッジは使っていたのだろう。

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson

930stとLNP2(その9)

「インドに行き古典音楽についての勉強をアリ・アクバール・カーンの示した道に沿ってすすめたい」と考え、
1972年に旅券と飛行機の切符まで手にしていたマーク・レヴィンソンは、
録音器材を入手するために、わざわざスイスに立ち寄っている。
なにもスイスまで行かなくてもアメリカでも手に入るものだろうと思うのだが、
レヴィンソンはステラヴォックスを訪ねている。

ここでステラヴォックスの社主のジョルジュ・クエレに相談にのってもらい、演奏家の道を断念し、
オーディオ・エレクトロニクスへ向かう道を選択している。

クエレとの対話の中で、エレクトロニクスの道に進みながらでも、
「音楽に対するひとつの精神的な基盤を維持することは可能なのだという確信」を得たからである。

その基盤とは「沢山の人々がレコードをきくことに対して抱いている欲求、それを満たすために、
テクノロジーを音楽および音楽家に奉仕するものとして使うことの必然性をはっきりと認識すること」と、
ステレオサウンド 45号に掲載されている特別インタビューで語っている。

70年代当時、アメリカでEMTがどういう位置づけにあったのか、輸入されていたのかは、はっきりしない。
ステラヴォックスを買いに、わざわざスイスまで行くということは、意外にも輸入されていなかったのかもしれない。
そうだとしたらEMTも輸入されていたどうかは微妙なところだろう。
それとも輸入されてはいたけれど、旅費を使ってでもスイスで買ったほうが安かったのかもしれない。
まだ会社を興す前の話である。

スイスには、トーレンスがある。

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 瀬川冬樹

930stとLNP2(その8)

LNP2Lは、フォノ入力から出力まで計3つのモジュールを、信号は通っていく。
だから、フォノアンプを使わないでも、3分の2は使っていることになるし、
瀬川先生のLNP2Lはバッファー搭載だったはずだから、4分の3の使用となる。

とはいえ瀬川先生はまったくLNP2Lのフォノアンプを使われなかったかというと、そうでもないだろう。
ステレオサウンド 38号の瀬川先生のリスニングルームには、
930stの他にラックスのPD121にオーディオクラフトのAC300MCの組合せがあり、
写真をよく見ると、EMTのXSD15が取りつけてある。930stにはTSD15の旧型がついている。

「コンポーネントステレオの世界 ’78」でも、
「自分自身では、そういいながら、トランスと組合せて単体でよく使いますけど、
これはEMTの癖を十分に知っているんでやっていることで、ふつうの方にはあまりおすすめできません」と。

これはLNP2Lのフォノアンプに接がっていたのだろう。

ところでLNP2にはなかった入力端子が、JC2にはついていた。
REMOTE PHONOという端子で、これはAUXと同じライン入力。
つまり、イコライザーアンプ内蔵のプレーヤーを接続するための端子なのだろう。

JC2が登場した1974年、イコライザーアンプ内蔵のプレーヤーシステムは、EMT以外に何があったのだろうか。
私が知る限り、少なくとも日本に輸入されていたモノには、ない。

マーク・レヴィンソンは、自宅ではLNP2よりもJC2を常用している、とインタビューで答えている。
ということは、レヴィンソンはEMTのプレーヤーを、この時期、使っていたのだろうか。

Date: 5月 23rd, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 瀬川冬樹

930stとLNP2(その7)

1977年には、国産のプレーヤーシステムは、ほぼすべてダイレクトドライブになっていた。
ワウ・フラッターは、930st、401よりも一桁以上少ない優秀さで、
401のように、ある程度の重量のあるそしてがっしりしたキャビネットに、取付け方法も工夫しないと、
ゴロが出るようなモノは皆無だった。

使いやすく性能も優れているにも関わらず、大事な音を再現してくれる良さから、瀬川先生は、
あえて旧式の930stや401を選択されるとともに、
「このところ少しDD(ダイレクトドライブ)不信」みたいなところに陥っているとも発言されている。

401を中心としたプレーヤーは、EMTではなくオルトフォンとエラックのカートリッジの組合せで構成されている。
これは、EMTのTSD15を単体で使ってほしくないという、気持の現われからだろう。

さらに「コンポーネントステレオの世界 ’78」では次のように語られている。
「このプレーヤー(930st)にはイコライザーアンプが内蔵されていますから、LNP2Lというコントロールアンプをなぜ使うのかと、疑問をもたれるかもしれません。事実その点について、他の場所でもいろいろな方から訊ねられます。念のためにいえば、930stのいわゆるライン出力をアッテネーターを通してパワーアンプに入れれば、スピーカーから音が出てくるわけですね。それなのになぜ、コントロールアンプを使うのか。
 これは自分の装置で長時間かけて確かめたことですが、プレーヤーのライン出力をアッテネーターだけを通して直接パワーアンプにいれるよりも、このマークレビンソンのコントロールアンプで、しかもイコライザーを使わないで、AUXからプリアウトまでの回路を通した音のほうが、いいんです。つまりLNP2Lの半分しか使わないことになるんだけれど、そうやってスピーカーを鳴らしたほうが、音楽の表現力や空間的なひろがりや音楽のニュアンスなどが、ひときわ鮮やかに出てくるんですね。このことは、技術的にいえばおかしいのかもしれません。しかし現実問題としては、私の耳にはそういう形にした場合のほうが音がよく聴こえるわけです。」

Date: 5月 22nd, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 瀬川冬樹

930stとLNP2(その6)

DBシステムズのアンプは、マッキントッシュの製品と比較すると、およそ製品とは呼べない面をもつ、
ある種、尖鋭的なところが、音にもつくりにも感じられる。

コントロールアンプのDB1は、ガラスエポキシのプリント基板に入出力のRCA端子、
電源端子を取りつけたものを、そのままリアパネルとしている。
いちおう絶縁のためラッカーで覆ってあるものの、いわば剥き出しに近い状態である。

マッキントッシュでは絶対にやらないことを、デビュー作で堂々とやっている。
フロントパネルもそっけない仕上げで、ツマミもおそらく市販されているものをそのまま流用している感じ。
とにかく、設計者が余計と判断したところには、まったくお金や手間をかけない。
設計者の信じるところの、実質本位なつくりを徹底している。

回路構成も、1970年代のアンプとは思えないもので、
差動回路も上下対称のコンプリメンタリー回路も使っていない。
他がやっているから、といったことはまったく気にしていない。

そんなアンプなのだが、とにかく切れ込みの鋭い、繊細で尖った音を聴かせてくれた。
とっつきにくい音と受けとめられる人も少ないないかもしれないが、
それでも存在価値(いい意味でも悪い意味でも)充分なところを気にいる人も、また少なからずいたであろう。

朝沼予史宏さんが、一時期、使われていた。
まだステレオサウンドに書き始められる前、朝沼という名前を使われる前、
フリーのライターとして編集に携わられていたころだから、
私には、朝沼さんではなく、本名の「沼田さん」だった。

沼田さんがまだ独身で、西新宿のマンション住まいだったころ、
スピーカーはQUADのESLにそっくりのダルキストのDQ1とB&Oのスピーカーを使われていた時期、
アンプはDBシステムズだった。

沼田さんがいちばん尖っていたころの話だ。

DB1の尖りぐあいは、ある種のエネルギッシュな印象にもなっていた。
そんなアンプを、瀬川先生は選びながら、プレーヤーはガラードの401を選ばれたのは、
930stと同じ理由から、である。