Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 11月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その16)

最近のオーディオ誌では、ほとんど伝達関数という言葉は登場しなくなったが、
私がオーディオに興味をもち始めた1976年ごろは、まだときどき誌面に登場していた。

チャンネルデバイダーがある。
入力はひとつで、2ウェイ仕様なら出力は2つ、3ウェイ仕様なら3つあるわけで、
通常なら、それぞれの出力はパワーアンプへ接続される。

このチャンネルデバイダーからの出力を合成したとしよう。
当然、入力信号と振幅特性、位相特性とも同じになるのが理想だが、
これができるは、遮断特性が6dB/oct.だけである。つまり伝達関数:1である。

12dB/octのカーブでは振幅特性にディップが生じ、位相特性も急激に変化する。
18dB/oct.のカーブでは振幅特性はほぼフラットでも、位相特性はなだらかにシフトする、といったぐあいに、
6dB/oct.カーブ以外、入力と合成された出力が同じになることは、アナログフィルターを使うかぎり、ありえない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その44)

バッファーアンプ用のモジュールLD2を抜きとれば、バッファーアンプなしの音が聴けるのであれば、
すぐにでも試してみるところだが、残念ながらそうはいかない。
バッファーアンプの有無により、どれだけ音が変化するのは、だから想像で語るしかない。

マークレビンソンのLNP2、JC2の音は、あきらかに硬水をイメージさせる。
ここが、ML7と大きく違うところでもある、と私は思っている。

パッファーアンプ仕様にするということは、LNP2を構成するLD2モジュールのもつ硬水的性格を、
より高めていくことになるのではなかろうか。
その意味では、単に音としての純度ではなく、LNP2としての純度、
マークレビンソンのアンプとしての純度を高めていくことでもあるように感じられる。

硬水をさらに硬水にすることで、細部に浸透させるミネラル分を濃くすることで、
音楽の細部の実体感を増し、音像のクリアネスを高めていくことにつながっていくようにも思う。

世田谷のリスニングルームに移られるまでは、音量を絞って聴くことの多かった瀬川先生にとって、
これらの音の変化は、大切なことであったのかもしれない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その43)

LNP2を構成するモジュールは、信号系に使われているLD2が、片チャンネルあたり3つ、
その他にVUメーター駆動用のモジュールの、両チャンネルで8つである。

モジュールが取付けられているプリント基板には、あと2つスペースがあり、
ここにコンデンサーマイクロフォン用のファントム電源用モジュールか、
LD2を、バッファーアンプとして、もう1組追加することができる。

瀬川先生は、何度か書かれたり語られているように、バッファーアンプつきのLNP2Lを愛用されていた。
理由は、音がいい、からである。
バッファーアンプを加えた場合、カートリッジからの信号は、計4つのLD2を通って出力されるわけだ。
信号経路を単純化して、音の純度を追求する方向とはいわば正反対の使い方にも関わらず、
瀬川先生は、このほうが、音楽の表現力の幅と深さが増してくる、と言われている。

ステレオサウンドに常備してあったLNP2Lも、このバッファーアンプ搭載仕様だった。

Date: 11月 9th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その8)

民主主義的なつくられかたをされたスピーカーは、なるほど精確かもしれない。
それはオーディオに対して、音響的な精確さにとどまることも多いようにも思う。

一方、VC7やオートグラフのようなスピーカーは、精確さということでは、
その他多くのスピーカーの方が、ずっと、その点では高く評価されるであろう。

けれど、音楽的な正確さ(精確さ、ではない)ということになると、
必ずしもどちらの側のスピーカーが上とは、断言できないところが、オーディオの難しさと面白さとして存在している。

オーディオの技術の限界は、つねに存在する。
そのなかで、技術を高度に発展させていくことも大事なのはわかったうえで、
洗練させていくことも大事なのではなかろうか、と感覚的にそう思っている。

VC7やオートグラフの語り口に、気品を感じるのは、
どちらのスピーカーの設計者も、もてる技術を洗練させた努力の結果であるからだ。

Date: 11月 9th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その7)

VC7の音を思い出すと、語り口という言葉が浮んでくる。
VC7は、VC7ならではの、音楽の語り口をもっている。

その語り口に、私は、少なくとも気品を感じているのかもしれない。

スピーカーは、いまのところどこまでいっても、からくりであることには変わりはない。
だからこそ、からくりならではの語り口が、必然的に生れてくるように思っているのだが、
なんだか最近の一部の、ある種素っ気無さをまとっているスピーカーには、語り口を感じることはない。

オートグラフにも、オートグラフならではの語り口がはっきりとある。
いまも高い評価を得ているスピーカーは、古い新しいに関係なく、
そのスピーカーならではの語り口を、立派な語り口をもっているからこそ、人を魅了してやまないのではないか。

もちろん、その語り口が気になる人にとっては、スピーカーとして論外ということになるかもしれない。
だからといって、なんら語り口をもたないスピーカーを、私は選ぼうとは、まったく思っていない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その42)

カートリッジが、レコード盤から音を拾ってくる。
機械的な音溝を、電気的な信号に変換する。
優秀なプレーヤーシステムを、見事に調整していれば、驚くほどの音を拾いあげる。

その拾いあげられた音を、
つまり音溝という形で眠っていた音を、完全に目覚めさせるのはコントロールアンプの役割なのかもしれない。

感覚的な表現でいえば、寝起きの乾いた体に新鮮な水を飲むのと同じように、
水を浸透させ目覚めさせるといった具合に。

コントロールアンプによっては、その水の量が足りないものがある。
水そのものが澱んでいるものもある。
細部まで水が浸透しないものもある。

軟水もあれば硬水もある。
マークレビンソンのLNP2やJC2は、硬水を音の細部にまで浸透させ、音が目覚める。

Date: 10月 21st, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その6)

スピーカーシステムの音を判断する項目、たとえば聴感上のSN比、レンジの広さ、
帯域バランスの良さ、歪感の少なさ、等々、思いつく限りこまかく挙げていき、
それぞれの項目をできるだけ良くする方向で音をまとめていく──。

そうやってつくられたスピーカーシステムは、もちろん優れたモノであるだろう。
けれど、そうやってつくられたスピーカーシステムは、なにかを失っているのかもしれない。

たとえば、ヴィルトゥオーゾと呼ばれた、往年の演奏家と、
現代の、優れたテクニックを有している演奏家との違いにも似ているような気がする。

オートグラフ、VC7に共通して、私が感じている良さは、「気品」であろう。

Date: 10月 21st, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その5)

タンノイ・オートグラフも、ベーゼンドルファー(BORDMANN)VC7も、
ユニットが発する音以外は極力抑えようというスピーカーの在り方とは正反対のところにある。

スピーカーユニットが技術的に完璧なものであって、無共振ということが、ほぼ実現できるであれば、
その在り方のみを純粋に徹底して追求していくのもいいだろうが、
現実には、まだまだスピーカーユニット自体は未完成というよりも、からくりの一種のいえるものであるし、
これから先はわからないが、無共振の素材、つまりいっさいの固有音をもたない素材で、
エンクロージュアに使えるもの、そんなものは、いまのところ、ない。

実験室レベルで、無共振スピーカーシステムをめざしていくのは、それはそれでいい。
けれど、現実のスピーカーシステムとしては、どこかで、からくりであること、
理想の素材は存在しないこと、とうまく折り合いをつけてこそ、
スピーカーでしか味わえない音楽体験が生れてくるのだと思っている。

折り合いのつけ方として、オートグラフやVC7という在り方も、
一方の極のリファレンスとして必要ではないだろうか。

Date: 10月 20th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その4)

タンノイ・オートグラフの、それぞれの受持ち帯域はどうなっているかというと、
中高域は、デュアルコンセントリック型ユニットのクロスオーバー周波数が1kHzなので、それ以上の帯域、
ウーファーは1kHz以下どこまでかというと、フロントショートホーンの開口部の大きさが関係してくることもあって、
それほど低いところまでは受け持っていないのはたしかだろう。

バックロードホーンが、それより下の帯域を受け持つことになるわけだが、
1960年代のタンノイのカタログには250Hz以下で効果を発揮している、という記述もあるし、
ステレオサウンド別冊「The British Sound」には、350Hzより下、とある。

250Hzなのか350Hzなのかははっきりしないが、300Hz近辺として、
オートグラフでは、300Hzと1kHz、
ベーゼンドルファー(BRODMANN)のVC7は、130Hzと2kHz。
わりとちかい値といえないだろうか。
しかもLCネットワークによるクロスオーバーは、どちらもひとつだけである。

そしてもうひとつ共通点として、オートグラフは同軸型ユニット採用、
VC7は、ウーファー、トゥイーターは別個のユニットではあるものの、
ユニットの放射パターンを考えると、仮想同軸配置といえなくもないわけだ。

Date: 10月 20th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その3)

200万円の予算があれば、各ブランドのトップモデルか、
トップモデルとまではいかなくても、充実した技術的内容をもつ中堅機が購入できる。

それらのスピーカーとくらべてみると、VC7は、ウーファーの口径は13cm(4発ついているものの)と、小さい。
トゥイーターはソフトドーム型ユニットが2つ。
いわばVC7の価格の大半は、エンクロージュアの代金といってもよいだろう。
この価格の比率は、往年のタンノイ・オートグラフにおけるそれに近いのではないだろうか。

どちらもエンクロージュアの響きの助けを借りて、
それぞれの、それでしか聴くことのできない低音を創り出している。

VC7は、トゥイーターが2kHz以上、エンクロージュアの両側に2基ずつのウーファーは130Hzまでを、
130Hzより下の帯域は、独自の、プレート・ホーン・レゾネーターが受け持つ。

Date: 10月 20th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その2)

優秀なモノーラル録音をきちんと再生すれば、かなりのリアリティのある音が得られる。
ただしオーケストラなどの編成の大きいものや、ひとつの楽器でも、ピアノのように大きなものではなく、
人の声、チェロぐらいの大きさの音源のソロというぐあいに限られるとはいえ、
説得力ある表現に、モノーラルでもいいかな、とそのときは思わせてくれる。

ヴァイオリンも楽器のサイズとしては小さいが、倍音成分の再現となると、
ステレオ録音に圧倒的に分がある。
とはいえ、モノーラル録音、つまり真空管全盛の時代の録音のなかには、
再生音ならではの、ヴァイオリンの美があり、これはこれで、捨て難い魅力をもつ。

ステレオ録音は、極端な表現をすれば、音源だけモノーラル録音に、
音場感というステージ(空間)が加わる。音色の美しさに響きの美しさが加わった世界である。

ベーゼンドルファーのスピーカーは、安いものではなかった。かなり高価なスピーカーシステムだった。
BRODMANNのスピーカーも、ほぼ同じ価格だろう。となるとVC7は、ペアで200万円をこえるであろう。

Date: 10月 19th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その1)

ヤマハがベーゼンドルファーを買収したというニュースを聞いて、
危惧したのは、スピーカーシステムの製造をやめさせてしまう、ということで、
事実、2008年のインターナショナルオーディオショウのノアのブースには、
ベーゼンドルファーのスピーカーの姿はなかった。

この項の(その1)で、最後のところにちらっと書いているが、
スピーカー部門の主要スタッフは独立している。

去年暮には、BRODMANN Acoustics という会社を興している。
ウェブサイトも、すぐに公開されていたが、いつアクセスしても、
ベーゼンドルファーのスピーカーには似つかわしくない、派手なFLASHによる画面が表示されるだけで、
他のページはまったく作られていなかった。

数ヵ月経ってアクセスしてみても、同じまま。トップページのみのウェブサイトだった。
資金繰りがうまくいかず、消滅してしまうのか……とまで思ってしまうほど、
いつまで経っても、何の動きもなかった。

今日、やはり数ヵ月ぶりにアクセスしてみたら、まだまだ手つかずのページが残っているが、
トップページも変更され、ベーゼンドルファー時代のスピーカーの姿が、そこにあった。
復活していた。

Date: 10月 12th, 2009
Cate: 4343

4343とB310(その1)

B310は、井上先生がメインスピーカーとして愛用されてきたボザークのフロアー型システムで、
30cm口径のウーファーを4発、スコーカーは16cm口径を2発、
トゥイーターは、2個1組のものが4発使われており、すべてコーン型ユニットである。

いまもボザークは存在しているが、1981年だったか、一度倒産している。
そんなこともあって、スピーカーの開発・製造は行なっていない。

ユニット構成の特徴からも判断できるように、東海岸のスピーカーメーカーであり、
最高のスピーカーユニットは、それぞれ1種類のみというポリシーで、
20cm口径のフルレンジユニット、B800、30cm口径ウーファーのB199、16cm口径のスコーカーのB209A、
5cm口径トゥイーターのB200Yの4種類のユニットだけを製造し、
これらの組合せを用途に応じて変え、スピーカーシステムを構築している。
ただし普及機は違う。

ウーファー以外は、ゴム系の制動材を両面に塗布したメタルコーン、
ウーファーは、羊毛を混入したパルプコーンで、どちらも振動板の固有音をできるだけ抑えている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その41)

水にも、いろいろある。含有される各種ミネラル成分のバランス、量によって、
まず大きく分けて、軟水と硬水とがあり、口に含んだときの感じ方はずいぶん違う。

近い硬度の水でも、ミネラル成分の割合いによって、味は異り、
同じ水でも、温度が違えば味わいは変わってくる。
水のおいしさは、利き酒ならぬ利き水をするのもいいが、
そのまま飲んだときよりも、珈琲、紅茶、アルコールに使ったときのほうが、
違いがはっきりとわかることがある。味わう前に、香りの違いに気がつくはずだ。

料理もそうだ。
いつも口にしている料理、たとえば味噌汁を、ふだん水道水そのままでつくっているのであれば、
軟水のナチュラルミネラルウォーターでつくってみれば、何も知らずに出され口にした人は、
いつもとなにかが違うと感じるはず。

Date: 8月 27th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続×十四 補足)

世の中には、何事も短絡的に捉える、受けとめることが得意な方が、
ごくごくわずかだが、いる(一人、知人にいる)。

そんな人は、トランスを、アンプの筐体内の、どこに、どう配置するかについて、私が書いたものを読んで、
重量バランスがよく、左右チャンネルの同一性・対称性が高いアンプだけが優れた音のアンプで、
それ以外のアンプはそうではない、と受けとめるのだろうか。
エソテリックのA100に関しても、否定的なことを言っている、と思っているのかもしれない。

こんなことをあらためていうまでもないのだが、決してそんなことはない。
ただ、重量バランスは、重要な要素のひとつだと言いたいだけであるし、
A100は、なかなかの力作だと思っている。

A100の音は、まだ聴いていない。
ただ、A100について、ひとつだけ書きたいのは、フロントパネルに関して、である。