Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その8)

EMTの930stというプレーヤーは、私にとっては特別な意味をもつプレーヤーでもある。
ただ単に音のよい、信頼できるプレーヤーということだけではなく、
五味先生の「五味オーディオ教室」からオーディオの世界にのめり込んでいった私にとって、
五味先生が、誠実な響きとされていたからだ。
     *
どんな古い録音のレコードもそこに刻まれた音は、驚嘆すべき誠実さで鳴らす、「音楽として」「美しく」である。あまりそれがあざやかなのでチクオンキ的と私は言ったのだが、つまりは、「音楽として美しく」鳴らすのこそは、オーディオの唯一無二のあり方ではなかったか? そう反省して、あらためてEMTに私は感心した。
     *
オーディオの世界に足を踏み入れようとしていた13の中学生にとって、
この文章の意味は重かったし、大事なことだということはわかっていた。

音と音楽の境界ははなはだ曖昧である。
音楽を聴いているのか、音を聴いているのか、
とはよくいわれることである。

そういう危険なところがあるのは「五味オーディオ教室」を読めばわかる。
わかるからこそ、
《「音楽として美しく」鳴らすのこそは、オーディオの唯一無二のあり方ではなかったか?》
これをよすがとした。

930stがあれば、どこかで踏みとどまれるかもしれない。
そういう意味で、特別なプレーヤーが930stであり、
その色違いの101 Limited見てわずかのあいだにを買う! と決意して、
私のところに、この特別な意味をもつプレーヤーが来ることになった。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その7)

EMTの930stは河村電気研究所が取り扱っている時に生産中止になっている。
そのあとEMTがバーコに買収され、輸入元がエレクトリに移ってから再生産が一度なされている。
そのときの価格がいくらだったのか記憶にない。

930stの1980年での価格は本体が1258000円、専用のサスペンション930-900が295000円。
930stは930-900込みでのパフォーマンスの高さだから、1553000円ということになる。
1981年には930stの価格は1399000円になっている。

101 Limitedが登場した1984年までにいくらになっていたのか正確には記憶していない。
このころのステレオサウンドには河村電気研究所の広告も載っていない。
載っていたとしても価格は掲載されないことが多かったから、いまのところ調べようがない。

EMTのプレーヤーの価格は不思議なところがあって、
1975年の時点では、930stは980000円、927Dstは1300000円だった。
930stと927Dstの価格差は小さいものだった。
サイズの違い、出てくる音の凄さの違いは大きいものであったにもかかわらず、である。

それがいつしか927Dstは2580000円になり、3500000円、最終的には450万円を超えていたときいている。
1975年の価格から三倍以上になっているのにくらべると、930stの価格の上昇はそれほどでもないのだが、
それでも150万円は150万円の重みがあることには変りはない。

「買います」といったものの、
支払い能力があやしい者には売れない、といわれればそれまでである。
そういわれるかと思った。ことわられるかも、とも思っていたけれど、
ノアの野田社長は、あっさりと「いいよ」といってくださった。

もう撤回はできない。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その6)

少年とは、私のこと。18でステレオサウンドで働くようになったので、少年ということだった。
このときいたNさんも、同姓の人がサウンドボーイ編集部にいたので、Jr.(ジュニア)と呼ばれていた。
私も、Nさんと呼ぶことはなくて、ずっとジュニアさんといっていた。

当時のステレオサウンド編集部は、そういう雰囲気があった。
いまは、おそらくそんなことはないと思う。

「少年、これ買えよ」

私だって支払えるだけの経済力があれば、欲しい。
EMTの930stは、五味先生も愛用されていたし、瀬川先生も927Dstにされるまで使われていた。
買えるものならば、いますぐ欲しいプレーヤーだった。

けれどトーレンスの101 Limitedは150万円だった。
21歳の若造が買える金額ではない。
そうでなくてとも、ロジャースのPM510を買ってから一年ほどしか経っていなかった。
余裕は、まったくなかった。

Oさんの「少年、これ買えよ」に続いて、
NさんもSさんも「買いなよ」と、簡単にいってくれる。

このとき930stは製造中止だといわれていた。
101 Limitedにしても、型番が示すように101台の限定である。
この機会をのがしたら、新品の930stを手に入れることは難しくなる。

無理なのはわかっている。
でも、これしかない、とおもったら、「買います」といっていた。

Date: 10月 19th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その5)

HiVi(このときはまだサウンドボーイ)編集長のOさんは、
以前は930stを、そして937Dstにされた人だから、
そして非常に凝り性の人ということもあって、EMTのプレーヤーに関しては非常に詳しい。

Nさんは、ステレオサウンドの編集後記を丹念に読んできた人ならば思い出されることとと思うが、
瀬川先生の927Dstを譲ってもらった人である。
私はNさんの部屋によく行っては音を聴かせてもらうとともに、
瀬川先生のモノだった927Dstを見て触れていた。

SさんはEMTのプレーヤーは所有されていなかったけれど、
EMTのプレーヤーの良さは認めている人だった。

こういう人たちがオーディオ談義をしていたところにトーレンスの101 Limitedは届いたものだから、
すぐに開梱され、EMTの930stと同じなのか、それとも違いがあるのかがチェックされていった。

この日、ステレオサウンド編集部に来た101 Limitedは、シリアルナンバー102番だったモノ。
サンプル用として二台の101 Limitedがはいってきて、
一台はシリアルナンバー101番、つまり101 Limitedのシリアルナンバーは101から始まっている。

シリアルナンバー102番の101 Limitedは、930stとブランド名が違うこと、
デッキ部分の塗装が金色になっていること、トーンアームのパイプの塗装が違うこと、
そういう違い以外はなく、930stそのものだという、いわばオスミツキがもらえた。

ノアの野田さんは、それを聞いて満足げだったようにみえた。

そして、その次にOさんの口から出て来たのは、
「少年、これ買えよ」だった。

Date: 10月 18th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その4)

トーレンスのPrestigeが悪いプレーヤーでないことは、当時からわかってはいた。
頭では、Prestigeにはこういう良さがある、Rederenceにはない良さもある──、
そんなふうにPrestigeの良さを積極的にさがそうとしていた。

そうやって自分を納得させようとしていたわけだ。
なぜそんなことをしていたのかというと、SMEの3012-R Special用のターンテーブルとして、
Prestigeに決めよう(といってもすぐに買える金額ではないから目標にしようという意味が強い)としていた。

他にないではないか、これしかないのだから……、
そんなふうに自分自身をなんとか納得させようとしていた……。

そのトーレンスから、今度は101周年記念モデルとして、
EMTの930stのトーレンス・ヴァージョン、101 Limitedが出た。

このころのトーレンスの輸入元はノアだった。
そのノアの野田社長が、ある晩、編集部に101 Limitedを持ってこられた。
なぜ昼ではなく、夜だったのかはもう忘れてしまった。
101 Limitedをすこしでも早く誰かに見せたかったからなのかもしれない。

その晩、編集部には私の他にHiVi編集長のOさん、ステレオサウンド編集部のSさんとNさんがいた。
仕事をしていたわけではなかったはずだ。
オーディオ談義をしていたところに、101 Limitedが現れたのだ。

Date: 10月 17th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その3)

トーレンスのPrestigeを、Referenceと同シリーズのプレーヤーとして見るから、
そう思って(がっかり)しまったわけで、
Prestigeというターンテーブルシステムを、そういう先入観なしに冷静に捉えれば、
この時期のトーレンスの主力モデルであったTD12、TD226、TD127といったプレーヤーに、
Referenceの開発で得られたさまざまなことをフィードバックした上級機として見るべきものである。

そういう視点でとらえれば、Prestigeにがっかりすることはない。

でも、これはあくまでも頭のなかで冷静に捉えようとしてのことでしかなく、
一度でもReferenceの素晴らしいパフォーマンスに接した者にとっては、
そんなことはどうでもいいこと、ということになってしまう。

私は熊本のオーディオ店で、Referenceの音を初めて聴いた。
このときの音は、瀬川先生が鳴らされた音であった。
最後にかけられたコリン・デイヴィス指揮のストラヴィンスキーの火の鳥における「凄さ」は、
陳腐な表現で申しわけないが、ほんとうに凄かった。
そして、このときの瀬川先生が私が会えた最後の瀬川先生でもあったから、
Referenceの印象は、ますます強くなっていた。

そんなReferenceと比較してしまう私が悪いわけであって、
Prestigeが悪いプレーヤーということではない。

Date: 10月 15th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その2)

トーレンスのPrestigeをいまも愛用されている方は、
これから先はお読みならないほうがいいかもしれない。

Prestigeの姿を、登場の噂をきいた日から想像していた。
Referenceは三本アーム仕様だが、おそらく二本アーム仕様だろう。
これは当っていた。
そしてうれしいことに、Referenceでは標準装備のトーンアームベースではロングアーム装着できなかったが、
Prestigeではロングアームの使用も最初から考慮されていた。

ターンテーブルの駆動方式がベルトドライヴなのは変更はないのは当然として、
Referenceがターンテーブルプラッターの外周にベルトをかける仕様から、
トーレンスの伝統ともいえるインナーターンテーブルとアウターターンテーブルのふたつにわけ、
インターの方にベルトをかけるタイプになっていたのは、
Referenceが実験機として開発されたことも併せて考えれば予想できたことだが、意外な感じを受けた。

サスペンション構造はReferenceのそれをそのまま踏襲するものと思っていた。
これも変更がなされていた。

とにかく、ずいぶん予想とは違うプレーヤーが、目の前に登場した。
とはいえ、肝心なのは、その音、パフォーマンスである。
Referenceを超えることはないと、その姿を見て思っていたけれど、
どこまでReferenceのパフォーマンスに肉迫しているのか、それを見定めたかったし、期待もしていた。

見た目の通りの音がしてきた。
それはいい意味でもそうでない意味でも、である。

Referenceの存在を知らなければ、Prestigeは悪いプレーヤーではない。
けれど、Referenceを知っていたし、Referenceの音には瀬川先生に関する想い出も関係しているから、
よけいにPrestigeは、がっかりしてしまった。

Date: 10月 15th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その1)

音の入口にあたる機器には、できるだけ贅沢をしたい。
ここのところをお金をけちっていては、ダメだということはわかっていた。
だから、自分の買える範囲内で買える最高のモノ、ではなくて、
その範囲を超えたところのモノを買うぐらいの気迫がなければ、と思っている。

だからアルバイトも何もしていない時に、
とにかくSMEの3012-R Specialだけは12回払いで買ってしまった。

そのころの憧れのプレーヤーはEMTの927DstとトーレンスのReferenceだった。
どちらかが欲しかった。本音は両方欲しかった。
とはいえ927Dstはすでに製造中止になっていて、最後の価格は300万円を超えていた。

トーレンスのReferenceもほぼ同じような価格だった。
このくらいになると、買える範囲を超えたところには違いないが、
あまりにも範囲を超えてしまいすぎていて、ただ憧れるしかなかった。

そんなときにトーレンスからReferenceの廉価版が出る、というニュースが伝わってきた。
廉価版といっても、トーレンス創立100周年記念モデルということだったから、期待は脹らむ。

Prestigeが入ってきた。
ステレオサウンドの試聴室にやって来た。

Date: 10月 8th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その8)

これから書くことは、一年ほど前に書いたことのくり返しになる。
別項「私にとってアナログディスク再生とは(リムドライヴのこと)」で、
モーターの回転方向について書いた。

ターンテーブルの駆動方式としては理想と思われたダイレクトドライヴは、
その名の通りモーターの回転がそのままターンテーブルの回転となるため、
ターンテーブルの回転方向(時計廻り)とモーターの回転方向は同じである。

ベルドドライヴもダイレクトドライヴ同様、
モーターの回転数とターンテーブルの回転数は異るけれど、回転方向は時計廻りで同じである。

ところがリムドライヴだけはモーターがターンテーブルとは逆に反時計廻りである。
カラードの301、401にしろ、EMTの927Dst、930stにしろ、
リムドライヴであるかぎり、ターンテーブルは時計廻り、モーターは反時計廻りである。

ターンテーブルとモーターの回転方向が逆ということが、
ターンテーブルの回転の安定性にどう影響・関係してくるのか、
それを理論的に説明することは私にはできないけれど、
よく出来たリムドライヴのアナログディスクプレーヤーに共通して感じられる良さ、
それはこのことと無関係ではないだけでなく、深く関係しているはずだと、直感している。

Date: 10月 8th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その7)

テープデッキにおける走行系は、
アナログディスクプレーヤーではターンテーブルの回転が、それにあたる。

アナログディスクはCDとは異り、回転数は一定である。
LPでは33 1/3rpm、EPは45rpm、つまり角速度一定で回転している。
そのためアナログディスクの外周と内周とでは、例えば一秒間に針先がトレースする距離は違ってきて、
外周のほうが長い分だけ、音質的には当然有利になる。

そういう宿命的な問題点を抱えているとはいえ、
ターンテーブルは常に一定の回転数で安定して廻っていればいいわけだが、
カタログ上のワウ・フラッターの数値では表示できない、
微妙な回転のムラが、
外部からの影響、アナログディスクの振幅の大きいところなどにより発生していると考えられている。

それにターンテーブルの駆動源であるモーターが、どれだけスムーズに回転しているかの問題もある。

とにかく、いついかなる時もスムーズで安定した回転。
これを実現するに、どうすればいのだろうか。

一般的にはアナログディスクプレーヤーの場合、
角速度一定ゆえにターンテーブルの質量を、それも外周部において増やすことで、
慣性質量を利用する手法が、以前からとられてきている。

現在市販されているアナログディスクプレーヤーの主流は、
比較的重量のあるターンテーブルを、
比較的トルクの弱い(振動の少ない)モーターによるベルドドライヴということになる。

EMTの927Dst、930stは、そういう手法は取らずに、
充分すぎる大きさのモーターによるリムドライヴ(アイドラードライヴ)である。

Date: 10月 7th, 2013
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その17)

「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」の
瀬川先生の「いま、いい音のアンプがほしい」の書き出しを読んだ時、
仕事場として、都内の高層マンションの10階の部屋を借りられたのだと思った。

病気で入院され、退院されて復帰されたばかりだったから、
少しでも交通の便がよく、出版社やメーカーに近い都心の方が身体への負担も少ないだろうから……、
そんなふうに考えてしまった。

これ以外に、本漆喰の、あのリスニングルームの他に、もう一部屋、
そこに住まわれる理由が私には思いつかなかった。

ほぼ理想に近いとも思われるリスニングルーム、
ずっと借家住まいをされてきて、やっと建てられたリスニングルームだけに、
そこから瀬川先生が離れられるわけがない──、
そう思い込もうとしていた。

なぜ高層マンションに移られたのか、
その理由を知るのは、ステレオサウンド 62号、63号に掲載された追悼記事による。

独りになられたんだぁ……、とそう思った時、
ステレオサウンド 59号のパラゴンの文章を読み返していれば、といまは思うのだが、
当時は、なぜか59号の文章のことは頭になかった。

それだけ瀬川先生がいなくなられたことのショックが大きかったからでもあるし、
59号の、短いパラゴンについての文章よりも、
「いま、いい音のアンプがほしい」を読み返すことに気がとられてもいたからだろう。

Date: 10月 7th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その6)

アナログディスク再生ではカートリッジの針先がレコードの溝をたどった際に発生する振動が、
カンチレバーの奥に取り付けられている(MC型の場合)コイルに伝わり、
このコイルが磁気回路内で動くことにより発電し、音声信号が得られる。

カートリッジが信号を生み出していることになるわけだが、
ただレコードの溝に針を落としただけではカートリッジは発電はしない。
あくまでもレコードが回転しているからこそ、カートリッジは発電できる。

レコードが回転できるのは、レコードを乗せているターンテーブルが文字通り回転しているからである。

こんなふうに考えていけば、ターンテーブルの回転こそが、
アナログディスク再生におけるエネルギーの源と捉えることができる。

そして、これも当り前すぎることで、こうやって書くのもどうかと思ってしまうのだが、
ターンテーブルの回転エネルギーの源はモーターである。

Date: 10月 7th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その5)

カセットテープ(デッキ)とオープンリールテープ(デッキ)の音の安定感の違いを生み出しているのは、
走行系の安定性だと私は思っている。

テープというものはベースとなる材質を考えても、
片方のリールにしっかりと巻かれているテープが、もう片方のリールへと巻き取られていくことによる変動要素、
そういったことを考えると、一朝一夕に走行の安定性が得られたのではないことはわかる。

いろいろなメーカーがさまざまな試みをやった結果として、
現在のオープンリールデッキが完成したのであり、その成果は見事だと思う。

そんなオープンリールテープ(デッキ)とくらべると、
カセットテープは走行系が弱い、と言わざるを得ない。

フィリップスがカセットテープを開発してから、
おもに日本のメーカーが躍起になったことで、ずいぶんと走行の安定性は得られるようになったといえても、
やはりカセットテープの構造上、テープを取り出してテープを走行させることができないため、
録音ヘッド、再生ヘッドへのタッチの具合もふくめて、
オープンリールテープ(デッキ)にはどうしてもかなわない。

カセットテープと同じようにプラスチック製のケースにテープがおさめられているビデオテープ、DATテープ、
これらはテープをケースの外側に引き出してヘッドに巻きつけて走行させている。

ビデオテープ、DATテープが、カセットテープと同じ構造であったら、どうなっていただろうか。

アナログディスクにおけるテープの走行性にあたるのは、いうまでもなくターンテーブルの回転である。

Date: 10月 6th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その4)

音の安定感といっても、ひとによってその捉え方はさまざまだということをわかっている。
だから具体的な例をだして話をしよう。

カセットテープとオープンリールテープとがある。
両者の音の違い──、
それももっともはっきりとした音の違いということになると、
私にとっては、音の安定感になる。

カセットテープの音は、どこかふわふわしたとでもいおうか、
そういう心もとなさ、不安定さがどこかに感じてしまう。
普及型のデッキで、安価なテープで録音・再生してみると、よけいにそれははっきりとする。

高級カセットデッキと呼ばれるモノで、テープもしっかりとしたものを用意すれば、
普及型の時と比較すれば安定感は確実に増す。

これだけ聴いていれば、そう不満も抱かないのかもしれないが、
一度でもオープンリールデッキでの録音・再生の音を聴いてみれば、
やはりカセットはカセットでしかないな、と残念ながら感じてしまう。
それだけオープンリールデッキ(もちろん良質のデッキに限るけれども)の音は、
どっしりと安定している。業務用の物となると、より安定感は増してくる印象がある。

私はカセットテープとオープンリールテープの音の違いを、こう感じているし、
カセットテープの最大の不満はここにあるわけだが、
カセットテープの音に、特に不安、不安定さを感じない、という人もいる。

それは、音に何を求める化の違いであって、
ことさら音の安定感──この音の安定感は、音の確実性でもある──を求めない人にとっては、
カセットテープの音に、大きな不満を感じることはないのも頷ける。

もっともカセットテープの音の魅力は、この不安定さをうまく処理したところにある、とは思っている。

Date: 10月 5th, 2013
Cate: D44000 Paragon, JBL

パラゴンの形態(その7)

すでに書いているようにステレオサウンド 60号の318ページには図面も載っている。
4520エンクロージュアのホーン開口部にHL88ホーンを取り付けた側面図である。

この図を見た人ならば、そこにパラゴンの図面が重なってくるであろう。

JBLのバックロードホーン型システムとして、C40 Harknesがよく知られているが、
このC40 Harknesより前にC34 Harknesと呼ばれる、やはりバックロードホーン型システムがある。

C40は横置きのエンクロージュアで、C34は縦置きでコーナー型という違いがある。
そのことを知っている人ならば、318ページの側面図を頭の中で90度傾けてしまうのだはないだろうか。

4520エンクロージュアのホーン開口部にHL88ホーンを取り付け、横置きにする。
ウーファー用のホーンに構造の違いはあるものの、パラゴンの思い起すには充分である。

C55は1957年に登場しているが、C55はC550の型番を変更しただけであり、
C550は1955年の登場である。
パラゴンは1957年。

登場した年代はパラゴンのほうが後ではあるが、
パラゴンは構想から製品化まで10年近い年月がかかっている、ときいている。
とすれば、C55(4520)エンクロージュアのホーン開口部にHL88を取り付けるという発想は、
パラゴンのユニット配置が先にあったから生れてきたものかもしれない。